露店街


 「あ、あれ食べたい」

 が指差した方向には、美味しそうなアイスクリームを看板にぶら下げたお店があった。
 クリスマスの買い物をするために、の家から近い小さな魔法露店街に足を運んだ俺達は色んなお店を見て回っている。

 「…甘いものが好きなんだね、
 「久しぶりなんだもの。も一緒にアイス食べない?」
 「……僕は遠慮しておくよ」
 「そう…じゃあ、それ1つくださいな」

 雪の積もった町の中。
 クリスマスだというのに、アイスクリームを美味しそうに頬張る
 小さなこの町には不釣合いな二人が俺の前を歩いている。

 「……マフラー巻いて街中を歩いているのに、アイスクリームを頬張るとは…なんだかおかしい」
 「細かいことは気にしちゃダメだよ、。あ、あのお店綺麗」

 久しぶりに足を踏み入れた露店街は、お店が新しくなっていたり品物が変わっていたりしていた。
 クリスマスのプレゼントを買う、といって、は色んなお店の扉を開ける。

 「こんにちは」
 「いらっしゃい…おや、綺麗なお嬢さんだねぇ。彼氏とデートかい?」
 「え…」
 「ああ、もうすぐクリスマスだからねぇ。…これなんかどうだい?クリスマスのプレゼントにはぴったりだ」

 店の主人は、ニコニコした笑顔で、カウンターの上に小さな砂時計を二つ置いた。
 中に入っている砂が、角度によって何色にも色を変える、神秘的な砂時計だった。

 「極秘ルートで入手したものなんだけどね。中に入っている砂は、時間を動かす砂さ。ただ、このままの状態では使えない」

 主人の瞳が怪しく光る。
 の心をくすぐるその商品に、二人とも目が釘付けになった。
 アイスクリームを食べることも忘れて、は主人と商品を交互に見つめている。

 「外側は特殊なガラス製で、どんなに叩いたり投げつけたりしても割れることはない。中の砂を取り出せば使用可能だけれども、そんなことをしたら、魔法省につかまってしまうけれどね。なかなか綺麗だろう?だから、カップルにはもってこいの商品だ」

 インテリアとしてどうだい?と店の主人は気さくに笑った。
 も微笑んでいた。

 「それから…ああ、こんなものもあるよ」

 品物を買おうかどうしようか迷っていると、主人は店の奥から何か小さな箱を取り出してきた。
 その中には銀色の鎖が輝きを放ちながら収まっていた。

 「これもちょっとした特殊ルートから仕入れたんだけどね。自分と何かをつなぎとめる鎖らしいんだ。なんだか素敵だろう?」

 それからいくつも主人が品物を出してきたけれど、は迷っているようだった。
 このお店は品揃えもよいので、ここでクリスマスのプレゼントがすべて揃えようと思っているらしかった。

 「ええと、母上にはこれ。ハリーたちにはこれ。それから…ドラコたちにはこれなんかどうかなぁ」
 「…これください」

 は店の中を見て回ると、いくつかの商品をカウンターの上に並べて金貨を払った。
 は俺にも何か買ってくれたらしく、クリスマスの日までお楽しみ、と言って微笑んでいた。

 「はい、これで全部かな。どうもありがとうね。二人とも仲良くやれよ?」

 おどけた店主に手を振ると、店を後にする。
 温かかった店内に比べて、雪のちらつき始めた通りは冷たかった。
 なるべく乾いた場所を探して足をすすめていく。



 「綺麗なお店だったから、ちょっと買い物しすぎちゃったかも」

 手にした紙袋の中に入っている商品を見ながらが苦笑した。
 に比べればの荷物は少なかったけれど、それでも二人は両手いっぱい荷物を抱えていた。

 「…なんて軽いノリの主人だったことか…」
 「面白かったじゃない。なんだか綺麗なものまでいっぱい出してくれて、おまけまでつけてくれて。いいお店だったと思う」
 「それは、が彼のノリにあわせたからだろう?」
 「だって、面白かったんだもの」

 はぁ、とがため息をついたけれどはあまり気にしていない様子だった。

 「どうしたら、僕らが恋人同士に見えるって言うんだい?」
 「…の背が、僕よりも高くて、僕よりも落ち着いた雰囲気を醸し出してる、から」
 「……そりゃ確かに、は女の子みたいに見えるかもしれないけれど……」
 「だって否定しなかったじゃない」
 「否定しても無駄だと思ったんだ」
 「ならそれでいいじゃない。いい買い物も出来たわけだし、さ」

 がにっこり微笑むと、が少し顔を赤らめてため息をつく。



 クリスマス休暇とあってか、街は魔法使いでにぎわっていた。

 「お嬢さん、クリスマスの日に、彼氏と一緒に紅茶を飲むってどう?クリスマスにぴったりの紅茶の葉を仕入れたんだ」
 「お嬢さん。クリスマスには美味しいケーキを食べなくちゃ。うちの店なら材料が全部そろうよ」
 「そこの素敵なおにいさん。こんな雪の中で長時間買い物してたら彼女が風邪ひいちゃうよ?うちの店であったまっていきなよ」

 町を歩くとすぐに声がかかる。
 それはにだったり、にだったり。
 は半ば呆れつつ、はニコニコと返事をしながらこの時間を満喫しているようだった。

 「じゃあ、喫茶店にでも入ろうか」
 「ちょっと休憩?」
 「一通り買い物も済ませたしね。それに雪がやむまで休んだほうがいいと思うんだ」
 「じゃあ、あそこのお店にしようよ。なんだか綺麗だから」

 ステンドグラスの窓が目立つ喫茶店を指差すと、の手を握って前に進みだす。
 があわててについていく。

 「クリスマスの日は楽しみにしていてね。今年はにぎやかだから、母上が素敵な料理を作ってくださるよ」
 「いいのかな、何もかも用意してもらって」
 「いいんだって。そんなこと気にしなくて。母上も僕もがいてくれることがとっても嬉しいんだから」

 今年はホワイト・クリスマスになりそうだな、と喫茶店の窓から見える空を見上げて俺はそんなことを思っていた。






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 がはしゃいだ、クリスマスのお買い物。
 この二人だと、のほうがお嬢さんに間違われる気がする…