時差ボケ
魔法が完成したとに告げられてから、最初の週末。快晴とまではいかない空模様だったが、雨も雪も降っていない。肌寒く冷たい空気が流れているだけで、雲の間から、ほんの少しの青が見え隠れしている。
ここ数日、はヒューに悟られないよう気を使いながら、それでも確実に自分の痕跡をこの部屋から消し始めている。
使うものは最低限のものだけ。ここにきてから新たに手にした本の数々は、数冊ずつの部屋に運んでいる。
持ち帰るにはあまりに膨大なここでの生活の記録は……がホグワーツを去るその日までに、少しずつ星見の館に運んでくれるのだと言う。
……今も、ヒューより早く起きたは、自分が使っていたものを少しずつ片付けている。ヒューが気づかないように、最初は小物から始めるんだ、とは言っていた。
そんなもの、最後に魔法をかけて全部片付けてしまえば良いじゃないか……って、俺は言ったけど……荷物の整理をすることが心の整理につながるんだ……なんて、少し物悲しくはつぶやいていた。
「……んー……」
寝返りを打つヒューの音。
棚の上の小物をしまおうとしていたの手がとまる。小物をそのまま棚に戻すと、何事もなかったかのように椅子に座り、ヒューが起きてくるのを待つ。いつもと同じように、コーヒーを準備する。
寝癖のついた髪をくしゃくしゃになで回しながら、ヒューがまだ眠そうな目をこちらに向ける。のすすめたコーヒーを手に取ると、椅子に座って大きなあくびをした。
「おはよう、ヒュー。休日なのに珍しく早起きだね」
「おはよう、。だって、今日はホグズミード行きの週末だよ?君と約束したからね。連れて行ってあげる、ってさ」
「……ホグズミード……」
「一度も行ったことがないと、話を聞いても実感がわかないよね。まぁ、面白いところだよ。ホグワーツとは別の世界だから、息抜きにはちょうどいいんじゃないかな」
コーヒーの香りが広がった部屋。ヒューはテーブルの上に用意されたお手製のクッキーを口に入れながらそういった。
「朝食の前なのに」
「のクッキー、先生に負けないくらいおいしいからつい……」
「……本当?そういわれると、なんだか恥ずかしくなっちゃうな」
「本当さ。それより、ホグズミードに行ったらどこに行きたい?いろんなお店があるし、全部見せて回りたいけど……特にこういうところに行きたい、とかある?」
全部行ったことあるよ、なんて口が裂けても言えない。
は考える振りをして言葉を留めた。さすがに、言えないよな。知らないふりをするのってなかなか骨が折れる。
の肩に前足をかけての頬を舐めると、は俺の首筋を撫でながら小さく笑みを浮かべた。
「ホグズミードって、ホグワーツ行特急の停車駅でね。小さな村なんだよね。面白いことにイギリスで唯一魔法族のみが住んでいる村なんだ。そうだなぁ、例えば……この前のバタービールは『三本の箒』っていうパブのものだけど、あそこはなかなか賑やかで明るくて、生徒も教員もよく利用してるみたいだね。悪戯専門店『ゾンコ』には、グリフィンドールの四人組が好きそうな道具がたくさん置いてあるし……うーん、どこに連れて行ってあげようかな……」
「ふふふっ……楽しいところみたいだね。なんだか楽しみだな。僕はヒューについていくから、ヒューが行きたいところでいいよ」
の手は依然俺の首筋をやんわり撫で続けている。
まるで自分の心に湧き立つ波を沈めるかのように。それに呼応するように俺もの頬に顔をすり寄せる。
ほんの少し、ヒューに対する後ろめたさがある。俺たちはヒューに隠し事をし、ヒューの目を盗んで、この部屋にあるありとあらゆる俺たちに関するものを片付けようとしているのだから。
朝食が済むと、冬用の暖かいローブに身を包んだとヒューは、イーノックにうらやましがられながら、三年生以上の生徒の大多数と共にホグズミードへ向かった。
相変わらずの空模様。
空を見つめるの瞳は、複雑な色に輝いていた。
ホグズミードへの到着はあっと言う間だった。目の前には、見たことがあるようなないような不思議な風景が広がっている。新しく見えるそれは、けれども、新しい様相とはどこか違う。知っているのに、知らない。そんな不思議な感覚が胸の中を渦巻いている。
「……ここが、ホグズミード?」
「こっちだよ、」
ヒュ−がの右手をとってホグズミード村へ進んでいく。驚いたも、ヒューの手を握り返しながら一緒に歩いていく。
