バタービール
今学期もいろんなことが起きたけれど、学期末というのは必ずやって来るものだ。
校庭に霜が折り始めた頃からホグワーツはクリスマス気分に浸っていた。
談話室では、みんなが休み中の計画を楽しげに語り合っていた。
「…今年は、家に帰ろうかな…」
は談話室の暖炉の前で本を読みながらそんなことをつぶやいていた。
「自宅に帰るのか?」
「うん。久しぶりに母上とクリスマスを過ごすのも悪くないかなって」
幸い、の占いには、クリスマス休暇に予期せぬことが起こるとは出ていないようだった。
はけだるそうに前髪をかきあげた。
「はどうするの?」
「帰っても使用人くらいしか居ないからね。残ろうと思って…」
「…じゃあ、我が家に招待するよ」
間髪居れずが微笑みながらそういった。
は驚いた表情でを見つめていた。
「のご両親にご迷惑だろう?」
「まさか。にぎやかなほうがいいもの。二人のクリスマスより三人のほうがいい。それに、が居ないとニトも退屈してしまうだろう?ニトもつれて、我が家においでよ」
こういうときのの行動はすばやい。
そう決めたと思ったら、羊皮紙と羽ペンを取り出して、に手紙を書き始めているんだ。
「…じゃあ、ご迷惑でないのなら……」
「やった」
がにっこり微笑むと、ほんのりの顔が紅くなる。
星見の館でととニトと過ごすクリスマス。
どんなものになるかはわからなかったけれど、とても楽しみだった。
「あとさ」
手紙を書き終わったのか、羊皮紙をくるくると丸めながらがつぶやいた。
「今週末のホグズミードは参加してみないかい?」
「…かまわないけど」
「よかった」
楽しいはずのホグズミードの話だけど、の顔はさっき、クリスマスの話をしていたときよりもなんだか真剣だったので、もしかしたら何かあるんじゃないかと推測した。
週末、ホグズミードに行く生徒で玄関はごったがえしていた。
ハリーは今回も一緒に行けないのだろうか、なんて思ったけれど、どうやら双子たちが何かよからぬことを計画しているようだったので、ハリーも大丈夫だと思った。
ほかの生徒は笑顔でホグズミードに向かったけれど、は楽しそうな顔ではなかった。
はいつものとおり仏頂面だったしね。
「どこに行く?」
「…三本の箒」
「……バタービール?」
「たまにはいいだろう?あそこは教師もご用達みたいだしな」
ホグズミードにつくと、はにたずねた。
はちらっと、三本の箒という店に向かっていく教師の姿を目で追いながら、そうつぶやいた。
「…何かありそうだね。あそこの軍団」
「ああ……ああ、やっぱり入るのをやめようか」
「え?なんで?」
三本の箒のトビラを押し開けていると、がため息をついて左のほうを指差した。
そこにはクリスマスツリーに隠れたハーマイオニーの髪の毛が見えていた。
「ああ…でも、彼らがあそこに居るってことは、勿論なにか危険な密の香りがするってことでしょう?」
「……はぁ」
一度深くため息をついた後、俺達は教師に気付かれないように、ハリーたちに気付かれないようにそっと教師の近くのテーブルに座った。
「…バカな子…間抜けな子…どうしようもなく決闘が下手な子でしたわ…魔法省に任せるべきでした…」
すすり泣くようなそんな声が聞こえてきた。
「魔法警察部隊から派遣される訓練された『特殊部隊』以外は、追い詰められたブラックに太刀打ちできるものは居なかったろう。わたしはそのとき、魔法惨事部の次官だったが、ブラックがあれだけの人間を殺した後に現場に到着した第一陣の一人だった。わたしは…あの…あの光景が忘れられない。今でも時々夢に見る」
(…コーネリウス・ファッジ…?)
