魔力の同調


 眠りについていたんだけど、なんだか妙な胸騒ぎがして目が覚めてしまった。
 目を瞑っても睡魔が僕を襲ってくることはなかった。
 仕方がないから気分転換にと、厨房のある大広間に行ってみることにした。

 「あら、貴方も来たのね、ゴドリック。紅茶ならすぐに入るけど」
 「ああ、もらうよ、ロウェナ。どうも寝付けなくてね」
 「私もなのよ。なんだかまだ寝ちゃいけないって言われているみたいな感じがするの」

 大広間には、先客がいた。
 ロウェナ・レイブンクローとヘルガ・ハッフルパフ。
 二人ともホグワーツ創設のために協力してくれた、僕の大切な仲間さ。
 ロウェナが入れてくれた紅茶に一口口をつけながら、しばらく待ってみる。
 こうやって僕ら全員が寝付けないってことは、おそらくここにいないもう一人ももう少ししたらやってくるってことだから。



 案の定、サラザールはやってきた。
 いつものとおり黒いローブに身を包み、隙のない、誰も寄せ付けないような歩き方をして入ってきた。
 そしてその後ろから、2人の少年と紅獅子が入ってきた。

 「……………サラザール…………」

 しばらく誰も口を利かなかった。
 最初に口を開いたのはロウェナで、あきれたようなため息をついていた。

 「サラザール。自分の分身を作って何が楽しいの?」

 サラザールは、ロウェナの顔をチラッと見て、ふんっと鼻を鳴らすといつもの席に腰掛けた。
 後ろにいる少年たちは周りを物珍しげに眺めているだけで何もしない。

 「侵入者だ。分身など作る趣味はない」
 「侵入者って…まだ子どもじゃない」

 ヘルガがそういった。
 確かにまだ子どもだった。
 おそらく兄弟なんだろう。
 二人とも黒髪に紅い瞳、色白の肌をしていて華奢な体つきをしていた。

 「君たち、どこから来たの?」

 不意の客人に、ヘルガが戸惑いながらも笑顔で椅子を勧める。
 でもその二人は座ろうとはしなかった。
 背の低いほうが口を開いた。

 「僕たち…行く場所がないんだ。いつの間にかここにいた。建物があったから中で暖をとろうと思って」

 おびえているような感じでそういった。

 「でもまだ子どもだろう?親はどうした?」

 僕がそう聞いた。

 「……捨てられたよ」

 背の高いほうが吐き捨てるように言った。
 驚いてしまった。

 「…なんで?」
 「魔法を使う子どもは…好まれないだろう?」

 ああそうか…と、少年の言葉に納得した。
 そして、それと同時に僕は、目の前にいる子どもたちから強い魔力を感じることに気がついた。
 自分が子どもの頃ですら、こんなに強い魔力はなかったはずだ。
 きっと僕らは、彼らの持っている強い魔力に反応して、眠れなかったんだろうと推測した。

 「ここにいればいいさ」

 僕が言った。
 サラザールが一瞬、ぎろりと僕をにらんだけれどそんなことは気にしなかった。

 ここにいればいい。
 魔法使いを育てようと想って僕らは学校を創設しようと頑張っている。
 それは、この時代ではまだ、魔法使いの数は少なくて……冷たくあしらわれてしまうから。
 魔法の力を持った子どもは親からも疎まれる。
 この子達もきっとそういったことの犠牲者なんだろう……

 「そうね。ここにいればいいわ」

 驚いたことに、最初に僕の案に賛成したのはロウェナだった。
 いつも慎重に事を運ぶロウェナがこれほど速く決断をするのは珍しいことだった。

 「そうだね。ここだったら誰も追い出したりしないよ。みーんな、魔法使いだもの」

 ヘルガはいつものようにニコニコと微笑みながらそう言った。
 サラザールはふんっと鼻を鳴らして紅茶を飲んでいたけれど、反対しないところからすると、別にこの子どもたちをここにおいてもなんら問題ないと想っているようである。

 「おいで」

 と、僕が呼んだ。

 「とりあえず今日は僕の部屋で寝るといいよ。ゆっくり寝て、疲れを癒して、それで、明日になったらホグワーツの中を案内してあげるよ。僕たち、君たちみたいな子どもが魔法界になじめるように学校を作っている途中なんだ」























