迷いと真実


 『あなたが操る言霊を、敏感に感じ取りえる者が身近にいる』

 部屋に帰ってみると、からに宛てた手紙が届いていた。
 はいつものとおり、取っておいたクッキーを運んできてくれたふくろうに渡す。
 するとふくろうは満足げにのどを鳴らしてから部屋から飛び去った。



 たちは、丸いテーブルに向かい合うようにして座って、しばらく誰も口を開かなかった。
 俺とニトはミルクをもらって、それを飲んでから、お互いの飼い主のひざの上や足元に座った。
 あれほど強力なまがまがしい気を感じたのは初めてで、俺たちはぐったりと疲れていた。
 目を閉じて、じっとたちが何か話をするのではないかと耳を凝らしている。

 「…どういうことなんだ、

 先に口を開いたのはの方だった。
 ハロウィーンのパーティーに参加していなかったので、当然のごとく夕食を食べていない。
 先ほどふくろうにあげたのと同じ、お手製のクッキーを一枚、口に運びながらが質問した。

 「さっきのあれはなんだったんだ?どうしてミセス・ノリスが殺されているんだ?」
 「…、ミセス・ノリスは死んでないよ」
 「え?」
 「ミセス・ノリスは石になった。石化したんだよ」
 「なぜ?はあの場で、あの時僕たちが見たまがまがしい生き物は簡単に生き物を殺せるって言ってたじゃないか」
 「ああ」

 そういうと、は杖を取り出し、水晶玉をテーブルの真ん中に出した。
 俺は水晶玉に映し出されるものに興味があったので、の隣の椅子に飛び乗って、中を良く見ようとした。
 まぁ、俺が見ても良く分かるものじゃないんだけれども、それでもの水晶玉に映し出されるものには、いろいろなものがあるので、それを見たいって言う好奇心だ。

 「…、君は僕を信じるかい?」
 「当たり前だろう?君は僕の親友だ」
 「……それなら、僕がこれから語ることはすべて真実だ。覚悟があるなら話し始めるよ」
 「…覚悟が必要なものなのか?」
 「ああ。驚くことがたくさんあると思う」
 「いいさ。君のことで驚かされることには慣れている。話してくれ」

 は頷くと、水晶玉に力を集中させた。
 水晶玉にはぼんやりと何かが浮かび上がってくる。
 俺ももニトも、水晶玉の中の映像をじっと見つめた。
 部屋は驚くほど静寂だった。






















 本当は、少し迷った。
 話してもいいのかどうか。
 けれども、母上の手紙の内容が僕にそれを決心させた。
 に話そう。
 そして、これからのことをどうすればいいのか考えなくてはならないんだ。
 杖を取り出し水晶玉に映像を浮かべる。

 「どこから話そう……ああ、そうだ。僕の生まれから話したほうがいいかな」
 「そんなに過去までさかのぼるのか」

 くすくす笑って返事をした僕は、自分の生まれを話し始めた。
 そう、すべてを理解してもらわなかったら、これからのことを話すわけにはいかないんだ。
 たぶん理解してくれる。はとても頭のいい人だから。

