胸の痛み
もう三日もは目を覚ましていない。
俺は毎日、の寝ているベッドの周りをくるくると回る。
時々は苦しそうにうなったり寝返りを打ったりするんだけど、目を覚ます気配は一向にない。
おかしいな。
あの時リドルは、ただ手刀をあてただけなのに。
気絶するとはいっても…三日も寝込むほど重症なんだろうか。
が心配だ。
時々、苦しそうな表情をするの頬を、ぺろぺろと舌で舐めてみるけれど、は目を覚まさない。
これには、リドルでさえ驚いているようで、何時間かおきにはの様子を見にやってくる。
お昼を過ぎたあたりだろうか。
が急に目を開けて起き上がったんだ。
上半身をベッドから起こして、左手で自分の頭を抱えた状態で。
俺は、嬉しくなっての上に飛び乗った。
「……?」
一瞬驚いて俺を見つめた後、はいつものように俺を優しく抱きしめてくれた。
三日ぶりに感じるのぬくもりに俺は大満足だった。
「、僕が気絶してからどのくらい時間が経ったの?リドルが何かしなかった?僕……僕……」
は起きたばかりで少々混乱していた。
そっとの頬を舐めると、はため息をついて俺の鬣をなで始めた。
そしてつぶやいた。
俺には理解できない言葉……おそらく、夢のお告げであろう。
「鏡の中に浮かび上がるは美しく可憐な花。時に強く時に冷たく咲き誇る花……今、散りゆく」
は顔色が悪くて、なんだか深く悩んでいるようだった。
、、と俺の名を呼んではしきりに俺のぬくもりを確かめているみたいだった。
なんか、ちょっと様子が違った。
そんな時、リドルがやってきた。
「やっと起きたんだ」
安心したようなあきれたようなその声に、は振り向いて、それからキッとリドルをにらみつけた。
「目覚めの挨拶代わりにその視線はないんじゃないかな」
苦笑したリドルは、の寝ているベッドの横に椅子を取り出して、そこに優雅に腰掛けた。
リドルの世界では何でもありなようだ。
「…ハーマイオニーに、何かしたでしょ」
「……誰?」
「…………栗色の髪のふわふわした女の子……」
「ああ、あの……」
リドルは手をぽんと叩いて笑顔になった。
はますます顔色を悪くして、側に座っているリドルをきつくにらみつけた。
でもリドルは動じていないみたいだった。
「何したの?まさか殺したんじゃ……」
「人聞きの悪いこというなぁ。殺してはいないよ」
「……もしかして……」
くすくす笑うリドルの顔。
ハーマイオニーを石化させたんじゃ……
今回は俺にも理解できた。
なんだか、嫌な気分になって、リドルに噛み付いてやろうかと思ったよ。
「…………………っ……………最低……」
涙目っぽくなったは、リドルにしがみついた。
これは、俺も予想外の出来事だった。
「友達がいるって言ったのに……ハーマイオニーは大切な友達だ。ううん。ハーマイオニーだけじゃなくみんな大切な友達だ……」
かすれた声でがそういっていた。
リドルは、少々困った顔をしたあとで、の髪をなでながら冷たく言い放った。
「君には友達なんて必要ない……僕は前にそう言った。闇の帝王の後継者に友達は必要ない」
「……最低……」
は力なくつぶやいていた。
俺にはどうすることも出来なかった。
の気持ち、痛いほどよくわかった。俺にも伝わってきて、俺の心もずきずき痛んだ。
「……そのうち分かるさ」
「……分かりたくなんかないよ……」
「君は、僕の本体の後継者だ。いずれ僕の言葉を理解するときが来る」
リドルの手は、温かかった。
僕から魔力を奪って具現化している……ただの記憶なのに。
リドルの手は、温かかった。
何度も同じような夢を見たんだ。
鏡と、綺麗な花が二つ。
僕の目の前で鏡は砕け散り、花は散った。
一つの花は、ハーマイオニーを表した花だった。
ハーマイオニーが石化したんだって、僕は直感したんだ。
友達がいるって言ったのに。
僕があくまで傍観者でいるって決めたのは、大切な友達がいるからだったんだ。
協力することも邪魔をすることもいくらでも出来た。
でも、傍観者でいることを選んだんだ。
まさか、ハーマイオニーの身に何かあるなんて。
もしか、僕がこの場にいなかったらハーマイオニーを助けることが出来たかもしれないんだ。
僕はまた過ちを犯したんだ。
もう、どうしていいか分からないよ。
思わずリドルにしがみついた。
涙を見せたくなかったのかもしれないな。
リドルは僕を振り払うだろう…そんな風に考えていたけれど、意外にもリドルの手は僕を包み込んでくれた。
今まで感じたことのない温かさだった。
リドルは…僕の大切な友達を傷つけてる。
それなのに、何でこんなにあったかいの……?
「そのうち理解するときが来るよ」
駄々をこねた弟をあやすみたいにリドルは囁いていた。
父上…って言うよりは、兄上みたいな感覚だった。
「理解なんか……したくない」
息が詰まりそうになりながら僕はそういうんだ。
いずれ理解しなくちゃいけないときが来るんだとしても、それは今じゃないから。
大切な大切な友人を傷つけられたんだから……やっぱり、辛くなるよね。
駄々をこねて、ずっとリドルにあやしてもらっていた。
それこそ小さな子どもみたいに…ね。
リドルは何も言わずに僕の髪をなでていた。
僕はどうしたらいいんだろう。
しばらく泣いていたが、急におとなしくなった。
そっと見てみたら、僕の腕の中で泣き疲れて眠っているじゃないか。
やっぱりまだ子どもだね。
苦笑しながらをベッドの中に戻す。
いずれ理解する時が来るんだ。
この程度の辛さは自分で乗り越えていくしかないんだよ。
眠ってしまったを、ペットの紅獅子に預けて僕は次の準備に取り掛かる。
これからが大切なんだから。
の涙を見たら、以前がみせた涙を思い出して、僕は苦笑した。
やっぱりは、の血を引いている。
それも、色濃く……ね。
いいさ、今は泣いてもいい。
そのうち理解する時が来るんだから。
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番外編ぽく。
の苦悩を描いてみました。
は優しいから、きっと泣く。
で、リドルはに甘いから、弟みたいに扱ってくれる(笑)