垣間見える予兆


 星見の館で唯一外来の客が足を踏み入れる事が出来るの仕事場兼書斎。荒れた小さな日記帳は、その部屋の大きな机の上に置かれていた。魔法の力の充満したこの部屋に置いてあるにも関わらず、日記帳の魔力はがそれを初めて見たときに比べ、急激に衰えていた。
 深くため息をついたは、薄い影のように目の前に現れた、青年とも少年ともとれない姿の男を見つめた。客人用に準備された上質のソファーに腰掛けた男は、辛そうな、しかしどこか決意を固めたかにも見える面持ちでを見つめている。

 「……確かに、家のパーティーに参加するために家を出る際、あなたの日記帳を私に預けたときに異変を感じてはいたわ。あの時は、あなたの存在があのパーティーに集まる人たちの目に触れないように、だと思っていたのだけれど」
 「に僕の日記帳を預けるように申し出たのは僕自身なんだ。は僕をパーティーに連れて行きたがっていたけれど……だけどこの数日、目に見えて日記帳の力が落ちていたし、僕はの中に大きな変化を見つけていた……」

 は机の上の写真立てに飾られた古い写真に目を向けた。まだホグワーツで教鞭をとっていた頃に撮ったものだ。つい最近まで空白だったその写真の中央には、懸命に笑顔を作ると供の紅獅子が映っている。

 「……僕は、もうには必要ないんじゃないかな、って思うんだ」

 複雑な表情を浮かべたリドルの顔。の瞳が探るようにリドルの全身を見つめた。
 学生時代のトム・リドルの記憶である日記帳のリドルは、写真にの姿が現れた頃から急激にその魔力を失い始めていた。必死に魔力をかき集めてその存在をこちら側に映し出しているように見えるが、それは極端に淡く今にも掻き消えてしまいそうだった。かつての学友の姿にしてはあまりに儚い。

 「知っているだろう?本当なら僕はとっくに消え去っていて、こうして存在できるはずがなないってこと。と一緒に生活する事なんて許されなかったんだ。忌々しいハリー・ポッターが、バジリスクの牙で僕の日記帳を貫いたときに……既に決着はついていた。奴の毒が日記帳に閉じ込められた僕を侵していった……」
 「……その日記帳の傷を癒したのがだった……」
 「そう。でも僕は、傷の癒えたこの日記帳におさめられている魔力が‘僕’本来のものでないことを知っていた」

 は眉をひそめてリドルを見つめた。

 「多分、は気がついていないんだろうけどね。あの時のには、僕のような存在が必要だった。の愛情を一心に受けて深い愛を知っていても……の心は、どんな些細な事もばからしい事でも相談できるような、父親や兄のような存在を求めていたんだ」
 「……否定はしないわ。あの子が父親に大きな憧れを抱いている事も、己に流れる血の重さを十分すぎるほど理解して何も言わないのも、私は知っているもの。彼の心臓が時を刻みだしてから今まで……一度もは、父親が側にいない事について駄々をこねたことがないの」
 「本来の僕の能力なんてほとんど失われているんだ。魂は砕け散った。それにも関わらず僕がこうしてずっとと生活していられたのは、が僕をここに留まらせていたからなんだ」

 リドルは苦い笑顔を浮かべ、かすれるような声でそう言った。複雑な心境のまま、は慎重に次の言葉を探す。

 「しばらくの間、とずっと一緒にいられるんじゃないかって言う幻想を抱いた。そんなことあり得ないのにね。僕は本来の‘僕’の記憶なんだから、さ」
 「それでも、あなたがの精神的な部分を支えてくれていたのは大きな事実だわ」
 「……その役目は、そろそろ終わる」

 少しの間沈黙が続いた。もリドルもお互いの感情を整理するかのように何もしゃべらなかった。
 部屋中に投影されている星の光が、二人の姿を瞬きながら見つめている。

 「は、僕がいなくても大丈夫なくらい強くなった。彼を支えてくれる人間も日に日に増えている。彼の成長を感じると同時に、僕はこの体の安定を保つ事が難しくなっている事にも気がついた」
 「……確かに、時の流れにすれば一瞬の出来事だったけれど……数日前、はとても大きく成長したわ」
 「は今、心への干渉を求めていない。僕はしばしば、年相応に感情的になるの心を留めるための理性的な役割を果たしてきたけれど……僕との繋がりはだんだんと薄れてきた。僕にはね、わかるんだ。今の本当の僕を求めてる」

