夜空の散歩道


 水晶玉を前に、はずっと黙ったまま、何か深く考え込んでいる。
 少し苛ついているようで、片肘をつき、もう片方の指が机を軽く叩いている。
 いつもが覗くと何かしらの映像を映し出す水晶玉が、今夜は中に黒い煙を湛えたままで、はっきりした映像を見せない。
 の顔に焦りの色が見える。

 ここ数日、の研究室に籠りきりだ。
 授業と食事以外のほとんどの時間を魔法の研究に当てている。
 依然の羊皮紙には何の法則も無く魔法の言葉や数式、薬草の名前などが書き込まれている。

 そんなに焦らなくても、絶対に見つかるさ、
 少し眠ったらどうだ?最近ずっと数時間程度しか眠っていないじゃないか。

 険しい表情をしたに擦り寄ると、の肩に前足をかけて、その頬を軽く舐めた。
 振り向いたは、片手で俺の首筋に抱きついた。
 水晶玉は何も映さなくなる。

 (僕は怖いんだ、。事実に手を加えてしまいそうになる。ジェームズ・ポッターとリリーが恋仲にならなかったら?ピーター・ペティグリューがヴォルデモート卿の部下で無かったら?時々そんなことを考えてしまうんだ。過去を変化させてしまえば、僕が帰る未来がどうなるかわからない。それなのに僕は……)

 大丈夫。はそんな奴じゃない。優しい俺の主だ。

 の小刻みに震える手に抱かれながら、俺はにそう伝える。
 の指がゆっくり俺の体を撫でる。
 そっとの首筋に顔を寄せる。

 誰にも言えない悩みだって、俺にすら言わないなんて言わないでくれ。いつも一人で抱え込む必要なんて無いんだ。

 上品な衣擦れの音が聞こえ、は顔を上げた。
 心配そうな顔をしたの向かい側に立っていた。

 「顔色がよくないわ、。あまり根をつめすぎても体に毒ですよ」
 「…Ms.。それでも僕は、このままただ時間だけが過ぎていくことに耐えられないんです。もう十月になってしまいました。この時代の生活に慣れてきている自分が怖くて……」

 思いつめたようなの表情に、の瞳が翳る。
 の傍に歩み寄ったは、軽くの体を抱きしめた。
 が戸惑ってを見つめている。
 を見つめたの目は、よくが占いをするときに見せる瞳に似ていて、穏やかに、どこか遠くの何かを見つめているようだ。
 の鼓動が少し大きく聞こえた。

 「何かが今夜、僕の身に起こります。でも星見は自分のことを詳しく占うことは出来ない……今日は水晶玉が黒くぼんやりとした煙しか見せてくれないんです。わかっているけれどどうしても不安で」

 焦り、迷い、不安。
 の心に渦を巻く感情が流れ込んでくる。
 深くて重く、そして苦しい。
 これはの感情の一部でしかないのに、俺は苦しくて低く唸った。
 でもはもっと多くの思いを胸に抱えているはずだ。
 は机の上に置いてあるの水晶玉を覗き、それから屈んで、と同じ高さに視線を揃えた。
 細く綺麗な指での輪郭をなぞっている。
 じっと二人が見つめあう光景が、ここが過去なのか現在なのかをわからなくさせる。
 小さくの唇が動いた。

 「言葉無きものの声に耳をお澄ましなさい。あなたになら聞こえるわ、
 「Ms.……」
 「…顔色が優れないわね。部屋に籠っていてばかりでも渦の中に身を投じるだけ。日は落ちてしまっていますし、今夜は満月ですけれど、星の声を聞くのもいいものですよ。少し風に当たってきてはいかがかしら。外の空気を深く吸ってみるのも、気分転換になるものですわ。気分を入れ替えれば、何か別の発想が生まれるやもしれません」

 立ち上がってもう一度を抱きしめたは、の額に軽く口付けた。
 途端の鼓動が跳ね上がり、大きく波打った。
 頬を真っ赤に染めたは、戸惑いがちに立ち上がって扉を勢いよく開けた。