青空が、ほんの少し垣間見えた。
「到着、ここがホグズミードの入り口さ」
先に到着した大勢の生徒で、村はごった返していた。
店の位置は変わらない。でもなんだかそれぞれどれもこれも新しい。新しい……のだろうけれど、や俺の知っている最新式のスタイルからはかけ離れた、何か古めかしく懐かしい姿をしている。
「大賑わいだね」
「ホグワーツの生徒なら誰でも楽しみにしているからね。イーノックも自分がまだ一年生で、ホグズミードに参加できないことが気に食わないみたいだったしね」
「僕も行きたい、って言ってたものね。イーノックに、何かお土産でも買っていってあげようかな……」
「お土産、かぁ。ハニーデュークスでお菓子でも買う?」
ヒューが指差した先には、生徒でにぎわうハニーデュークスの店が見える。
うなずいたの手を引いたまま、ヒューがをハニーデュークスに案内する。
「あれ、ヒュー。今日はと一緒なのか」
「やぁ。今日はの初めてのホグズミード参加だからね。案内してあげようと思ってさ」
「なるほどね。どうだい、。ホグズミードは息抜きにはちょうどいいところだろう?」
「なんだか人の多さに圧倒されちゃって……でも、面白いところだと思う。こんなにたくさんの種類のお菓子、見たことないや……」
いろんな生徒が声をかけてくる。いろんな生徒が思い思いに買い物をしている。
ただ眺めていると、元の時代のホグズミードと変わらない。
イーノックへのお土産を、と言いながらは店の中を見て回る。所狭しと並べられたお菓子たちは、見たことのないもののほうが多い。
「このお店のすごいところは、マグルの食べるようなお菓子から魔法使いであってもなかなか手が出しにくいお菓子まで、いろんなお菓子を取り揃えているところなんだ」
「へぇ……マグルのお菓子まであるんだ……え、うわっ、これ、動いてるよっ?!」
十五センチほどの細長い棒状の袋に入ったそれは、が手にしたとたん、手の上でぐねぐねと得体の知れない動きをしだした。
は驚いて、袋の端っこを持ってぐねぐねと動き続けるそれを見つめている。
ヒューはそれを見て声を出して笑った。
「いもむしグミだよ、それ。蛙チョコレートと並んで結構有名なものだよ」
「そ、そっか。魔法界のお菓子なんだね、だから動くんだ……」
「食べたこと、ない?」
「うん。僕、蛙チョコレートもちょっと苦手なんだよね。動いてるから、食べるのがかわいそうになっちゃうっていうか、上手く食べるこつがわからないっていうか……」
そういえば、開封して置いておいたら蛙チョコレートが部屋中を飛び回っていた、なんてことがあったっけな。
落ち着いてコーヒーを飲みながらお菓子を食べたいにとっては、飛び回ったり、移動したりするお菓子は、つかみ所がなくて苦手な部類らしい。
ヒューはそれを聞いてまた声を出して笑った。
「そういえば、イーノックも魔法界のお菓子には疎かったな。蛙チョコレートも、食べる前にいくつか逃がしてたみたいだし。そのかわり、マグルのお菓子のことはよく知ってたっけな……」
「そうなんだ……でもこれ、棚に並べてあるのは動かないのに、どうして触れると動くんだろう。これ、動きっぱなしなの?」
「いいや?そのうち疲れておとなしくなるよ。それでもまた、外界から強い刺激が与えられると動き始めるけどね」
「魔法界のお菓子って……不思議だよね……」
いまだに動き続けるいもむしグミを見つめながら、はつぶやいた。
「僕にはマグルのお菓子のほうが不思議だけどな。ほら、見てご覧よこれ。ここに水を入れて、ぐるぐるかき混ぜると変なのが出来るんだ。こういうのはイーノックが得意だよ」
「……へぇ……僕、どっちもよく知らないな……試してみようかな?」
いくつかいもむしグミを手にしたは、それぞれがそれぞれ全く異なる動きを手の中ですることに耐えられず、ぱっと手を離した。
当然、外界からの刺激が他のいもむしグミにも与えられたことになり、グミが入っていたかごはひたすら動きはじめたグミで、あふれそうになっている。
ヒューがそれを見てまた声を出して笑い、いくつか手に取った。
「イーノックへお土産?」
「……うん。でも僕、その動くグミを口に入れられるかどうか心配だな……」
「ふふっ、大丈夫、すぐ慣れるって。他に何かいる?」
「んー……蛙チョコレートをいくつか。それくらいかな。なんだかこのお店にいると目が回っちゃいそう」
