対話
俺たちは、ジニーからもらった紙切れの中に取り込まれたのだろう。
なんだか本ばかり並んでいる、の家と同じような空間にいた。
の声に気がついて、が無事であることを確かめたけれど、その瞬間にいやな空気を感じて俺はの前に立った。
の体から魔力があふれ出しているみたいだった。
それは、動物である俺の目にもはっきりと見えるくらい、体中からあふれ出していた。
の体が光っていた。
でもそれが、一瞬できれいに収まった。
まるで…まるで、誰かに魔力を吸い取られたかのように。
のあふれ出した魔力を吸い取ったのは、あいつによく似たやつだった。
よりも背が高いけれど、あいつより少し低い。
でも、と同じ赤い瞳に黒い髪で、俺たちを冷たく見下ろしていた。
に危害を加えるものはみんな倒す、そう思っていた俺が、相手の底知れぬ力にぞっとしてしまって、体が動かなかった。
そいつは聞いた。
の親は誰なのか、と。
冷たい目でじっと見透かされて、はなんだかおびえているような悲しげな瞳をしていた。
じっと見れば見るほどそいつとはそっくりだった。
書棚しかなかった空間に現れた椅子に腰掛けて、は口を開いた。
苦笑しながら…ね。
「僕の父は……僕の父はとても有名な人さ。世界中の誰もが父の名前を知っている。僕は父の顔をよく知らない。僕が命を授かったときにはすでに僕のそばにいなかったから。でも、今もずっと世界中を自分の手の内に入れることを望んでいる……もうわかるでしょ?」
にんまりと笑ったに、そいつも不敵な笑みを返した。
「やはり、な。君に会えて嬉しいよ、」
「…僕も、若いころの父上にこんなところで会えるとは思いませんでしたよ」
「まぁ、そういうことだから、君は僕に協力してくれるね?僕のやりたいことを理解していないわけではないだろう?」
「……」
の顔が一瞬曇った。
なんだかまた思いつめた感じがした。
「…僕は、友達を裏切りたくない」
「友達?」
「ええ。僕には友達がいる。確かにあなたのやることに大いに興味があるけれども、あなたのやることにかかわってしまうと、僕は友達を裏切ることになる。だから…」
「そのうち君は闇の帝王の後継者になるんだぞ?友達なんて要らないはずだ」
そいつの声が少し荒っぽくなった。
、。
俺はについていくからな。
はやさしいから、ハリーたちを裏切りたくないんだ。
にとっては、みんなが友達だから。
の気持ちが痛いほどよく伝わってきたから、俺はに擦り寄った。
の細い腕が、俺を優しく抱いてくれた。
「僕は友を必要としなかった」
「でも、あなたには母が…がいたでしょう?」
「…………」
「僕にも友達がいる。あなたには母上だけだったかもしれないけれど、僕には……」
ぐっとがこぶしを握った。
唇をかんで、何かを決心したようだった。
「…あなたのやることに口出しはしません。それが悪いことだとかいいことだとか決めるのは僕ではないし、あなたがこれからする行動に口を出す気はありません。ただ、僕は協力しない。協力することだけはできない」
相手はしばらく黙っていた。
重い空気があたりに流れて、俺もその場に居辛かった。
そのうち、に似たあいつが口を開いた。
の目の前にいるあいつに似たやつは、あいつなんだけれども、あいつじゃなかった。
あいつの過去っていうか記憶…らしい。
「は、あくまで傍観者でいるってことだね」
は何もいわずにうなずいた。
「まぁ、僕は、僕のやることに口出しをしないなら何もしないけれど。君には協力してもらいたかったんだけどね」
「ごめんなさい。でも僕には友達がいるから」
「いいよ」
相手はなんだか不満そうな顔をしていたけれど、でも納得したようだった。
は苦笑していた。
多分はハリーたちを裏切ることなんてできないだろう。
でも、のことだから、あいつがやろうとしていることにものすごく興味を持っているんだろうな。
そんな風に考えると俺も複雑な気持ちになった。
「…でも、僕の存在を知った君をこの場から帰すわけにはいかないな」
「……え?」