 全ての思いを吐き出すかのようにしゃべった後、リドルは辛そうに唇を噛み締めた。

 「……代わりにはなれても、本物にはなれない……偽りの幻影に縛られ続けるほど、は鈍感ではないわね」
 「いいんだ。本当ならここに存在し得なかった僕が、一年もと一緒に過ごせたなんて……たとえ代わりだったとしても、僕はに感謝してる。だけどもうそろそろ……くだけた魂を魔力でつなぎ止めておくのも限界だ……」

 はすっと席を立った。うすぼんやりと浮かぶリドルの幻影の肩をそっと抱きしめる。視線を上げたリドルは、の胸にすがるように顔を埋めた。

 「の側にいたほうが、私のもとに残るよりも長く体を保つ事が出来たのではなくて?」
 「……そうかもしれない。でも、こんなにぼろぼろになった僕の姿なんて、には見せたくなかったんだ。余計な心配もさせたくないし、僕のことを気遣って魔法をかけて修復を施すかもしれないし……」

 それは悲しげな声だった。リドルを抱くの腕に力が入る。途切れそうな姿を留めておくために、リドルが自分の体から多少の魔力を吸い取っているのを感じたが、は自分の体内に他者の魔力が干渉する力に抵抗しなかった。
 ほんの少し、リドルの姿がはっきりする。

 「……彼の星に、復活の兆しが差し込んでいるの。にもそれが見えたのかもしれないわ」
 「僕は決心したんだ。役目を終えたんだから、彼にしがみついていてはいけない。仕事が終わったんだから、本来あるべき場所に帰らなくちゃ」
 「それで、いいの?」
 「未練はない。ただ……に伝えるかどうかで迷ってるんだ……」
 「……そう……」

 自身複雑な心境だった。目の前にいるリドルは、幻影とはいえ自分とともにホグワーツで学んだ学友だった。かりそめにつなぎ止められた魂とはいえ、この幻影の芯の部分はトム・リドルその人のものである。は、子どもをあやすかのようにリドルの髪を優しく撫でた。

 「伝えて去るのも、伝えずに去るのも、は傷つくような気がしてね。どうすれば最良の道を歩めるのか、僕には答えが出なかった」
 「……星の声を求めているのかしら?……星の声は道標になるかもしれないけれど、決断を下せるほど具体的な道を示してくれるものではないのよ」
 「よく知ってるよ。それでも……」

 リドルの紅い瞳は、力強い光を放っていた。
 黙って頷いたは、リドルを抱きしめていた手を離し、静かに机の上に準備されている大きな水晶玉の前に座った。
 両手で下から力を注ぎ込むように水晶玉の表面を探り、頂点に達したところで両手を交差させると、もう一度上から下に輪郭線をなぞるように手を下ろす。
 長い袖が机に触れてさらりと衣擦れの音を出す。リドルはじっとその様子を見つめていた。
 全てを見通すかのような透明な水晶玉の中央に薄紫色の煙が姿を現した。しばらく水晶玉の中を渦を巻くように巡っていた煙は、が目を開いたのと同時に動きを止め、掻き消えるように消えてしまう。

 「輝きは、流星の如く……星が見せたのは羽根ペンとインクよ」
 「……そっか」
 「どうするの?」

 リドルは少し考える仕草を見せた。その姿はアルバニアの森に隠れていると噂されている‘彼’の癖を思い出させる。は深く呼吸した。

 「……もうしばらく、魂がまだここにつなぎ止められている間は……僕をここにつなぎ止めておくために魔力を補ってもいいかな、
 「もちろん」
 「ありがとう。僕の本体に見えている復活の兆し、ことが滞りなく進めば、遠からず僕は復活する事になるんだね?」
 「何事もなく事が進むのならば。けれど、三年前のように何らかの干渉で予兆が掻き消える事もあるから、何とも言えないわ」