小さな声でがつぶやく。
(ハグリッドにマクゴガナル教授、それに魔法省の大臣ときた)
(まあ、シリウス・ブラックを犯人だと信じているものにとっては…)
(…どうやら、あそこにショックを受けてる少年が居るぞ)
がハリーを指差した。
クリスマスツリーに隠れていたけれど、ハリーだと思われる人物の肩は震えていた。
…シリウス・ブラックの大罪を知ったのは、たぶんこれが初めてなんだろう。
俺は…あいつと生活していたから、あいつの部下が誰なのかわかってる。
もあいつとの血を引いてるし、これ位の事件の真実を突き止めるのは他愛ないことなんだろう…
でも、ハリーは初めてだったんだと思う。
こんなに遠くで見ているのに、ハリーが涙を流しているのが見えたような気がした。
「しかし、我々は程なくブラックを逮捕するだろう。『例のあの人』が孤立無援ならそれはそれでよし…しかし彼のもっとも忠実な家来が戻ったとなると、どんなにあっという間に彼が復活するか、考えただけでも身の毛がよだつ……」
魔法省の大臣が席を立った。
続いて三本の箒のドアが開いて、雪が舞い込んだ。
教員たちは立ち去った。
隠れていたテーブルから出てきたとは、バタービールを注文する。
側に、ハリーやロンの姿が見えていたが、あえて声をかけることはしなかった。
「…で、どう思う」
ハリーが出て行ってから、がつぶやいた。
「彼らがあんなふうに怒るのも仕方ない事件だったとは思う。でも…なんていうか…表しか見ていないんだろうな…って」
の瞳が怪しく光る。
「…この件についてはリーマス・ルーピン教授が知っているかもな」
「ああ、彼は知らないみたいだ」
「……え?」
「…何度か探りを入れてみたんだけどね。どうも、僕のひと言ひと言に本気で驚いているようで…」
「友達といえども所詮その程度か」
「まあ、普通に考えたら教師たちが言っていたことにしかならないよ」
「…しかし…」
「。あの内容は、僕らだから知りえることだ」
「…そうだな」
意味深い会話を二人がする。
俺としてはハリーたちの行動が気になったのだが、今は追ってはいけないと思った。
きっとは、ホグズミードから帰ったら、ハリーを慰めると思うんだ。
だから…今は、そっとしておきたい。
クリスマスは帰宅するって言った。
ホグズミードで、運命に翻弄される者が、真実を知る…というお告げがあったけれど、それは現実になってしまった。
ただ、その事実はいつまでも隠し通せるものではなかったので、僕は口出ししなかった。
帰宅する汽車が出る前に、僕はハリーに会いにいった。
「…ハリー」
「……」
ハリーは口をもごもごさせて何か言いたげに僕を見たけれど、ため息をついてうつむいてしまった。
「休暇中はホグワーツに残るんだね?」
「うん。は?」
「…今年は帰ろうと思ってるんだ」
「…そっか」
どうもおびえているような、悲しんでいるようなそんな態度だ。
でも、ここで僕が声をかけても、たとえ真実を伝えたとしても…ハリーが信じてくれるとは思わない。
それに、僕の出生だって彼には傷をえぐるものなんだろうから…
そう考えた僕は、ひと言だけ伝えることにした。
「ハリー。君は、独りじゃないから」
「え?」
「ごめん。僕に言えるのはここまでなんだ。絶対無茶しないでね?どんな嫌な事実を知ったとしたって…いや、知ったからこそ冷静になるべきなんだよ。ハリー」
ハリーはまだ訳がわからないという顔をしていた。
僕は、雰囲気をガラッと変えて明るくじゃっ、と言った。
「クリスマスのプレゼント、楽しみにしてて。すばらしいものをプレゼントするから」
にっこり微笑むと、ハリーは戸惑いながら、それでも少しはにかんだ笑顔を向けてくれた。
多少の心配はあったけれど、僕は汽車に乗って自宅に帰ることにした。
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うっわぁ…微妙。
ちなみにこれが、原作沿い100話目。