記憶


 ポリジュース薬に失敗したらしく、ハーマイオニーは数週間医務室にいたままだった。
 新学期が始まって少ししたころ、は俺を連れてハーマイオニーを見舞いに行った。
 ハーマイオニーの顔は、ハリー曰く毛むくじゃらだったそうだけれど、今はそうでもなくて、ふんわりした髪の毛から猫の耳が飛び出していて、それからお尻のほうからながい尻尾が飛び出しているだけだった。

 「ポリジュース薬は…作るのが大変なのに効き目は弱いから、骨折り損の薬って言われているんだ。いろんな制約もあるしね。君たちが何を聞き出したかったのか、聞くつもりは無いけれど、あんまり変なことに首を突っ込んでいると去年みたいなことになるから気をつけたほうがいいよ?」

 ハーマイオニーに見舞いの花束を渡した後で、は普段より数倍の笑顔でそう忠告した。





 その、帰り道だった。
 医務室を出た俺達は、寮へと向かって歩いていた。まだ夕食の時間まで少し時間があったので部屋に戻ることにしたのだ。
 そのとき目の前に真っ赤な髪の毛が飛び込んできて俺は立ち止まった。

 「…どうしたんだい、……?」

 も俺に気がついてとまった。そして俺の視線が向いているほうを見た。

 「やぁ、ジニーじゃないか。どうかしたのかい?こっちはスリザリン寮に進む道だよ?グリフィンドールとは反対方向だ」
 「あっ、!私ね、を探してたの!!」
 「僕を?」
 「うん。あのね……」

 ジニーはぶかぶかのローブをがさがさを探って、よれて少し日に焼けて変色した紙をに差し出した。
 は内心疑問を抱えているのだろうが、それを顔には出さずに笑顔でその紙を受け取った。
 ほんと、ってやさしいよ……

 「これ…なに?」
 「…大切なものなの。大切なもの。だから、持っててほしいの。に持っていてほしいの
 「へぇ……」

 わかった、と、飛び切りの笑顔をジニーに向けると、は手を振ってジニーをグリフィンドール塔のほうへと送った。
 ジニーの姿が角を曲がって消えるまで、は笑顔を崩さなかった。
 けれど、ジニーの姿が見えなくなったとたん、はいつも以上にまじめな顔をして深刻そうにその紙を見つめた。











 寮に戻ると、ジニーにもらった紙をは四つに破いた。

 何度か折り目をつけると、その紙はびりびりと嫌な音を立てて裂けた。

 「…何してるんだい?」

 部屋でニトと遊んでいたの行動を見て近くに寄ってくる。
 をチラッと見て、真剣な顔をしているのが分かると、もなぜか真剣な顔つきになって黙ってその場に座った。
 俺は、のひざの上に乗っている。

 「……、手伝ってくれるかい?」
 「理由を明確に話してくれるのならば」
 「この紙は、魔法がしみこんでる紙なんだ。たぶんインクで文字を書くことでこの中に閉じ込められた魔法と会話ができるはずなんだけど……僕たちよりも相手のほうが魔力が強くてね。状況によっては取り込まれてしまう可能性もあるんだ」
 「…そんな危険が待っているかもしれないのに、その紙に手を出すのはなぜだ?」
 「その危険と引き換えに、僕が知らない真実が分かるから」
 「……分かった。協力するよ。僕は何をすればいい?」

 とりあえず、と、は四つに切った紙切れの一枚を渡した。
 もう一枚を机の上において、残りの二枚は自分のローブのポケットにしまう。

 「それを持っていてくれないか?」
 「ん、ああ。そんなことでいいのか」

 お安い御用だ、と、はその紙切れを受け取って大事に握った。
 はそれを見て微笑むと、羽ペンを取り出して自分の持っている半分の紙に文字を書きつけた。
 俺とニトとがそれを静かに見守る。
 ぽたりとインクが紙に落ちた。

 「汚すなよ」

 と、があきれた声を上げた。
 次の瞬間、俺は見た。が意図して落としたインクの染みが、綺麗に消えていくところを。
 ほんの少し光を放って、すぅっと消えていった。
 その場所を触ってみても、まだ乾いていないインクのあとが手につくわけも無く、匂いを嗅いでもインクの匂いはしなかった。

