明かされた真実
「も……?」
一瞬耳を疑った。
がシリウス・ブラックとぐるだって?そんなことあるはず……
はっ、と僕は顔をあげてを見た。はいつものように優しい微笑を絶やさない。
その瞳は穏やかな紅色をしている。
でも、なんでここにいるんだろう。
は僕らとわかれ、どこか別の場所に向かって……もしかして……
嫌な考えが頭の中に浮かんだ。考えたくなかった。でも、考えてしまった。
だって、そうとしか思えなくて。
ハグリッドの小屋から出るとき、は城のほうへは行かなかった。
それは、シリウス・ブラックに僕らの居場所を教えるためだったんじゃないだろうか。
ルーピン先生と一緒にここに来たのは、シリウス・ブラックを助けるためだったんじゃないだろうか。
そうだ、それに。
もうずいぶんと前のことだから忘れかけていたけれど、はヴォルデモート卿の息子だ。
トレローニー先生は言った。‘闇の帝王は召使の手を借り、再び立ち上がる’って……
…そんな、そんな……
自分の体が震えだした。
恐怖からではなく、これは怒りからのものだ。
僕はルーピン先生も、も信じていた。それなのに二人は……
何か抑えきれない怒りがふつふつと湧き上がってきた。
「僕は先生を信じてた……それに、も」
気がついたら僕は叫んでいた。体は震え、拳をぐっと固く握っていた。
「それなのに先生はずっとブラックの友達で…は……」
「それは違う」
すぐに静かな声が聞こえた。ルーピン先生はまっすぐ僕を見つめ、首を横に振っていた。
…いくら僕をだまそうとしたって無駄さ。だって僕には確信がある。
先生がと一緒に入ってきたのが何よりの証拠だ。
「この十二年間、わたしはシリウスの友ではなかった。しかし、今はそうだ……説明させてくれ」
「だめよ!」
今度はハーマイオニーが叫んだ。
「ハリー、だまされないで。この人はブラックが城に入る手引きをしていたのよ。この人も貴方の死を願っているんだわ……だって、だってこの人、狼人間なのよ!」
あたりが水を打ったかのように静まり返った。痛いような沈黙だ。
みんなの視線がルーピン先生に集まっていた。先生は青ざめていたけれど、驚くほど落ち着いていた。
ああ、全部そろったじゃないか。疑わない理由がない。
は闇の帝王の息子で、シリウス・ブラックはヴォルデモート卿の召使い。
ルーピン先生は狼人間で、やっぱりシリウス・ブラックとぐるだ。
アズカバンを抜け出す手引きだってなんだって全部……
「いつもの君らしくないね、ハーマイオニー。残念ながら三問中一問しか合ってない。わたしはシリウスが城に入る手引きはしていないし、もちろんハリーの死を願ってなんかいない……」
ルーピン先生の顔に奇妙な震えが走った。
口を開こうとして一瞬躊躇い、そして彼の視線はとブラックのほうへ向いた。
がゆっくり頷くのを僕は見た。……僕の中のほんの少しの希望が粉々に砕け散った。
「しかし、私が狼人間であることは否定しない」
ロンは雄々しくも立とうとしたけど、痛みに小さく悲鳴を上げてまた座り込んだ。
ルーピン先生は心配そうにロンのほうに行きかけたが、ロンが喘ぎながら言った。
「僕に近寄るな、狼男め!」
「…ロン!」
すかさず悲しげな声がロンの名を呼んだ。…だ。
クルックシャンクスを抱き、紅獅子のを従え、古ぼけた椅子に足を組んで腰掛けているだ。
全員の視線が、ルーピン先生からに移る。
「何だよ。君だって狼人間について調べただろ?!こいつらがどんな生き物か知らないわけじゃ……」
「いい加減にしなよ、ロン。それは偏見だ。今までルーピン先生が僕らに何か危ないことをしたかい?彼が狼人間だと知った途端にそんな言い方を掏るなんて……そんなのってないよ……」
悲しそうな表情。紅い瞳が陰っている。…でも。
だってそんなことを言える人じゃないじゃないか!
