うさぎりんご


 寝台の上で本を読んでいたヒューが、のほうを向く。
 がクッキーを持って部屋に帰ると、風呂に入り終えてさっぱりしたヒューがを迎えた。
 はクッキーを机の上に置いた。まだ甘い匂いがする。

 「遅かったね。終身時間ぎりぎりだ。どこに行って……いい匂いだな」
 「良かったら食べない?クッキーを焼いてみたんだけど、思いのほかたくさんできちゃって。ひとりじゃ食べきれないからもって帰ってきたんだ」

 甘い匂いにつられたのか、寝台から降りてのほうにやってきたヒューに、は笑顔を向けてクッキーの載った食器をヒューの前に差し出した。
 の作ったクッキーはいたって簡単なもの。
 でも、これがすごく美味しくて、の元に手紙を運んできた梟も、このクッキーをもらえるのを楽しみにしているみたいだ。
 ヒューは食器の上からクッキーをひとつつまんで口に運んだ。

 「へぇ、よく出来てるじゃないか。すごく美味しい」
 「本当?よかった」

 寝る支度を整えながらが笑った。
 ローブをスタンドにかけると、は俺の毛を丁寧に櫛で梳かし始めた。
 口に合ったのか、ヒューはクッキーをもう一枚口に運んでいた。
 それを見て、がさらに笑顔になる。

 そういえば、久しぶりに誰かにお菓子を食べてもらったんだな。
 誰かが喜んでるところを見たり、美味しいって言ってもらえたりするのは、嬉しいな、

 綺麗に整えてもらった全身の毛を揺らしながら、俺はの横に伏せの体制をとる。
 ヒューの声と同時に電気が消え、部屋の中は静かになる。

 「…今日もグリフィンドールの奴らに悪戯されたんだって?セブルスがすごい不機嫌に談話室で話してたよ。彼、足を怪我してたみたいだけど、君は怪我をしなかったかい?」
 「僕は大丈夫。でも彼らも良く飽きないよね。もう転入してきて一ヶ月くらい経つのにね」
 「まぁ、あんな奴らに関わらず生活するといい。これ以上ひどくなるようだったら、一度校長にも話してみる。せっかくホグワーツにきたのに、の顔が時々悲しそうに見えるから心配してるんだ。あんな奴らなんか気にせずに、僕らと一緒にいればいいさ」

 禁じられた森のほうから聞こえてくる夜行性の動物の声。
 窓にかかったカーテンの隙間から星の光がほんの少し入ってくる。
 ヒューとは少しの間語らっていたが、そのうちが静かに寝息を立て始めた。
 こうしてまた、過去での一日が終わる。俺も目を瞑った。









 目を覚ましたのは、ヒューと一緒に生活しているホグワーツだった。
 一ヶ月もたつというのに、俺はまだ、ここでの生活が目覚めと共に終わる夢だったらいい、と思ってしまう。
 けれど毎朝、ここにいるのが夢じゃないんだって再確認することになるだけなんだ。
 の隣にいるのは、じゃなくて、ヒューなんだ。

 今日は週末で、は一日図書室か部屋にこもって調べ物をする、と言っていたが、そんなを朝食が終わった後すぐに、ヒューが厨房に連れて行った。
 屋敷僕妖精が食事の片付けをしている時間に、中から別の音が聞こえてくる。
 首をかしげていると俺を、ヒューが笑顔で厨房の中に入れた。

 (あ、母上が……いや、違う。星見の館を思い出しちゃったよ、。  母上がいつもみたいに朝食を作ってくれているのかと思った。もう食べたのにね。おかしいね、僕)

 屋敷僕妖精が走り回る中、厨房の真ん中にの姿を見つけた。
 大量の材料や道具に囲まれて、忙しそうに、でもすごく楽しそうに何かを作っている。
 俺たちがやってきたことに気づいたのか、は作業の手を止めて振り向いた。

 「あら。ヒューが連れてきたいって言っていたのは、でしたの」
 「ええ、先生。昨日、のクッキーを食べたんですが、とても美味しくて。是非先生と一緒に、と思いまして」
 「そうなの…今、ケーキを作っているところですの、。お手伝いしてくださるかしら」

