名前


 が一人でいる隠し部屋を見つけてから、僕はよくそこに立ち入るようになった。
 そこは、ほかの生徒の知らない秘密の場所。
 僕やにとって一番都合いい場所。
 も僕を拒むことはなかったし、本音で会話できることはお互いに楽しいことだった。




 今日も、宿題や先生に言いつけられたことがすべて終わって暇な時間ができた僕は、隠し部屋に足を踏み入れ、とともに闇の計画を立てたり、話をしたりしている。

 「……そうねぇ…マグルの消滅を願ったことは何度もあるわ。実行に移す気なんてなかったけれど」
 「…そう。じゃあ、マグル出身の生徒をどう思ってるの?」
 「やだ。そんなのあなたはとっくに知ってるのかと思ってたわ。マグル出身の生徒に気の利いたいい子がいるかしら?」

 くすくすとは微笑んだ。
 彼女はいつも笑顔だけれど、僕には本当に心からの笑みを見せてくれる。
 ……心が和む。

 「…そういえば…」

 唐突に彼女が口を開いた。

 「…リドルって…自分の名前を嫌ってるわよね」

 え?
 彼女は今なんて?
 まだそんなに詳しく自分の生い立ちを教えたわけではないのに、まして自分の名の由来なんて教えてもいないのに、なぜ気づいた?

 「やだ、そんなに驚いた顔しないで。本当のことでしょう?リドルはいつも名前を呼ばれると顔を引きつらせるもの」

 また笑う。
 どうしてそこまでわかるのか、不思議になった。

 「…どうしてそう思うんだい」
 「どうしても何も、事実でしょう?あなたは自分の名前が嫌いだわ。トム・マールヴォロ・リドルっていう名前が」

 背筋がぞくぞくした。
 彼女は冷めた紅茶に口をつけて微笑んだ。

 「本当に驚いているのね。いいわ、どうして私がそのこと知っているのか話してあげましょうか?」
 「ああ、お願いするよ」

 くすり、彼女は微笑んで杖を取り出すと、丸い大きな机の上に水晶玉を出した。

 「私の家系はね、星を司っているの。星見の職って言ったほうがいいのかしら。父も母も私がほんの幼いころに亡くなったけれど、星見の力は私に受け継がれてるのよ」

 水晶玉に青い光が差した。

 「これが今夜の天体。宇宙には数え切れないほどの星が散らばっているわ。その星は一つ一つ、私たちひとりひとりを司っているのよ。…これがあなたを司る星」

 は水晶にひとつの暗く、でも紅く輝く星を映した。

 「あなたの瞳の色と同じ色ね。この星の輝きや動き、星についているクレーターを見ればあなたのことがわかるのよ」

 まあ、未来は変えられるんだけどね、と、彼女は微笑んだ。
 星見は予言という言葉でしか未来を表せない、と彼女から聞いたことがあった。

 「面白いのよ。この星。私があなたのことをトムって呼ぶと……ほら」

 水晶に映し出された星は、彼女が僕の名を呼ぶたびに強く、怒ったような輝きを放った。
 こんなにも僕の心が映し出されてしまうのかと、苦笑するしかなかった。

 「…リドルは名前を呼ばれるのが嫌いよね」
 「……参ったな。降参だ。確かに僕は名前を呼ばれるのが嫌いだよ」
 「そうね。理由は聞かないけれど。あなたは話したくなったら突然にでもしゃべりだすものね」

 また笑った。
 それから水晶を片付けたは、僕に言った。

 「あなたがそんなに嫌ってる名前であなたを呼ぼうとは思ってないのよ」
 「どういうことだい?」
 「私が素敵な名前をつけてあげるわ」

 彼女は杖で机の上に僕の名前を綴った。
 それからそれを適当に動かしていく。

 「……なるほど」
 「どう?この名前」
 「…いいね。そのうち人々がこの名を口にするのを恐れるときがやってくるよ」
 「気に入ってくれたのね?」
 「もちろんさ」

 机の上には、I AM LORD VOLDEMORT と綴られていた。
 ヴォルデモート……
 闇の帝王にふさわしい名前だ。

 「…でも、少しつづりが長いわね」

 彼女は苦笑して、僕のことを呼んだ。

 「ご満足いただけましたか?ヴォル

 僕は笑顔でうなずいた。
 それからそっと、彼女を抱きしめた。

 「君ほど一緒にいて楽しい人はいない」
 「私も、あなたと話ができてよかったと思ってるわ。一人で闇を抱えているのかと思ってた」

 くすくすと、くすぐったそうな笑い声が響いた。

 「でもその名前、みんなの前では呼べないわ。二人のときはヴォルって呼ぶけれど…生徒の前ではリドル、で我慢してね」
 「まあ、仕方がないかな」






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 名前誕生秘話(爆)というよりも、こういう風がいいなぁって…
 リドルが自分で考えるのもいいんだけどね…
 やっぱり、愛しいが考えた名前って言うほうがずっと使ってくれるよなぁって……