僕は、沸きあがってくる感情のままに叫んでいた。
「、君だってそんなこと言えるの?僕は知ってるんだ。君がヴォルデモート卿の息子だってことを!」
みんなの動きが止まった。痛々しい視線がに向けられている。
驚きと戸惑いと…それから恐怖の視線。
の顔が一瞬蒼白になった気がした。は悲しい顔をして皆を見つめていた。
…でも、動揺はしていないみたいだった。
「…じゃあ、が…シリウス・ブラックを城に入れる手引きをしていたのかしら?!それで、やっぱり先生とぐるになって…」
ハーマイオニーが信じられない、というような顔をしていた。ロンの顔は引きつっていた。
ルーピン先生は言葉を探しているみたいだった。
動揺していないのはだけだ。
との約束を破ってしまったという罪悪感は少しあったけど、でも、それ以上に怒りの感情のほうが強かった。
僕はの親の秘密を知っても、のことが大好きで、を信じていた。
それなのに、あんなに笑顔で僕に接していたにもかかわらず、は僕のことを……
「…少し整理しようか」
ルーピン先生が言った。
「ハリー、最初に断っておくよ。わたしはのことについてはよくわからない。何しろ、君の口から感情に任せて飛び出したその言葉は初めて聞いたことだからね。だから、の件については置いておくことにしよう。本当のことにしろ、口からでまかせにしろ本人が話してくれるだろうしね」
それからルーピン先生はハーマイオニーをじっと見つめて聞いた。
「いつ頃から気付いていたのかね?」
「ずーっと前から」
ハーマイオニーは囁くように言った。その間もは一言もしゃべらない。
クルックシャンクスを抱き、曇った瞳でみんなを見つめているだけだ……僕に対しても、何も言わない。
「スネイプ先生のレポートを書いたときから……」
「スネイプ先生がお喜びだろう。彼はわたしの症状が何を意味するのか誰か気付いてほしいと思って、あの宿題を出したんだ。月の満ち欠け図を見て、わたしの病気が満月と一致することに気づいたんだね?それとも『まね妖怪』がわたしの前で月に変身するのを見て気付いたのかね?」
「両方よ」
「ハーマイオニー、君は、わたしが今までに会った君と同年齢の魔女の、誰よりも賢いね」
ルーピン先生は無理に笑っているように見えた。
正直、僕には何がなんだかわからなかった。
ただ、ハーマイオニーとルーピン先生のやり取りを見ていることしか出来なかった。
「私がもう少し賢かったら、みんなに貴方のことを話してたわ!」
「しかし、もう、みんな知っていることだ。少なくとも先生方は知っている」
「ダンブルドアは、狼人間だと知っていて雇ったっていうのか?正気かよ!」
「先生方の中にもそういう意見があった。ダンブルドアは、私が信用できると、何人かの先生を説得するのにずいぶん苦労なさった」
「そしてダンブルドアは間違っていたんだ!」
たまらず僕は叫んでいた。
「先生はずっとこいつの手引きをしてたんだ!」
天蓋付ベッドのほうに歩いていき、震える片手で顔を覆いながらベッドに身をうずめたブラックを指差しながら僕は言った。
「わたしはシリウスの手引きはしていない。訳を話させてくれれば説明するよ、ほら……」
ルーピン先生は何を思ったのか、三本の杖を一本ずつ僕らのほうへ放り投げ、持ち主に返した。
僕は呆気にとられて自分の杖を受け取った。
それから先生は自分の杖をベルトに挟みこんだ。
「君たちには武器がある。わたしたちは丸腰だ。聴いてくれるかい?」
これは罠?いやそれともちゃんと聞くべきだろうか……なんだかよくわからないよ。
「ブラックの手助けをしていなかったっていうなら、こいつがここに居るって、どうしてわかったんだ?」
ブラックをにらみつけながら僕は聞いた。
「地図だよ。『忍びの地図』だ。事務所で調べていたんだ」
そういえば、双子にもらった地図は、前にルーピン先生の取り上げられてしまったっけ。
でも、あれはタダの羊皮紙にしか見えないはずだ。使い方を知らなければ……
