優越感
休日の朝でも、ホグワーツの朝食はいつもと同じ時間に始まる。
前日夜更かしをして本を読んでいた僕らにとってはちょっと辛い朝がやってくる。
…そう、特に低血圧なにとっては、朝はちょっと厳しいものがある。
今朝だって、もうすぐ朝食が始まるって言うのに、まだ掛布に包まってうーって唸ってる。
どうも目覚めが悪いらしい。
ニトのほうがより先に目覚めて、僕に朝食をくれ、といって擦り寄ってくる。
ニトの朝食を管理しているのはなんだけれども、休日になると、しばしばは起きる時間が遅くなるんだ。
「…、起きられる?」
「……情けない…」
「まあ、体質だから仕方ないよ」
くすくす笑うと、はバツの悪そうな顔をしたけれど、どうも眠いらしくって、頭が働いていないみたい。
もう朝食が始まるって言うのに…たぶん、今日も僕が食事を運んでくることになるんだろうなぁ。
「…それじゃ、僕が戻ってくるまでに着替えを済ませておいてね?いつもみたいに朝食をもらってくるから」
「すまない」
「気にしない、気にしない。昨日の夜、あんなに遅くまで夜更かしさせちゃった責任は僕にもあるしね」
ニトにミルクをやると、僕はを連れて寮の部屋を出て行く。
談話室にはやっぱり人はいない。
が僕の体に寄り添って歩くから、少し肌寒いホグワーツの中でも、僕は温かい。
「…ってば、あんな顔、普通の生徒には絶対に見せないよね…」
寝起きの、ボーっとしたの表情を思い出して僕は笑ってしまった。
だって、いつもはクールで冷静、おまけに他の寮生とは話もしない、純血主義の様なんていわれてるのに…
寝ぼけ眼で毛布に包まっているところは、やっぱり同じ年頃の子どもたちと変わらないわけで。
はいつも冷静だけれども、どこかで力を抜かなくちゃいけないときもある。
それがどうも、僕と一緒にいるときみたいだ。
「あれ、。はどうした?」
大広間に入ると、生徒が騒ぎながら食事をしていた。
丁度ふくろう便が届く頃なんだけれども、今日は僕にもにも何も届いていなかった。
「なんか、部屋で食事がしたいんだって」
話しかけてきたドラコにそういうと、僕は二人分の食事をトレーに乗せる。
「…そうか。今日、もし暇なら一緒に出かけないか?」
「気が向いたらそうしようかな。とりあえずに食事を運んでくるよ」
ドラコは静かに頷いた。
ドラコの取り巻きの二人は、こっちが二人分の食事を選んでいる間に、既に二人分くらいの量のパンを平らげていた。
むしゃむしゃと、とまることなく食べている。
それはそれで、面白かった。
に食事を運ぶのを手伝ってもらいながら、僕は大広間から寮へ戻る。
部屋に戻ると、約束どおり着替えを済ませたが、椅子に座っていた。
でも、まだ朝が辛いらしく、机に突っ伏していた。
「おはよう、」
「……おはよう、」
はい、食事だよ、といって、トレーを机の上において、食事を取り分ける。
パンとスープ、サラダにスクランブルエッグ。いつもと同じような朝食を、の前に差し出す。
それから、眠気が吹っ飛ぶように、普段はあまり飲まない珈琲を入れて手渡す。
「…苦い」
「眠気が吹っ飛ぶんじゃない?」
「……はぁ。我ながら情けないよ」
足元で食事をするニトを見ながら、は苦笑した。
こんな笑みは、普段ほかの生徒が居る前では絶対に見せない笑みだ。
休日の朝は、僕にだけこんな笑みを見せてくれるから、ちょっとした優越感を味わえる。
「そりゃ確かに、昨日の夜、宿題を終えた後に新薬開発のために時間を使ったのは仕方ないことだけど…は、今朝しっかり起きてた。それなのに僕は…」
「でも僕、昨日の夜ぐでぐでだったから」
昨日の夜中、自分の失態を思い出して僕は苦笑した。
が朝に弱ければ、僕は夜に弱い。
最近は大分慣れて来たものの、それでも夜更かしというものは眠くなってしまって仕方がない。
その、眠くなってしまった体で、頑張っていろいろな魔法式を羊皮紙に綴っていたんだから、我ながらたいしたものだと思う。
「…結局、僕たちって二人で丁度いいんだよ」
くすくす、と二人同時に微笑んだ。
こういった時のの笑顔は本当に無邪気で、僕はこの笑顔が好きだったりする。
普段冷静で通ってるの仮面がはがれた気がして、なんだか和むんだよね。
ぐるるる、とが唸る。
下を見ると、ニトがの尻尾にしがみついている。
「こら、ニト。に手を出すんじゃないよ」
がそういってみるが、子どものニトはお構いなしだ。
たぶん、も解っているのだろう。
難しい顔をしては居るけれど、ニトを怒ることはせずに、尻尾を揺り動かして遊んでいる。
こんな光景だって、僕ら二人が同じ寮じゃなかったら見れなかった光景さ。
だから、組み分けのときの運と、寮の分け方の運には感謝してるんだよね。
「…で、。昨日の続きなんだが…」
「うん。あの薬、うまく出来るといいね」
「でもどうだろう。ちょっと薬草が足りない気がするんだが…」
「だったら、禁じられた森に取りに行こうよ」
「…本当に、は禁じられた森に入るのが好きだな」
「あそこ、結構良い薬草がそろっているんだもの」
食事を終えた頃には、の体もしっかりと目覚めている。
昨夜のことを思い出しながら、羊皮紙を広げ、魔法式を見ながら、その材料を机の上に用意していくんだ。
こうやって二人で何か作業をしているときのは、なかなか優しい。
表情が優しい。
じーっと見てると、不思議そうな顔をされるけれど、整った顔立ちで一つのものに熱中するは、ちょっと綺麗だ。
休みの日にだけ味わえる僕の優越感。
こんなのもいいんじゃないかな。
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リクエストより、が主人公にだけ見せる顔(爆)
はの前では良く笑います。
には本当に心を許してるんです。