巨大蜘蛛


 グリフィンドールの生徒とレイブンクローの生徒が石化した。
 そのことで、ダンブルドア校長が校長職定職となりホグワーツから去った。
 そして、50年前に秘密の部屋を開けたと言われている、森の番人ハグリッドもどこかへ連れて行かれた。

 ホグワーツ内には恐怖が広がっていた。



 当然、夜中に一人で出歩くなどもってのほかであった。
 廊下は絶えず教師たちが巡回をして、姿見えぬ怪物に警戒していたし、こんな時間に部屋から出ようものならどんな罰則が待っているか知れなかった。

 僕だって、がいないのに一人で外に出回るなんて事はしない。
 それに、こんなときに見つかって原点や罰則を受けたいとは思わないからね。
 ただ、ちょっと小耳に挟んだ噂が気になっていたんだ。
 それは、グリフィンドール寮のハリー・ポッターとロナウド・ウィーズリーが、今夜何かを探しに禁じられた森に行くんではないかって言う噂だった。
 でも、そんな噂を聞いても誰も確かめにいこうなんて思わないだろうし、大体、この警戒されているホグワーツ内を真夜中に抜け出すなんて無理があるんだ。
 そんな風に考えていたんだけど……やっぱり気になった。



 そこで僕は、談話室での雑談に加わらず、部屋に入って寝た…
 ということにしてそっと窓から箒で飛び立ったんだ。
 おそらくハリー・ポッターたちが真夜中に訪れるであろう、森の番人の屋敷近くに…ね。









 夜の十二時を過ぎた頃、誰もいないのに小屋の扉が開いたんだ。
 これには僕もびっくりしたよ。
 気づかれないよう、鏡を使って小屋の中をのぞくと、ハリー・ポッターたちが犬と戯れていた。
 それから、何か布を机の上において…犬を連れて禁じられた森へと向かって歩いていった。
 ほんの少しの明かりを出して。

 僕は気づかれないように後を追った。
 足音を立てないよう細心の注意を払ったけれど、二人の意識は別のところにそれているみたいだったので、二人の足音とばらばらに僕の足音が森の中に響いても、二人はまったく気がつかなかったみたいだった。
 こんな真夜中に一体何を探しているんだろう。
 興味本位で二人のあとをつけていった。


 僕は、彼らに関わりたいとは思っていない。
 ただ、を助けるために、に協力するために出来る限りのことをしたいと思っているんだ。
 だから、あえて彼らの後をつける。
 もしかしたら秘密の部屋の手がかりが見つかるかもしれないから。


 途中でがさがさと大きな音がした。
 驚いてみんな一斉に止まったけど、結局それは、始業式の日にハリー・ポッターとロナウド・ウィーズリーが乗ってきた空飛ぶ車が野生化したものだった。











 そして、そのあとだった。
 大きな蜘蛛が何匹もやってきて、あっという間に僕も含め全員を捕らえてしまったのだ。

 「っ?!」
 「なんで君がこんなところに?!」

 僕の姿を見た二人の驚きようといったらなかったよ。
 とはいえ、僕は他寮の生徒に興味はないし関わりたくもない。
 僕がここにきたのはひとえにのためであって、こいつらのためじゃない。
 いつもどおり、僕は何も言わずに蜘蛛たちをじっと見つめていた。

 やがて、靄のような蜘蛛の巣のドームの真ん中から、小型の像ほどもある蜘蛛がゆらりと現れた。
 ずいぶんと歳を取っているみたいで、体毛には白い毛が混じり、鋏のついた醜い頭にはもう見えなくなってしまったであろう、白濁した目が八つついていた。

 「何のようだ?」
 「人間です」

 ハリー・ポッターを捕まえた巨大蜘蛛が答えた。

 「ハグリッドか?」
 「知らない人間です」

 ロナウド・ウィーズリーを運んだ蜘蛛が、かしゃかしゃ言った。

 「殺せ

 蜘蛛は鋏をならしながらそう言っていた。

 「待って」

 殺されるということにさして恐怖は感じなかったのだが、ここで僕が死んだらを助けるものがいなくなってしまうんじゃないかって…そんな気がして、僕の口から自然に言葉が出た。
 ハリー・ポッターが驚いた表情で僕を見ていた。
 おそらく彼も、何か言おうとしていたんだろう。

 「…五十年前に…秘密の部屋の中の怪物だといって、貴方はこの地に追いやられたのではないですか?五十年前、森の番人のハグリッドは、秘密の部屋を開けた罪で学校を退学させられている…そうですよね」
 「……何が言いたい?」

 八つの目が、うつろに動いていた。
 しきりに僕がどこにいるのかを探そうとしているらしい。

 「…五十年前と同じことが、今ホグワーツで起こっています」

 残りの二人が息を切らしているのが聞こえた。

 「そう!そうなんです。ハグリッドが今大変なんですっ!」

 ハリー・ポッターがそういった。

 「それで、僕たちが来たんです」
 「…秘密の部屋について、もし何か知っているなら教えてほしい。僕の友人が少々厄介なことになっていてね。ハグリッドがこの地に戻ってくるのも、秘密の部屋を開いた真犯人が見つからないとだめなんだ」

 盲目の蜘蛛は低く唸った。

 「城に住むそのものは……わしら蜘蛛の仲間が何よりも恐れる、太古の生き物だ。その怪物が、城の中を動き回っている気配を感じたとき、わしを外に出してくれと、ハグリッドにどんなに必死で頼んだか、よく覚えている」  「一体その生き物は?」

 ハリー・ポッターが急き込んでたずねた。
 僕は頭を抱えた。

 蜘蛛の仲間にそれを聞くか?
 そんな質問をしたら相手が怒るじゃないか。
 そんなことも分からないで……だから、苦手なんだ。好きじゃない。
 ほんの少し考えれば分かることを、考えもせずに口にするんだから……

 「わしらはその生き物の話をしない!

