恐怖


 絶命日パーティーもそこそこに切り上げて、僕たちは部屋に戻ろうとした。
 ハリーたちはまだ、こわごわパーティーの中を見ていたけれど、あえて声はかけずにその場を去る。
 さっきからずっと、なんだか悪い予感がしてどうしようもない感覚に襲われていた。
 きっと朝のお告げがそのままになる時が近づいてきているのだろうと思ったけれど、あいにく僕にはどうしようもない事態になってしまっていて、どうすればいいのかまったく分からない。
 ただ、あのお告げのとおりになるんだとすれば、それは本当にまずいことになるので、できればとめたい……
 そんな風に思いながら歩いていた。

 「…、寒いのか?」
 「……ん?いや。そんなことはない……っ!

 玄関ホールへ続く階段を上っているときに、がそう聞いてきた。
 笑顔でそう答えたけど、答えている途中に、まがまがしいものの気配を感じて僕はその場に立ち止まった。
 もちろんはそんな気配を感じてはいないから、僕の態度に多少疑問を持ったことだろう。
 前を歩いていたけれど、すぐに僕の元に引き返してきた。

 「…どうした?」

 そう聞いてから、が一度身震いした。

 「……なんだか、いやな感じがする」

 魔法使いの直感とでも言うのだろうか。もこのまがまがしい気配を体で感じ取っているようだった。
 ああ、僕はどうしたらいいんだろう。
 側にいるやニトは、僕たちよりも感覚が優れているから、何が起きているのか察しがついているのだろう。
 もニトも体の毛を逆立てておびえていた。
 そんな時僕は聞いた。

 『……引き裂いてやる…八つ裂きにしてやる……殺してやる……』

 明らかに人外の言葉。
 恐ろしく、おぞましい声。

 『…腹がへったぞ……こんなに長ーい間……』
  『…殺してやる……殺すときが来た……』

 立て続けに聞こえる言葉。
 僕の体がその場に凍り付いてしまった。
 だんだんと声が遠ざかっていく。

 「、此処はなんだかいやな気配がする。部屋に戻ろう」

 そういって僕の手を引きながら階段を勢いよく駆け上がっていった。

 ……ああ、母上。この状況で僕が成す術はありますか?
 僕は声の主を知っている。操っている人も知っている。
 でも……今、僕が何をすべきなんですか?
 分からない………













 僕はの手を引いて、勢いよく階段を駆け上がった。
 は僕よりも魔力が強い。いろいろなことを知っている。
 家族がよくお世話になる星見、の息子だから、おそらく今日起きることも察しがついているんじゃないかな。
 だけど、でなくてもわかる。
 僕も感じた、まがまがしい気配。
 一刻も早くその場から立ち去りたかった。
 だから僕はの手を引いて階段を駆け上がったんだ。
 ニトは、のペットのがつれてきてくれているし、動物に比べたら僕らが走る速さなんて大して速いわけではないと思うから、おそらくすぐ後ろについてきているだろう。
 僕はそう思っていた。
 突然、が立ち止まった。
 僕は驚いてのほうを振り返った。

 「?」
 「…………此処、何階……?」
 「え?」

 僕は勢いよく走ってきたものだから、何階まで止まらずにかけてきたのか分からなかった。
 ただ、玄関ホールの前はもうずいぶんと前に走り抜けたのだけを覚えている。

 「…階段、何回一番上まで上りきったっけ……」
 「…それがどうかしたのか?」
 「その…あの……とにかく僕の言うことを聞いて。振り向いちゃだめだよ?」
 「?」

 とりあえず頷く。振り向かないようにして、僕らは隣に並んだ。
 とニトが追いついてきたようだ。
 一刻も早くこの場から立ち去りたいのかもしれない。
 ニトを背に乗せたが、後ずさりをしていた。

 「……時を左右する星に告ぐ。星見の名において、我今そなたの力を此処に司る。我らに迫りし時を左右する危険から、そなたの力において、我らを守護せよ」
 が杖を振った。
 僕やニト、を含め、僕たちの周りにその魔法がかかったらしい。
 なんだかよく状況が飲み込めなかった。

 「…何をした?」
 「も感じているだろう?まがまがしい気配。すぐ後ろに迫ってる」
 「ああ」
 「そいつは簡単にすべてのものを殺せる力を持っている」
 「…魔法使いか?」

 一瞬、ヴォルデモートの名前が頭に浮かんだ。

 「いや、人外の生き物だ。振り向いちゃいけない。これから何が起こるのか、それを見ても、何も言っちゃいけない」
 「……分かった」
 「…物分りのいい友人を持つと楽でいいね」

 が微笑んだので、僕も笑った。
 次の瞬間だった。

 僕たちの体を何かが通り抜けていった。
 そして、目の前でものすごく明るい光が放たれた。
 …そして、その得体の知れない生き物は、どこかへと消えていった。

 「…やっぱり、あいつか」
 「あいつ?」
 「…後で詳しく話すよ。それより、ミセス・ノリスが……」

 が走り出した。
 あの光の先にミセス・ノリスがいたらしい。
 僕たちがその場についたときには、もうこちんこちんに固まってぶら下げられていた。
 その上には、鈍い光を放った、まるで血の色をした文字が塗りつけられていた。

 と。

 かの有名なハリー・ポッターが一足遅れてやってきた。
 そして、そのすぐ後ろからいつも一緒にいる二人もやってきた。
 雷鳴のようなざわめき声が聞こえる。
 きっとハロウィーンのパーティーが終わったのだろう。
 この場にいてはいけない。
 そう感じたけれど、それは遅かった。
 僕と、と、それからグリフィンドールの三人を取り囲むようにして、生徒たちがいた。
 みんな、楽しいおしゃべりもやめて、僕たちと、ミセス・ノリスを凝視している。

 「…?一体何をしているんだい?そんなやつらと共に……」
 「…ハリーたちとは今この場であっただけだよ、ドラコ」
 「……なるほど、そうか」

 この場の状況を何とかしないと、僕たちが疑われるのは必至のことだった。
 だけれども、あの場で見たあのおぞましい光景を人に話して、ホグワーツを混乱に陥れるのはどうかと思う。
 どうすればいいんだろう……?
 そんな風に僕が考えているとが口を開いた。

 「…継承者の敵よ、気をつけよ……か」

 壁に塗られた文字に手をかざして、何かをする。
 それから僕にささやいた。
 この場から立ち去ろう、と。
 僕はみんなに見えないように小さく頷いた。

 「……何があったんだい、。この場にいたんだったら見ているはずだろう?」

 ドラコの声。

 「…秘密の部屋が開かれた」
 「?」
 「僕がいえるのは、そこまでだよ、ドラコ。それでは」

 礼儀正しく一礼したは普段の足取りで寮へと戻っていく。
 僕ももニトもそれに続く。
 僕たちが去っていくのと同時か少し遅れてか、ばたばたと足音が聞こえた。
 きっとこの騒ぎを聞きつけた教師たちがやってきたのだろう。
 僕たちに疑いがかかることは必至だったが、おそらくは、これから起こる出来事を知っているだろう。
 部屋に帰ってから、ゆっくり話してもらおう……
 そう思って、僕はの後についていった。






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 あっはっは……なんだかよく分からない。
 シリアスというかなんと言うか。
 中途半端だね。
 今回はも結構重要な役になります(爆)