「やだな、。ハニーデュークス程度で驚いてちゃだめさ。もっと目が回るところがあるよ。悪戯専門店『ゾンコ』は、悪戯四人組も御用達みたいだからね。彼らの悪戯を予期するヒントが得られるかもしれないね」
相変わらず動き続けるいもむしグミと、それに比べればいくらか安心する蛙チョコレートを袋につめてもらうと、はヒューに連れられて店を出た。
騒がしい通りのすぐそこに悪戯専門店『ゾンコ』が見える。ここは、ももあんまり足を踏み入れたことのない店だ。
「じゃないか!ホグズミードに参加するなら僕らに言ってくれればよかったのに!」
「そうだよ、!僕たちだったら、ヒューより楽しいところに連れて行ってあげられるよ!」
店に入った途端、ジェームズとリーマスが俺たちに気がついた。
すぐに二人の声を聞きつけてシリウスとピーターもやってきて、の隣にいる俺やヒューを押しのけての周りを取り囲む。
俺もヒューも不快感をあらわにしているけれど、四人組はそんなことは全くおかまいなしだ。
「ほら見てよ、これ。カエル卵石鹸。応用すればもっと面白いものになりそうだ」
「他にももっといろんなものがあるよ。ゾンコの店なら僕たちの庭だからね。いろいろ案内してあげるよ、!」
まったくもって俺たちにはかまわずに、の手を握ってぐいぐい店の中に連れて行こうとする。の困ったような笑顔が見える。
のローブの端を加え、俺はそれ以上が進まないようにする。
……大人げないとは思うけど、の足止めをしたかった。
隣に並んでいたヒューが俺を見つめ、「よくやった」とでも言うような視線を送っていた。俺は少しだけ得意になって鼻を鳴らした。
ローブを引っ張られたは俺のほうを振り返った。
「……ごめんね、。君のこと放っておきそうになっちゃった」
の手が俺に触れる。ローブの端を離しての足にすり寄った。
はすぐにヒューのほうにも向き直った。
「いいのかい?彼ら、君との交流を楽しんでいるみたいだったけど」
「大丈夫。僕のことなんかすぐに忘れて、ああして店の中で騒いでるもの。それに、今日はヒューときたんだ。ヒューと一緒に楽しみたい」
ヒューのほうが俺よりも大人で、一応彼らのことも気遣っている。でものほうが、俺やヒューの感情を察しているのかもしれないな。
「それならいいんだけど……店の中、見て回るかい?」
「彼らが店を出てから、もう一度こない?そうじゃないとまたあの騒がしさに巻き込まれちゃうから、さ。それより僕、ちょっと疲れちゃったかも」
「それなら、三本の箒にでも行こうか。あそこは明るくて賑やかだし、座ってゆっくり休憩も出来るからね」
「バタービールのお店、だっけ?」
今度はヒューがの手を取る。
悪戯四人組は店の中で騒いでいる。が自分たちの側にいないことにも気がついていないみたいだ。
ちょうどいい、とヒューはつぶやき、俺たちはゾンコの店を後にして、三本の箒に向かった。
さっきの刺激で、の手にした袋ががさがさと動いていた。
「わ、すごい」
生徒や教員でにぎわった三本の箒の扉をくぐる。
適当な丸テーブルを確保すると、ヒューがバタービールを二人分と、平皿にミルクを入れてもらってきた。
さっきのお礼、なんて言って俺の前にミルクを置く。
は首を傾げていたけれど、ヒューは笑ってごまかしていた。
「歩くのに疲れた?」
「それより、人の多さに疲れちゃったのかも」
「最初のホグズミード週末はもっと人が多いよ。僕もあんまり人が多すぎると疲れちゃうから、極力最初の日は避けてるんだけどね」
扉の開く音がして、また生徒が入ってくる。
この村はいつでもホグワーツの生徒に対して開けている。
窓の外を楽しそうに歩く生徒たちを見つめながら、ミルクを一口舐めた。
「そうだなぁ……それなら、叫びの屋敷を見るってのはどうだい?」
「……叫びの、屋敷?」
「ああ。満月の夜になると誰も住んでいないはずの屋敷からうめき声が聞こえてくる、っていうちょっとした観光スポットさ。なんだかだいたい予想はついてるんだけどね」
が一瞬驚いた表情をした。
ヒューはバタービールを飲みながら、さも気にしていないかのように平然と振る舞っている。だけども多少声は潜めている。
「満月の夜のうめき声、だろう?満月の夜に吠えるのは、狼人間だ。あそこ、狼人間が隔離されてるんじゃないかなって思うんだ。でも、普通の日は人の気配がないから、満月の夜にだけどこからかやってきてるんじゃないかな……って」