 厨房内のあまりの材料の多さにやや戸惑っていたは、に話しかけられてはっとすると、よろこんで、と笑みを返した。
 の心の中では目の前にいると、の朝食を作るの姿が重なって見えているようで、俺の頭の中にも瞬間的にそういう映像が流れてくる。少し複雑な心境なんだろう。

 難しく考えるなよ、。お菓子作り、好きだろう?それを楽しめばいいんだ。

 は手で俺に触れる代わりに、柔らかい微笑を見せてくれた。

 の隣に並んだは、慣れた手つきでの指示通り、卵を割ったり牛乳の量を測ったりする。
 その様子を、俺とヒューが邪魔しないように見ている。

 「手馴れているな、

 感心しての手付きを見ているヒューに、が笑みを見せた。

 「ヒューと味見専門ね」
 「そうなんですか?」
 「ええ。以前、ヒューにお手伝いを頼んだときに、厨房中が大騒ぎになるくらいすごいことになってしまって…それ以来、ヒューはいつもここで味見を専門に担当しているの」

 当時を思い出したのか、ほのかにヒューの顔は紅くなり、は笑顔になった。
 つられても笑顔になる。
 卵の黄身と白身を別々に分けたは、白身の入ったボールを左手でしっかり持つと、右手に握ったホイッパーでボールの中を大きくかき混ぜ始めた。
 金属と水分の触れるいい音がする。

 「先生、それは僕が入学したばかりの頃の話です。今はあのときほどではないですよ」

 少しむきになったような、苦笑いの混じったヒューの声がする。
 相変わらずは微笑んでお菓子を作っている。
 の手にしているボールの中は、いつしか透明な液体からもったりとした白い泡のようなものに変わっていた。液体がこんな風に変わる姿は、何度見ても驚く。
 そっと小さな皿と卵を取り出したは、それをヒューの前に持っていった。

 「少し量が足りないな、って思ってたらひとつ分忘れてたみたいなんだ。手が離せないから割ってもらえないかな、ヒュー」
 「もちろん」

 の作ったメレンゲを、が先に用意していた生地と混ぜ合わせている。
 ちょうどその隣でヒューが卵を力強く持って厨房の作業台に叩きつけていた。
 叩きつけられた卵は、ぐしゃ、という音と共に破裂し、ヒューの手は卵にまみれていた。
 殻は細かく砕かれて卵と混ざり、一部はヒューの手に張り付いているみたいだ。
 散らかった作業台を片付けながらがヒューに手を拭く布を渡していた。
 の笑い声が厨房内に響いている。も顔を上げてヒューの姿を見、上品に声を立てて笑った。
 ヒューだけが、照れたような苦笑いを浮かべている。

 「そんなに強く叩きつけなくても割れるよ。ちょっと力が入りすぎてたのかもね、ヒュー」
 「そ、そうなんだ?だって、結構硬いから力を入れないと割れないのかと思って……」
 「変わってないわね、ヒュー。、オレンジは切れるかしら?皮を綺麗にむいて八つ切りにしてほしいの。飾り付けに使用するんですけれど……」

 が指差した場所には、二十個ほどのオレンジの山。
 は快くうなずいて果物ナイフを手に、オレンジを切り始める。
 手の仕草がに良く似ていた。
 ヒューは卵をうまく割れなかったことで懲りたのか、俺の隣に戻ってきた。
 また俺とヒューは一緒に二人の作業を見つめることになった。
 片付けを終えた屋敷僕妖精たちもの作業をじっと見ている。

 が、ヒューの前にホイップクリームを少量差し出した。

 「甘さはどうかしら?」

 それからは、俺の前にもヒューと同じものを置いた。
 口に含むとすぐに口の中の熱で溶け、口の中全体に乳製品独特の濃い味とほのかな甘みが広がる。
 極上のホイップクリームだ。余韻を残したまますぐに溶けてなくなってしまうものだから、後を引く。
 美味しい、と小さく喉を鳴らした。

