深い夜
クディッチの試合が行われた。
スリザリン寮の初戦の相手はグリフィンドール。
俺たちは応援する気すらなかったけれど、ドラコが出るから、ということで観客席に足を運んでいた。
試合は意外な展開だった。
あの暴れん坊のボールが、ひたすらハリーを狙って飛んでくるんだから、ハリーもたまったものじゃない。
スリザリンからは、ハリーに対する野次が飛んだ。それもものすごい罵声だった。
でも、まぁ。
腕の骨を折りつつも、ハリーがスニッチをつかんで、試合終了。
もちろん、グリフィンドールの勝ち。
「……ねぇ、あの胡散臭い教師が、今度はハリーの腕の骨を抜いちゃったみたいだよ?」
「…まぁ、痛みは感じなくなっただろうな」
「そうだけど、本当に無能なんだから、あいつ」
「今に始まったことじゃないだろう?それにしても、あんなに魔法の知識のないやつを教師と呼ばなくてはならないところにものすごく抵抗を感じるよ」
「まったくだよ」
ハリーが腕を折ったのを見ていた人たちがハリーに駆けつけたわけだが……
ロックハートが下手な魔法を使って、骨をくっつけるどころか、骨抜きにしてしまったんだそうだ。
ハリーの腕は、くにゃくにゃといろんな方向に勝手に曲がっていて、ゴムみたいだった。
おそらく俺が噛み付いても痛みを感じないであろう。
その後のの行動がまたすごかった。
ハリーは医務室に運ばれていったのだが、その場に残ったロックハートのほうへ箒で優雅に飛んでいって、笑顔でひと言。
「この能無しが」
のそのときの満面の笑みは、相手にものすごい恐怖を与えたんではないだろうか。隣にいたは、まったくだ、と頷いていたし、これを言うとが怒るから言わないのだが、実はハーマイオニーもロンも同じように頷いていたのは事実だった。
ロックハートは必死に言い訳を並べ立てていたけれど、それもの……
「魔法はど下手ですけれど、言い訳はお上手なんですね」
っていう言葉によって抑えられた。
もちろんは満面の笑みだ。
俺にはその微笑が黒く見えてしょうがなかった。
そしてうなだれたロックハートには見向きもしないで、とは箒でふわふわと戻っていったのであった。
そして、此処は校長室。
今日はなんとなく、校長先生とお話がしたかったんだ、とは言った。
も一緒に行こうよ、ということで、夜も遅いというのに、校長公認の夜更かしをして、校長室で話をしている。
校長室のソファは、普段あまり人が座らないのか、とてもふかふかしていてすわり心地がいい。
おまけに横に長いので、俺の体をうんと伸ばしても大丈夫。
のひざに頭を乗せて、俺はのびのびとしながら彼らの話を聞いているって訳だ。
「…暇じゃのう…」
「……………」
「本当に暇じゃ……」
「…………」
「…暇なのは分かりました。でも、だからといってそんなきらびやかなケープを着て、ひげをくるくるカールさせる必要は無いでしょう?校長先生。まじめに話を聞いてください」
「おや?わしはいつでも真面目じゃがの?」
校長はふぉっふぉっふぉ…と笑った。
でも、どう見ても校長はおちゃらけているとしか言いようの無い服装で俺たちの前に座っていた。
「先日のミセス・ノリス石化事件から、ホグワーツの中はざわめいているではありませんか」
「でも、校長は何もかも知っておられるのかもしれませんね。」
「……それは間違っておるのう、や。わしには分からないことがたぁっくさんあるのじゃよ」
「でも少なくとも僕たちよりは多くのことを知っていらっしゃる」
「わしのほうがいくらか年上じゃからのう」
……いくらかというよりは、ものすごく年上だと俺は思うぞ、校長……
「分かっていることといえば…秘密の部屋が開かれたってことじゃよ。そして問題は……」
「「誰が開いたのかではなく、どうやって開いたのか…ということでしょう?」」
との声が重なり合う。
校長が一瞬目を見開いて驚き、その後眼を細めて二人を満足げに見つめていたのを俺は見た。
校長はソファにどかっと座りなおした。
相変わらずきらびやかな衣装を着た校長を直視するのは目が疲れるけど、二、三、聞きたいことがあったのと、今夜は何かものすごくいやな予感がしていた(何しろ、水晶玉に不穏な星の動きが映し出されたのだから)のもあって、僕はを誘って校長の所に行くことにしたんだ。
もちろんダンブルドアは僕が来ることを前々から知っていたかのように、僕らを歓迎してくれた。
だから、こうやって校長公認の夜更かしをしているわけなんだけれども……
最初はロックハートの話。
次に今日のハリーを襲ったブラッジャーの話。
それから、秘密の部屋の話。
その、秘密の部屋の話に差し掛かったときに、僕はまた聞いた。
おそらく今は、僕とハリーにしか聞こえていないであろう人外の言葉。