 「かっ…風に当たってきます……」

 焦って上ずった声のに、が優しく微笑んだ。
 笑顔で見送られたは、音を立てて研究室の扉を閉めると、何度か肩で息をした。
 まだ赤い顔のままで俺を見る。

 そんなに慌てなくても、いつものじゃないか。

 (…Ms.は、僕の中にヴォルデモート卿を見ているんだ。僕に向けられた瞳に、僕は映っていない)

 俺の言葉もどこか笑っていたのか、はますます赤い顔をして俺から視線をはずした。


 誰もいない廊下を静かに歩いていく。
 窓から青白い月の光が差し込んでいたが、北塔の廊下は薄暗かった。

 (言葉無きものの声に耳を澄ませか。難しいお言葉だね)

 の言葉を何度か唱えながら、は当の扉を開き、外に出た。
 冷たい風が体に吹きつけが身震いしたので、俺はにぴったりくっついて歩くことにした。
 こうしたほうが温かい。



 よく澄んだ夜空だった。
 星がたくさん輝いている。
 空を見上げながら、が小道を進んでいく。
 大きく波打っていた鼓動がだんだん落ち着き、不安や焦りも小さくなっていく。
 星の光に全身を照らされたは、まるで人ではないもののようだった。
 もっと、神秘的な何か、だ。

 「綺麗だね。こんなに綺麗な星空を見るのは久しぶりだ。ほら、あそこ。北西の空にりゅう座が見える。そのすぐ近くにヘラクレス……もう地平線に沈んでしまっているけど、あっちに一部だけ蛇使い座が見える。あれがラス・アルハゲっていう星さ。そういえば、とこうして星を見るのも久しぶりだね」

 地に腰を下ろしたは、星を見上げて指を差しながら、片手で俺の首筋を撫でていた。
 落ち着きを取り戻したの心は、星空と同じくらい澄んでいる。
 俺は喉を鳴らしてに擦り寄ると、一緒に空を見上げた。

  星は、何か言ってるのか?

 (噂話、かな。天王星や海王星はいつもと違う輝きをして、何かを案じてる。僕を呼んでいる声もする。りゅう座のりゅうはね、ずっと黄金のりんごを守ってきたって言う神話があるんだ。自らに付けられた名と物語を、星はいつも僕に語ってくれる)

 はずっと星の声に耳を傾けている。
 星が瞬いて見えるのは、自ら光を放つ星が話をしているときだ、とは言う。
 自ら光を放たない星は、普段は落ち着いていて微妙な光の加減で物語を伝えてくるらしい。

 俺はと一緒にいられればそれでいい。
 いつもは俺に星の話を聞かせてくれるから、それだけで満足だ。
 満天の星空は、を美しく見せるから俺も大好きだ。



 ぴくり、と俺の耳が奇妙な音に反応した。
 獣の匂いが近づいてくる。

 うがぁっ!!

 大きな咆哮が聞こえた。
 が驚いて振り返ろうとしていた。
 その前に、俺はを背中に乗せてその場を離れた。
 俺たちが座っていた場所の土が抉り取られ、砂が宙に舞った。

 (ど、どうしたの、

 驚いて俺の体にしがみついたに、俺は 後ろに何かいる としか答えられなかった。
 大きな足音が俺の真後ろから聞こえていて、を危険に晒すまい、と俺は走り続ける。
 複数の足音が聞こえる。
 数匹で俺たちを襲いに来たのだろうか。
 最初の一匹からは明らかな攻撃性を感じるんだ。

 雲間から満月が顔を覗かせていた。

 (止まって!止まって、。今日は満月だ。後ろにいるのは……)

 が叫びにも似た言葉を伝えてきた。
 禁じられた森の外れに背を向ける形で、俺はの言葉に反応して止まった。
 から、ピーター・ペティグリューが逃げ出したときの映像が流れ込んできた。
 俺たちの目の前で、普通の狼とは違う獣が、体格のいい黒い犬と鹿と格闘していた。

