彗星の如く


 「うん、完璧。さすが。この短期間で完璧に仕上げるとは、ね」

 星見の館の地下には無数の実験室が存在する。
 全ての部屋が細かく分類された魔法研究の分野に適したものになっている。
 その中のひとつ、魔法の実践練習用に用意された部屋で、ヴォルデモート卿が満足げな笑みを浮かべている。視線の先には、何もない空間から現れたがいる。

 「姿くらまし姿現しは'基本'としてとても重要なものだ。ホグワーツでは使えないけれど、覚えていれば役に立つし、応用することも可能になる。よく出来たね、

 少し照れた様子のはヴォルデモート卿の傍による。
 胸は高鳴り心が躍っている。
 床に伏せながら二人の様子を見つめている俺と小さな獅子は、二人の様子に心を沸き立たせている。
 がこんなに明るく生活している姿は久しぶりだし、ヴォルデモート卿の笑みも自然なものだから、供にいる俺たちも安心するのだ。

 「あまり安易に使用することはできないだろうけど、物体を内部から破壊する呪文基本的な呪い相手の呪文を跳ね返す呪文も……はすでに完璧にこなせている。丁度今夜集まりがあるんだけど、これならを堂々と連れて行けるよ」

 「……集まり、ですか?」

 「そう。今夜は若い魔法使いたちが集まる。みんな僕の身近な存在になりたいと必死で自分の能力を見せてくるんだ。まぁ、大抵くずばかりだけどね。にも参加してもらおうと思ってね。世の中を見るのに丁度いい機会だからね」

 ヴォルデモート卿はそう言いながら部屋の入り口に手をかけた。

 「準備があるから僕は書斎にいるよ。夕方になるまで練習するもよし、休むもよし。自由にするといい。最近根を詰めて練習していたから、少し息抜きをするのもありだと思うよ」

 扉が閉まる。
 俺の横に腰を下ろしたは、ヴォルデモート卿が去った扉をじっと見つめながら小さな獅子を抱きかかえ膝に乗せた。
 片手で俺の首筋を撫で、もう一方の手で小さな獅子の相手をする。
 紅潮した顔のと目が合った。

 集会だとか世の中を見せるだとか、俺は正直不安である。
 は己の血を意識せざるを得ないから、そういうことがまたの重荷になるんじゃないかって思うんだ。
 の心の中にだって多少の不安が渦巻いているのを俺は知っている。
 大半はヴォルデモート卿に認めてもらえたことに対する喜びの感情だが、この先を知っているからこその不安がある。
 俺は……このまま三人の幸せな姿だけでいい……そう願ってしまうんだ。

 「集会だって、。なんだか鼓動が早くなってる気がする。少しずつ父上のいる世界に足を踏み入れているみたいだ……」

 複雑な色を浮かべた紅い瞳が俺を見つめる。
 ヴォルデモート卿のいる世界は闇の世界。完全に闇に染まってしまうことが果たしていいことなのかどうか、はまだ判断しかねている。
 静止した手に首を傾げる小さな獅子。
 大きく息を吐き出したは小さな獅子を抱き上げると、扉に手をかけた。

 「外にいこう、。ヒューとイーノックに手紙を出すんだ」

 ローブの下から二枚の封筒を取り出して俺のほうを振り向く
 につついて実験室から出ると、階段を上り玄関の扉を開けた。
 俺はすぐに扉の外に出たが、小さな獅子だけは玄関で待っているように指示されていた。俺と小さな獅子が同時に時の狭間以外の場所で近くに存在しすぎると、時間的矛盾が起きるんだ、ととヴォルデモート卿が言っていた。
 ついてこようとする獅子に、ごめんね、と小さくつぶやいてからは扉を閉めた。
 やや雲の多い空は薄暗く、冷たい風が吹いている。

 「この前、銀の砂の作り方を教わったでしょう?あれからヒントを得てちょっと調合を変えたインクを作ってみたんだ。今度は時間軸の指定まで出来るようにした有色液体。これで、クリスマスの日のヒューとイーノックへ手紙を届けてみようと思って」

