何があっても変わらない


 しんと静まり返った寝室に、微かに扉の開く音が響く。
 大きな寝台の端が人の重みでやや沈み、小さく寝台が軋む。
 それまで寝台の中央で少年と寄り添うようにしてまどろんでいた紅獅子は、ゆっくり顔を上げると辺りを確認し、体を起こして足の間の小さな獅子をくわえると、少年の足元に移動した。そこでもう一度丸くなる。
 眠る少年の額に色白の手が触れる。
 安心しきった表情で眠る少年をじっと見詰めると、ヴォルデモート卿は口元を緩めた。

 「……クリスマスは、帰宅しない予定じゃなかったかしら」

 柔らかな声と、扉のしまる音。
 やや遅れて寝室にやってきたが微笑んでいる。
 をはさんで丁度ヴォルデモート卿と反対側に腰を下ろすと、下半身を掛布に滑り込ませた。
 上体は起こしたまま、ヴォルデモート卿と同じようにの顔を優しい瞳で見つめている。

 「……がいるなら話は別さ。一日も早く会いにきたかった」

 「それで、いつもより長くここに留まれるよう手を回してきたのね……ずいぶん用意周到だこと」

 「君だってわかっているだろう、はちゃんと元の時代へ戻る魔法を完成させる。それも長くはかからない。本人は焦っているみたいだったけれど、有色液体の調合に慕って、短期間でずいぶん研究が進んでいるみたいだ。……どうやら未来の僕は相変わらず忙しいみたいだからね。がここにいるうちに多少のことは教えておきたいんだ。世の中も見せたいし、いくつかの魔法も覚えてもらいたい。こんなまたと無い機会を見逃すわけにはいかないよ」

 と同じように下半身を掛布に滑り込ませながら、ヴォルデモート卿はの髪を撫でる。
 二人の姿を微笑んで見つめるの頬に軽く触れた。

 「頭の良い子だわ……ホグワーツの成績もあなたに引けを取らなくて……素直で純粋な子。私ね、親になるってどう言うことなのか、最初にに会ったときには全くわからなかったの。でも、最近少しずつわかってきたわ。この世に自分以上に大切なものが出来ることの意味が」

 「僕の後継にすごくふさわしい存在だよ、は。それに、星にも詳しいみたいだね」

 軽くが体を動かす。
 右手がシーツを握る仕草をする。ヴォルデモート卿の手がの右手を軽く握った。
 一瞬動きを止めただったが、すぐにヴォルデモート卿の手を握り返す。
 が微笑んでの髪を撫でた。

 「星見が成人の折、星たちから課せられる試験があるの。私も成人する際に通過したわ……けれどは、この歳でその試験を通過したの。星たちもの存在に注目しているわ」

 「は立派に僕の後継者になるよ」

 ヴォルデモート卿が紅い瞳でまっすぐを見つめ、口端を微かに上げる。
 それから顔を上げ、視線をに向けると長い彼女の髪の一房を指で絡め取る。
 自然と二人の距離が縮まる。

 「随分自信があるのね」

 「僕は必ず闇の帝王になり、君との約束を果たす。そしては僕の後を継ぐ。誰がなんと言おうと、君が星に何を聞こうとこれだけは変わらない。は闇だろうとそうでなかろうと人を惹きつける子だからね。何処にいても素晴らしい魔法使いになる。僕の子だから絶対だ。……そう、僕の子だもの。闇を率いる強力な指導者になる」

 指に絡め取った髪の毛を弄びながらヴォルデモート卿はもう一方の手でを愛でた。
 も同じように眠っているの体に軽く触れる。

 「……そうね。何処にいても、たとえ闇の世界だろうとそうでなかろうとの魅力は変わらない。この子は人を惹きつける子だわ……」

 「ヒュー・ノードリーとイーノック・フィルマー……だったかな、の友人は。ヒュー・ノードリーは何度か名を見たことがあるよ。スリザリンの監督生は闇の力に興味があるようだ。イーノック・フィルマーは……」

 「アレンディ・フィルマー……私の義弟の息子よ。両親は共に魔法界の知識をふんだんに持ったスクイブだけど、彼らの祖父母の代は相当力のある魔法使いよ。ヒューに関しては何も言わないわ。今までだってホグワーツから巣立った多くの生徒があなたの元に身をゆだねたでしょう?あの子が闇の力に惹かれるのは当然なのかもしれないわ。彼、あなたに憧れているから」

 ふっとが小さなため息をついた。

 「あなたもと同じね。……いいえ、があなたにそっくりなのね。あなたたちはうらやましいほどに人を惹きつける魅力を持っているわ」

 の瞳とヴォルデモート卿の瞳が重なる。
 自然と二人の唇が重なり合う。それは触れ合う程度の軽いもので、すぐに離れた。
 甘い余韻はお互いに感じていたが、それ以上互いを求めることは無く、二人は上体まで掛布に収まった。
 二人の耳にの寝息がはっきり届く。

 「……明日、いつものところを連れていこうと思うんだ。闇の断片を見せたい。ノクターン横丁なんてちっぽけなところよりも上質な闇を、ね」

 「良いことだわ。は本当にあなたのことを慕っているから、この短い休暇の間にたくさん触れ合っておくべきよ……」

 「君のこともね、。僕らは普通の家族とは違う。でも、君も僕もにはどの家族の親が子に注ぐ愛情よりも、大きくて深い愛を注いでいるって僕は思ってるよ」

 中央で眠っているが寝返りを打ち、ヴォルデモート卿のほうへ半身を向ける。
 ヴォルデモート卿は軽くの体を抱きしめ、小さく口元を緩める。
 同様、ヴォルデモート卿のほうへ半身を向けたは、小さく欠伸をすると満足げな笑みを浮かべて二人の姿を見た。

 「もちろんだわ。あなたもも、私にとってかけがえの無い大切な存在よ……おやすみなさい、ヴォル」

 「嬉しいよ、。僕にとっても君とは大切な存在だ……おやすみ、

 天井に輝く星に、三人の寝息が聞こえ始める。
 時と時の狭間、星見の館はひっそりと丘の上に立つ。
 静かな幸せに包み込まれた彼らの邪魔をするものは何も無く、ただ生み出された星たちが、幸せそうに眠る三人の姿を見つめていた……






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 きっとが一番幸せだ。