その後の日記


 寮に戻ってきた。
 数ヶ月ぶりに入った自分の部屋は、自分の部屋みたいじゃなくてなんだか変な感じがした。
 とお風呂に入って汚れを綺麗に落として、食事もしないでベッドに寝転がる。

 しばらくしたら、の寝息が聞こえてきた。
 ずっと僕のことを想っててくれた友人に感謝して、僕は起き上がった。


 しばらく使わなかった椅子と机。
 腰掛けたら、ひんやり冷たかった。

 さっきもらったばかりの日記を取り出して、机の上に置く。
 バジリスクの牙でどろどろになった日記。
 今回の事件の、すべての元凶の日記。

 すっと杖を取り出して、呪文をかける。

 見る見るうちに、日記は元の形になる。
 穴も開いていない。
 日に焼けて黄ばんだ紙の、T・M・リドルと書かれた普通の日記帳に戻る。
 …と、僕の体から魔力が抜けていくのが分かる。

 リドルが顔を出した。

 「……、……」
 「ついさっきぶりの再会だね」

 にこっと微笑んだら、リドルはバツが悪そうな顔をしていた。

 そうだよね。
 ハリーに倒されちゃったんだから。
 本当だったらもう存在しえないはずなんだよね。
 分かってる…
 本当はこんなことしちゃいけないの、分かってるんだ。
 でも、ジニーみたいな子にこの日記が渡るより、僕がこの日記を持っていたほうがいくらか安全だ。
 …きっと僕はそんな風に想ったんだと思う。

 「君って、頭がいいのか悪いのかわかんないよ」
 「……うん。自分でもそう想うよ」

 僕は苦笑してそう答えた。

 「僕がもう一度何かたくらむって事を君は分からなかったのかい?僕を復活させたら……」
 「…大丈夫だよ。リドルの日記は、僕の手元を放れることはないから」

 にこっと微笑んだ。
 リドルが、なんだか妙な顔をした。

 「僕ね、想ったんだ」

 リドルに椅子を勧めながら僕は話し出した。
 が、リドルを見つめて驚きながらも、その足に擦り寄っているのに、僕のほうが驚いたよ。

 「最初、リドルのところに行ったとき、助かったって二度とこの日記を開けることはないって想ってた。結構憎んでたんだ。外界から隔離されたあの空間じゃぁ、気が狂いそうだったから」

 リドルは何にも言わなかった。

 「でも、リドルの話を聞いてたら、そんなこと分からなくなっちゃった。リドルがどうして闇に染まったのか…とか、ホグワーツでどんな生活をしてきたのか…とか。いろんな話を聞いてたら、なんか…愛着湧いちゃったっていうか、なんていうか……」

 結局僕は日記を元の姿に戻して、こうやってリドルと対談してる。
 リドルと一緒にいると、安心できるって言うのもあったのかもしれないな。
 リドルの手はあったかかったし。

 「もしも本体が君に接触すれば、新たに記憶が蓄積されていくんだよね…?」
 「ああ」
 「…じゃあさ、もしも君の本体が君に接したとき、君に別の記憶があったとしたら……例えば、今回の事件のようにね。本体は直接関わっていない記憶があったとしたら……その記憶はどうなるの……?」
 「僕と本体は一緒だからね。本体が接触してきたとき、本体の知らない僕の中にある記憶は、本体に受け継がれるさ」

 それを聞いて僕はにっこり微笑んだ。

 「じゃあやっぱり、僕はリドルと一緒にいることにするよ」
 「日記の中で?」
 「まさか。僕がずっとリドルの日記を持ち歩くんだ」

 リドルは苦笑していた。

 「なんで?」
 「…僕は父親を知らないんだ。逆に、父も僕を知らないだろう?どんなことを想ってるのかとかどんな風に成長してきたのかとか。でも、今僕の目の前には父の記憶がいる。本体に接触すれば、確実に僕の記憶が父親の中に注がれるだろう?そしたら、なんだか嬉しいじゃないか。だから…一緒にいたいんだ」

 リドルって兄上みたいだしねって微笑んだら、リドルは綺麗な手で僕の頭をなでた。

 「時々、の考えていることが分からないよ」
 「僕だって、リドルの考えていることは分からないよ」


 「「よろしく」」


 二人同時にそういって、笑った。
 やっぱり、僕にはリドルみたいな人が必要なんだって想った。


















 それから時はめまぐるしく過ぎていった。
 僕たちは、なんだか訳が分からないまま、また夏休みになった。
 特急に乗って、この地を去る日が来たんだ。

 汽車はすぐに僕たちをホグワーツから引き離し、あっという間にロンドンについてしまった。

 「それじゃ、。今年もまたパーティーがあるから、そのときは是非遊びに来てくれ」
 「うん、ありがとう。僕も、にお手紙書くね。なんだか、やっと再会したのにまた2ヶ月以上待たなくちゃいけないのって寂しいな」

 軽く抱擁を交わしてから、僕とはそれぞれ迎えに来た人のところへ急ぐ。
 のところは、いつものとおり使用人の数人が来てた。

 そして僕は……

 「母上っ!」

 全然変わってない母上が迎えに来てた。
 と意気揚々と駆けていく。

 「……あら、貴方……」

 なんでもないわ、って母上は微笑んでくれた。

 また、長い夏休みが始まるんだ。
 今年は、僕だけじゃない。
 リドルも一緒に……ね。






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 リドルは、と一緒に行動します。
 リドルの日記は小さくして、が身に着けます。
 さて、これから夏休みです……