 「よかったね、

 の声が聞こえた。
 に一口分のホイップクリームをもらっていた。
 ヒューもうなずき、が微笑んでいた。
 既に焼き終え、荒熱の取れた丸いケーキの型が白いクリームを纏っていく。
 完成も近い。

 準備してあった果物や、が丁寧に切ったオレンジで綺麗に飾り付けられたケーキを、が等分に切っていく。ヒューが用意した白い食器にひとつずつ乗ったケーキは、どれもみんな輝いて見えた。
 その食器とは別に、紅茶を入れるカップも用意されている。
 ふっとが軽く息を吐いた。厨房の壁にかかった時計を見て、小さく笑みを浮かべる。

 「そろそろ時間ね、ヒュー。先にと一緒にこれを運んでもらえるかしら。私も片付けと、いつものを用意してすぐに参りますわ」

 それぞれうなずいたとヒューは、ケーキの乗った皿と紅茶の用意されたポットとカップを魔法を使って宙に浮かせた。
 少したどたどしいに、慣れた様子で魔法の操り方を教えたヒューは、厨房の扉を開けると寮へ向かって歩き出した。
 その左、少し後ろをと俺がついていく。




 「料理が上手なんだね、は。僕は、料理には疎いんだ。できると思ってたけど、卵も割れなかったしね。でも、が楽しそうで良かった」
 「ヒューはいつもこんな風にMs.のお菓子作りを手伝っているの?」
 「ん?ああ。月に一度、先生は寮の生徒と一緒に過ごすお茶会を開いているんだ。入学式のときに、我が寮でしか楽しめない行事もあるって言っただろう?その茶会のお茶とお菓子がこれ。は初めてだね。僕も、一年生の途中でホグワーツにやってきたんだけど、どうしても環境の変化に馴染めなくてふさぎ込んでた時期が合ったんだ。それを先生が気にかけてくれたのか、ある日いきなり厨房につれていかれてね。もちろん、卵も割れなくて、厨房は大騒ぎだったけど、すごく楽しかったんだ。それ以来、毎月手伝いに行って、味見専門係にまでなったのさ。が楽しそうでよかった」

 ヒューの無邪気な笑顔がのほうに向き、も微笑んだ。
 の中の少しもやもやしていた気持ちが落ち着いていくような感覚を俺は味わった。
 俺も小さく唸る。
 ヒューのさりげない優しさをがとても嬉しく思っているのを感じる。

 「そうそう、今日は新入生やにとっては初めての茶会だからね。少し特別なものがあるんだ」

 合言葉が唱えられ、寮の入り口の壁画が大きく開いた。
 足を踏み入れる前から、寮内の生徒がヒューが入ってくるのを心待ちにしているのが伝わってくる。
 俺とは顔を見合わせて目で合図をすると、ヒューの後に続いて大量のケーキと紅茶とともに寮の中に足を踏み入れた。

 「待ちくたびれたよ、ヒュー。早く準備しようぜ」
 「談話室の準備はもう出来てるわ、ヒュー。先生はまだ?」

 上級生はヒューとが運んできた茶会用のケーキと紅茶を、慣れた手つきで配膳し始める。
 朝通ったときにはいつもと同じ位置にあった机や椅子が、うまくつなげられてみんなが座って会話できるようになっている。新入生は上級生に話を聞いたのか、目を輝かせて、思い思いの席についていた。

 「!こっちに一緒に座ろうよ!」

 イーノックがの手を引いて、真ん中に準備された机の傍に連れて行く。
 の向かい側にはすました顔のセブルス・スネイプが腰掛けていた。
 目の前にはが作ったケーキがおいてあり、六年生の女子生徒が数人、紅茶を生徒のカップに注ぎに回っていた。

 もう一度入り口の扉が開く。
 清楚な衣擦れの音がすると、寮内は一斉に大きな歓声に包まれた。
 生徒たちに声をかけられたは微笑み、ゆっくり談話室を見回している。
 その手には、大きいバスケットが握られている。
 布がかけられてあって、中に何が入っているかは見えなかった。