 雪のような白い封筒に、の文字で宛名が書かれている。
 それを宙に放り投げると、どちらの封筒も放物線の最大値から落下することなく空の中へ姿を消した。
 心配そうな顔ではしばらく頭上を見つめていた。

 「……一応、試験的には成功しているんだけどね。実際に使うのは初めてだから緊張するな。上手く届いているといいんだけど」

 が作ったんだから、大丈夫。

 の体に鼻筋を摺り寄せる。は笑みを返してくれた。
 耳の付け根を触る手は暖かくてやわらかい。
 どんよりとした空はだんだん黒い雲に覆われてくる。雨か雪か降ってきそうな空模様だ。

 「少しだけ心配なこともあるんだ。こうして父上と過ごせるのはすごく幸せだけど……僕はこのまま闇に染まってしまっていいのかな。将来のことなんて考えたこともなかったけど、卒業後の進路について真剣に悩んでいるヒューの話を聞いていたり、もう四年生なんだってことを考えたりするとね……多少、怖くなる。先のことはわからないっていうけれど、元の時代で既に起こってしまった事実を覆すことは許されない。父上の期待に応えたいっていう思いと、闇だとかそうでないとかそんなこと考えずに、家族みんなで暮らしたいって言う気持ちと……そんなことを考えちゃうんだ。きっと、父上も母上も優しいからだろうね」

 白い雪が舞い落ちてきた。
 空を見上げたは小さく息を吐くと玄関のあるほうへ足を向ける。
 は心からヴォルデモート卿やを慕っている。
 だからこそ、幸せの中にいるとこの先のことをいやでも思い出してしまって胸が苦しくなるのだろう。

 俺の脳裏に暴走しかけたあいつの姿が映る。
 ハリーに傷つけられたあいつが……

 が悲しい目で俺を見た。にも、伝わってしまっただろうか……

 「……いいんだ、。それは父上が選んだ道だもの。それに父上がハリーのところに行かなかったら、僕はまだ屋敷で眠りについていただろうし……誰かが選んだ道を、他者が手を加えて修正することは時間をゆがめることだ。でも少しだけ、このままでいたいって思っちゃうよね」

 は微笑んだ。けれど、その笑みが胸に刺さる。
 扉を開け中に入ると、一番にに飛びついたのは小さな獅子だった。
 奥からがティータイムの準備をする音といいにおいが流れてくる。
 小さな獅子を抱くと、は何事もないかのようにもう一度俺に笑みを見せた。























 日も落ちた宵の口、ヴォルデモート卿は俺とを古びた洋館に連れて行った。
 広いホールの一番奥に、まるで玉座のような大きな椅子がある。
 ホールには既に多くの魔法使いが集まっていた。
 立食パーティーのように多少の食事が用意されていて、中はざわついている。
 それぞれ自慢げに話をしたり魔法書を読んでいたりと、思い思いこの場を味わっているようだ。

 「……今夜もまた多いな……どうせくずばかりなんだろうけど、どうしてこうも群がるんだろうね。闇に染まってさえいれば僕の手が伸びないとでも思っているのかな。浅はかな奴らばかりだ。さて、はこっちだ。彼らの中に埋もれなくていい。僕の隣に黙って立っているといいよ。そのうち雰囲気が変わるから」

 ヴォルデモート卿はホールの中に姿を現すと、静かに玉座まで歩いていった。
 ざわめきが収まり、今まで騒いでいた魔法使いたちの目が一斉にヴォルデモート卿に注がれる。
 ……俺たちは、そのすぐ後ろを歩く。
 玉座に腰を下ろすヴォルデモート卿と、その横に立つ

 なんだか落ち着かない。

 どよめきが収まらない。
 食事をしていた手を止め、皿やグラスを置くと、杖を取り出し始める魔法使いたち。
 しばらくするとホール内で魔法使い同士の腕比べが始まった。
 それはホグワーツで行った決闘クラブとは比べ物にならないほど、みんな真剣である。
 ホール一面が魔法の衝突によって生まれる煙に包まれる。
 腕を組んだヴォルデモート卿は口を固く結んでそれを見つめている。
 もホール全体をまっすぐ見据えている。

