教授と紅茶
「…ハリーにディメンターの追い払い方を教えるのですか?」
放課後、闇の魔術に対する防衛術の研究室で、紅茶を片手にがルーピン教授に尋ねた。
教授は忙しく羽ペンを動かしながら頷いた。
「どうしても、っていうからね。確かに彼には吸魂鬼を追い払う力が必要かもしれない」
「…ハリーならその力を使えるとは思いますけど…なかなか高度な魔法ですよね…」
「ああ……」
せかせかと手を動かしながらルーピン教授は頷いた。
…と。
教授は、何を思ったのか羽ペンを動かす手を止めてを見た。
は相変わらず紅茶を優雅に飲んでいた。
「…君がクィディッチの試合に乗り込んできたディメンターを追い払った、と僕は聞いたのだけれど」
ぴくっ、との体が反応する。
俺の耳もぴくぴくと動く。
あの時は、いかにもダンブルドアがハリーを助け、ディメンターを追い払ったかのように見せたっていうのに…
ルーピン教授はこの話を誰から聞いたんだろう。
「グリフィンドールの生徒が話していたのを立ち聞きしてしまってね。君が何か叫んだら、ディメンターが去っていった…ってね」
は困った顔をして微笑んだ。
「…確かに…僕が追い払いました」
「君こそハリーに魔法を教えるべきなんじゃないかって僕は思うよ。杖も使わずにディメンターを追い払えるなら、クィディッチの試合でわざわざ杖を取り出さなくていいんだからね」
ルーピン教授は悪戯な瞳でを見つめ、大きな板チョコを勧めた。
は、板チョコをほんのひとかけら手にすると、それを見ながら苦笑した。
「そう出来たらいいんでしょうけど。あいにく僕の力っていうのは生まれ持った力なんで…ハリーには無理かと」
「…生まれ持った力…?」
「ああ、ほら。僕は星見の家系なんで。星見の家系は、アズカバンと提携してましてね。吸魂鬼は星見の人間に逆らうことはない。その代わり、月に一度、アズカバンの囚人たちの心を占う必要があるんですけどね」
がチョコレートを口にしながら微笑むと、ルーピン教授はああ、と唸りながらまた羽ペンをさかさかと動かし始めた。
「…君の母上は確か・先生だったね…」
教授は懐かしむように窓の外を見ながらそんなことをつぶやいた。
はにっこりしながら頷いた。
それから、あまったミルクを俺の前においてくれた。
「母の授業ってどんなものだったんですか?」
「…先生の?」
「ええ。母はホグワーツのことついてはあまり多くを語らないんです」
「……そうだなぁ…」
ルーピン教授は羽ペンを机の上に置くと、机の上に肘をついてどこかを見つめた。
「とにかくお優しい先生だったよ。僕がホグワーツにいた頃はいろいろなことがあったけど、先生はいつでも僕らを研究室に入れてくれて、いつも美味しい紅茶を入れてくれたんだ」
僕ら、という単語が少し引っかかったけれど、あえてそれは質問しないことにした。
ミルクを飲み終わった俺は、の足元にでろーんと寝そべって、目を閉じる。
「…へぇ…」
「でも、何か悪戯をしようとすると、いつも見破られちゃったかな」
くすくす、とルーピン教授は笑った。
「それでもね。ホグワーツの中で一番くつろげる場所だったんじゃないかな。先生のいた研究室は」
「…素敵な先生でしたか?」
「もちろん。僕はあこがれていたよ。まさか僕がホグワーツで教師をするなんてあの頃は思ってもみなかったけど…先生のようになりたいっていつも思ってたんだ」
ああ、だから…と、は紅茶と茶菓子を見ながら微笑んだ。
「生徒を招くときはいつも紅茶とお菓子」
「…母の紅茶はもう少し熱い…かな」
「さすが、ご子息だけのことはあるね」
二人でくすくすと笑いながら、ルーピン教授はまた何かを思い出したように羽ペンを手に取りさかさかと動かし始めた。
「…そうだ」
「はい?」
「クリスマスはどうするんだい?ハリーたちは残るようなことを話していたけれど」
ぴくっと俺の体が反応した。
毎年クリスマスはホグワーツに残っていたけど…今年はどうするんだろう。
「…どうしましょう。まったく計画してなかったな」
は困ったような笑みを浮かべた。
それから、俺の首筋を何度か撫でる。
「そうか。来学期になったらハリーにディメンターを追い払う呪文を教えようと思ってるんだ。その準備を…」
「…だめですよ、まね妖怪は」
ルーピン教授の言葉を見越したようにが笑った。
教授は驚いた顔をしていた。
「僕がまね妖怪の前に立ったら、まね妖怪が箪笥の中にもどっていっちゃいました」
くすくす笑うと、ルーピン教授は目を丸くした。
「…それは困ったな。まね妖怪を捕まえるのと、ハリーが呪文を習得する手伝いをしてもらおうと思ったのに」
ああ、だから…と、ルーピン教授は微笑んだ。
「僕の授業のときにまね妖怪に近づかなかったんだね?」
「ええ。みんなが自分の恐いものと戦ってるのに、まね妖怪が僕のことを恐がっちゃったら…授業にならないでしょう?」
がにっこり微笑むと、ルーピン教授は苦笑した。
「来学期、もし興味があったらハリーとの訓練を覗きに来てもいいよ。その代わり、まね妖怪には近づかないように」
ルーピン教授は笑った。
がさっ
そのとき、棚の上から妙な音がした。
驚いて振り返ると、でっかい猫がのひざに飛び降りた所だった。
「おやおや。こんなところに猫が隠れていたなんて」
「ハーマイオニーの猫みたいですね。こんにちは、クルックシャンクス。よく眠れたかな?」
の手がクルックシャンクスを撫でると、クルックシャンクスは気持ち良さそうに喉を鳴らす。
でも、その瞳は俺を見ている。
<久しぶりだな、紅獅子>
みゃぁ、と鳴いた筈の声は、なぜか俺には言葉に聞こえる。
この猫は、とても頭がいいらしい。
同じ猫科ではあるが、体の大きさも何もかも違う俺とこうやって会話が出来るのだから。
「…一体いつの間に入り込んだんだろうねぇ」
ルーピン教授のそんな呟きが聞こえる。
<ここから狼のにおいがしたから忍び込んでみたのだが…どうも、匂いの主は居ないようだ>
お前も気をつけろ、とクルックシャンクスは鳴いた。
それからの体に頭を摺り寄せて、ゴロゴロと喉を鳴らす。
甘えているみたいだ。
「…じゃあ、先生。僕そろそろ寮に戻りますね」
はクルックシャンクスを抱くと、俺について来いと合図した。
ひらひらとルーピン教授に手を振ると、部屋のトビラに手をかける。
ちょっとしたお茶の時間は、これで終了のようだ。
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今日が1周年(爆)
記念すべきその日にアップする第一話(笑)