噂と視線


 今日の午後はスネイプ教授のところで勉強を教えてもらった。
 今は、一通り勉強にひと段落がついたので、みんなでお茶しているところだった。
 ニトにミルクが。はココアを飲んでいる。
 スネイプ教授は当然のごとく、コーヒーを片手に渋い顔をしてその場に座っていた。
 目の前にはの焼いたクッキーが。
 今日はチョコチップなんだが、驚いたことに教授がそれを食べてひと言、

 「なかなか上手に焼けている」

 といったときには、も大笑いだった。
 俺も心の中で笑ってた。
 教授は、なぜたちが笑うのか分からなくて首をかしげていた。

 「……で、教授。秘密の部屋のことなんですけど……」

 がさりげなくその名を出すと、教授はますます渋い顔をしてのほうを見た。

 「先生方も興味があるみたいですね。ホグワーツの歴史という本が、もう二週間も予約待ちなんですから。予約者リストにたくさんの先生方の名前が入っていたのには笑えました」
 「千年以上も前の話ですが、サラザール・スリザリンは伝説の通り秘密の部屋を作ったと思われますか?」

 横からが質問する。

 「……我輩の意見など必要ないだろう」

 鼻を鳴らして教授はを見た。
 まぁ、そりゃ。
 ここに正真正銘のスリザリンの継承者がいるからなぁ。
 教授もそのことについては知っているだろう。
 ただし、今回はが扉を開けたわけじゃないから、ますます驚いているのかもしれないな。

 「…まぁ、サラザール・スリザリンの話はおいておいて……」

 はカップをテーブルの上に置くと、小さな羊皮紙巻紙を取り出した。
 羊皮紙一巻き分、細かい字で本の名前が綴られている。
 そこに書いてある本すべてが『禁書』の棚にある本ばかりだ。

 「…なんだね、それは」

 「読みたい本があるんです。我が家からもかなりの数の本を持ってきたのですが、もう読んでしまいまして」
 「すべて禁書の棚にある本なんで、教授のサインが必要なんです」
 「………」

 教授はしばらく黙っていた。
 そりゃ、そうだよな。禁書の棚にある本を、一度に三十冊も借りるやつなんてめったにいないはずだって。
 そうでなくても、禁書の棚の本を持ち出すのは大変だっていうのをがいっていた気がするんだ。

 「…いいだろう」

 だけど、一通りリストに目を通した教授は、何の小言もなくリストの一番下にサインをしてくれた。
 やっぱり、スネイプ教授って優しいやつなのかもしれないな。

 「どうもありがとうございます、教授」
 「では早速借りに行こうか、
 「うん」
 「それでは教授、また明日、魔法薬学の授業で」
 「どうもありがとうございました」

 相変わらず挨拶のしっかりしている二人は綺麗にお辞儀をして教授の部屋から外に出た。
 俺とニトも後に続く。
 教授の部屋は薬草がたくさんあるのでいろいろ不思議なものが見れる。
 それが楽しくてついつい棚の中をのぞいては、教授に丁寧に取り扱え、と言われてしまう俺。
 そういえばあいつの屋敷にも薬草がたくさんあった。










 図書室に入ると、そこには普段より大勢の生徒がいた。
 何人かで固まって必至に本を探している姿を見ていたら、テスト前のように思えてなんだか妙な気分だった。
 ただ、俺たちが通るとさっと人がよけたり、小声でこそこそ何かを言うやつらがいるのには困ったものだった。
 けれどもはそんなことをさして気にする様子もなく、ハリーたちらしい組に話しかけていた。
 は図書室の司書さんと一緒に、三十冊もの大量の本を取りに禁書の棚に入っていった。

 「…や、ハリー」
 「あ、」  「あれ、まだ宿題やってるの?」
 「難しくてさ。これマクゴガナル先生の宿題だし……」
 「…頑張って」

 そういう風に話をしていると、ハリーが思い立ったようにに話しかけてきた。

 「…ねえ、は秘密の部屋の存在を信じる?」

 は苦笑していた。
 信じるも何も、ここにちゃんとした継承者がいるし…なぁ。
 自身に打ち明けて少しは肩の荷が下りたんだろうけれども、それでもハリーたちにそれを伝えられないのは心苦しいのだろう。
 苦笑しながら、口を開いた。

 「もしも秘密の部屋があるのならば、一度その中に入ってみたいよ」
 「…………?」
 「でも、サラザール・スリザリンが作った秘密の部屋なら、そう簡単に入り口が見つかるはずはないか」

 残念、とは笑った。

 「じゃ、じゃあさ。僕がその…スリザリンの継承者だっていうのは……信じてる?」
 「まさか」

 は本当に笑顔で言った。

 「サラザール・スリザリンの継承者が、なぜ、サラザールと一番対立していたゴドリック・グリフィンドールの創設した寮にいるんだい?それが不思議でならないよ。サラザールの血が色濃く受け継がれているものでなければ、秘密の部屋を開いたり中にいる生き物を操れたりしないはずさ。第一、もしあの場でミセス・ノリスを殺す、もしくは石化させたのであれば、犯人はなぜあの場で立ち止まっていたんだろうねぇ?あの場で立ち止まるはずがないじゃないか。秘密の部屋を開けて、ホグワーツの生徒を混乱させようとしている人があの場でつかまったらまずいからね」

 そうなんだ。
 だから、おかしいんだ。
 以外で秘密の部屋を開けた奴が必ずいるってわけだ。
 おそらくあの場の大量の人ごみの中にはいなかったはずだ。
 それは分かっているのに、あいにく俺たちは絶命日パーティーに出ていたおかげで誰がいて誰がいなかったのかを把握していなかった。
 俺もも、そのことについてほんの少しだけ後悔しているのだ。
 ただし、そのおかげで収穫もあった、とはいっている。
 俺には良く分からなかったけれど、いずれが説明してくれるだろうから、何も言わないことにしている。

 「…そっか。ありがとう」
 「ま、そんなに悩まないほうがいいよ、ハリー。自分自身が一番良く分かってるだろう?秘密の部屋なんて開けてないってこと。大体、噂だって二種類あるの気がついてた?」
 「え?」
 「一つは、ハリー、君がスリザリンの継承者で、秘密の部屋を開けホグワーツを混乱に陥れようとしているってこと。だけどもう一つあってね。僕だってあの場にいたんだから。僕がスリザリンの継承者だっていう噂もあるんだよ。まぁ、噂なんて信じられるものなどうか、疑うところだけどね。みんな怖いんだよ。姿の見えない継承者がいるから。だから、誰かを継承者としていじめたい、ってところかな。人間の心理なんてそんなもんだよ」

 パチッとウインクをしたになぜかほほを赤らめる三人。
 後ろのほうでを呼ぶ声がした。

 「、手伝ってくれ。とても持ちきれないよ」
 「ああ、ごめん。今行くよ」

 はそう返事をすると、ハリーたちに手を振ってその場を去った。
 俺は大量の本を両手いっぱいに抱えたの後について部屋を後にした。
 それにしても、も、一体何のためにあんなに本を大量に借りたんだろう……






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 禁書の棚から本を大量に借りる、の巻(爆)
 どんな本を借りたのかは、そのうち明らかになるでしょう。
 今回はが饒舌だった(爆)