 予兆が掻き消えた瞬間を思い出し、少し苦い顔をしながらが答える。運命とは道を示したものであり、その道を不服と思うのであれば、道を切り開けばいい。……道を切り開いた人間をは幾人も見てきたからこそ、の心の中には複雑な思いが巡る。
 ‘ありがとう’とリドルは消え入る声で呟いてその姿を日記帳に戻した。
 首から下げられるように加工された日記帳は日に日に荒れ果てていく。時の流れと人の心の移り変わりを考えながら、は深くため息をついた。
 代わりにはなれても、本物にはれない……おそらく自分も息子と同じ人物を渇望しているのであろう。複雑な感情がの心を襲っていた。  部屋の中の星の輝きが弱くなったのは、この部屋を満たす魔力が少なくなった証拠。気を引き締め杖を振ったは、小さく呟いた。

 「それでもあなたは、大きな力になったわ」

 たとえかりそめの姿だとしても、たとえそれが既に砕け散ってしまったものだとしても、自分が渇望する人の魂であることに変わりはない。
 新しい客人が部屋を訪れる気配を感じ取り、は椅子から立ち上がった。






























 イングランドの魔法研究所は、マグルの街からも魔法の街からも距離を置いた深い森の中に存在する。敷地自体はクィディッチの試合が同時にいくつも行えるほど広いが、そのほとんどが実験用に使われる広大な広場となっており、中枢の研究施設は敷地の中心に上に細長いろうそくのような形で建っているだけであった。規模もそれほど大きいものではない。
 とはいえ、この場所で行われている魔法の研究は、魔法省の極秘事項も合わせて膨大な数に及ぶ。それ故にこの地域上空をを飛行するマグルの飛行機が魔力の干渉を受け、操作システムが異常を起こして墜落しそうになる事件が多発していた。当然マグルからは気味悪がられ、今では森を尋ねる人間も、上空を飛ぶ飛行機もほとんどない。

 午前中いっぱい研究所内を案内してもらったたちは、ご神木と呼ばれるほど巨大な木の側に設えられた、職員休憩用のカフェテラスで午後のひとときを楽しんでいた。ご神木の太く大きな枝に茂る緑の葉が、照りつける太陽の日差しを緩和している。心地よい日陰となったテラスには過ごしやすい風が吹き抜け、極上のティータイムを演出していた。

 「さすがに、僕でも施設内を全部廻るのは一苦労なんだ」

 パンケーキを切り分けながらヒュー・ノードリーが笑顔を見せる。、ドラコの三人も目の前のパンケーキを切り分けながらヒューの話に耳を傾けている。テーブルの上には王室のアフタヌーンティーに負けず劣らずの上等なティータイムセットが並んでいる。

 「それにしても驚きました。本当に様々な魔法の研究をなさっているんですね」
 「こんなに大きな研究施設は、他のどの国を探してもそうそう見つからないと思います。‘世界最高峰の魔法研究所’と言われるのにも納得がいきました」
 「広くて目が回るよね。ここを最初に訪れた時は僕も凄く驚いた」
 「僕は地下の研究施設が扱っている研究内容にものすごく興味を引かれました、博士。地下での研究は公の場に提供するためのものではないとおっしゃっていましたが……なんだか残念です」

 こんな最新の魔法を扱う研究所に足を踏み入れる機会はそうないだろう、と見えたもの全てを脳裏に焼き付けるように研究所内を見て回った三人が、思い思いに印象的だったところを語りだす。ヒューは彼らの姿を楽しそうに見つめている。

 「でもまさか、最上階の研究施設にケンタウルスがいるなんて思っても見なかった」
 「ケンタウルスたちは星に近しい方々だから、彼らが星に関わる研究に参加するのは至極当然のような気がしたけれど……」
 「それにしたって、あの誇り高きケンタウルスが魔法使いに協力するなんて、考えてもみなかったよ」
 「それより、地下の研究が凄かったじゃないか。僕らには見せてもらえるところが極端に少ないのも気になったし、開かずの扉から漂ってくる怪しくて危険な香り……スリリングだ」
 「確かに。闇の魔術の研究場所まであるのには驚いた」
 「こうした公の場でなければできないことだよね、あれは」