 「……つまらないな。どいつもこいつも凡人ばかり。特出して目を惹く奴がいない」

 「力で押すだけの魔法が多いですね」

 「、君の力を見せてやるといい。僕の隣に立つには、これくらいの力が必要なんだ、ってね。彼らにわからせてやるといい」

 「……しかし、僕はまだ学校外での魔法使用を禁止された身ですが」

 「直接は、だろう?何も直接魔力を使わなくたって君の力を見せ付けることは出来るはずだ」

 ヴォルデモート卿の瞳が妖しく光る。
 は少し考えた後、ローブの中に手を入れるとヴォルデモート卿の正面に立った。
 ホール内の空気が突然変わる。
 煙の充満するホールがしんと静まり返り、ささやかな音すら聞こえない。
 大勢の魔法使いの目が突然ヴォルデモート卿の正面に立ったに注がれる。
 ……しかし、はあくまで冷静だった。
 迷いはない。
 真剣な瞳には力がこもり、ヴォルデモート卿をまっすぐ見つめている。
 この状況で足が震えているのは、むしろ俺のほうだ。

 「……人が時を越える魔法は禁忌。けれど、ならばどうでしょうか。幅は一年。現在より過去へ、もしくは未来へ。僕は今から一分後のヴォルデモート卿へこの手紙を送りましょう」

 水を打ったように静まり返ったホール内。澄んだの声だけが響き渡る。
 透明なの声は、決して大きくないけれど一言一言魔法使いたちを惹きつける。
 取り出した羽ペンで、白い封筒に文字を買いたいつきは、それを天井へ向かって放り投げた。
 封筒は放物線の頂点で音も立てずにその姿を消した。
 ……ホール内が、少しざわめく。
 誰もが封筒の行方を捜す。そこに、楽しそうに微笑しながら数を数えるの声が響く。

 「……五十五、五十六……」

 一分、とはこんなに長いものだっただろうか。
 ヴォルデモート卿はまっすぐを見据えているが、に極度の緊張はないようだ。ただ、この場を楽しんでいる。
 皆一様にに注目している。

 「五十九、六十……」

 声と同時だった。
 ヴォルデモート卿の頭上に白い封筒が現れる。
 舞い落ちるそれを片手でつかんだヴォルデモート卿は口端を上げて満足げな表情を見せた。
 ホール内がざわめきに包まれる。
 ほんの少しだけ口元を緩めたは、礼儀正しく深いお辞儀をヴォルデモート卿にする。
 軽く片腕を上げたヴォルデモート卿がを傍に呼び寄せ、ざわめきが大きくなる。

 「……どうした?これ以上の惹せ物がないのであれば、この場にいる必要はないが」

 を見つめ動かない魔法使いたちに、ヴォルデモート卿の言葉が響く。
 はっと我に返った魔法使いたちが杖を握りなおし、己の魔力を誇示しようとする。
 また、ホール内に煙が充満した。
 ヴォルデモート卿の表情はまた硬くなり、つまらなそうにそれを眺めている。

 「……つまらぬ。、彼らの中に入って面白い力を持った奴を探してきてごらん。二人ほどいるけど、君の力には及ばないな」

 「はい」

 が歩く。俺が後に続く。
 ……大勢が俺たちの姿に驚いた表情を見せるが、大抵の紅い瞳に見つめられると、ばつが悪そうに視線をそらしていく。
 まだ若い魔法使いばかりのようで、その表情には幼さが残る。

 (……、ヒューがいる)

 寂しそうな表情を浮かべたが俺のほうを向いた。
 の視線を追えば、見慣れた立ち居振る舞いをする青年の姿を捉えることが出来た。
 グラスを片手になにやら他人と話をしているようだ。
 ……けれど、すぐの視線に気がついたのだろう。俺たちのほうを向くと、心底驚いた顔をして近づいてきた。
 が、見えないように苦しそうな表情を浮かべる。
 ヒューがここにいることに戸惑いを隠せない。
 ……わかるさ、。俺も同じ気持ちだ。

