重大な秘密


 2月14日、朝食の時間。
 俺たちはいつものとおり大広間へと朝食に向かった。
 大広間はピンクの花で覆われていた。

 「……、朝食は部屋で食べないかい?」

 が苦々しい声でのそうつぶやいているのを俺は聞いた。
 も苦笑して、そうしようかと頷いていた。

 一体今日は何の日なんだ?
 職員席でただ一人はしゃいでいるロックハートが何か言っていたけれど、それすら俺の耳には届かなかった。
 小さな小人たちがいっせいにカードやプレゼントを配っていたけれど、クリスマスでもないのに何でこんなことをするのか、俺にはまったくもって理解できないことであった。
 食べる分の朝食を持つと、気づかれないようにして大広間を後にした。

 「……なんだかうすのろの教師は勘違いしているみたいだねぇ」
 「確かに今日は2月14日。バレンタインデーといわれればそれまでだが、彼の趣味はいけすかないよ」
 「同感」

 うんうん、と、ニコニコしながら頷いたは、そのあと首をかしげてにたずねた。

 「…ところで、バレンタインデーってなんだい?

 は驚いてを見つめた。

 「本当に知らないのか?」
 「うん。我が家ではバレンタインなんて習慣はなかったよ……」
 「そうか……」

 妙に納得したは、に丁寧に説明してくれた。


 バレンタインというのは人の名前である。
 バレンタイン(バレンチノ)は、西暦269年(270年という説もあるが)2月14日に処刑された。
 その、バレンタインの死の日のことを意味しているのがバレンタインデーである。
 …で、それはローマの人だったらしいのだが、ローマの人々は2月14日には男女に関係するお祭りなどを開いていたという。
 それが、だんだんと進歩していって、今ではカードや花束を贈るという習慣にまでなったそうだ。
 ちなみに東方の島国では女性から男性にチョコレートを贈るというのが一般的だそうだが、イギリスでは、男性から愛する女性にバラの花束を贈ったりカードを送ったり、食事に連れて行ったりするというのが一般的だそうだ。


 「……へぇ」
 「イギリスでは本来義理というものはない。一番愛する人に贈り物をするのが一般的なのだが……最近ではどうも違ってきているらしいな。特にロックハートなんかは……」

 は説明し終えたあとで露骨にため息をついた。

 「あっ、そうか。だから毎年この日になると、あて先不明の人から母上に当てて両手いっぱいのバラの花束が届くんだ……」

 はなんだか嬉しそうな顔をしていた。

 「そういえば、うちの両親もこの日だけは夫婦水入らずで食事に出かけているみたいだな」
 「今日って恋人たちにとっては大切な日なんだね」

 ニコニコした。自然とも顔がほころんだ。

 「じゃあ僕は、にプレゼントをあげるよ」

 がそういった。
 俺は嬉しくなっての頬をなめた。
 なんとなく、面白い一日が始まりそうな予感だった。






























 ロックハートのバレンタインには驚いた。
 まったくセンスのない彼が、大広間をピンクに染めて、小人たちに翼と天使の輪をつけてところかまわずバレンタインカードを配っているなんて……
 確かにバレンタインは子どもたちの間では恋人どうしのものではなくなってきているさ。
 日ごろ感謝している人たちにもカードや贈り物をするからね。
 僕も、ロンとハーマイオニーとカードの交換をしたし、後でにもカードを渡すつもりでいるんだ。

 でも、今日は最低な一日だった。
 変な歌は送られるし、マルフォイはいつも以上に僕をからかうし。
 分かっていることではあるけれども、フレッドとジョージが僕のことをからかうのに腹が立って、ベッドにもぐりこんだんだ。
 誰よりも早くね。

 あ〜あ、にカードを渡すつもりだったのにな。
 どうしてこうついてないんだろう。
 何かイベントがある日っていつもあまりいいことは起きないんだよな。

 そんな風に想いながら、ベッドに座って、つい最近拾ったT・M・リドルと書かれた日記を開けてみた。
 今日、紅いインクをこぼしちゃったはずなのに、この日記にだけはインクの染み一つついていなかったんだ。
 これって、不思議でしょう?
 ロンが前に言ってたこと、読んだらやめられなくなる本とか……
 そういうのかもしれないっていう危険はあったんだけど、でもやっぱり、好奇心が勝った。
 僕は新しいインク壷を取り出し、羽ペンを浸し、日記の最初のページにぽつんと落としてみた。

 「……すごい……」

 思わずつぶやいちゃったよ。
 インクは紙の上で一瞬明るく光って、そのあとまるでページに吸い込まれるようにして消えてしまったんだ。
 これってなんだかとても重大なことが隠れていそうじゃないかい?
 どきどきして今度は名前を書いてみた。

 『僕はハリー・ポッターです』

 さっきと同じで、一瞬紙の上で輝いたかと想うとまたもや、跡形もなく消えてしまった。
 消えるだけなのかなって想ったんだ。
 でも、そうじゃないみたいだった。
 そのページから今使ったインクが滲み出してきて、僕が書いた文字じゃないものが現れたんだ。
 明らかに僕の字じゃない。


 トム・リドルという人が僕に話しかけるようにして文字を綴ってきた。
 綺麗な字で、結構紳士的な人だと想ったんだ。
 それに、秘密の部屋のことについても興味があった。
 だから僕は『OK』と二つの文字を書いた。
 そして、連れて行かれた。