 「新入生と転入生には初めてのお茶会ですね。毎月、最後の週末の午後にお茶会を開いていますのよ。皆さんがお菓子と紅茶と共に、思い思いに語らう場となれば、と思います。新入生には特別なものをご用意いたしました。ひとりひとりに渡しに回りますね。でもまずは、この場を楽しんでください。どうぞ、ケーキと紅茶を召し上がってくださいな」

 の声を合図に、寮の茶会が始まった。

 皿を持ち上げてケーキをじっと眺める女子生徒や、目を輝かせて食べはじめる男子生徒。
 朝食のときの寮テーブルとはまた別の穏やかなにぎやかさが談話室内を取り巻いている。
 甘い匂いと紅茶の匂いは、誰もを幸せな笑顔にする。
 も笑顔だ。

 「うわぁ、美味しい!先生ってすごいね!僕、この寮に選ばれて幸せだな。あ、オレンジが入ってる。僕、オレンジ大好きなんだ」
 「みんな楽しそう。こういった寮内の茶会って素敵だね。Ms.の考えることはすごいですね」
 「先生のお菓子と紅茶はとても美味しいから尚更だな。みんなこの日を楽しみにしてるんだ。占い学を選択しないと先生の授業を受けることはできない。けれど、一年生や二年生、それに占い学を選択していない生徒もこの場で先生と触れ合える。素晴らしいとわたしも思う」

 済ました顔で紅茶を口にしているセブルス・スネイプも、声はいつもよりはしゃいでいるようだ。
 一口分のケーキを、が俺の前に差し出した。
 たくさんの果物が入った甘くてさわやかな食感のケーキだった。
 クリームのついたの手まで綺麗に舐めると、くすぐったそうなの声がした。

 少し離れたところでは、が新入生に話しかけながら何かを渡していた。
 はだんだんの近くにやってくる。
 イーノックに気がつくと、笑みを浮かべてバスケットから何かを取り出して手渡した。
 それは花の形に切られたオレンジだった。

 「スリザリン寮へようこそ、イーノック。もうホグワーツの生活には慣れたかしら?」
 「すごい!お花の形をしたオレンジだ。ありがとう先生!僕こんなに美味しいケーキを食べたの、初めて!このオレンジ、どうしたらこんな風に切れるの?」

 は笑顔でイーノックと会話すると、の隣に腰を下ろした。
 にも何かを手渡す。
 のは、うさぎの形をしたりんごだった。
 あ、と小さくが声を漏らし、どこか懐かしむようにそのりんごを見つめた。

 「今年新しくスリザリン寮にやってきた生徒はあなたで最後ね、。今日はここでお茶をいただきたいのですけれど、よろしいかしら」

 うなずいたに笑顔を見せ、は紅茶に口をつけた。
 の向かい側にはヒューが座っている。

 (母上は母上なんだね、やっぱり。よく僕が風邪をひいたり落ち込んだりしたときに作ってくださったんだ。なんだかすごく懐かしい。うさぎりんご、か。ここにいても、母上の優しさは変わらないんだね、

 「のりんご、うさぎさんだ」
 「あ。新入生でも、うさぎりんごをもらえる人は珍しいのよ。いいなぁ。先生のうさぎりんごって、なんだか食べるのが勿体無いくらい可愛いのよね。紅茶のお変わりはいかが、。私たちのときはヒューが受け取ったんだっけ?うさぎりんご」
 「そうそう。それまで僕、りんごってそのまま食べるものだと思ってたから、こんな可愛いりんごの姿があるのか、って驚いたんだ。僕にも紅茶、くれる?」

 が受け取ったうさぎりんごは、白いお皿の上にまるで生きているかのように小さく乗っていた。
 こうしてみると、雪の中にいるうさぎのようにみえる。
 もうケーキを食べ終えたのか、イーノックは花形のオレンジを口にしているところだった。