 赤茶の長い髪を後ろで無造作に縛った青年に連れられて、俺たちはとある部屋に入った。
 あったかそうないい部屋だった。
 でも、ところどころ書類や何やらが無造作に置かれているところを見ると、この青年は片付けがあまり好きではないらしい。

 「あ、名乗り忘れていたけど、僕はゴドリック。ゴドリック・グリフィンドールだ」

 とリドルに握手を求める。
 は笑顔で応じ、リドルはやや戸惑いながらそれに応じた。

 「そこにあるベッドで寝ていいからね。詳しい話は明日だ。君たち疲れているみたいだからゆっくり寝たほうがいい」

 強引に俺達をベッドに押し込める。
 が、ありがとうといって安心したような笑みを浮かべると、相手も笑顔になった。
 サラザールとか言うやつに会ったときからの緊張感が解けたのか、俺はたまっていた疲れが一気に出た感じになった。
 ひらりとベッドに乗ると、の隣で眠りにつく。
 はしばらく俺の鬣をなでてから、 おやすみ、といって目を閉じたみたいだった。


 扉のしまる音がした。


 かつかつと足音が遠ざかる。
 足音が聞こえなくなると、が起き出した。
 具現化していたリドルも、立ち上がり部屋の隅々まで歩き回ったあとでベッドのほうに戻ってきた。

 「…ゴドリック・グリフィンドールにサラザール・スリザリン。おそらく大広間にいた銀髪の女性がロウェナ・レイブンクロー。金髪の女性が、ヘルガ・ハッフルパフだ。どうやら僕たちは、ホグワーツ創設者たちと一緒にいるみたいだね」

 苦笑したというのか、笑ったというのか、リドルはそんな風に言った。

 「でも、何でいきなり何百年も遡っちゃったんだろう?」
 「……おそらく……魔力の同調だ」
 「?」

 眠い俺は目を開けず、耳だけで二人の会話を聞いていた。

 「気がついてた?の魔力、今ものすごく強くなってる」
 「え?」
 「僕がこれだけから魔力を吸い取っているって言うのに、はまったく倦怠感を感じていないだろう?それに、僕が魔力を吸い取っていなかったら既に魔力があふれているくらいに力が増幅してるんだよ」

 そういえば…と、の声が聞こえる。
 うっすら目をあけると、の腕輪が目に入った。
 それは、いつもと違う輝きを放っていて、今にも壊れそうなくらいな力を感じた。
 の魔力を制御するのにも限界があるんだろう。

 「…で、だ。同じような魔力を持ったものが、何か媒体を通して通じ合ってしまう瞬間があるそうだ。その瞬間、より魔力の強かったほうがいる場所へ連れて行かれてしまうことがある」
 「……つまり、僕は創設者の誰かと魔力の同調を起こしてしまって、こっちに連れてこられたってこと?」
 「まあ、そういうことになるね。ちなみに、と力が同調したのはサラザール・スリザリンのはず」

 僕たちには、サラザールの血が流れているんだしね、とリドルが続けた。

 「じゃあ、その媒体ってなんだろう?」
 「そこまでは僕にもちょっと分からないな」
 「そっか……」

 が寂しそうにつぶやいた。

 「帰れるのかな?」
 「どうだろうね」

 がしゅんとなった気がして、もう一度目をあけた。
 はベッドの上に座っていた。
 俺は、のひざの上に乗っての頬を舐めてやった。
 は、ぎゅっと俺を抱きしめた。

 「でも、こっちにこれたって言うことは、向こうに行くことだって出来るはずさ」
 「そっか。うん。そうだよね」
 「とりあえず、今はあせらずゆっくり考えることだね。僕たちは知らないことが多すぎるよ」
 「うん……」

 はもう一度かけ布をかけてベッドに横になると、ぎゅっと目を閉じた。
 俺も目を閉じた。
 目を閉じる前に、リドルが日記の中にすぅっと消えていくのが見えた。






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 ゴドリックはたちを受け入れています。
 細々した設定はいろいろありますが、ゴドリックは子ども好きなんです(笑)