危機


 2月14日、夜。  バレンタインデーの意味を知ったが、喜んでとカードを交換していた。
 冷たいシーツは風呂上りで火照った体にはちょうど良くて、心地よい眠気も襲ってきたから、俺達は就寝の言葉もそこそこに眠りについた。
 部屋は、既に暗かった。








 しばらくして、がうなりながら起き上がったのを感じた俺は、寝ぼけ眼のままに擦り寄った。
 のことだから、寒くなったかなんかでココアでも飲もうと思って起き上がったんじゃないかと勝手に推測していたけれど、その推測は外れた。
 は椅子に腰掛けると、手馴れた手つきで水晶玉を取り出し杖を取り出し、魔法をかけることに集中し始めたのだ。
 急いで俺はの足元に行く。
 だって、一人は寒い。

 「…、起こしちゃった?ゴメンね。なんか…嫌な気配がするんだ。闇の力を誰かが使った…みたいな……」

 ぼぉっと光っていた水晶玉が、徐々にはっきりとした形を映し始める。
 それは、どこにでもあるような日記帳だった。
 ずいぶんと古ぼけていて、紙も焼けているようで黄ばんでいた。
 そんな日記帳の姿が映し出された。
 6月13日と書かれたページが開かれている。

 「…え……」

 の表情が曇る。

 …と、天性の感からか、全身の毛が逆立つようなまがまがしい力を感じた俺はとっさにに近づいた。
 の体が震えていた。
 も、俺と同じようにこの気配を感じているらしかった。
 振り向いてもいいのだろうか。

 「…僕に、何のようなんですか?」

 振り向かずにが言った。
 まがまがしい気配は、徐々に俺の知っている気配に変わっていった。

 ……トム・リドル……

 いきなり部屋に現れた招かざる客人はすぅっと俺たちを通り抜け、の正面に現れた。
 確かに、この前日記の中で見たトム・リドルだった。

 「…おや。この姿なら気づかれないと思ったんだけど。さすが、の血を受け継いでいることはあるね」

 不敵な笑みを浮かべてそいつはそう言った。
 の表情が翳る。

 「僕は貴方のすることには口出ししないといいました。その代わり、貴方のすることに協力しない…とも。いまさら僕に接触してなんになるんですか?」

 くすくすと微笑んでいる相手を、はキッと睨みつけていた。
 なんだか足がすくんだ。
 でも、相手が何かしてきたら俺がを守んなきゃいけない。
 そんな風に思ったから、じっとの側からはなれずに相手の様子を観察していた。

 「…ハリー・ポッターがやっと僕に接触してきてくれたんだ。僕は僕の記憶を見せたよ。50年前の6月13日の…ね」

 俺には意味が分からなかったが、はその言葉の意味を理解しすぎるほどに理解していた。
 一を聞いて十を知るとはこのことなんだろうか。

 「僕は考えたんだ。あの時は不意のことでを元の世界に戻してしまったけれど……やっぱり君に興味がある。君の知っている知識を僕は知りたいと思う。だから……あの時君をこちらに帰すべきじゃなかったって、反省したね」
 「だから……僕をもう一度連れに来たってわけですか」
 「僕の魔力の源となっている奴は、ずいぶん魔力が弱くてね。それに質が悪い。それに比べての魔力は質がいいんだ。ほんの少しで何時間でもこの姿のまま動き回ることが出来る」

 笑う相手に対して、はほんの少しおびえているようだった。
 俺も、この場でどうしたらいいのか分からなかった。

 「あいにく、僕は貴方の記憶の世界に行く気はありませんよ」

 が苦笑して、杖を構えた。
 リドルは、ある程度の抵抗は仕方のないものだと考えていたんだろう。
 ニコニコ笑いながら、やはり杖を構えた。

 「……僕に敵うわけがない」
 「…………」

 見た目からして、は相手の強い魔力に圧されていた。
 俺にはどうすることも出来ないんだ。
 急に、双方の杖から光が飛び出した。
 呪文をかけたらしい……

 お互いの呪文はちょうど真ん中でぶつかり合い………



 分かっていたけれど、競り負けたのはの魔法だった。
 魔力が違いすぎる。
 少し後ろに飛ばされて、は転んだ。

 そのときものすごい物音がしたのに、はおろか、寮にいる全員が気づかないみたいだった。

 「……みんなに何かしたでしょ」

 がそう聞いた。

 「ちょっとね。気づかれちゃまずいから眠ってもらったよ」

 が気まずい顔をして、に駆け寄った。
 どれだけ声をかけても体をゆすっても、もニトも目覚めることはなかった。
 ……おそらく、俺たちだけが起きているんだと思う。

 「…卑怯だね」
 「やりたい事を達成するためには手段を選ばないのさ」
 「…でも、貴方が興味あるのはハリーのはず。僕はあくまで傍観者でいると約束したのに……」
 「証拠は残しておきたくないんだ。大丈夫。君に危害なんて与えないさ、

 おいで、と冷たく言われた。
 はしばらくその場を動かなかったけど、不意に諦めたように笑って、の耳元で何か囁いていた。
 俺には聞き取れなかった。

 「…本当に卑怯だ。その狡猾さは尊敬に値しますね」
 「君もなかなかのものだけどね」

 は俺においで、と優しく言った。
 俺はこの先何が待っているのか本当に心配だったけれど、の元を離れるわけにはいかないからに従った。

 すぅっと俺たちの体が光始めた。
 心配ない、と俺に囁いていたけれど、の体ほんの少しだけ震えていた。
 なんだか、リドルの思惑にはまったようで納得がいかなかったけど、が決断を下したんだから俺はそれに従うだけさ。

 俺達は日記の中へと取り込まれていった。


























 目が覚めた。
 ニトがしきりにうなっていた。
 部屋の中を見たら、本棚から本が飛び出していて、乱闘騒ぎがあったんじゃないかってくらいに散らかっていた。
 どうせが何かしたんだろう……
 そんな風に思った僕は、あきれながらも魔法で部屋の中を片付けた。

 うん。

 でも、隣のベッドを見たらの姿もの姿もなかった。
 なんだか嫌な予感がした。
 探してみたけれど、はどこにもいなかった。
 談話室にも、朝食の準備のされている大広間にも。
 どこにいったんだ……
 なんだか心配になった。
 そうしたら、ニトが僕のローブをしきりに引っ張っていることに気がついたんだ。

 「あっ……」

 僕は、昨日の夢を思い出した。
 妙な不快感と倦怠感。
 目を開けて起き上がりたいのに何かにそれを阻まれているようなだるさがあった。
 そんな中、急に夢の中にの姿が現れたんだ。
 はニコニコしながら僕の手を握ってこういった。

 『紙を見て』

 何のことだか分からなくて忘れてたよ。
 ローブの中に手を入れる。
 あった。
 に渡された紙の切れ端がそこにあった。
 そこには見慣れたいつきの文字で、今度はちゃんとしたインクで…文字が長く綴られていた。
 は……たぶん、この紙の中にまたいるんだろう。
 嫌な予感を抑えきれないままで、僕は椅子に座りの書いた文章を読んだ。






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 がピンチ。
 ここからは少しが主役っぽくなるかもしれないなぁ。
 も日記の中からを応援しよう(笑)