「は僕のことを知っている。邪魔はしないだろう。でも、僕は失敗はしたくないからね」
あいつはにんまり笑った。
の顔が凍りついた。
「大丈夫さ。に危害を加えるつもりなんてない。ただここで、僕とずっと語り合ってくれればいいだけさ。僕は、50年前の記憶しかないわけだ。ホグワーツがどんな風に変わったのか、ジニーから聞きだすことはできたけれど、君からも情報がほしいからね。きっとジニーの知らないことをたくさん知っていると思うしね」
が、それまで机の上に出していた自分の手を、ローブの中に引っ込めた。
ぼぅっといつも一緒にいる大ニシキヘビの姿が見えた。
の指を躊躇いがちに噛んで、の指から血が滴った。
何をしたいのか、俺にはわからなかった。
「…それは、無理だよ」
「僕にできないことなんて何もない。それに、君はまだ僕には勝てない。ここから出ることはできないんだよ」
大丈夫、時間はゆっくりあるから、と微笑まれ、は口を固く結んだ。
それは、痛みによるものなのか、それとも悔しさからのものなのか、俺には理解できなかった。
「あなたは僕のことをよく知らないじゃない。確かに面と向かってはあなたに勝てない。でも、ね…」
が笑った。
それは黒い、黒い笑みだった。
が日記の切れ端に吸い込まれて、一緒にも飲み込まれて。
それから時間が経った。
が取り込まれてしまったことに驚いて、僕はすぐに紙にインクで文字を書いてみたけれど、反応はなかった。
明らかにを狙っていたみたいだった。
僕はどうしたらいい?
の考えていることが、今回だけはわからなかった。
きっとこれは、だけの問題なんだろうって思った。
それ以外なら、はいつでも僕に話をしてくれるから。
「ねぇ、ニト。僕はどうしたらいい?」
でもニトは、僕の腕の中で小さく鳴いているだけだった。
ニトはまだ子供だから、何もわからないだろうとは思ったけど、なんだかが心配だった。
普段のなら心配しないんだけど、今日のこの日記の切れ端からは、恐るべき魔力を感じ取ったからだろうな…
すでに冷めてしまったココアに口をつけたけれど、おかしいな。
いつもと同じココアのはずなのに、おいしいとは感じられなかった。
そんなことを考えていたら、いきなりが取り込まれた紙に、紅い文字が浮かび上がってきた。
血の色みたいだった。
それはの文字。
きれいな紅い色で、の文字がつづられる。
「燃やせ」
単語がひとつ浮かび上がる。
驚いて、僕は杖を手に魔法をかける。
驚いたせいで、大きな火を出しちゃって、机がこげるくらいに燃えた。
僕としたことが…
火を消して焦げた机を元に戻す。
僕は、その作業中に息のあがった声を聞いた。
それは、僕のでもニトのでもない。
「…お帰り」
「……ただいま、」
がにっこり笑ってそこにいた。
がしきりにの指を気にして、なめていたので、僕もなんとなく気になっての指を見た。
の細くて繊細な指から血が滴り落ちていた。
白いの肌に一筋、紅い血が流れる。
それは絵に描いた以上に美しいものだった。
「怪我、してるじゃないか」
「あいにく、羽ペンもインクも持ってなくて…」
苦笑するの指をつかむと、手早く消毒をする。
さっき浮かび上がってきたのはきっとの血だ。
インクがないからって、大変なことをした。
痛い、とがこぼしたけれど、僕はそれを無視した。
は自分の体を大切にしないから。
こうやって簡単に傷つけてしまう。
こんなにきれいな指をしているのに。
「それで、何かわかったのかい?」
手当てが終わってから聞くと、は笑顔でうなずいた。
「のおかげだよ。いろんなことがわかった。そして、僕がしなくちゃならないこともだんだんわかってきたよ」
温かいココアを飲みながら、は微笑んだ。
協力するよ、とつぶやいて、僕もココアを一口のどに流し込んだ。
と一緒に飲むココアが一番おいしいと思った。
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とリドル後編。
ももが心配。
、愛されてるねぇ…(笑)