神秘的
ホグワーツ特急を降りると、イギリスの町もうっすら雪をかぶっていて肌寒かった。
九と四分の三番線の外に出ると、生徒の親が子どもを迎えに着ていた。
「それじゃ、に。ここでお別れだ。クリスマスのプレゼントは楽しみにしていてくれよ」
「それじゃあ、ドラコ。Happy christmas」
「and a Happy new year」
「お互いに、来年もいい年になるように」
ドラコはいつものように気取った様子で僕らの隣をつかつかと歩き、両親の元へ向かった。
僕らはドラコに手を振ると、別の方向に道を歩いていく。
「どうやって帰るんだ?君の家はここからはずいぶん遠いだろう?」
僕らは学校外で魔法を使用することを禁止されている。
たとえ姿現しや姿くらましをすることが出来たとしても、そんなことをしたら、即刻退学になる。
だから、ほかの生徒たちは両親が迎えに来るわけなんだけれども、の家のご家族の方は来ていなかった。
「あ、ああ。この先の駅長室の暖炉から、煙突飛行粉で戻るんだよ」
は笑顔でそういった。
僕はその言葉に面食らった。
「大丈夫だよ。駅長さんは僕らのことを理解してくださってる方だから。マグルにしては珍しい人なんだよ」
ふふふっ、とは微笑むけれど、僕には少々理解しがたい。
は慣れた足取りで駅長室の中に入った。
いくらローブを脱いでいるとはいえ、大荷物の僕らをみる駅員の目は不愉快だ。
それでもは何にも考えていないのだろう、つかつかと暖炉の前に行く。
「お久しぶりです、駅長さん。また、使わせてもらってもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ。君かね。本当に久しぶりだ。ああ、使ってもらってかまわんよ。その前に人払いをしようかね」
白髪混じりの髪で、口ひげを蓄えた駅長は、僕らを見てもさして驚いた風でもなくニコニコと笑みを浮かべている。
どうやらとは顔なじみのようだ。
「さ。休憩時間は終わりだ。皆、持ち場に戻りたまえ」
駅長がそういうと、僕らのことをじろじろと眺めていた駅員たちが不満そうなため息を残してこの部屋を去っていった。
部屋の中には僕と駅長とが残った。
「じゃあ、からどうぞ。煙突飛行粉の使い方は解るよね?」
「ああ」
「目的地は星見の館。それで僕の家の暖炉に到着するから」
は僕と荷物を暖炉に入れると煙突飛行粉を一掴み僕に持たせた。
駅長の居る前で煙突飛行粉を使うのは気が引けたが、仕方がないのでに指示されたとおりにやってみる。
「…星見の館」
そういいながら煙突飛行粉を振りまく。
きらきらと僕の体が一瞬輝き、周りの景色が一瞬にして変わる。
何度行っても、なれない気持ち悪さ。
煙突飛行粉の移動中、目を開けていると気分が悪くなってしまう。
だから僕は、いつも目をつぶって辿りつく場所で自分の体が安定するのを待っている。
それから目を開けるんだ。
目を開けたら、そこは星のちりばめられた空間だった。
いきなり夜になったのかと思うくらい暗くて…でも、星が輝いている場所だった。
「あら、いらっしゃいませ。…あらあら、ずいぶん小さなお客さまだこと」
澄んだ声が響いた。
くすくすと笑むその声は、どこかに似ている。
目の前には、すらっとした綺麗な女性が立っている。
「…の…」
「まあ、のお友達ね。こんにちは」
「は、初めまして。・と申します」
「家の方なのね。いつもお世話になっています」
「いえ、こちらこそ、ホグワーツではにとてもお世話になって……」
…何をやっているんだ、僕は。
この女性を目の前にするとなんだかしどろもどろになってしまう。
とりあえず暖炉から出ると、すぐにがやってきた。
「ただいま帰りました、母上」
「お帰りなさい、」
は慣れた手つきで荷物を取り出す。
もの後ろをぴったりとくっついて歩いている。
「それじゃ、。部屋に案内するよ」
「あ、ああ。お世話になります」
「ゆっくりくつろいでくださいね」
の母上は、のように微笑んでその部屋にとどまった。
僕らはこの神秘的な場所を出た。
星のちりばめられたカーテンを抜けると、外は同じように星のちりばめられた空間だった。
まるで宇宙に居るかのようだ。
ここでは時間の感覚を失ってしまうようで…
の後を突いていくのが精一杯だった。
目の前に広がった螺旋階段をは慣れた足取りで進んでいき、僕はの後ろをついていくのうしろを、珍しいものを見るような目つきで眺めながら歩いていった。
「僕の部屋にどうぞ。用に部屋を準備したかったんだけど、いつの間にか書物室ばかりになってて」
「僕はかまわないよ。ホグワーツでもいつもと同じ部屋だしね」
「そういってもらえると嬉しいよ。さ、ここだ」
階段を上がった先にはおびただしい数の部屋。
どの部屋も同じつくりをしているから、どこがどこだかわからない。
それでもにとってそれは不思議なことではないのだろう。
迷うことなく自分の部屋の扉を開けると、僕を中に通してくれた。
その部屋は…なんていうか…何もない。
あるものといえば、のものであろうベッドと机、それに梟の止まる止まり木に…占いの道具。
そして、本棚がたくさん。
それ以外は何もないだだっぴろい空間だった。
勿論天井には今夜の星空というものが浮かび上がっていて、ホグワーツと同じようだったし、神秘的な場所であることには変わりない。
「…の家みたいに広くないんだけどね」
「いや、すばらしいよ。なんだか不思議な空間にきたみたいだ」
「やだな、そんなお世辞」
「本当だって」
ふふふっ、と微笑んだ。
「ソファとか、僕が使わないからないんだ。だから、ベッドにでも腰掛けてよ」
「あ、ああ」
は何気なくベッドを指差して、僕はそのベッドを見た。
大きい。
半端じゃない大きさだと思う。
たぶん、とが3人ずつ位寝てもあまるくらいの大きさのベッドだ。
そんなベッドに腰掛けると、なんだか優しい香りがして、緊張しっぱなしの心が少し和んだ。
「とりあえず、今日はゆっくりしようよ。も環境の変化に対応しきれてなくて緊張しているみたいだし」
「……の家がこんなに神秘的だとは思わなかったから」
「これね。母上のために父上が用意した屋敷なんだって」
「…素敵な人だな」
「ね。でも、僕でも時々迷うんだ。広くて」
は苦笑しながらの体を撫でていた。
その姿さえ、この部屋の中ではいつもよりも数段神秘的に見える。
「そうだ」
「ん?」
「明日、クリスマスプレゼントを買いに行きたいんだ。みんなにプレゼント。も一緒にいこうよ」
「あ、ああ」
「この丘を降りてちょっと町に行くとね、マグルの町に出るんだ。そこの小さな路地を入ると、一部の魔法使いしか知らない小さな露店街に出るんだ。そこにすごく不思議なものがいっぱい売ってるんだ」
「…へえ。興味あるな」
「きっとも気に入ると思う。ちょっと危ないものもあるけど…」
はにっこり微笑んだ。
僕もつられて笑みがこぼれた。
どうやら僕は、の家の神秘的な空間を気に入ったみたいだ。
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の家に到着。
の家は…ほら、あの人が考えたんだから、普通と違うよ(爆)