 「……

 「ヒュー……」

 「まさか君がここにいるとは思わなかったよ、。おまけにあんなにすごいことをやってのけて……丁度君のことを話していたところだったんだ。君はまるで彗星の如く現れた天才なんじゃないか、ってね」

 「……そんな、僕はただ、多少改良したインクの効果を見せただけだよ、ヒュー。あの程度の力、ヴォルデモート卿には遠く及ばない……それより、僕のほうが驚いたよ。まさかヒューがここにいるなんて」

 「ヴォルデモート卿は僕の憧れなんだ。おそらく彼は覚えていないだろうけど、個人的な恩もある。……はどうしてこの集まりの存在を知ったんだい?あんなにヴォルデモート卿の傍に立ったのは、が初めてだってみんな言ってたよ」

 が言葉に詰まる。
 首を傾げるヒューに困ったような表情を見せる。の口からこの時代の彼らにの立場を教えてしまうのをためらっているみたいだ。
 そんなとき、ヒューの後ろかあ青白い色をした青年がやってきて、ヒューに声をかけた。

 「ヒュー、久しぶりだな。この、彗星の如く現れた少年と知り合いなのか?」

 「あ、ああ。紹介するよ、。ルシウス・マルフォイだ。僕の先輩さ。ルシウス、この子がだ。話しただろう?僕と同室の転入生さ」

 「……初めまして、Mr.マルフォイ。です」

 ドラコ・マルフォイによく似た青年は、ドラコの父親、ルシウス・マルフォイだった。
 戸惑いを隠しながらは名乗り、握手を求める。
 ルシウス・マルフォイはを舐めるような目で眺めている。
 握手に応じ笑顔を見せているものの、探るような目つきで何か侮れない。ぐっと構える俺に、ぞっとした笑みを見せる。

 「ルシウス、でいい。君の事はヒューから聞いてるよ。随分すごい転入生がホグワーツにやってきた、ってね。先ほどの演出もすばらしかった。まさに彗星の如く現れた天才、棚。ホグワーツに入る前はどこで魔法を?」

 侮れない視線。の鼓動が早くなる。
 何を言っていいのか、何を隠すべきなのか、の頭の中が瞬時に大量の情報を整理しているみたいだ。
 目の前にたくさんの映像が流れていく。

 「それよりルシウス、こいつを見せようと思うんだけど、どう思う?そろそろ名前くらいは覚えてもらえるだろうか」

 の横でヒューが折りたたんだ羊皮紙を取り出し、それをルシウス・マルフォイに渡した。

 「それは?」

 「ん?僕の研究さ、。僕らは杖を取り出し呪文を唱えればその場で魔法が使えるだろう?でも、状況によってはその場で魔法を使うのがまずいこともある。そんなとき、事前にその場所に魔法を埋め込んでおけないかな、って思ってさ。新しい魔法式を演算してみたんだ」

 ルシウス・マルフォイは羊皮紙を一通り眺めると、それをに手渡した。
 ヒューは少し恥ずかしそうに羊皮紙を覗くを見つめている。

 「……獣帯十二宮図をヒントにした?」

 「よくわかったね、驚きだ。先生の授業からヒントを得たんだ。この方式を埋め込めば、指定した時間だとか、言葉だとかに反応して簡単に魔法が発動するはずなんだ」
 が丁寧に羊皮紙をヒューに返す。
 ヒューはそれを受け取るとちらりとヴォルデモート卿のほうを見、そして困ったような笑みを浮かべた。

 「まぁ、いつもつまらぬの一言で一蹴されちゃうんだけどね」

 玉座につまらなそうな表情のまま腰掛けているヴォルデモート卿が、たちをじっと見つめているような気がした。
 もヴォルデモート卿の方を見る。どうやら無言のうちにを呼んでいるようだ。

