存在


 って時々不思議だわ。
 いえ、普段も不思議なのかもしれない。
 狡猾なスリザリン寮生なのに、どの寮の子にも分け隔てなく接してる、優しい人。
 いつも笑顔で、その笑顔がまぶしい人。
 なんていうか、一緒にいるとなごやかな雰囲気になる人。
 それだけじゃなくて…すごく頭がいい。
 まだ習ってない呪文がすらすらと唱えられるときは驚いてしまうし、尊敬してしまう。

 だからかしら。

 こうやって、の迷惑になるかもしれないって言うのに、相談事を持ちかけちゃうのは……






 「あっ!。ごめんなさい、遅れてしまって。午後の授業が長引いてしまったの」

 「気にしなくていいよ。僕も少し前に来たところだから」

 図書室の机にと向かい合って座る。
 午後の授業が長引いてしまったために、との約束に遅れそうで急いでやってきた。
 普段は、ハリーやロンも誘うのだけど、今日はごめんなさいって言ってきた。
 ハリーやロンより、と二人で話がしたかったのよ。
 勉強も教えてもらいたかったし。

 羊皮紙と羽ペンと、それから教科書を机の上にのせた。
 それからを見た。
 やっぱり、綺麗な顔してるわ。
 同じ国に住んでるはずなのに、女の子の私よりもよっぽど綺麗よ。

 「それで、何か相談事でも?」

 何でも見透かすのはお得意のこと。
 普段はあまり言わないのだけど、だから、思い切って相談したくなったの。
 いいわよね。たまには。

 「…ねぇ、。私って存在価値ある?」

 なんどもマルフォイに言われる言葉。
 気にしないふりをして、突っかかったりして強い子を演じてるけど、やっぱり気になる。

 『穢れた血』

 なに、それ。
 忌まわしい血ですって?
 本当に、紳士が言うべき言葉じゃないと思うわ。でも、マグル出身の子なんていっぱいいるじゃない。
 それでも、やっぱり気になるの。

 「なんで、そんな風に思うんだい?」

 の笑顔は綺麗だった。

 「だって……マルフォイが言うのよ。『穢れた血』って」

 「そんな言葉、気にしなくて大丈夫だよ」

 「ええ、気にしないようにしているわ。でも……なんとなく、心配なのよ。私は必死に本を読んで勉強して、純血の子達に追いつこうとしてる。だから…」

 にっこりと、が笑みを見せた。
 安心するわ。
 が笑みを見せてくれるだけで。
 だから、と一緒にいたいのかもしれない。
 ハリーや、ロンよりも、真剣に考えてくれると思うからこうやって相談をしてしまうのかもしれない。

 「教育を受けている人が言うべき言葉じゃないよ。彼は常識が分かっていないし、スリザリンの中だってその言葉は禁句だ」

 ……そうよね…

 「一体、誰が決めたんだい?純血の魔法使いや魔女がえらい…なんて」

 …………

 「そんなの、分からないじゃないか。純血の魔法使いだってえらくない人がたくさんいる。逆に純血じゃなくたって立派になった人もたくさんいるでしょう?」

 は、混血だけど立派になった人の名前を次々と挙げてくれた。
 それで、この人はこんな功績を残したんだよ、と、丁寧に説明してくれるの。
 いいのよ。そんなことはどうでも。
 本当は、がこうやって私のために時間を割いてくれていることがありがたいの。
 それだけで、安心できるから。