 蜘蛛が激しく言った。

 「わしらはその名前さえ口にしない!ハグリッドに何度も聞かれたが、わしはその恐ろしい生き物の名前を決してはグリッドに教えはしなかった」

 流石のハリー・ポッターでさえ、蜘蛛の迫力に負けたのかそれ以上追及はしなかった。
 巨大な蜘蛛たちが、四方八方から詰め寄ってきていた。
 どうやら、この状況はあまりよくない。
 盲目の蜘蛛は、放すのに疲れたようでゆっくりと蜘蛛の巣のドームへと戻っていった。
 だけど、仲間の蜘蛛はじりっじりっと僕らに詰め寄ってきていた。

 「それじゃ、僕たちは帰ります」

 ハリー・ポッターが絶望的な声で呼びかけた。
 巨大な蜘蛛のしゃがれた声が聞こえてきた。

 「帰る?それはなるまい。わしの命令で、娘や息子たちはハグリッドを傷つけはしない。しかし、わしらの真っ只中に進んでのこのこ迷い込んできた新鮮な肉を、お預けにはできまい。さらば、ハグリッドの友人よ」

 いっせいに蜘蛛が襲ってきた。
 多勢に無勢。
 それに、僕はハリー・ポッターたちの手を借りようとは思っていなかったから、いくらなんでも一人でこんなに大量の蜘蛛と戦うのは無理だと最初っから分かっていた。
 一瞬の隙を突いて蜘蛛の拘束から逃れると、僕は大きな声で言った。

 「秘密の部屋にいる怪物の名前を、今この場で叫んでもいいんだ

 蜘蛛がぴくっと反応して、いっせいに僕のほうを見た。

 「…悪いが、僕はその怪物の名前を知っているしどんなやつなのかも知っている。僕の友人が厄介なことになっていると言ったね。僕の友人は、君たちが最も嫌うその生き物を操ることさえ出来るんだ。僕は今、その友人と連絡を取ることができる。もしもこの場で僕を襲うのなら、それはそれでかまわない。ただ、そのあとは覚悟するがいい。秘密の部屋の太古の生き物は、僕の敵を取りにやってくるだろう。そして、君たちを根絶やしにする」

 蜘蛛がざわめく。
 そのすきに、ハリー・ポッターたちが逃げる。
 近くに、先ほどの車がやってきていた。

 「……おぬし……」
 「一族の存続を願うか、今この場で新鮮な肉にありつき、最終的に全てのものが死ぬか、そのどちらかだ」

 うっすら笑みを浮かべながら言った。
 蜘蛛は僕を攻撃しなくなった。

 「……その度胸、気に入った。おぬしは一体誰だ?」
 「…だ。スリザリン寮所属」

 ハリー・ポッターたちを乗せた車がどこかへ走り去ったのを確認した後僕はそう答えた。
 蜘蛛は既に僕を襲うことを諦めていた。

 「スリザリン……もしや、を知っているか?

 驚いた。
 まさか、こんな森の奥深くで生活している蜘蛛がの名を知っているなんて思いもしなかったんだ。
 いくらが禁じられた森を探検するのが好きだからとはいえ………

 「…ああ、知っている。は僕のルームメイトで……さっき、厄介なことになっているって言ったのはのことさ。が大変なことになっているんだ」

 蜘蛛は、先にそれを言え、と言いたげに首をもたげて僕を見た。

 「何もの友人なら襲ったりしなかったものを」
 「……何故を知っているんだ?」
 「…なんてことはない。はわしらに友好的に接してくれている。昔、ハグリッドがわしに与えてくれたホグワーツの食べ物を時々差し入れてくれての。わしらはをとても信頼している」

 なんだ、そうだったのか、と僕は笑みをこぼした。
 さすがだ。

 「森の出口まで送っていってやりなさい。くれぐれも丁寧に扱うんだ」

 盲目の蜘蛛の命令で、若い蜘蛛が数匹、僕を連れて森の外まで運んでくれることになった。
 本当にいい友人を持ったと、に感謝しなければらないな。










 気づかれないように寮に戻った僕は、今日の出来事を、日記の切れ端を通してに伝えた。
 返事が返ってくるとは思っていなかったから、待ちくたびれて眠っていたニトを抱いて、僕は眠りにつくことにした。
 それにしても、長い夜だった。






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 アラゴグとは仲良しです。
 というより、禁じられた森の生物が、を襲うことはありません。