瞑想
グリフィンドール対レイブンクローの試合。
勿論クィディッチの。
でも、いつものごとく、とは寮に残っていて、試合のことなどさして気にもしていない様子だった。
むしろ、みんなが試合で出払ってしまう今日は、寮の中もいつもよりずっとシーンとしていて、それがとても居心地がよい。
いつものように俺と遊んでくれるのかと思っての側に寄ったけれど、今日のはいつも以上に真剣な顔をしていた。
自分のベッドの上に、胡坐をかくようにして座ると、目を閉じて精神を集中させている。
の周りを見ていたら、実は、サラザールにもらった無数の石たちがちりばめられていた。
それが徐々にふわふわと浮き始める。
初めて見る光景だった。
俺だけでなく、側にあるテーブルで紅茶を飲んでいたも、のひざでミルクをもらっていたニトも、驚いた表情でのことをじっと見つめている。
…と。がうっすら瞳をあけた。
でも、表情はとても真剣で、いつものような綺麗な笑顔はなかった。
ふっ、とが右手を軽く振ると、光を帯びてふわふわと空中を漂っていた石が、の体の周りを一周した後に、綺麗に何かの形となって並んだ。
その形は、おそらく天体だ。
太陽が出ているから、今は星が見えないけれど、星は絶えず動いている。
その天体の動き…その天体の位置、形。それを表しているんだと思う。
「…無謀な……」
ぽろり、との口からこぼれた言葉。
呆れたようにため息をつく。
俺には、淡く光り輝く石にしか見えないけれど、はその石の動きや光からいろいろなことを感じ取っているみたいだ。
その姿は神秘的だ。
「なにが無謀なんだい?」
が声をかけた。
先ほどまで飲んでいた紅茶のカップは綺麗に洗って片付けられていた。
ニトを俺に預けると、はの隣に腰掛ける。
は、の顔をチラッと見ると、いつものようにニコニコした笑顔を見せた。
でも、石が落ちないのを見ると、集中を切らしたわけではなさそうだった。
「…で、何が無謀なんだい、」
「無謀なことをしようとしている人がいるんだ」
「……クィディッチの話かい?」
「いや…」
ふふふ、と何か含みを見せたような笑いを浮かべると、はまた右手を軽く振った。
の前に並んでいた石が、もう少し広がりながら、との前に集まった。
…つまり、ベッドの下で寝そべっている俺の真上。
正直、このままが集中を切らしたら、どばどばと落ちてくるだろうからとっても心配だ。
「宇宙?」
「そう。この石を見て、何か気にかかることがないかな」
にっこり笑ってはのほうを見た。
は、の顔を見てから、じっと魔法石を見つめる。
俺も、頭上の魔法石を見上げた。
きらきらと輝く魔法石は、一つ一つ瞬き方が違う。
そして、少しずつ、少しずつ動いているようで、本当にゆっくりと回っている。
「…この、星か?」
のすらりとした長い指が、一つ小さな星を指差した。
ご名答、との口から言葉が漏れる。
「冷たい星…のはずなのに、こんなに熱を帯びた光を放ってる。その光の先にあるのは…?」
「…小さい…あの星?」
「そう…この小さな星は戸惑っている。そして、淡い光は弱弱しい」
は、何か遠くを見透かすような瞳をして、そしてそれから、深いため息をついた。
何かを決意したようだった。
「…ピーター・ペディグリューを知っているかい?」
声を潜めてがそうつぶやいた。
ぼぉっと光っていた石が力を失い、徐々に下に下りてきた。
俺の頭上にあるものだから、俺はニトを連れてその場を離れようと思ったけれど、が笑顔でそこにいていいよ、といった。
力を失った魔法石たちは、が指をぱちんと鳴らすと同時に、とのベッドの間にある、スタンドの側に置かれた透明なビンの中に戻っていった。
そして、石がすべておさまると、ビンの蓋はゆっくりと閉じた。
不思議な光景だった。
「…裏切り者…かい?」
の声がひっそりとあたりに響く。
クィディッチのおかげで、寮には人が居なかったが、それでもこれだけ声を潜めて二人が会話するって言うことは、それなりに危険なことを話すっていう合図だと思う。
「…なかなか楽しい友情劇が見られそうだけど…今夜は少々騒がしくなる」
「また面倒ごとかい?毎年クィディッチや何かの行事のときを狙って面倒が起きる」
「行事のときのホグワーツは、管理が緩やかになるからね。侵入が容易くなる」
そこが問題点だね、とは苦笑した。
ニトが俺の尻尾をひたすらに追いかけて遊んでいるのを横目に、俺は耳をぴくぴくと動かしながらとの話を聞いている。
この二人はどうも神秘的過ぎる。
「…ピーター・ペディグリューは行方不明。もし、生きているならば……」
「…おそらく、容赦しないのはヴォルデモート卿に関わる人間だけじゃないはずさ」
「……?」
「うまい具合に、友人を裏切った人だからね」
くすり、とが意地悪く笑う。
ああ、と、も呆れた声を出す。
「友達を裏切るものほど悪いものは居ないよ、この世の中に」
「それも親友ときた」
「たとえ闇の人間が手を下さなくても、そのほかの人がそのうち手を下すさ」
きわどい会話が耳に入る。
ピーター・ペディグリュー…聞いたことのある、耳に残る名前。
あいつに媚を売っては、あいつを困らせたやつ。
姿こそ見たことないが、あいつがため息をつく原因はいつもこいつだった。
話を聞く限り、あまり好きになれない人間だと、俺も思っていた。
「…は、グリフィンドール寮の前を通るのは好まないよね」
「ああ」
「じゃあ、今夜は少し騒がしくなるけど大丈夫かな。僕は少し用事がある」
「…危険なことはするなよ?君がすることをいちいちとやかく言おうとは思わないけれど、君に何かあってほしくない」
「わかってる。大丈夫さ」
にこりと微笑んだは、ひょいっ、とベッドから飛び降りると、寮の扉を開けて出て行こうとした。
のそりと俺も立ち上がり、の後についていく。
も、ニトを抱いての後に続いた。
「そろそろみんなが帰ってきて、昼食の時間じゃないかな」
はにっこりしながら談話室に入った。
談話室の扉の向こうから、いいにおいがしていた。
そして、ざわめく声も聞こえていた。
どうやら、スリザリンの生徒たちが帰ってきたようだ。
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瞑想しているの姿は神秘的のような。
これは少し番外編っぽいですね。