「……ああ、なんだ……狼人間、か……」
「何のための隔離なのかはわからないけど。狼人間といえども、満月の夜さえ気をつければ、実は普通の人間と変わりないんだ、って聞いたことあるよ」
俺とはちらっと目を合わせて胸を撫で下ろした。
ヒューが狼人間の正体まで既に予測がついていたとしたらどうしたらいいんだろう、なんて思っていたんだ。
「あいにく今日は満月じゃないし夜でもない。叫び声は聞こえないかな。まぁでも、外観は結構いい感じに古めかしくて、いい観光スポットになってる」
「へぇ……」 「昔、満月の夜に探検してみよう、なんて肝試しのようなことを計画したんだけどね。いざ外に出てみたら、月と星を見に来ていた先生に見つかっちゃってさ。罰則はなかったものの、結局探検は出来ずに終わった。まぁ、それで良かったのかもしれない。本当に狼人間がそこにいたんだとしたら、魔法使い見習いの僕に勝ち目はなさそうだし、ね」
残ったバタービールを飲み干したヒューは悪戯っぽく笑っていた。もバタービールを飲み干し、俺は皿の中のミルクを舐め終えた。
三本の箒を後にすると、小さな丘の上まで少し歩いた。
雪の残る大地は歩きにくかったけれど、時間をかけてヒューと語りながら登るの心は穏やかだった。
空も、雲が薄くなってきたみたいだ。
「少しは気分転換になったかな?」
「え?」
「最近のは、なんだか思い詰めているように見えたからさ。心配してたんだ。かといって、ホグワーツじゃなかなか気が抜けないだろう?君が転校生って言うのもあるだろうけど、ってばいろんな人から愛されてやまないからね。時々うらやましくなるくらいだ」
丘の上から、少し離れた場所に古めかしい屋敷が建っているのが見える。
叫びの屋敷。
風にローブがなびく。
は叫びの屋敷をじっと見つめていた。あそこには、思い入れがある。
「……僕は、普通の生徒なんだけどな」
「そうかな。僕は君のこと、すごくうらやましいよ。同時に、君に忠誠を誓わずにはいられない」
「僕はただのヒューの後輩、だよ。いずれ時が流れればここにいたことも忘れ去られる……そんな存在だ。決して特別じゃないよ。アルバス・ダンブルドア校長のような素晴らしい人間には到底及ばないただの……」
は息を長く吐き出した。
「最近ね、ちょっと難しいことを考えてたんだ。だから思い詰めているように見えちゃったのかもしれない。ううん、少し思い詰めてる部分があった。考えても考えても答えが出なくて、答えがでないだけならいざしらず、どんどん悪い方向へ考えが向いちゃうんだ。こういうのを煮詰まるっていうのかな、なんて考えたりしてさ……ヒューにもいっぱい迷惑かけちゃったね」
「そんなことないさ。心配はしたけど……」
「ありがとう、気分転換になったよ。たとえ忘れ去られてしまう存在だとしても、僕が忘れなければ、記憶として生き続ける、よね」
「何を悲しいことを言ってるんだい、。もしかして、僕が卒業しちゃってからのことでも考えてるのかい?」
「え、あ……うん。だって、ヒューは卒業したら多忙になりそうでさ。多忙になったら、自分の目の前にあることだけに集中しちゃいそう。そしたら……」
「やだな、。何があったって君のこと、忘れる訳がないじゃないか」
風が吹く。
屈託なく笑うヒューに、も無理矢理ながらの笑顔を見せた。
心の整理は、思ったように円滑には進まない。
……と。
ヒューのローブの端を何かがかすめていった。
雪の上に、さっきまでなかった跡がつく。
とヒューが顔を見合わせ、俺が振り向いた方向に視線を向けた。
丘の上にいくつか生えた木の陰から、ピーターの少しずんぐりした体が見えている。
頭を抱えたヒューはしかめっ面をしていたけれど、はなぜか笑顔だった。背伸びをしてヒューの耳に何事か耳打ちすると、今度はヒューも笑顔を見せた。
二人はかがみ込んで、雪玉をせっせと作り出す。
こちらの気配を察したのか、四方からたくさんの雪玉が飛んできた。
「隠れて投げるなんてずるいよ、ジェームズ!」
「そんな投げ方で、僕に当たると思っているのかい、グリフィンドールの四人組」
四対二の雪玉の応戦だ。
そのうち木の陰から、ジェームズやリーマス、シリウスにピーターが出てきて、丘の上の雪を踏みしめながら、敵も味方もわからない雪玉合戦になった。
「そらっ!監督生だからって、を独り占めにするな!」