 小さな屋敷僕妖精がテラスに姿を現し、中身の減った紅茶のカップに新しいものを注いでいく。しつけが行き届いているのか、自分に与えられた仕事をきっちりとこなす模範的な屋敷僕妖精だった。テーブルの上に不足がないかどうかチェックし終えた屋敷僕妖精を、ヒューが自分の側に呼び寄せた。

 「この子は僕の屋敷僕妖精でね、中々良く出来た子だろう?」

 ヒューが呼び寄せた屋敷僕妖精は、執事のような格好をし、蝶ネクタイをきっちりと締めている。その姿は屋敷僕妖精にしては珍しいものだった。

 「うちの屋敷僕妖精にも見習わせたいくらいですよ。つい少し前も、へまをやらかして父上の一張羅を台無しにする奴がいて。まぁ、すぐに洋服でしたけども」
 「おやおや……ルシウスは屋敷僕妖精の扱い方をよく心得ているようだね」

 ヒューは快活に笑った。ヒューの前で静かにお辞儀をした屋敷僕妖精は、慌てる風もなく主人の言いつけを守っている。

 「僕はどう見ても、この屋敷僕妖精という生き物が不思議でなりません」

 は珍しいものを見る目つきで屋敷僕妖精を眺めていた。
 屋敷僕妖精は魔法界の至る所にいるまったく珍しくない生き物だったが、の家にもの家にも屋敷僕妖精は存在しない。小さくてへんてこりんな姿をした生き物は、二人にとって、生物学で扱う生き物と同じくらい珍しい存在だった。

 「これは寡黙でよく仕事のできる子だよ。ただし、少しばかり屋敷僕妖精としては変わり者だな。休暇を要求するし、給料も毎月きっちり受け取っている。それでも確かにその辺の魔法使いを雇うよりも完璧に仕事をこなすから、僕は彼の要求に応えているんだけどね。普通の魔法使いには扱いがたい子かもしれないね」
 「屋敷僕妖精なのに休暇と給料を要求?それは随分変わり者ですね……」
 「通常の屋敷僕妖精はそう言う事は望まないの?」
 「ああ、そうか。も屋敷僕妖精の事はよく知らないんだっけ。屋敷僕妖精で休暇や給料を要求するなんて、ほとんどの家で煙たがられるよ。奴らはご主人に仕えて仕事をする事に喜びを感じるんだ」
 「世の中にはいろんな事を喜びと感じる生き物が存在してるんだね……」

 は不思議な顔をして屋敷僕妖精を眺めた。
 彼はヒューが‘さ、仕事に戻っていいよ’と言うまでヒューの前でじっとしていたが、ヒューに指示を受けるとすぐにその場から去っていった。小さな体がテラスから研究所のほうへ颯爽と去っていく姿はどこか滑稽にも思えるのだが、不思議と彼の背中からは威厳が見えていた。

 「さすがにこれだけ広いとね。研究所の職員だけじゃ隅々にまで手が回らない。ほとんど見なかっただろうけれど、実はここで仕事をしている屋敷僕妖精は職員よりも遥かに多いんだ」

 そう言って、ヒューは切り分けたパンケーキに蜂蜜を添えて口に運んだ。は屋敷僕妖精に注がれた新しい紅茶にミルクを落として口に運んでいる。

 「それにしても……昨日の大人の会の話、聞いたかい?」
 「いいや。父も兄もあまり僕に大人の話をしたがらないんだ」
 「今年のクィディッチ・ワールドカップは面白いことになりそうだぞ」

 そういえば、クィディッチのワールドカップがあるから、と今年の家のパーティーは日程が早まったんだっけ、とは思った。残ったミルクを足下に控えているの器に注ぐと、が顔を上げてを見上げた。彼に笑みを見せてから、はテーブルの上の会話に戻る。

