報告


 Dear 

 母上、お元気ですか?
 クリスマスプレゼント、どうもありがとうございます。
 僕にはまだ使い道が分からないけれど、しかるべきときには、大切に使わせていただきます。

 さて、僕は奇妙なものを発見しました。
 50年ほど前の日記の切れ端をひょんなことから手に入れたのです。
 それはとても不思議なもので、インクで文字を綴ると、綴った内容について日記が返事をしてくれるというものです。
 魔法使いの日記にしても、ずいぶんと出来の良いものでした。

 …僕は、その日記の中に取り込まれました。
 日記の主と話をしました。
 若かりし頃の父上と。
 若かりし頃の父上といえど、僕よりは年上で、会話をしていくにつれ、僕は父上のすばらしさを理解しました。
 僕が、知らなければならなかったことってこのことですね?

 ホグワーツは今揺れ動いています。
 母上は、それすら既に知っているでしょう。
 ホグワーツを揺れ動かしている人を、僕の真実を、僕はほんの少しだけ垣間見ることになりました。

 僕は、あくまで傍観者としてホグワーツにとどまるつもりです。
 僕から何か行動を起こすのは、人々の未来を変えてしまうようで…あまりしたくありません。
 この決断が正しいのかどうか、僕にはよくわかりません。
 でも、とりあえず報告です。
 また、お手紙します。
 お体に気をつけてください。

 



 カタン、と羽ペンを置く音が聞こえた。
 机に向かって、羽ペンで真剣に手紙を綴っていたが、やっと手を止めて顔を上げた。
 ふぅ、とため息をつくと、今まで床に寝そべっていた俺をひざの上に抱いてくれる。
 何を書いていたのか、机の上を見てみたら、既に綺麗に封を閉じられた手紙がおいてあるだけで、内容を見ることは出来なかった。
 少し残念だと想いながらも、がやっと俺のことをかまってくれるようになったので気にしないことにした。
 ほんの少しだけ、に甘えてみる。
 くすぐったそうに微笑むは、真剣に机に向かっているときとはまるで違う、優しい瞳をしていた。

 「手紙、書き終わったのか?」
 「あ、うん。明日の朝、ふくろうに持たせようと想うんだ」
 「そうか」

 の向かい側にある椅子に腰掛けたは、ぬるくなってしまったココアを入れなおしてに渡した。
 は笑顔でそれを受け取った。

 「…で、あの紙の中で何があったんだ?誰と出会った?」
 「知りたい?」
 「興味ある。君が怪我をしなければこっちの世界に戻ってこれなかったってことは、よほど強力な魔法使いか、その魔法使いの力を受け継いだものがその場にいたってことになる。僕にはそれが興味あるんだ」
 「さすが、。ずいぶんと読みが深いんだね。確かに、あの紙の中には僕よりもはるかに強力な魔法使いの記憶がいた」

 は一瞬眉をひそめた。
 就寝時間はとっくに過ぎていて、ニトがうとうとしながら俺の背中に乗っていた。
 も、本当は眠いんだろうけれど、ついさっきあった出来事に興奮しているので、眠気が吹っ飛んでしまったんだろう。
 ああ、まだ子どもだなぁ、も。

 「あの紙はね。とある人の日記の切れ端なんだ」
 「うん、なんとなく分かっていた」
 「それは…50年前、ホグワーツに在籍していた、僕の父上の記憶を封じ込めた日記なんだ」

 の声はひっそりとしていた。
 部屋は、なぜか冷え切っていた。


 「50年前の父親に会ったって訳か」

 しばらく沈黙が続いた後で、がため息をつきながらそうつぶやいた。
 は微笑んでいた。

 「そう。父上に会ったんだ。なかなか面白い話をしてくれた」
 「…でも、父親だったなら、何で君をこの世界に帰してくれなかった?僕があの紙を燃やさなければ君は帰ってこれなかった…」
 「それは…父上は、僕の話が聞きたかったみたいなんだ。正確に言えば、あれは記憶。あの日記が知っていることは、50年前のことだけなんだよ。今のホグワーツや僕らのことなんてほとんど知らないに等しい。だから、僕と話がしたかったみたい」

 はやや不満げな表情だったが、それでも納得したみたいだった。

 「自分と大して年齢の違わない父親に会う…それって、どんな気分なんだろうな」
 「最初は驚くけど、楽しかったよ」

 くすくすとは微笑んでいた。
 が入れてくれたココアを飲んでしまうと、すばやく寝る支度をしてベッドに入る。
 どうやら、の眠気は最高潮にあったみたいだ。
 冷たいシーツに体が触れる。
 俺はの隣に入って眠る。
 少し遅れて、とニトもベッドに入ったみたいだった。

 「電気、消すぞ?」

 の声が聞こえた。
 が頷いて、部屋を照らしていた明かりが消えた。
 真っ暗になった。






















 電気を消してから、僕は想った。
 僕の知らないところで、は辛いものを抱えているんじゃないか、ってね。
 かの有名なヴォルデモート卿。
 そんな人を父親にもつなんて、本当に信頼できる相手にしか口外できないことだろう。
 そんな意味で、に信頼された僕は嬉しかったけれど、やはりの抱えているものは大きすぎる気がする。

 「ねぇ、

 暗闇の中、天井を見つめたまま隣で眠っているに話しかけてみた。
 返事がないことくらい分かっていたけれどね。
 は夜に弱い。
 きっともう眠っているはずだ。
 返事が返ってくることなんて期待しないで、僕はしゃべり続けた。

 「これは独り言だから、返事しなくていいよ。無論、君はもう夢の中だと想うけれど」

 ニトも既に眠っていた。

 「……君は抱えているものが大きすぎるよ。僕は、去年みたいに君一人で何か行動を起こしてもらいたくない。もしも、君が……僕のことを本当に信用しているなら、必ず僕に話してほしいんだ。決して誰にも口外しないし、君の味方だから、さ。一人じゃ出来ないことも、二人だったら出来るかもしれないんだよ?ほんの少し、力を抜いてもいいと想うんだ…………って、僕の勝手な考え」

 一気にしゃべり終えたあとで、ふぅ、とため息をついて僕は目を閉じた。

 そうさ。
 僕はもう、去年みたいな失敗をしたくないし、を心配したくない。
 僕だって、やれることはあると想うんだ。

 今年は、に協力しよう。
 そう決意した、この日の夜だった。






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 うわん、がかっこいい(笑)
 こういうお友達を持って、は本当に幸せだなぁ。
 久しぶりにふくろう便を出してみましたw