絶命日
去年と同様、俺はパンプキンパイの焼けるいいにおいで目覚めた。
もちろん今年は、の足をかむなんていう馬鹿なまねはしなかった。
……の足は噛まなかった。
夢の中で、パンプキンミルクというものをもらった俺は、それを飲んでいた。
それは、甘いかぼちゃとミルクが混ざったおいしいものだった。
俺たち猫科の動物が飲み物を飲むときは、人間のようにごくごくなんて飲めない。
第一、俺は手で物を挟むことはできても、つかむことはできない。
だから、必然的に舌でぺろぺろとなめる形になるのだが……
「…あはは……くすっぐったいよ、」
パンプキンパイの焼けるいいにおい。
目覚めた俺はボーっとしていたのだが、自分がしていることに気がつかなかった。
の明るい笑い声にはっとなって、横を見たら、の顔は、俺がぺろぺろなめたせいで、綺麗になっていた。
「どんな夢見てたの?」
ニコニコと笑いながら俺の鬣を整えるに、ほんの少し恥ずかしくなってうなだれた。
「パンプキンパイの焼けるいいにおいだね」
そんな風に笑顔のは、綺麗に俺の鬣を梳かすと、水晶玉を覗きはじめた。
俺も行儀よく、の隣にある椅子に座って、の水晶玉を眺める。
水晶玉を扱うとき、もも本当に真剣になっているから、こういうときは邪魔をしてはいけない。
あいつにみっちり仕込まれたから、その辺のところは良く分かっている。
「……厄介なことが起きそうだ……」
の真剣なつぶやきに、水晶玉をのぞけば、大蛇とスリザリンの印。
蛇といえばスリザリン寮の象徴だから、スリザリンの印と大蛇が出てくるのはごく当たり前のことのように思うけれど。
は一体何を感じ取ったのだろう。
俺にはわからないことだ。
しばらくするとが起きてきた。
ボーっとしているに、冷たいミルクを差し出す。
ミルクの匂いに誘われて、ニトものそのそと起きだす。
そんなニトのために器にミルクを入れて差し出す。 、俺もほしい……
の足元に擦り寄ると、は俺の首筋をなでながら、ニトのものよりも大きい皿に、俺の分のミルクを注いでくれた。
「…おはよう、」 「……おはよう……」
「今日は、絶命日パーティーなんだけど……?」
「…ああ、そういえばそんな話があったな」
「…大丈夫?いつにもましてボーっとしているみたいだけど?」
「ああ、大丈夫。そのうち……」
ごつんっ
……大丈夫じゃないみたいだ。
はベッドの上にボーっとしながら座っていたのだけれども、大きな音と共に、頭から落ちた。
それはものすごい音で、ぐらぐらと部屋が揺れた。
が大爆笑しながら、を助け起こす。
「…大丈夫?」
「ああ、問題ない」
……問題ありまくりだと俺は思う。
まぁ、本人が大丈夫というなら、大丈夫なのかもしれないけれど……
そんな風にして、ハロウィーンの朝が始まった。
夜の七時になると、俺と、、そしてニトの、二人と二匹は絶命日パーティーの会場へ向かった。
きっと扉の中は大入り満員で、たくさんの生徒がわいわい楽しくやっているであろう大広間のきらびやかに飾られた扉を素通りして、地下牢のほうへと足を向けた。
目にするものすべてがぞっとするようなものばかりだった。
ろうそくの明かりは青白く、とても健康的とはいえない。
大広間は人間の熱気で暑いだろうに、此処は一歩進むごとに温度が下がっているようだ。
幸い、温かい毛に包まれた俺は寒いとは感じないが、やは身震いをしているのではないだろうか。
が、俺とぴったりくっついて歩いているところからそういう風に感じるんだ。
「…なんだかぞくぞくしてきた」
「さすが幽霊のパーティーだけあるな」
そんな風に会話をしていたら、目の前に羽飾りの帽子をかぶって、幽霊として精一杯着飾った首なしニックが現れた。
「こんばんは、サー・ニコラス」
「これは、これは……このたびは、よくぞおいでくださいました……」
普段は俺たちの寮の幽霊、血みどろ男爵に比べれば、本当に明るいと思えるサー・ニコラス。
その彼が、悲しげに挨拶をしている。
「親愛なる友よ。さぁ中へどうぞ」
「ありがとう」
は普段の笑顔を絶やさないし、はいつもどおり振舞っている。
足取りも普通でさして恐怖感など感じてはいないようである。
……俺は、すごく怖いのだが。
目の前に、何百という半透明のゴーストが浮遊している地下牢っ!!