 6月13日と書いてあるページから吸い込まれた僕は、校長室にいた。
 椅子に座っているのはダンブルドアではなくて…僕は良く知らない人だった。
 ぐるっと部屋を見渡した頃、誰かが扉をノックした。
 おそらく50年前の校長先生であろう人は、弱弱しい声で、扉の外に立っている人を中に招き入れた。

 二人いた。

 一人は、僕を記憶の中に連れてきたトム・リドルという青年だと想った。
 もう一人は、そのリドルよりも少し背の低い綺麗な女の人だった。
 驚いたのはリドルの顔だった。
 僕の良く知っている人にそっくりだったんだ。
 それに、隣にいる女の人のはにかんだような笑顔も、僕の知っている人にそっくりだった。

 「しかしじゃ、二人とも。特別の処置をとろうと思っておったが、今のこの状況では……」
 「校長……襲撃事件のことでしょうか?」

 女の人が尋ねた。
 校長はため息をついて頷いた。
 僕は、ひと言も聞き漏らさないようにしようとしてこの三人の近くに寄った。
 僕の心臓の音が聞こえないか心配なくらい、僕はどきどきしていたんだよ。
 秘密の部屋を開けた人物が分かるかもしれない。
 そう想ってた。

 「君たちは何かこの襲撃事件について知っているとでもいうのかね?」
 「「いいえ」」

 でも結局この場では誰が犯人なのか聞けなかったんだ。
 おかしいな。
 さっき日記で見たリドルは、犯人を知っているって言っていたのに。
 期待していただけにちょっとがっかりした僕は、それでもこの二人を見失わないようにと、部屋を出て行く二人についていった。
 どことなく誰かに似ているこの二人に。

 そのあと、今より全然若いダンブルドアに出会った。
 ダンブルドアは探るような目つきで二人を見ていたけれど、ため息をついて部屋に戻りなさいといった。
 僕は当然、この二人が自分の寮に戻って寝るものだと想っていたけれど、そうではなかった。
 スリザリン寮のすぐ近くにある、扉のような絵の前に立って、周囲を確認した後その中に入ったんだ。
 僕は声を出してしまうかと想ったよ。
 こんな場所があるなんて知らなかった。
 中はずいぶんと快適な場所みたいだった。

 「……ちょうどいい時間だね。今から地下牢に向かおうか」

 しばらく座っていた二人のうち、リドルのほうがそうつぶやいた。
 そのあと二人は何事か会話をしていたけれど、僕にはなぜか聞き取ることが出来なかった。
 で、二人が地下牢に向かって歩いていったんで、僕もついていった。

 地下牢に行って、そこには………ハグリッドがいた。
 声にならなかった。

 「ルビウス、僕は君を突き出すつもりだ。襲撃事件が止まなければ、ホグワーツ校が閉鎖される話まで出ているんだ」
 「なんが言いてえのか…………」

 ハグリッドは、リドルの隣にいた少女の名をつぶやいたみたいだった。

 「………貴女までうたがってんのか…?こいつはなんもしちゃいねえ。信じてくれ……」
 「貴方が誰かを殺そうとしたとは思いません。でも怪物は…ペットとしてふさわしくないの。たぶん貴方は運動させようとしてちょっと離したんでしょうね。でもそれが……」
 「こいつは誰も殺してねぇ!」

 なぁ、信じてくれ。と、ハグリッドはなおもと呼ばれた少女に懇願していた。
 は目を逸らして言った。

 「ごめんなさい。ホグワーツが閉鎖されるとみんなが困るの。それに……私は、怪物をペットとして扱うような方と親密なお付き合いはできないわ。ごめんなさい。貴方の好意はとてもうれしいけれど……でも…人が一人死んでいるのよ……」

 が取り出した白い手紙は、ハグリッドの前に返された。
 ハグリッドは目に涙をためてを見ていた。

 「……どいてくれ」

 リドルが冷たい目でハグリッドを見て、魔法をかけた。
 リドルの呪文は突然燃えるような光で廊下を照らした。
 そして、ハグリッドの後ろから、毛むくじゃらの巨大な胴体が……

 「やめろおおおおおおおお!!」

 ハグリッドの巨体と、リドルがもみくちゃになった……

 また場面がぐるぐると旋回した……
 その途中僕は聞いたんだ。

 「…………貴方は信じてくれると思ってた……」

 そんな、ハグリッドの声を。











 ……  なんて苗字は人間界でも魔法界でも珍しい。
 きっとあの人はの家族とか親戚とかに当たる人なんだと思う。
 もしかしたらは……このことについてもちゃんと知ってたのかもしれない。
 そう思って、にバレンタインカードを渡していないことに気づいた僕は起き上がった。
 そのときちょうどロンが入ってきた。

 「ロンッ!ハグリッドだったんだ。50年前に『秘密の部屋』の扉を開けたのは、ハグリッドだったんだ!」

 僕は叫んでしまった。






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 長いね。ほとんどハリーの話になってしまったよ。
 前半がないとがでてこな〜い……
 たまにはいいか(笑)
 少女夢を読んでる方には、リドルとハグリッドの部分はお分かりだと思うのですが……
 読んでいない方のためにちょっと詳しく書いてみました。