 「うさぎりんごなんて久しぶりに見ました。よく僕が風邪をひいたときや落ち込んでいるときに母が作ってくださるんです。だから、少し驚きました。このうさぎ、可愛くて食べるのが勿体無いですね」
 「あら……では、故郷を思い出して寂しくなってしまったかしら?」
 「いえ、とても嬉しいです、Ms.。最近少し故郷に戻りたくなってましたから。ここでまさか同じものが見れるとは思ってもみなくて。こういうお茶会、とても素敵ですね」

 は笑った。も微笑んだ。
 二人が並んで笑うと、やはりその笑みはどこか似ている。
 イーノックが三杯目の紅茶を注いでもらうのを、ヒューが笑いながら見ていた。



 温かい時間だった。
 会話はずっと続き、ひと時の休日を俺たちは穏やかに過ごした。
 とどう接したらいいのかわからなかったも、から受け取ったうさぎりんごの優しさに触れて、考えが柔らかくなったように思う。
 今日はの笑顔がたくさん見れて、俺は嬉しかった。




 片付けのときも寮内は大騒ぎだった。
 食器はが全て片付けたが、普段あまりと触れ合う機会のない生徒たちは、が北塔へ戻っていくのを惜しみ、新入生たちはこの時間がもっと続けばいいのに、と口々に言った。
 それでもが去ってしまうと、談話室の机や椅子はいつもの配置に戻され、残った生徒たちで今日の茶会が話題になった。
 そういえば、こんなに多くの生徒と一緒にいるのは久しぶりだと思う。
 いつもはどこかにこもって調べ物をしている。
 そういう意味でもいい息抜きになったんじゃないかと俺は思った。
 何より、がいつもよりたくさん笑ってくれたのが印象深い。

 一通りの片づけが終わって一息ついたとヒューは、部屋の寝台に身を投じて声を出して笑いあった。
 何がおかしいのかまったくわからなかったが、つられて俺も喉を鳴らした。

 「、元気になったかい?」
 「うん、楽しかった。僕が落ち込んでいるのを、ヒューは気づいていたんだね」
 「僕も同じような気持ちになったからね。の立場が大変なのはよくわかるんだ。それに大体の新入生も、入学して一ヶ月くらい経つと、親元が恋しくなるらしいんだ。それまでの生活とはまったく違う生活が続き、友達もみんな新しい。やっとホグワーツの生活に慣れてきて気を抜いたところで、どうしようもない寂しさがこみ上げてくる。でもそういうのって、あまり口にできない。そんなときに、こうして先生がお茶会を開いてくださる。僕たちは単純だ。こんなに楽しい時間を過ごせば、また次の茶会が楽しみになる。そうしているうちに、ホグワーツでの生活に本当の意味で慣れてくる。この茶会をはじめた先生は本当にすごいと思うんだ。だから、スリザリンに選ばれた生徒は幸せだと思ってる」

 少し紅葉した顔で話すヒューの話を、は笑顔でじっと聞いていた。

 「特別なものは毎年新入生に渡されるんだけどね。うさぎりんごをもらった生徒には共通点があるんだよ、
 「へぇ……それはどんな共通点なの?」
 「監督生になる……可能性が高いんだ。正確には、うさぎりんごをもらった生徒か、イーノックが受け取った花形のオレンジをもらった生徒かのどちらからしい。先生の専門は占い。きっとある程度の予測は出来ているんだと思う。それでも、あえて一人に絞らず数人に渡しているんだ。僕はうさぎりんごをもらって監督生になったけど、僕のひとつ上の監督生は花形のオレンジだったって。これ、監督生にだけ伝わる話なんだ」

 白い皿の上にちょこんと乗ったうさぎりんごを思い出して俺は笑った。
 はすごい、というともうなずいてくれた。
 今日の茶会は相当楽しかったのか、とヒューの会話は尽きなかった。
 談話室のほうもまだにぎやかだ。
 俺もの足元で二人の話を楽しく聞いている。

 たまにはこういう日があってもいいんだ。悩んでばかりでも何も始まらないから、さ。

 俺の呟きは、二人の会話に吸い込まれていった。






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 さんのことになると、ヒューが饒舌になる…