 「彼が、気になるのかな?」

 その動きをルシウス・マルフォイは見逃さなかった。

 「え、あ、はい。ヴォルデモート卿が僕を呼んでいらっしゃるみたいですから。丁度いいから、ヒューもルシウスも一緒に来ませんか?」

 「……そんな、畏れ多い」

 「わたしは遠慮しておくよ。今回はヒューのように作品を用意してきていないからな。丁度いいじゃないか、その新しい魔法式を見せてきたらどうだ、ヒュー」

 「またいつもと同じ結果だと思うんだけどな」

 「それでも見せてみなくちゃわからないよ、ヒュー」

 やや戸惑った表情のヒューの手を引く
 ルシウス・マルフォイはいまだ杖を構えて決闘まがいのことをしている魔法使いたちの中に消えていった。

 「……は、随分簡単に彼の名を呼ぶんだね。僕にとっては尊敬する存在だけれど、にとってはもっと親しい存在のように見えるな」

 「それは……そんなことないよ、ヒュー。僕にとってもヴォルデモート卿はこの世で一番尊敬する方だ」

 と一緒に歩くヒューにも魔法使いたちの不可思議な視線が注いでいるのだろう。少し落ち着かない態度でヒューがの横を歩く。
 ヴォルデモート卿の玉座の真横にが立つ。
 ヒューはヴォルデモート卿の正面に神妙な面持ちで立っている。
 顔を上げ、に説明を求めるヴォルデモート卿。が彼の耳元でささやくと、ヴォルデモート卿はやや手を伸ばし、まっすぐヒューを見つめた。

 「……見せてみろ」

 響くヴォルデモート卿の声。
 ヒューが一歩ヴォルデモート卿に近づき、恐る恐る羊皮紙を差し出す。
 頭を深く下げたヒューの全身が震えているようにすら見える。
 ヴォルデモート卿は羊皮紙をしばらく見つめていた。
 周囲はまだ煙が上がっていたが、、ヴォルデモート卿、ヒューの三人だけは時が止まったかのように微動だにしない。
 ……やがて、ヴォルデモート卿が羊皮紙から顔を上げる。
 紅い瞳がヒューを捉えて放さない。

 「……ヒュー・ノードリー、と言ったか」

 大きく目を見開いたヒューが、音にならないくらいかすれた声でうなずいた。
 ヒューの全身を舐めまわすようなヴォルデモート卿の視線。
 身じろぎできないヒューと、二人の様子をじっと見つめる

 「我がには少しも及ばぬが……その歳にしてはなかなか。覚えておこう」

 背筋に響く声。
 ヒューがかしこまった様子で深く頭を下げた。
 が小さな笑みを浮かべていた。
 ヴォルデモート卿は羊皮紙をヒューに渡すと、すっと玉座から立ち上がった。とたん、周囲が水を打ったように静まり返る。

 「……散れ。せいぜい腕を磨くことだ」

 響き渡る威厳に満ちた声。決して大声ではないが、どれだけヴォルデモート卿から離れていようと、嫌でも耳に入るような声だ。
 黒いローブの集団が一斉に深々と頭を下げる。
 ヴォルデモート卿は中央に開かれた道を音も立てずに歩く。
 ついて来い、と目配せされ、と俺がその後ろに続く。
  丁度ホールの中央、通路の真ん中あたりに来たときだっただろうか。歩幅を調節し、の横に並んだヴォルデモート卿はおもむろにの肩に手を乗せ立ち止まった。

 「よく見、敬え。我が息子にして我が後継者、だ」

 わっとどよめきが上がる。
 ばつが悪そうに視線を泳がせると、ぞっとする笑みを浮かべるヴォルデモート卿。
 そのまま中央の道を進み、洋館の扉に手をかける。
 やや遅れてヴォルデモート卿の後ろを歩く
 丁度驚きのまなざしでのことを見つめるヒューと、張り詰めた表情の男性と話をしているルシウス・マルフォイとすれ違った。
 ルシウス・マルフォイと話をしていた男の視線が狂気に満ちてを捉える。

 「……お前なんかっ」

 背筋が凍る感覚がする。
 表面上は平静を保っているが、殺気が満ちた声にの心が不安げに曇る。

 なんだ、今のは……

 しかし、確認するまもなく男は人ごみの中に消えた。
 すれ違ったヒューとルシウス・マルフォイがをじっと見つめているだけだ。

 やがて俺たちは、洋館を抜け闇の中に溶け込んだ。






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 闇の集会初参加。