雪降る朝


 翌日のクリスマスは、俺の予想したとおりホワイト・クリスマスになったようだった。
 寒さに目を覚まし窓の外を見ると、白い雪がはらはらと地に降り注いでいるところだった。
 空気が冷たい。
 もぞもぞと掛布の中で動くと、外の冷たい空気が伝わってきて、俺は身震いしてベッドの奥に潜り込んだ。
 その俺の動きを感じ取ったのか、がもぞもぞと動き出した。
 右手で自分の目をこすりながら、左手で俺の首筋を無造作に撫でる。

 「…もう朝なの?

 ふわぁ、と一つ大きな欠伸をすると、がのそっ、と起き上がる。
 隣に眠っているとニトはまだ夢の中で、当分起きそうになかった。

 「ああ。いい匂いがする。母上が料理を作ってくださっているんだね。キッチンで朝食の手伝いをしようか」

 身支度を整えようとベッドから降りながらが言った。
 床は冷たかった。
 そして、ぶにょとした感触があった。

 ん?

 何気なく下を見ると、袋に包まれたたくさんのプレゼントがベッドの周りに置いてあって、足の踏み場もなかった。

 「あらら。こんなにプレゼントが…」

 プレゼントの間をかいくぐりながらとりあえず温かいミルクを準備する
 毎年のことながら、ホグワーツの人々からの大量のプレゼントには言葉を失う。
 宛と宛のプレゼントで埋め尽くされた部屋で、俺とは人肌の温度に温められたミルクを飲んでいる。
 「…ああ、。おはよ……うわっ…」

 ごそごそと動きながら眠そうなが上半身を起こす。
 俺たちの姿を見るとゆっくり首を動かしながら周りを見回していたけれど、ベッドの下に置かれた大量のプレゼントを見て目が覚めたみたいで、目を白黒させていた。

 「なんなんだい、このプレゼントの山は」
 「今年は去年よりも量が多いみたい」
 「…もらって嬉しいものもあれば、もらって嬉しくないものもある」
 「そんなものだよ。クリスマスのプレゼントなんて」

 くすくす微笑んだは、の身支度を手伝っている。
 ホグワーツじゃないから、ローブを着る必要はない。
 は、袖が大きく開いている服を着ていた。
 …夏休みにサラザールにもらった服に良く似ているんだ。
 のために新調してくれた服なんだけれど、あいつが着ている服にどことなく似ていてなんだか懐かしくなってしまう。
 は、黒い服を着ていた。
 紳士が着るような服、ね。
 ホグワーツでも黒い服を着ていたんだけれど、やっぱりローブを着ていないといつもと違う感じに見える。

 「…なんだか美味しそうな匂いがするね」
 「母上が朝食を作っていらっしゃるんだと思うな。はい、ココアなんてどう?」

 が差し出したマグカップを受け取りながら、はため息をついた。
 まだベッドで眠っているニトをちらちら見ながら、マグカップに口をつける。

 「そろそろ朝食の用意が出来ると思うんだ」
 「ほんと、には迷惑をかけっぱなしだね」
 「いいんだってば。僕、とっても嬉しいんだもの」

 は収支笑顔だった。
 も諦めたように軽く口元を緩めた。
 そのうちニトが目覚めたらしくて、のそのそと掛布が動いた。
 てん、と床に降り立ったニトは、周りのプレゼントの山に苦戦しながらの足元にやってきてミルクをねだった。
 俺の足元に置いてあったミルクを見つけると、目を輝かせてやってきて、ぺろぺろとそれを飲んだ。
 …そんな朝だった。

 「朝食に行こうか」

 が時計を見ながら微笑んだ。
 既に飲み干してしまったマグカップをささっ、と洗うと部屋の戸を開ける。
 廊下は部屋よりも寒かった。
 でも、それ以上にいいにおいがあたりに漂っていた。



 星のちりばめられた螺旋階段を降りていくと、その匂いは強くなる。
 キッチンに入ると、匂いだけでなく美味しそうな朝食がテーブルの上に準備されていた。
 白くてふかふか焼きたてのパン。
 新鮮な野菜がふんだんに使われているサラダ。
 中央には小さなケーキで作った巨大なケーキがあった。
 ホグワーツのクリスマスのご馳走に負けないくらいのご馳走だ。

 「あら、おはよう。早いのね。もっとゆっくり寝ていらしてもいいのに」
 「おはようございます、母上。とても美味しそうな匂いなので目覚めてしまいました」
 「おはようございます」

 それぞれ席につくと、にぎやかな食事が始まる。
 がやってきてから、食事のときの会話が弾むようになった。
 勿論、でも会話が弾んでいるんだけど、やっぱり、を母親としてみているから、丁寧な言葉になる。
 軽い冗談を交わせるような場所でもないしね。
 それが、がやってきたら、が歳相応に見えるようになった。
 それに今年は、リドルもいる。

 「…それで、今日の予定は?」
 「特に何も。一通りの買い物は昨日済ませましたから。今日はゆっくりしたいなぁ、なんて」
 「そう。それもいいかもしれないわね。私はいつもの場所に居ますから、何かあったらそちらへ」
 「わかりました」

 食事が一通り済むと、はにっこり微笑んで黒い箱を三つ取り出した。

 「それでは、毎年恒例の…」

 (毎年恒例…って?)
 (…あ、ああ。母上のクリスマスプレゼントを当てるんだ。そうしないとプレゼントがもらえない)

 「さ。中身はなんでしょう」

 にっこり微笑んだに、も満面の笑みを返すと、目の前の箱に集中し始める。
 毎年見ているけれど、毎年なんだか不思議な感覚に襲われるんだ。

 「…ノート…?黒い表紙で…ええと、中には日付を書く場所があるけれど、それ以外は白紙。ああ、少し魔力のこもったノートかな」
 「さすがね。さあ、どうぞ」
 「ありがとうございます」

 には、そういう能力を求めないから、といって、は笑顔でプレゼントを渡した。
 は嬉しそうに、は戸惑いながら箱を開けた。

 「…すごい…」

 のは、が言い当てたとおり特殊なノート。
 には、魔法のかかった輝く布だった。
 ふかふかしていて、サイズも自分で変えられて…どうやら、ニトとの掛布に、と準備してくれたものらしい。
 さすが、だ。

 「あれ、。僕にはないの?」

 リドルが軽く笑みを浮かべながら言うと、も微笑んだ。

 「あるわ。とっておきのものよ」
 「嬉しいよ」

 残りの箱を受け取って中を見たリドルは、数分動かなかった。

 「…これって…」
 「ヴォルデモート卿の本体には、私の本体。ヴォルデモート卿の思念体には私の思念体…でどうかしら」

 リドルが受け取ったのは、古ぼけた日記帳だった。
 リドルは歓喜の言葉を述べると、の日記帳の中に隠れてしまった。

 「…あれって…」

 くすり、とが微笑む。
 は首をかしげていたけれど、の囁きに頷いて、と一緒にくすりと笑った。

 「ホワイト・クリスマス…ね」
 「あ、。外に遊びに行こうよ」
 「雪が降っているだろう?」
 「だから、だよ。この丘、雪が降るととっても綺麗なんだ」
 「風邪をひかないように気をつけるのよ」
 「はい、母上。ね、行こうよ」
 「…わかった」

 なんだか楽しいクリスマスの朝だった。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 リドルにはの日記帳を。