始まり
『片時も傍を離れるな。それが命令だ』
まだ俺が幼いときに、あいつはそういった。
消えそうだった俺に魔力を与えて助けてくれたあいつ。
あいつがそういって、俺をの元に送った。
俺がのところに行ったとき、はまだほんの赤ん坊だったけれど、底知れぬ魔力を感じた。
あいつに感謝してる。
俺をの元に送ってくれて。
俺がと一緒に生活するようになって、何度暑い夏がやってきただろう。
今年もまた、夏がやってきた。
俺をのところにやった張本人はもう十年以上も行方知れずのままだ。
ただ、俺は命令どおりにの傍を片時も離れない。俺はいつもと共にいる。
命令だから…とかではなくて、と一緒にいたいからだって、最近になって気づいた。
太陽の光が注ぐ窓。鳥の鳴き声が聞こえる。いつもどおりの朝。
いつもよりも俺のほうが先に目覚める。
のベッドの端で一緒に寝ている俺は、を起こさないようにしてベッドから降りると、窓の外を見る。
白いふくろうがいた。
くちばしで窓をつついている。
…困った。俺は窓を開けられない!
かといって、まだぐっすりと眠っているを起こすのもためらわれたのだが、このままだと窓を割られそうな勢いだった。
(おい、。ふくろうが来たぞ)
の細い足を甘噛みしてみる。
「…う〜ん……」
寝返りを打ったは勢いよくベッドから転がり落ちた。
それも、俺の体の上に。
…痛い。
そのおかげでは目を覚ましたみたいだけど、やはり痛い。
「…ん〜…、おはよう……って、何で僕の下にいるの?!ごめん、踏んじゃったよ。今どくからね」
俺の頭を軽くなでて、は俺の上から急いでどいてくれた。
俺はの服を引っ張ると窓のほうに連れて行った。
「どうしたの、。何かあるの?」
が窓を開けると、白いふくろうが部屋に入ってきて、俺の首の上に止まった。
非常にくすぐったい。が、我慢だ。
「…ふくろうさん?どうしたの?こんな朝早くに僕のところに何か運んでくれたのかな?」
はビンの中からクッキーを一枚取り出すと、ふくろうが持ってきた手紙を受け取り、そのクッキーをふくろうにあげた。
ふくろうは満足そうにクッキーを頬張ってから、窓から差出人の元へと帰っていった。
ばいばい…、と、手を振っていたは、ふくろうの姿が見えなくなると窓を閉め、ふくろうが持ってきた分厚い黄色みがかった羊皮紙の封筒を見つめた。
「この封筒、何だろうね?。僕宛のお手紙みたいだけど、差出人の名前が書いてないや」
は俺の紅い鬣をなでながらそうつぶやいた。
それからは寝癖のばっちりついた髪の毛を整えて、洋服に着替えて部屋を出た。
俺もの後についていく。
食堂からはトーストの焼けるいい匂いがしていた。
のおなかがぎゅるるぅってなっていた。はくすくす笑いながら自分の席についた。
俺は別に食べる必要がない動物だ。
だから、の足元に行儀よく座ってが食べ終わるのを待っている。
本当は今すぐにでもと遊びたいのだが、それをしてはいけない。我慢だ。
「おはようございます、母上。今日は朝から面白いことがあったんですよ」
「あら、いったいどんなことがあったのかしら?」
「はい。これを見てください。このお手紙を朝早くにふくろうさんが届けてくれたんですよ。僕、ふくろうから手紙をもらうのは初めてです」
楽しそうなの声が聞こえる。の母親のの上品な笑い声も聞こえる。
「今日ね、私に夢のお告げがあったのよ、」
は魔法界では名の知れた星見だと、俺の主人での旦那は言っていた。
とが住んでいるこの屋敷にも連日多くの魔法使いが星見を目当てにやってくる。
そんなに夢のお告げがあるのは珍しいことではない。
「…とても重要な夢だったの。そのうちあなたにも同じようなお告げが来るはずよ」
「重要…ですか?」
「ええ。二つお告げがあってね。ひとつは重要で、あなた自身がお告げを聞かなくてはならないけれど…もうひとつは、うれしい知らせだわ」
の顔が笑顔になっている。
「あなたの手にしたその封筒。今日、その封筒が届くことが夢のお告げで言われたことなのよ。食事が終わったら開けてみるといいわ」
はやや首を傾げたが、それでも笑顔ではい、と返事をしていた。
それからそっと、俺にささやいた。重要なお告げってなんだろうね?…と。
もの息子だから、星見の力を受け継いでいる。
時々夢のお告げがあるらしく、お告げがあった日は真っ先に俺にそれを話す。
今度のお告げは何なんだろうか。俺も少し気になっている。
朝食が終わると、は自室に戻り手紙を開けた。
それから俺の体を丁寧になでながら報告してくれた。
「ホグワーツ魔法魔術学校だって、。父上と母上が通っていた学校だよ。僕にも入学許可証が届いたんだ」
は笑顔だった。がうれしいと俺もうれしくなる。
だから顔をなめてやった。少しくすぐったそうにしてたけれど、は俺をやさしく抱きしめてくれた。
「母上に報告してこようか。入学準備がたくさんあるみたいだ」
が立ち上がったので俺も立ち上がってについていった。
俺はいつもの足元にいる。必ず。
今まで一度も離れたことがない。
俺たちにとって一緒にいることは当たり前になってきている。
だから、違和感はないのだが、の客は俺の姿を見ると驚く。
魔法界でも珍しいのだ。紅い鬣の獅子は。
「それじゃあ、明日は買い物に行きましょうね。ダイアゴン横丁に」
「ダイアゴン横丁?」
「ロンドンにあるのよ。魔法使いの道具がたくさん売っているの。このリストに載っているものもそこですべてそろうわ」
との会話が聞こえた。
が笑う。が笑う。
この一通の手紙が、これから先俺たちを悩ませながら成長させる一念の幕開けだとはこのとき知る由もなかった。
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少年夢、ペット視点(爆)
第三者の目から見たほうが、いろいろ楽しいかなぁと思ったので。