「使い方を知っているの?」
「勿論。わたしもこれを書いた一人だからね……そんなことより……」
先生の口からはわけのわからないこと、僕の知らないことがいっぱいでてくる。
時々昔を懐かしむような目をしては、手と首を横に振り、先を急ぐかのように話し続ける。
「君たちはハグリッドの小屋に入った、そうだね……ああ、そこにはもいたね」
ルーピン先生はを見て微笑んだ。も笑みながら頷いていた。
「そして二十分後、君はハグリッドのところを離れ、城に戻り始めた。しかし、今度は君たちのほかに誰かが一緒だった」
「誰も一緒じゃなかった!」
「すると、もうひとつの点が見えた。急速に君たちに近づいている。…シリウス・ブラックと書いてあった。ブラックが君たちにぶつかるのが見えた。…君たちの中から二人を暴れ柳に引きずり込むのを見た」
「一人だろ?!」
ロンが怒ったように言った。そうだ。
僕もハーマイオニーもロンを追って中に入ったんだ。引きずり込まれたのはロン一人だけだ。
「ロン、違うね」
だけど先生は否定した。歩くのを止め、ロンを眺め回した。
「ねずみを見せてくれないか?」
感情を抑えた言い方をした。
ロンは訝しげに先生を見つめていた。
「なんだよ、スキャバーズになんの関係があるんだい?」
「大ありだ。頼む、見せてくれないか?」
ロンは躊躇ったけれど、ローブに手を突っ込んだ。スキャバーズが必死にもがきながら現れた。
逃げようとするのを、ロンはその裸の尻尾を捕まえてとめた。
の腕の中にいたクルックシャンクスが、低く唸っている。
の視線も鋭くなって、スキャバーズをじっと見つめている。
「僕のねずみが一体何の関係があるって言うんだ?」
「それはねずみじゃない」
突然今まで黙っていたシリウス・ブラックのしわがれ声がした。
でも、ロンの手の中にいるのはどう見たって、ねずみのスキャバーズだ。
「どういうこと……こいつは勿論ねずみだよ」
「いや、ねずみじゃない」
ルーピン先生も静かに言った。
二人とも正気じゃないよ。だって、どうみたってスキャバーズはねずみだもの。
みんなだってそう思うだろうに……
「こいつは魔法使いだ」
「『動物もどき』だ」
ブラックが言った。
「名前はピーター・ペティグリュー」
沈黙が走った。
突拍子もない言葉を飲み込むまでに数秒かかった。
「二人ともどうかしてる」
「ばかばかしい」
ロンが先に僕が思っていた通りのことを口にした。ハーマイオニーもひそっと言った。
そうさ、本当にばかばかしいことだ。スキャバーズがピーター・ペティグリューだって?
そんなことがあるわけがない。
だって、ピーター・ペティグリューは診断だ。ブラックが殺したんじゃないか。
「ピーター・ペティグリューは死んだんだ!こいつが十二年前に殺した!」
僕はブラックを指差して言った。
彼の顔はピクリと痙攣した。
「本当に?」
今まで一言も何も言わなかったが、ゆっくりと口を開いた。
とたん、みんなの頭の中に僕の言葉がよみがえったのだろう。みんなの表情が引きつった。
…僕、ちょっと大変なことを言っちゃったかなぁ…
「ピーター・ペティグリューは本当に死んだ?誰がそれを証明したんだい?」
「やっぱり、君はブラックの肩を持つんだ!ハリーの言ったことは本当なんだね?!」
ロンが僕を見た。僕はを見た。は…は遠くを見つめ、悲しそうな顔をしていた。
「そうさ。殺そうと思った。だが、小ざかしいピーター目に出し抜かれた!今度はそうはさせない!!」
いきなりブラックがスキャバーズに襲い掛かった。
折れた足にブラックの重みがのしかかって、ロンは痛さに叫び声をあげた。
「シリウス、よせっ!」
「まだだ!手を出すな、シリウス・ブラック!」
ルーピン先生とが、ほぼ同時にシリウス・ブラックに飛び掛ってロンと引き離した。
…なんだか、への不安が募るばかりだよ…
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うわ、ばれちゃった。