 「…僕の母は、星見の。僕は母の苗字で名乗っているけれど、実際にはちゃんと父親がいる」

 水晶玉に父の名を映す。  の表情が一瞬驚いたようになり、その文字をじっと見つめる。
 僕は何も言わず黙っている。

 「…驚いた」
 「僕のこと、幻滅するかな?」
 「……どうして?最高じゃないか。最高の親の血を引いているんだ。いいなぁ…僕、の兄弟として生まれたかった」

 らしい反応だとは思ったけれど、笑みがこぼれた。
 ハリーも否定はしなかったけれど、は僕を認めてくれている。
 なんだか嬉しかった。

 「それで?」
 「僕の体はね。実はまだ生まれてくるはずじゃなかったんだ。生まれたときの状態で、時を止められていた。父がこの世からマグルを追放して、彼が本当に闇の帝王となる……そうなったあとで僕の時間が動き始めるはずだった」
 「…だけど、ハリー・ポッターによって……」
 「そう。父は生きてはいるんだけど行方知れず。ハリーに敗れたあの日、彼は僕のもとに来て、弱った自分の体を壊してしまいそうなほどに強力な自分の魔力を僕に与えた。そして僕の時が動き始めた」
 「そうなのか……」
 「そしてね。僕の母を見てもらえば分かるかもしれないんだけど…母上は二十歳の体で自分の時を止めているんだ。僕も……二十歳になると同時に自分の時が止まるようになっている」
 「………難しいな」
 「ああ。でもこれが真実」

 此処で一回言葉を切った。
 おそらくの頭の中は一気に入ってきた情報で頭が混乱しているだろうから。
 の頭の中の整理がつくまでしばらく待っていようと思うんだ。

 しばらくしたらが納得したように頷いたので、次の話に進めることにした。

 「今日のあの怪物……あれはおそらくバジリスク」
 「…あの伝説の?」
 「ああ。父は、かの偉大なサラザール・スリザリンの血を引いている。そして僕も」
 「じゃあ、秘密の部屋を開けたのは……?」
 「……僕じゃない。まさか二年生で秘密の部屋を開けて退学処分になるのはいやだからね」
 「…でも、じゃあ誰が……?」
 「分からない…というか推測でしかないからここで話をすることはできないんだけど……でも、僕以外の誰かが秘密の部屋を開けたのは事実だ。そうでなければバジリスクは出てこれないからね」
 「…なるほど……」

 でも…と、は続けた。

 「なんで、ミセス・ノリスは死ななかったんだい?」
 「…床に水が漏れていたの、見た?おそらくミセス・ノリスはあの水を通してバジリスクの光を見たんじゃないかな」
 「…なるほど。そう考えればつじつまが合うか……」

 二人同時にため息をついて、それから同時に笑った。

 「物分りのいい親友がいると助かるよ」
 「君のように驚きと興奮を与えてくれる親友がいると退屈しなくていい」

 それから、そっとが耳打ちしてくれた。

 「……実は、うちの家族、全員ホグワーツのスリザリン寮出身なんだ。それに、ヴォルデモート卿についてもいろいろと話を聞かされていてね。さして恐怖は感じないし、僕の家族、隠れ信者だし……その、ドラコの家族だって……」
 「ああ、うん。うちに来ているお客さんは全員そうだって、母上が言ってたよ」

 そのとき時計が鳴った。
 午前零時になったようだ。
 そろそろ寝ようか、と声をかけて、既に寝てしまっているとニトを連れて、僕たちはベッドに入った。

 「…僕たち、これからどうすればいいんだ…?」
 「……なんだか妙な展開になりそうだけれども、あくまで傍観者としてみていればいいんじゃないかな」
 「そうか?」
 「僕らが行動を起こさなくたって、ハリーたちが行動してくれるさ」
 「……ああ、あのおせっかいなやつらか」
 「………」
 「…でも、本当にうらやましいよ、
 「ん?」
 「僕もの父上を父に持ちたかった」
 「……やだなぁ、のお父上もとてもすばらしい方じゃないか」
 「まぁ…な」
 「………ありがとう、。お休み」
 「おやすみ……」

 掛け布団を頭の上までかぶって僕は目を瞑った。
 に抱きついて眠った。
 運悪くあの場に居合わせてしまったのも僕の運命なのかもしれないけれど……
 本当はとめなくちゃいけないかも知れないけれど……僕が今、秘密の部屋を開いていいのかどうか、それさえ分からなくて僕の頭も混乱していた。






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 主人公の設定を明かしたかったの。それだけなの(爆)
 今回はに大いに協力してもらいます。
 うちは、なんだかハリーたちよりも、この二人のほうがでずっぱりだw
 そういうこと、気にしないでね?(笑)