「もだよ。どーして、ゾンコの店から消えちゃったのさ」
「これ、さっきのお返しね」
「うわ、わわわ……」
ヒューのローブをかすめる雪玉。の頭上を飛んでいく雪玉。
空中で二つに分裂する雪玉……
あまりの雪合戦の騒々しさに俺は驚いたが……どうやら、は笑顔だ。
時々目が合うヒューは、俺に向けて笑みを浮かべる。
ヒューとは気が合うな……
時々弾道がそれて俺のほうにやってきた雪玉を口で銜えたり尾で叩き返したりして、俺も雪合戦に加わる。
「あははっ。ごめん、ごめん。今日はヒューにホグズミードを案内してもらうって約束してたんだ」
「ヒューなんかの案内で面白かったかい?僕たちなら、ヒューの知らないちょっと危険で楽しいことをたくさん知ってたのに」
「そうさ。次は絶対俺たちと一緒にホグズミードに参加すべきだ、」
湿っぽくなったローブ。汗をかき始めた皆の体。
切り株の上の雪を落として腰掛けた六人。ヒューはやや不満げな顔をして、俺とを見つめていた。
「それじゃ、もし次があったら今度は、ジェームズたちと参加するよ」
「本当?!」
「もし、じゃなくて絶対次はあるっ!」
「卒業するまで、あと何回ホグズミード行き週末がくると思ってるんだい?!」
はしゃぐ四人。
小腹が減ったのか、四人は自分の買ったお菓子を開け始めた。も、袋の中から蛙チョコレートを取り出すと、ヒューに一つを渡し、自分でも一つ、開封してみた。
チョコレートの形をしたカエルが、の手の上を跳ね回る。
何事もなくヒューは食べていたけれど、はやっぱり口に運ぶのをためらっていた。
「溶けちゃうよ、。いや、それより前に逃げちゃうよ、それじゃ」
「あ、うん。でもやっぱり、苦手だな、動くチョコレートって」
「蛙チョコレートなんて優しいじゃないか。驚くべきは百味ビーンズだよっ!」
「おいしい味はおいしいけど変なのに当たると最悪っ!」
お菓子の袋をたくさん持った四人は、それをの前に広げ解説を始めた。
足をつまんだチョコレートを、やっとこさ口の中に入れたは、口の中でのチョコレートの若干の動きに驚きながら、四人の解説に耳を傾けている。
その様子を見つめているヒューの視線は、のそれに似ている。
少し、もどかしいんだろうな……
「あっ!スネイプだ!」
「ふふん。ちょうどいい。さっきゾンコの店で手に入れた爆弾を試してみようか」
そのうち、解説も一通り終わって、荷物を片付け始めた。
ちょうどそのとき、丘の中腹あたりを歩くセブルス・スネイプの姿が見えるやいなや、ジェームズたちはに手を振るとセブルスのほうへ走っていってしまった。
何ともせわしない奴らだ……
「僕の前で堂々と悪戯の話をするとは、なかなかやるね、彼ら」
「セブルス、大丈夫かな?」
「あまりにひどかったら手を出そうかなとは思ってるけど。あれはあれで、彼らの中での問題だから、こっちが勝手に手を出すのも良くないんだよね」
「そう、なんだ」
「そういうこと。肌寒くなってきたし、雪合戦で汗もかいたし、そろそろ戻るかい?これ以上いてもが風邪をひきそうだ」
ひょいっと立ち上がったヒューにつられても切り株の上から立ち上がった。
丘を少しずつ下り始める。
「気分転換になったのなら良かったかな。あんまり思い詰めちゃだめだよ、」
「ありがとう、ヒュー」
「困ったことがあったらいつでも相談に乗るよ。まぁ……が抱えている問題は、僕が想像している以上に深いのかもしれないけど……でも、出来る限り力になるからさ」
「嬉しいな。僕、ヒューのこと、信頼してるよ」
ヒューの手が、の右手を握った。
もヒューの手を握り返した。
「ふふ。なんだか変な感じ。ヒューの手、ずいぶん冷たいんだね」
「さっきの雪合戦で相当冷えたよ。お風呂に入りたいくらいだ。の手だって、僕と同じくらいの温度だと思うけど」
「そうかな?」
「うん。それに、僕は少しおびえてる部分がある」
「え?」
「ってば、いつも僕に内緒でどこかに行っちゃうからね。こうして手をつないでいたほうが安心できるんだ……」
「やだな……僕、どこにも行かないよ、ヒュー」
ほんの少し離れたところから見る二人は、まるで、元の時代のとの姿そのもので……俺は少しだけ、時差ボケを覚えた。
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そこはかとなくとヒューがいちゃついている気がする。