 「月曜日の夜だ。アイルランド対ブルガリア。残念ながらイングランドは勝ち進めなかったけどね。イギリスが開催地になるのは三十年ぶりだし、絶対に観に行かなくちゃ」

 子どもたちの話を笑顔で聞いていたヒューが、紅茶を手にして口を開いた。

 「そうだ、その事なんだけどね」

 如何にアイルランドの選手が凄いか、如何にブルガリアの選手が格好いいかを熱弁していたドラコも、会話を止めてヒューのほうを向いた。

 「ルシウス一家はファッジ氏に招かれているんだってね」
 「はい、父が聖マンゴ魔法疾患障害病院に寄付をしたことをたいそう評価していただきまして。ぜひとも招待させてほしい、とファッジ氏が」

 誇らしげにドラコが返事をした。

 「で、だ。ドラコはホグワーツでクィディッチをやるくらい、この競技に熱狂的になっているって聞いてるんだけど……君たちだって魔法使いの男の子だ。興味がないわけじゃ、ないだろう?」

 意味ありげに微笑んだヒューは、懐から大切そうに三枚のチケットを取り出した。三人の目がそのチケットに釘付けになる。

 「研究所にこもってばかりいないでたまにはクィディッチでも観て気分転換したらどうだ、ってね。ルード・バグマンからもらったんだけど……それも極上の席なんだ。君たち三人に渡そうと思ったんだけど、ドラコはご両親と観に行くらしいし、バグマンの顔立てもあるし、どうだい?君たち二人、僕と一緒に観戦しにいかないかい?」

 ヒューはに一枚ずつチケットを渡しながら微笑んだ。手渡されたチケットを二人はじーっと見つめる。の足下に控えていたが、の膝の上に手を乗せ、彼の手にしたチケットを一緒に覗き込んでいる。の手にしたチケットをドラコも一緒に覗き込んだ。

 「アイルランド対ブルガリア、決勝戦の……貴賓席?」
 「最上の席なんだ、観ないともったいないと思わないかい?」
 「さっきも言っただろう、!三十年ぶりにイギリスが開催地になったんだって。観に行かない手はないよ。それに僕も、君たちと一緒に観戦したい」
 「でも、ノードリー博士、僕らでいいんですか?」
 「そうですよ。博士ほどの方なら、他にもたくさんお知り合いがいらっしゃると思うのですが……」

 自分の手元に残ったチケットを大切に懐にしまい込んだヒューは、に笑みを見せた。

 「もちろん。君たちと一緒なら僕も久々に公の場に姿を現してもいいかなって思ったんだ……どうかな?それに、大人の会でルシウスが提案してた事も気になるし」
 「博士は父の案には参加されないんですか?」

 まるで、こんな楽しい事に参加しないなんて……というような驚きの目でドラコがヒューを見た。ヒューはドラコの表情を面白そうに見つめながら、テーブルに両肘をつき、あごの前で指を組んだ。

 「僕は中座してしまったからね。今回は観覧に徹しようかと思ってね」
 「Mr.マルフォイの提案って、なんだか凄く気になるな……」
 「あまり大きな声では話せないんだけどさ……」

 今にも全て話したくて仕方がないという雰囲気を漂わせ、もったいぶった言い方をしたドラコに、は視線を向けた。耳をそばだて、彼の近くに寄ると何か秘密の対談をしているような雰囲気がテラスに漂った。
 子どもたちの反応を観察しながら、ヒューは組んでいた手を解き放ち、ナイフとフォークを持ち直した。パンケーキの残りを切り分け、蜂蜜に浸したそれを口に運びながら、子どもたちの対談に笑顔を向けている。

 「Mr.マルフォイらしいね、その計画」
 「魔法省の目が光っているって言うのに、随分面白い計画を……」
 「スリリングだろう?僕も参加したいって言ったんだけど、まだ見習いの僕には極力そう言う事をさせたくないんだっておっしゃってね。ああ、早く大人になりたい」

 木漏れ日の中、一人の魔法使いと三人の魔法使い見習いが楽しそうに談笑している声が森に響いていた。






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 どうやらクィディッチに興味がない子は珍しいらしい。