『殺してやる……』
ぞくっと、体が一瞬硬直した。
どうもこういう声には弱い。
聞こえてくるだけならましなのだが、その声の主のおぞましい魔力も一緒に感じてしまうからいただけない。
僕のその態度に、隣に座っているが真っ先に気がついた。
ぎゅっと僕の手を握ってくれた。
「…?どうかしたのかい?」
「………、ダンブルドア校長、あったかいココアが飲みたいと思いませんか?」
普段どおりに振舞うつもりで、笑顔でそういった。
一瞬は僕がおかしくなったのではないかと疑ったのか、額に手を当ててきたけれど、僕は別に熱を出したわけじゃ無いよ?いたって平常さ。
ただ、ちょっといやな予感がしたから、この部屋から離れたかったんだ。
校長は、僕が何を言いたいのか察したのか、それともその声を感じたのか…どちらかはわからないけれど、笑顔で頷いてくれた。
「ちょうどいいところじゃのう、。わしもそう考えていたころじゃて。最近はめっきり寒くなってきおって…ほら、このとおり着込んでいても、指先や足先が冷たくなってしまっての。さぁ、一緒にとりにいこうかの」
ふぉっふぉっふぉっと笑ったダンブルドアは、僕たちの手を引いて、部屋を出て階段を降りた。
「…まぁっ!!校長先生!!それにスリザリンの二人も……こんな遅くに何をなさって……」
「ミネルバこそこんな時間にどうしたのかね?わしはちょうど、この二人と共にココアを飲もうと思っての」
「そうでしたの……って、和んでいる場合ではありません……生徒が……」
「……生徒?」
「ええ。私が見つけたときにはもう……」
…僕の予想ってどうしてこうもいやなものばかり当たるんだろう……
だからといって、僕が手を出していいのかどうか、本当に迷うし……
マクゴガナル教授が連れて行ってくれた場所には、コリンが石化していた。
カメラをしっかりと握っていて、近くにブドウが落ちていた。おそらくハリーの見舞いに行くつもりだったのだろう。
……確かコリンもマグルの出……
先生とたちと一緒にコリンを医務室に運ぶ間、僕はずっと考えていた……
医務室について…コリンをベッドに寝かせて……
……僕はどうすればよかったんだろう。
僕は何をすればよかったんだろう。
知っていたんだ。誰かが襲われるってことを。
予想はついているんだ。誰が秘密の部屋を開けて、誰がバジリスクを操っているか…を。
だけど、だけど……
僕が運命を変えていいのかどうか、僕には分からないんだ。
他人の運命に手を加えちゃいけない…それは星見の鉄則だ。
僕はどうすればよかったんだろう……
次に襲われるのは誰…?
またマグルの出の生徒だろう。
次に襲う日はいつ……?
僕があの声を、あのおぞましい魔力を感じたときだよ……
分かっているのに、僕はどうすればいいんだろう……
医務室までコリンを運んできた。
が思いつめた顔をしてコリンを見ていたのは俺の見間違いじゃないだろう。
そして、はコリンのカメラや身辺を調べているダンブルドアやマクゴガナル教授の後ろで、俺にもたれていた。
顔は青ざめている。
ぺろっと顔をなめてやったけれど、いつものように綺麗な紅い瞳で俺のことを見つめてくれなかった。
ぐったりとしていて、なんだか本当に思いつめた表情で、俺はが心配になった。
隣で、コリンが石になるのは当然のことのように眺めていた、のローブのすそを引っ張った。
は驚いて俺のほうを見て、そしてのほうを見た。
俺の作戦は成功だった。
はの異変に気がついた。
驚いて、の近くにかがみこんで声を掛けていた。
「…、。どうかしたのか?大丈夫か?」
でもの返事は無かった。
「……」
ぐったりとしたは、苦痛に顔をゆがませながら、ほんの少しだけ目を開いての姿を確認したようだった。
「………?」
「、具合が良くないみたいだね。はやく部屋に帰って寝よう」
「……………僕……」
「さっ、いこう」
はに何も言わせずに、ひょいっとを自分の背中に乗せた。
「先生、僕たちそろそろ寝ますね……」
「ああ、遅くまですまなかったな。また何かあったらいつでもおいで」
ダンブルドアはそういっていたけれど、振り向きはしなかった。
はを負ぶって、スリザリン寮に帰り、すぐにをベッドに寝かせた。
俺もを手伝った。
ああ、俺がの考えていることを全部分かればよかったのに…
そんな風に思いながら、が辛そうにしているのを見たら、夜も十分に眠れなかった。
そんな、深い夜だった……
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は思いつめちゃうほど優しい人なのです。
それにしてもシリアスでいただけない。特に最後のほう……
この先どうしようかなぁ……
個人的に、クディッチのシーンってかきにくいかも…