 これは、もしかして……

 黒い犬が人狼に投げ飛ばされ、腹を頭突きされた鹿が地面に倒れていた。
 と俺を鋭い目でにらみつけた人狼は、今にも襲い掛かってきそうな勢いだ。
 は一歩前に出た。
 人狼の間合いに届かないぎりぎりのところで、が人狼を強い目で見つめていた。

 「僕を攻撃する?僕は君に手を出したくないんだ。僕は……」

 二本足で立った人狼が、前足で頭を抱え、体を左右に大きく揺らし苦しそうにもがいている。
 立ち上がった犬と鹿が、唖然としてを見つめている。
 もう一歩、は前へ出る。
 奴が何かしてきたらすぐを助けられるよう、俺は体勢を整えてのすぐ横に構えた。
 人狼は身じろぎせずを見つめた。
 貫くような瞳で、はまた一歩人狼に近づき、右手を伸ばした。
 犬が唸り、鹿が前へ飛び出そうとしたが、はただじっと人狼を見つめ、その右手で狼の首筋に触れた。

 「怖がらなくていいんだ。おびえることなんて何もない。君には素晴らしい友達がいるじゃないか。悩むことなんて何一つとしてない。ここには誰も、君を恐れるものなんていないのだから」

 静まり返った空気を、の声が振動させた。
 血走った目をしていた人狼が、の腕に倒れこむようにして目を閉じた。
 ざわりと通り抜けた風にの髪がなびく。
 青白い月の光がの姿を照らしていた。
 まるで、満月の夜に地上に降り立った精霊のような姿だった。






 神秘的な空間を断ち切ったのは犬の唸り声だった。
 人狼を抱えたに牙を向けて威嚇している。
 人狼を地面に横たわらせたは、困った目をして犬を見つめていた。

 (シリウス・ブラック……鹿がジェームズ・ポッターだね。ピーター・ペティグリューの姿は見えないけれど、おそらく近くにいるだろう。迂闊だったな。今日が満月の夜だってことを、もう少し意識していればよかった。まさかこんなところで彼らと遭遇してしまうなんて……)

 が苦笑している。
 犬と鹿は訝しげに俺たちを見つめていた。
 特に犬は、が人狼に何かしたらすぐにでも飛び掛ってきそうな勢いだ。
 は人狼から一歩離れ、そこに腰を下ろした。
 俺がのすぐ傍に立って、奴らの動きを探る。

 (僕は彼らの正体を知っている。でも、彼らは僕にこの姿を見せたことはないし、僕が彼らのことを知っているなんて思ってもいないだろうな。どうしたらいいんだろう……このまま帰してくれるとは思えない。シリウス・ブラックは頭に相当血が上ってるみたいだしね)

 簡単さ、何も知らないふりをすればいいんだ。たまたま外にいたに、変な狼が攻撃してきただけ。夜の散歩に出てきてた野生の犬と鹿に遭遇してしまっただけ。奴らだと思わず、動物だと思って接してやればいいんだ。は動物が好きだろう?森の動物たちと話すときのようにすればいい。悩むことないよ、

 彼らへの警戒は解かずに俺は小さく唸った。
 月明かりに照らされて美しいの表情が曇ってしまうのが俺は嫌だった。
 こいつらを、こいつらだと思えばいいんだ。
 過去のシリウス・ブラックやジェームズ・ポッターではなく、未来の彼らでもなく。
 ただ見えたままの姿に接すればいい。

 (そっか。そうだね。彼らは夜の散歩に来たただの動物さんだよね)

 「驚かしちゃってごめんね。きっと夜のお散歩中だったんだよね。こんなに綺麗ですんだ夜だから、君たちも住処を抜け出して星を見に来たのかな。こんな時間に僕がいたから、君たちのお友達が驚いちゃったんだね」

 穏やかなの声に、犬が一歩下がった。
 鹿は一歩前に出て、座っているを上から見下ろしている。

 風が通り過ぎ、木の枝を揺らした。
 赤く色づいた木の葉が数枚、俺の体の上に落ちてきた。
 の体が小さく震えている。
 時間が経つにつれ、外の空気は冷たくなっている。
 の手が俺に触れた。
 慌てて俺はの体に擦り寄った。
 の手は、冷たかった。