恐怖に足がおびえたが、それもの声で和らいだ。
「ハリー」
の目に留まったのは、ハリーたち三人の姿。
ロンは青白い顔をしていたし、ハーマイオニーは驚きと困惑の満ちた表情だったし、ハリーはハリーで、どうやら、ハロウィーンのパーティーに参加したかったというような顔つきをしていたけれど。
みんな、の顔を見て笑顔になった。
逆に、はさっとの後ろに隠れたが。
「も呼ばれたの?このパーティーに」
「うん。興味深い誘いだったので、参加することにしたんだ」
「…興味深い…ね……」
「ロンは顔色が優れないみたいだけどどうかしたの?」
「だって自分の死んだ日を祝うパーティーだぜ?何が楽し……ごふっ……」
……ロンが不満に満ちた声でそういっていたが、それをさえぎったのは、ハリーの黒い微笑の鉄拳だった。
さすがだ、ハリー……
「それにしても、たくさんのゴーストたちだね」
おや、と、は近くにいた血みどろ男爵に一礼した。
彼はほかのゴーストたちに遠巻きにされていたが、それでもその場にいた。不思議なことだ。
サー・ニコラス…首なしニックのパーティーに参加しているのだから。
「こんばんは、血みどろ男爵殿」
彼は、チラッと俺たちのほうを見てから、低い声で返事をした。
「…にか。ハロウィーンのパーティーには出席しなかったのか?」
「こちらに誘われたものですから。とても興味深いパーティーですね。生きているうちにこれほどの数のゴーストに会う事なんてめったに無いでしょうし」
「うむ…」
俺の耳にハリーたちのささやき声が聞こえた。
(…うげー、どうして血みどろ男爵と話ができるんだよ……)
(ロン、聞こえてるかもしれないでしょ。静かにしてなさいよ)
「…じゃ、。僕たち会場内を見て回るね」
「あ、うん。楽しんでね」
笑顔でひらひらと手を振るに、楽しめるか、という顔をするロン。
そのロンを、ばかっと言いながら、ずるずる連れて行くハーマイオニーとハリー。
時々俺、ハーマイオニーとハリーが組むと最強なんじゃないかと思うんだけど……
会場内は楽しかった。
腐った料理が山のようにあって、俺たちは食べられなかったけれど。
ゴーストたちは、その食べ物を口をあけて通り過ぎる。
そうすると味が分かるんだそうだ。
人間よりも数倍鼻のいい俺やニトは食べ物の腐った異臭に耐えられそうに無かった。
俺もニトも、やのローブを引っ張って、そこから離れた場所へと連れて行こうとしたのは言うまでも無かった。
それから、とある少女の前でが立ち止まった。
その少女は、なんだかさえない顔をした少女だった。
ホグワーツの制服らしきものを着ているみたいで、どうやらホグワーツの生徒だったようだ。
「知り合いか?」
がそうたずねると、は首を横に振った。
先ほどまでの元気はどこへやら、はなんだか悩んだ表情でその少女に挨拶をした。
「こんばんは」 「……こんばんは。あなたたち、誰?」
「・だ」
「僕は。・。君は?」
「…マートルよ」
「そう、こんばんは、マートル」
「私に何か用なの?……分かったわ。あなたたちも私のことをいじめにきたんでしょう?私のことを笑いに来たんでしょう?」
陰気くさい少女だった。
一体なぜが話しかけたのか俺には良くわからなかった。
「…そんなこと無いよ、マートル。ただ、僕らと同じような見た目の子がいたから驚いただけ」
「うそ言ってもだめよ?」
「……うそじゃないよねぇ、」
「…ああ。初対面の女性に対して、難癖をつけるほど僕たちは非常識じゃない」
「…………」
「…それじゃ、お話してくれてありがとう」
が笑顔でその場を後にしようとすると、マートルが大きめの声で言った。
「、。 私、三階の女子トイレにいるからね!!」
なんだかよく分からない少女だった。
そんなこんなな、ちょっと不思議なパーティーだった。
このときはまだ良かったんだ……
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絶命日パーティー。
長いので、後半に重要なところを持っていきました。
もも幽霊に対して礼儀正しいです。
なんだか、私の原作沿いはハリーたちの出番が少ないのですが、気にしないでください(爆)