新たな生活
翌日、俺たちが目覚めると、おいしそうな匂いが部屋の中に漂っていることに気がついた。
俺が起き上がると、すぐにも起き上がってきて、俺の鬣を梳かし始めた。
昨日の出来事は全部夢で、階段を降りるといつもと変わらずが微笑んで朝食の準備をしているんじゃないか……
一瞬そんな風に想ったけど、目の前にはまったく整理されていない書類の山ばかり。
昨日の出来事が夢でないことだけを俺に教えていた。
俺たちが目覚めたのはお昼のようで、ゴドリックやヘルガにねぼすけさんと呼ばれながら俺たちの生活はスタートした。
食事が済むと、ゴドリックがホグワーツの中を丁寧に案内してくれた。
きっかりかっきり3時間もかけて、だ。
まだ未完成のホグワーツは、ところどころ不整備な所が多かったけれど、それはそれで楽しめた。
とりわけが興味を持ったのはスリザリン寮となる場所のすぐ近くに作られた隠し部屋と、図書室だった。
図書室はまだ新しく、禁書の棚なんてものもなかったが、本の数はやっぱり多くて、普段禁書といわれていて俺たちが目に出来い本も手の届くところにたくさんあった。
図書室については、リドルもとても関心があるようで、しげしげと本一冊一冊を眺めていた。
結局俺達は、スリザリン寮の近くの隠し部屋を部屋に使わせてもらうことにした。
そこからだと、大広間へも図書室へもちょうどいい距離にあるからだ。
一通り案内してもらったあと、これから住処になるであろう部屋の中で、とリドルは同時にため息をついた。
「流石ホグワーツ……広い」
「でもまだ未完成だね」
「まあ、ね。でもまさかリドルが、アデルなんて名乗るとは想わなかったよ」
笑い声が響く。
「それじゃあ僕があの場で、トム・リドルだって名乗ったほうが良かったのかい?彼らはみんな僕らのことを兄弟かなにかだと思っているのに」
「リドルはただ、説明するのが面倒だっただけでしょう?」
がくすくす笑ってそういうと、リドルはちょっと顔をしかめた。
「…とりあえずさ」
「うん?」
「帰る方法を見つけるために、図書室に行かない?」
それはの突然の提案だった。
俺たちがここに飛ばされたのは、魔力の同調とか言う作用が起きてしまったからだそうなんだが…
帰り方がわからない。
ホグワーツで生活しながらも、やっぱりのことも気になるから速く帰りたいって言うのが俺たちの考え。
そう考えると、の提案は至極当然だった。
まさか、ここの連中に何百年も後の世界から来ました、なんて言えるわけがない。
そんなことをしたら未来が変わってしまうかもしれないじゃないか。
俺達は図書室に向かった。
どさどさどさっ
「うわっ……」
うーん……
もがいてみたけど、出られそうにないなぁ。
僕の上にはたくさん本がある。
背伸びしても届きそうにないところにある本を、ちょっとがんばってとろうと思ったら、本棚ごと倒れてきた。
ばさばさばさって本が僕の上に落ちてきて、おまけに本棚まで落ちてきたからたまったもんじゃない。
があわてて本を一つずつどかしてくれてるみたいだけど、本当に動けない。
やっぱり無理しないでリドルにとってもらえばよかったなぁ……
でも、リドルったら、興味深い本を見つけたとたんそれを手にして日記の中に戻っちゃったんだ。
呼びかけても、本を読み終わるまで出てこようとしないし……
「………何、してるんだ?」
低い声が聞こえた。
「ん?」
それは僕に向けられたものではないようだ。
たぶん外からは僕の姿は見えないと想う。
外で一生懸命本を取り去ってくれてるに向けて、誰かが言った言葉だと想うんだけど、誰だろう……
すぐにがさがさって音がして、本棚が僕の上から動いた。
本もふわふわと浮いて、元のように収まったじゃないか。
「どうもありがとう」
にっこり微笑んで顔を上げたら、そこにいたのはサラザール・スリザリンだった。
「…本を傷めるな」
「ごめんなさい。読みたい本があったんだけど、無理してとろうと思ったら本棚も一緒についてきちゃって」
はぁ、とため息をついたサラザールは、どの本が読みたいんだと聞いてきた。
「一番上の、一番左の本」
ふいっと杖を振ると、その本だけがすぅっと僕の手の上に降りてきた。
僕にはまったく知らない魔法だった。
「Mobililiber」
サラザールはそういった。
「覚えておくといい。一番上の棚にある本をとるときに、毎回埋まっていたらどうしようもないからな」
「…………」
すっ、と僕の手に渡った本をサラザールが取った。
そして、一番上の棚に戻してしまう。
「読みたければ、自分で取ってみろ」
…………
なんか、サラザールは僕の力を試しているみたいに見えた。
初めて聞いた言葉。
初めて聞いた呪文。
便利かもしれないけど……今すぐ僕が使えるんだろうか。
たった一回聞いただけで、全然練習もしないのに……
ちょっと不安だったけど、杖を構えて言ってみる。
「Mobililiber」
ふわふわと、僕の指定した本が棚から僕の手元にやってきた。
少し嬉しかった。
…そのとき僕は、サラザールが目を細めて頷いていることに気がついた。
この人はよくわからない。
ヘルガやゴドリックは優しくて近づきたくなるあったかい人だけど。
ロウェナは聡明な人で、いろいろなことを知ってる。
だけど、サラザールだけはよくわからないんだ。
「これ、借りてもいい?部屋に帰って読みたいんだ」
「ちゃんと元の場所に戻すならかまわない」
「ありがとう」
お礼を言ってその場を去ろうと想ったら、サラザールに止められた。
「あとで、部屋に来い」
彼はぶっきらぼうにそういった。
その言葉の意味はよくわからなかったけど、わかったと頷いて、僕は図書室を後にした。
僕が読みたかった本。
時空移動に関する本。
きっとサラザールはタイトルを見ただろう。
何だろう。
なんか、変な感じ。
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図書館で、本に埋もれます(笑)
助けるのは、サラザールです。
サラザールは、についていろいろ知っている模様(笑)