 「寒いね。君たちは寒くないのかな。十月になるとこんなに寒くなるんだ……」

 そう呟きながら、は人狼にしたのと同じように、右手を伸ばして鹿に触れようとする。
 けれどその手は鹿に届かない。
 耳をぴくっと動かし、何度か犬を見てから、鹿はゆっくりの右手に自ら顔を近づけた。
 が柔らかい笑みを浮かべる。

 「温かいね、君は。立派な姿だ。強くて…雄々しい。でも、それだけなんだね。今を楽しむことに夢中で、喜びを感じること、刺激を求めてる目をしてる。好きだよ、そういう心。でも、自分たちが楽しいだけでいいのかな。…って、動物に言っても何のことだかわからないよね。ごめんね。僕の知ってる人に、瞳の色が似ていたから、つい」

 犬は俺のことをしきりに警戒しながらの傍へ寄ってきた。
 鹿に触れていた右手を、今度は犬に伸ばす
 指先の匂いを嗅いでから、犬も恐る恐るの手に触れた。
 または微笑んだ。
 鹿はのそばに腰を下ろすと、の体をしきりに嗅ぎ、のひざの上に頭をおいた。
 の笑う声がする。

 そこは俺の……

 「君も温かいね、黒い犬さん。強くてたくましい体をしてる。きっと毎日が楽しいんだろうね。…でもね、僕思うんだ。本当に強く、気高く誇り高きものは、自らの楽しみのために誰かを悲しませない、って。何でもないよ。ただ星が、そう語りかけてくるんだ。君たちと触れ合うのには、何か大きな壁があるのかもしれない……」

 の右手は犬の体を撫でていたが、の左手は俺に触れていた。
 彼らと触れ合うことにためらいを感じている部分もあるらしい。
 でも、認識を変えたおかげか、苦しいほどの重い感情にはなっていなかった。
 俺は少しだけ安堵する。

 「もうすぐラス・アルハゲが地平に沈む。星空は物語の宝庫だね。シリウスっていう星があるのを知ってる?今は地平線下にあるから見えないね。以前、ケンタウラスと星について語ったことがあるんだ。彼らは博識だね。君たちは禁断の森の動物?森には不思議な動物がいっぱいいる。僕は時々、森の動物たちとずっと語っていたいと思うんだ……」

 また風が吹いた。
 いよいよ寒くなってきた。
 俺よりもの体が心配だ。
 どうしての手はこんなに冷たいんだろう。
 俺はの手を甘噛みして帰宅を促す。

 もう長いこと外にいる。今夜はこのくらいにしておこう、。これ以上ここにいたら本当に風邪をひいてしまう。

 「そうだね、。僕、そろそろ帰らなくちゃ」

 穏やかな笑みを浮かべては立ち上がった。
 鹿と犬が名残惜しそうにを見つめている。

 「君たちも早くお帰り。きっと心配している人がいるはずさ。この狼は…君たちがついているから大丈夫かな」

 小さく震えたは自分を抱きしめるようにして体をさすっている。

 早く帰ろう、

 は北塔に戻る前に二、三度後ろを振り返り、じっとを見つめている彼らに手を振っていた。










 音を立てないように北塔の扉を開けて中に入る。
 廊下は薄暗かったが、風がない分、外よりいくらか温かく感じる。
 静かに寮へ戻るための廊下を進んでいく。
 相当時間をとっくに過ぎたホグワーツ内は静まり返っていて、自分の鼓動が大きく聞こえる。

 (シリウス・ブラックが僕に問いかけてきた。‘どうしてそんなに優しい目で俺たちを見るんだ’って。僕は何も答えられなかったんだ。ただ、笑みを返すことしか出来なかった。ねぇ、。僕はいつも悪戯ばかりしている彼らのことをあまり好きになれないんだ。どうして悪戯ばかりするのかわからないから。でも、僕が彼らのことを拒絶しているだけで、もしかしたら彼らはあの悪戯に意味をこめているのかもしれない……そんなことを考えてた)

 おとなしくなった人狼、自らに触れた鹿と犬。
 三匹の姿を思い出しながら俺はの話を聞いていた。
 入学早々、生クリーム爆弾を浴びた俺たちの、彼らに対する評価は低い。
 それには彼らとの触れ合いを拒んだ。
 あれだけの冷たい態度をとっていれば奴らも俺たちのことを嫌って当然だろう。
 けれど今日、奴らは自らに触れた。

 (ジェームズ・ポッターは‘君のことがもっと知りたい’って言ってきた。それは、ただの好奇心だと思う?)

