新たな犠牲者


 が日記に取り込まれてから、もうずいぶんと日にちがたった。
 その間、前回生徒が襲われてから4ヶ月以上もう誰も襲われていなかった。
 やっぱりが犯人だったんじゃないか……そんなうわさが飛び交うといけないと思って、先に僕が手をうった。

 『は気分が悪くて部屋から出たくない』

 って、ことにした。
 何も不思議なことじゃないだろう?
 マダム・ポンフリーのいる医務室に行くのですら困難なくらい気分が悪いということにして、僕が毎日の分の食事を部屋に運び、マダム・ポンフリーから気分のよくなる薬をもらう。
 ただそれだけで、誰もが犯人だと疑わなくなったんだ。



 そんな生活が、もう何日続いたんだろう。
 今日は、ハッフルパフとグリフィンドールのクィディッチの試合の日らしい。
 グリフィンドール席もハッフルパフ席もずいぶんとそわそわしていて落ち着かなかった。
 とりわけグリフィンドールなんかは、今日勝てば優勝が決まるものだから余計に落ち着かなかった。

 クィディッチなんてバカみたいだ。

 僕はそう思っている。
 あんなものに熱を上げる選手も観客も何がいいのか僕にはわからない。
 僕は観戦なんて行かないさ。

 「…ああ、

 手早く食事を済ませ、の分の料理を部屋に運ぼうとして立ち上がった僕を呼び止めた奴がいた。

 「なんだ?」
 「の様子……そんなに悪いのか?」
 「……はもともと魔力が強い。魔法の力に敏感なんだ。おそらくこの一連の怪物事件で…何者かが秘密の部屋を開けただろう?それにはかなりのまがまがしい魔力を使うはずだ。その気配がには伝わったんだと思う。敏感すぎるから、その気配が彼の気分を害しているんだよ。……きっとね」
 「…そうか……心配してるってに伝えておいてくれ」

 僕を呼び止めたドラコは、心底心配げな表情で僕にそういった。
 たぶんドラコだけじゃない。
 は、いろんなやつらから好かれているから、きっとみんながとっても心配しているんだと思う。
 さすが
 僕はいい友人を持った。

 わかった、と短く返事をした僕は、出来るだけ速く、でも静かに寮に戻った。
 がいない部屋はがらんとしていた。
 が使っていたマグカップも、教科書もベッドも……何もかも残っているのに、それは2月14日以降使われた形跡はまったくなくその場に置かれていた。
 僕だけが置いていかれた気がしてなんだか寂しくなったけど、今は僕に出来ることをやるだけだと思っている。

 それから、ニトにえさをやって部屋の片づけを済ませると、誰もいない談話室の椅子に腰掛けて本を読み始める。
 みんなはクディッチの試合を観戦しに行っているんだろう。
 スリザリンは既にグリフィンドールに負けているけれど、グリフィンドールに優勝杯を取らせないために、ハッフルパフを応援しにでも行ったんじゃないだろうか。
 そうでなくても、お祭り好きのみんなのことだから、純粋に試合を見に行ったのかもしれないな。
 僕はそう思って、本を読みふけっていた。






 ……と。
 ふと顔を上げて時計の針を見たら、十一時を過ぎていた。
 試合がそろそろ始まった頃なんじゃないかと思ったけれど、なぜかたくさんの足音が談話室のほうへと向かってきていた。
 すぐに寮の入り口が開いて、スリザリン寮生が談話室になだれ込んだ。

 「……何があったんだ?」
 「試合は中止だそうだ。マクゴガナル教授が試合が始まる直前に走ってやってきてそう言った。そのことについて寮監から説明があるらしいから、談話室で待機ということだ」

 目の前に転がってきたドラコから情報を得ると、僕は床に寝そべっていたニトが怪我をしないようにと抱き上げて、寮監のスネイプ教授がやってくるのを待つことにした。
 どうせまた、マグル上がりの誰かが石にされたんだろう……

 僕の予想は当たっていた。
 スネイプ教授は苦々しい顔でやってくると、羊皮紙を広げて中に書いてあることを読み上げた。
 教授が読み終わった後で、ドラコがおずおずと質問した。

 「先生、今度は一体誰が……?」
 「グリフィンドール寮のハーマイオニー・グレンジャーと、レイブンクローの監督生ペネロピー・クリアウォーターだ」

 教授はいつもより数段苦々しげな顔でそういった。

 「ともかく、ホグワーツはまったくもって危険である」

 こほん、と咳払いをした後、教授は僕に目配せをして、肖像画の裏の穴から出て行った。

 「………の具合はどうなのだ?」
 「…外に出たくないようです」
 「……そうか……」
 「教授、教授はが犯人だとでも思っているのですか?」
 「その可能性はあるだろう?」
 「……ええ。ですが、よく考えても見てください。もしも僕が秘密の部屋を開けることができるとしたなら……あくまで、もしもの話ですが……僕は2年生のときに秘密の部屋を開けようとは考えません。いくら知識があるといったって、2年生じゃあ魔力も体力もたかが知れているじゃないですか。僕が犯人なら待ちます」

 これだけは言っておきます、と僕は続けた。

 「は犯人じゃありません」

 教授はしばらく僕の目を見ていたが、そのうちにやりと笑った。
 その笑みにどんな理由があるのか僕には分からなかったけど、そのまま教授はローブを翻して立ち去ったので、信じてもらえたんだろうと勝手に解釈することにした。






 そして翌日から、校長はホグワーツに姿を現さなくなった。






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 視点。
 ハーマイオニーが石化。そして校長は定職…と。
 どうも、が絡んでないと話が重くなっちゃう……(苦笑)