 「でも、やっぱり気になっちゃうわ。両親にも申し訳ないし……」

 「そんな……じゃあ、ひとついい話をしてあげようか」

 「…なあに?」

 それは、ちょっとした言葉なんだけどね……と、が微笑みながら話してくれた。

 「魔法使いもマグルも…みんな最初は同じだったんだと思う。同じ種族の中で、魔法が使える、当時の人にとっては異端児である人々が生まれた」

 そうね。きっとそうだわ。

 「つまりさ、最初はみんなマグルだったわけだよ。その中から異端児と呼ばれる魔法使いが生まれた」

 言ってること分かる?と、いたずらっぽくウィンクされて顔が紅潮した。

 「僕たち魔法使い、魔女の祖先を探れば、結局最後は一人、もしくは二人の人に行き着くんじゃないかと思うんだ。その人たちは最初から魔力を持っていたのかな?」

 くすくすと、上品な笑い声。
 の両親にあってみたいと思う。どうやったらこんなに素敵な子供に育てられるのか。

 「天は必要なもののみをこの世に生み出した」

 と、は言う。
 どういうことかしら。よくわからないわ。
 だって、ねぇ。

 「ええと…ハーマイオニーという存在がもし必要ないなら…ハーマイオニーは生まれてこなかったはずさ」

 あ……
 そういうことなの?

 「僕もここに存在しているし、ハリーも、ロンも。もちろんハーマイオニーもここに存在している。それってすごいことだと思わない?」

 天に祝福されて生まれてきているんだもの…と、言われた。

 ああ、そうね。
 そう考えればそうなるわ。

 「だから、くよくよ悩むことないよ。いやな言葉で傷ついたとしても、ここに存在している限り、この世に必要な人であることに変わりはないんだからさ」

 の笑顔がまぶしかった。
 そうよね。
 そう考えれば、ちょっとうれしい。
 に必要な存在であるって言われたことがすごくうれしい。
 やっぱり、なんだわ。
 ハリーやロンとちがう。なのよ。
 私の悩みを真剣に聞いてくれて……ほら、もうなんだかすっきりしているんだもの。
 マルフォイの言葉だって気にならないわ。
 私は、私。
 そうよね。私はこうやって存在しているんだもの。それってすごいことだわ。

 「ありがと、。なんだかすっきりしたわ。そうよね、私はここに存在しているものね」

 笑顔になった。
 の笑顔につられて笑顔になった。も笑ってくれた。

 「元気になった?良かった」

 それから……

 「おまじないを教えてあげるよ。もしも辛くなったり悲しくなったりしたときはさ……」

 が杖を一振り。
 何もなかった机の上に文字が浮き出る。


 every time, the world sees everyone.
 everyday, we are living on a special day.
 one is all, all is one.
 so,
 love you.
 love yourself and love the world.
 we need you.
 the world needs you.
 I need you.
 you need yourself.


 それは単純な英語で書かれた詩のようなもの。
 単純で覚えやすい。そして、きっと何か意味が含まれているのでしょう。
 単純な言葉。
 単純だからいいのかもしれない。
 すごく、響く言葉。
 やっぱり、はすごいわ。

 「every time, the world see everyone ……」

 の綺麗な声が、すらすらとその文字を読む。
 の発音は完ぺきで。
 感情をこめて優しく読むから余計に言葉が通じる…

 「簡単だけどね。簡単な言葉だからこそ、何か伝わると思わないかい?」

 僕たちは君を必要としている。
 世界は君を必要としている。
 僕は君を必要としている。
 君は君を必要としている。

 「みんな、世界には一人だって。必要とされない人なんかいないんだよ」

 胸が熱くなった。
 なんていったらいいんだろう……
 なんか…熱いものがこみ上げてきてる…感じなのかしら。
 ってすごいわ。尊敬しちゃう……

 「元気、出た?」

 の笑顔がまぶしい。

 「うん。ありがとう、
 にっこり微笑んだ。
 きっと私は忘れないわ。
 この言葉を。
 辛くなったらつぶやくわ。この言葉を。
 が私だけに教えてくれた言葉。
 が、私の悩みをすっかり取り払ってくれた。
 なんか、すごいうれしいし、恥ずかしい。
 に相談してよかったかな。



 「じゃ、宿題でもやる?」

 羽ペンを握る

 「ええ。今日はいつもより宿題が多いのよね」

 がさがさと羊皮紙を取り出して、宿題をチェックしていくの。
 なんとなく今日は…いつもと違った特別な日だった。






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 2500ヒット企画!
 リクエストくださった方、ありがとうございました!!
 リクエスト内容はハーマイオニーと夢主の少し甘めの小説……

 ってことでしたが……
 こんなもんでどうでしょう?