 が立ち止まった。
 ため息をついている。
 俺たちには、誰にも言えないことが多すぎて、悩むことが多すぎる。

 行こう、。談話室で温かいココアでも飲んで、ゆっくり眠ろう。が会ったのはシリウス・ブラックでもジェームズ・ポッターでもない。ただの鹿と犬。

 (……そう、だね。僕は散歩に出かけた不思議な三匹の動物にあった。それだけだよね……)

 ゆっくりが歩き出した。
 向こう側から衣擦れの音がした。
 それはに近づき、の横を通り過ぎて止まった。
 すれ違ったことに気がついたようだったが、は首を横に振ってそのまま進んだ。
 俺は立ち止まって振り返ったが、彼らもずっと進み続けていたので、そのままの元に戻った。




 談話室に到着したは、カップにココアを注ぐと、適当なソファに座った。
 疲れているようだ。
 ココアのよい香りがする。

 あんな寒い中ずっと外にいたんだ。ちゃんと体を温めないと風邪をひく。

 俺は小さく唸ったが、は微笑んでいるだけだった。
 そういえば、と俺は疑問を口にする。

 どうして人狼は、が触れた後眠ってしまったんだ?

 (…僕は何も。ただ彼に触れたら聞こえたんだ。本当は襲いたくない、とか、どうして狼になってしまうんだ、とか。月が怖いって。誰かを傷つけてしまう…って、悲痛な心の叫びが、ね。リーマス・ルーピンがひどくおびえてたんだ)

 がカップを机の上に置いた。
 カップの中のココアに、マシュマロがいくつか溶け込んでいた。

 (だから、大丈夫って言ったんだ。僕はリーマス・ルーピンの心の悲鳴に話しかけた。ただ、ただそれだけ。もし何らかの作用が働いたとするなら、それは星の力だよ。天王星と海王星の輝きは途中で変化したもの)

 は俺の体を抱きしめ、ソファに横になった。

 部屋に行って寝よう、。ここでは風邪をひいてしまう。

 (と一緒だから大丈夫)

 だめだ。早く部屋に戻ろう。

 そういって、のローブを軽く引っ張った。
 そのとき俺は心臓をえぐるような胸の痛みを覚えた。
 これは俺の感情じゃない。
 は赤い瞳でじっと俺を見ていた。

 どうしてそんな目で俺を見るんだ、

 (たまには二人きりもいいじゃない、。…少し、思うことがあるんだ。今日、動物もどきの彼らと接してわかったことがある。今、ヒューのところに戻っても、気持ちの整理がつかないんだ)

 わかった、こと?

 (Ms.が、僕にヴォルデモート卿と重ねてみるように、僕もヒューやイーノックを誰かに重ねてる。悪戯四人組だって、僕は未来の彼らの姿をここにいる彼らの姿に重ねて見ている。Ms.の態度に違和感を感じるのは、彼女が僕にヴォルデモート卿を重ねるように、僕も彼女に未来の姿を重ねているからじゃないかな…って思った。だから、少し気持ちを整理したいんだ)

 の声がだんだんゆっくりになる。
 眠くてうわ言を言ってるんだ、きっと。

 そんなに深く考えずに、彼らと接してやればい。みんなと一緒にいて笑顔じゃないか。それでいいんだ。

 (……)

 の重みが俺の体に加わった。
 結局談話室のソファで眠ってしまったを起こすことも出来ず、俺もここで眠ることにした。
 が風邪をひかなければいいんだが……
 なるべくにくっついて、目を閉じた。






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 これに気づくことが、実は大切なんです。
 誰だって、自分自身を見てほしいと思うはず。
 だって、他の人だって。