 「…………」

 そのうち、すぅっと文字がにじみ出てきた。さっきのインクなのかは定かでないが、明らかにの字体とは違う、どこかあいつに似た字体が浮かび上がってきたのだった。
 魔法使いの世界って…なんだか不思議だ……

 『こんにちは、僕はトム・M・リドルです。貴方は誰ですか?』

 「………どう、これ」
 「どうって……」

 しばらく顔を見合わせていた二人は、不意に何かたくらんだような笑みを浮かべた。
 は羽ペンをインク壷に浸してゆっくりと言葉を綴った。

 初めまして、ミスター・リドル。僕は。貴方に聞きたいことがあ……

 の文字は途中で途切れた。
 最後の単語を書き綴る前に、日記がの書いた文章を吸収した。白く白く光っている。
 なんだか嫌な予感がしたんだ。だけど、俺には止められなかった。

 うわっ……

 そんな声を最後に聞いたような気がする。
 の声と、の声。
 の体が日記に吸い寄せられていってしまったものだから、俺は驚いてのローブを引っ張った。
 あまりに強い力で、俺も一緒に連れてかれた。
































 目を開けたら、そこは本棚で埋め尽くされた空間だった。
 トム・リドルと名乗ったその日記の切れ端に、僕は名前を記し、聞きたいことを聞き出そうとした。
 ……相手のほうが一枚上手だったね。
 苦笑して、どこか怪我をしていないかと確認したけれど、どうやら僕はと一緒にこの妙な空間に来たようで、の上に落ちた僕は怪我をしていなかった。

 「?」

 が怪我をしているのではないかって想って、の体をゆすると、はすぐに飛び起きて僕の額をなめてくれた。
 良かった、どこも怪我をしていないみたい。

 ほんの少し薄暗くて、寒気のするその場所は…なんだか体が拒絶反応を起こしそうなくらい魔力の強い場所だった。
 魔力抑制装置である僕の腕輪が、増幅する僕の魔力に耐え切れなくなって僕の体から魔力があふれ出す。
 どうしたらいい……?
 考えていたら、人の気配。
 ……いや、そいつは人じゃなかったのかもしれないけれど。

 「やあ、君がか…」

 後ろから足音がした。
 そいつが近づいてくるに連れて、僕のあふれ出した魔力がそいつに吸い取られていくのが分かる。
 がうなって僕の前に出たけれど、相手の顔を見たとたん驚いてしまったようでどうしたらいいのか分からないみたいだった。

 紅い瞳。漆黒の黒髪は普通の男子よりも少し長めでさらさらと流れるようで……
 ホグワーツのローブを着た相手は、僕と目が合うと驚いて僕の顔をじろじろと眺めた。

 「………」

 困惑した表情の相手。
 も困っているみたいだ。

 「……トム・リドル……?」
 「君、親は誰だい?」

 にしがみついて座っている僕を、リドルはかがんでじろりと見た。
 僕と同じ紅い瞳……

 「まあいい、座りなよ」

 とたん、本棚しかなかったはずの部屋に丸い机が現れる。
 リドルの意識の中だからなんでもできるのかな……
 ぎこちなく立ち上がってリドルの向かい側の席に座った。
 がまだ相手と僕を見て困惑していた。

 「…まさかとは想ったけど……」
 「?」
 「間抜けでおばかなジニー・ウィーズリーが、っていう名を日記に毎日のように綴るから気になってはいたけれど……」

 リドルは苦笑していた。
 僕はどうすればいいのか分からなくて……彼が何を言っているのかさえ分からなくて呆然としていた。

 「……トム・マールヴォロ・リドル……いや、貴方はヴォルデモート卿だ」
 「…くわしいね」

 一瞬引きつった顔をどうにか笑顔に戻したリドルは不敵な笑みを浮かべて僕をじっと見つめていた。

 「……僕の母はだよ。ヴォルデモート卿」

 静かにそういった。
 でも、それを聞きたいわけじゃなさそうで、いらいらと右手の人差し指で机をたたいている。

 「なんていう苗字は魔法界でもマグル界でも珍しい。君の母親がであることぐらい察しがつくさ。僕が知りたいのは母親じゃない

 出された紅茶に手をつけながら、僕は苦笑した。






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 リドルとお話。よくある展開だよな、これ(爆)
 ここは主人公の家庭環境に関わることなのでちょっと長めに(爆)