出会い


 俺に魔力を与えて、命令を残して消えたやつ。
 命令をしたものの、その体力は限界で…
 あいつは、自分の息子の居場所を教える前に俺の前から消えた。

 おかげで俺は、命令を守るために三年もかかった。

 一体あいつの息子がどこにいるのか、まったく見当もつかなかった。
 あのときの俺はまだ子供だったから、小さくて…体力もそんなになかった。
 知っているのは名前だけ。

 ……

 どれだけ、を探すのに苦労したことか。
 なんとなく外を見ていた俺は、昔のことを思い出した。







 あいつの家は人里はなれたところにあって、命令を下された後、俺は人里に降りるまでに結構な時間を使った。
 今、ここがどこなのかわからない。
 そんな状況の中をぐるぐると毎日毎日回り続け、運よく外に出られたときには体力の限界だった。
 そのあと一人で人里を走り回ったが、紅い体毛の動物に人が関心を寄せないはずがなく…

 捕まった。

 なんだか冷たくて暗いところに入れられて、目の前には柵があって外に出られない場所。
 毎日毎日いろんな人が来て俺のことを指差しては感心したり、驚いたり、叫んだり。
 そして毎日同じ時間になると、あいつとはまったく違った服装の人間がやってきて、餌をおいていった。
 別に食べる必要がない。
 最初のうちは口に入れることすらしなかったが、その人間に疑われると困ると思ったので、何日か経った後からは少しだけ口をつけておくようになった。

 「ね、お母さん、紅い獅子だ」

 「見てよ、あの色。気持ち悪い」

 「あんなの、よく捕まえたわねぇ…」

 毎日うんざりしていた。
 人の声がうるさいし、わずらわしい。
 指をさして、俺の姿を見る。
 それがいやで、毎日俺は小屋の隅に丸まるようになった。
 本当はこんなところにいてはいけないとわかっていたのに、警備が厳しくて逃げ出せないでいた。

 後でが、同じような場所に連れて行ってくれたが、そこは『動物園』というらしかった。






 そのうち、体力が十分に回復し、有り余っていた俺は自分の中の不思議な能力に気がついた。
 地面を強くけって飛び上がると、宙に浮けるのだ。
 これは大発見だった。
 俺の檻の上には青空が広がっていて、別に密閉された空間なわけではなかった。
 俺は時期を待った。
 宙に浮く練習も人目につかないところでして、宙を長時間駆けられるように練習した。
 それから、ある日の夜、人間が俺にお休み、と声をかけて帰っていった後、誰もいないのを確認してから、俺は飛び上がった。
 長かった檻での生活から抜け出したのだ。

 かなりの時間を費やしてしまった。
 あいつの息子を見つけなくてはならないのに…………

 俺はあせっていた。
 だから、目の前に箒が飛んできたことに気がつかなかった。

 「…紅い獅子……?」

 長い箒にはきれいな女の人と、それから小さな子供が乗っていた。
 その人たちがびっくりして空中でとまったので、俺もとまってしげしげと二人を見つめた。

 「あなた…私の姿が見えるの?…魔法で姿が見えないようにしたはずなのに」

 くすくすと、その人が笑っていた。
 子供の手が俺を触ろうとしていた。
 子供は黒髪で紅い瞳を持つ少年だった。まだ幼いけれど、なんとなく、あいつに似ていた。

 「あ!!」

 母親の腕から抜け出した子供が、俺に触ろうとして……かなり距離があったから……
 箒からまっさかさまに落ちた。
 母親は驚いていたけれど、杖を取り出して子供を助けようとしていた。
 …なんとなく、母親がかけた魔法より先に俺がその子供を助けていた。
 落ちていく子供の下に回りこんで、背中で受け止めた。
 俺だってまだ子供だったから、そんなに大きいわけじゃなかったけど、赤ん坊くらいなら背中に乗せられるほどの大きさはあった。
 子供はキャッキャッとはしゃいでいた。
 どうすればいいのかわからなくて、なんとなく俺は母親の元に子供を連れて行った。

 「ありがとう。あなた、優しいのね」

 耳元をなでられてすごくくすぐったかった。
 でも、この女の人からは、あいつと同じ力を感じた。
 それに、あの小さな子供を背中に乗せた瞬間に、ドクンと自分の鼓動がうずくのを感じた。
 …魔力が強い。
 子供のうちは魔力なんてまだ目覚めないはずだけど、内なる力がその子供には宿っていた。

 「、ありがとうって言わなくちゃいけないわ。あなたを助けてくれたんですもの」

 母親の腕に抱かれた少年がと呼ばれた瞬間に俺は悟った。
 この子か…と。
 少年はなおも俺に触ろうと必死にもがいていた。…その姿が可愛かった。

 「…あなた……」

 なんとなく、俺を見つめていた母親が口を開いた。

 「…?」

 名前を呼ばれて驚いた。なぜこの人が俺の名前を知っているのか……

 「そう、なの……を探してここまで来てくれたのかしら……」

 俺の首筋をなでながら彼女は言った。
 ああ、そうだよ。俺はを探しに来た。
 あいつの命令だから。
 あいつが、守ってくれといったやつだから。























 「…、何考えてるの?」

 の声がして、俺は我に返った。
 どうやらうとうとと眠っていたらしい。

 「ねぇ、。僕ね、とあった日のことを思い出してたんだよ」

 奇遇だな、俺もだよ。

 「おぼろげにしか覚えてないんだけど……なんとなく、と一緒にいなくちゃいけないと思ったんだ。だから、に手を伸ばして……」

 くすくすと微笑んだ。

 「まさか父上に頼まれて、僕のもとに来ているとは思わなかったよ」

 ぎゅっと俺を抱きしめたの顔は笑顔だった。

 「ね、これからもずっと一緒だよ……?」

 ああ…ずっと。
 きっと俺はあいつに命令されなくてもお前に出会ってた。
 今は共にいることしか考えられない…

 ………






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 リクエストいただきました、の出会い…
 こんな感じでいかがでしょうか?
 リクエストくださった方、ありがとうございました。
 これからもよろしくお願いします。