つぶやき


 サラザールが連れてきた少年、
 彼が来て3日。
 既に私たちの生活は変わってきているわ。
 とりわけゴドリックとサラザールの生活が変わってきている。
 ゴドリックはをいたく気に入ったみたい。
 普段は私たちですら足を踏み入れることが出来ないゴドリックの部屋に、が入ることが出来たんですから。

 でも、はすぐにサラザールと行動を共にするようになった。
 きっとゴドリックはそれが気に食わないのね。
 しょっちゅうにちょっかいを出しては、サラザールとが共に行動するのを邪魔しているわ。
 は収支笑顔で、決してゴドリックを邪険に扱ったりしない。
 だからサラザールの作業はしばしば中断されてしまう。
 サラザールはゴドリックに苛立ちを覚えているわ。
 ……二人の関係が、崩れてしまいそうで怖い。




 私は、紅茶を片手にため息をついた。
 ここ何日か、なぜか自分の頭の中にあるホグワーツのイメージが固まらなくなってきている。
 いろんな仕掛けのある、生徒たちが見つけるのを楽しめるような…そんなお城にしたいって、ゴドリックは夢を語ってくれた。
 そのときは鮮明にイメージが浮かんできたのに……
 ここ最近はさっぱりだわ。
 私のイメージが出来上がらないとみんなの作業が中断されてしまう。
 ゴドリックはゆっくりでいいって言うけれど、早くイメージを固めてしまわなくちゃって焦ってしまって余計かたまらない。
 私の机の上にある羊皮紙には、ここ何日も書き込まれた形跡がないの。

 もう一度深くため息をつく。
 そのため息と同時に、扉をノックする音がする。
 きっちり三回。
 そして、まだ返事もしていないのに扉がキィと音を立てて開く。
 やわらかい微笑を浮かべた少年がそこにいる。

 「どうしたの?

 サラザールの服をサイズを小さくして着ているは、サラザールに見間違えてしまうほど、その服が良く似合っていた。
 がやってきて3日。
 は驚くほどやすやすとホグワーツの仕組みを理解して、私たちに溶け込んできたものだから私たちのほうが驚いているわ。
 顔には出さないけれど。

 「ロウェナ、今忙しい?」
 「いいえ。ちょうど休憩していたところよ」

 私の言葉をきくと、は微笑んで私の席と向かい合わせになるソファーに腰掛けた。
 今日は、お兄さんと一緒じゃないのね。
 そんな風に思いながら、一人分の紅茶を入れて手渡す。

 「…どうかしたの?」
 「あのさ…ロウェナは………水晶玉を持ってる?」

 紅茶を受け取りながらはそういった。

 「水晶玉…?」
 「うん。ロウェナなら持っているはずだって、サラザールが言ったから。もしもってたら貸してほしいんだ」

 水晶玉なら…
 私は棚の置くからほこりをかぶった水晶玉を取り出した。
 それを机の上に置く。

 「何に使うの?」

 まさかが水晶玉を使うなんて思っても見なかったからたずねたわ。

 「占いだよ?」

 はにっこりと微笑んだ。
 そして、サラザールの服の特徴である、黒くて長い袖から杖を取り出した。
 くるっと一振りして水晶玉を叩くと、水晶玉は何かを映し始める。
 こんなに鮮やかな占いを見たのは初めてだった。
 さっきまで微笑んでいたの顔から笑みが消え、魔法を書けることに集中し始めたのか真剣になる。
 のペットの紅獅子が、興味深げに水晶玉を覗きこむのが見えた。
 きっと私も、紅獅子と同じように水晶玉を覗きこんでいるのでしょう。
 自分が水晶玉を覗きこんでいる姿を想像して苦笑したけれど、やめられそうにないわ。

 の水晶玉の扱いは軽やかで、機敏で…見ているこっちが吸い込まれていってしまいそう。

 水晶が映し出したのは、黒い石。
 一般に黒曜石といわれている、ただの石。
 それが意味するものなんて、私には分からないけれど、きっとには分かっているのでしょう。
 こんなに幼いうちから、占い学をはじめ、たくさんの魔法を知っているなんて……
 この子は不思議だわ。
 サラザールが、この子を連れて歩く理由が、私にはわかった気がした。

 の魔力は強い。
 今はまだ自分の魔力を完全には扱えていないようだけど……
 魔力を扱う術を見につけたのなら、最高峰の魔法使いになることは間違いないでしょう。
 残念ながら、ホグワーツの完成はまだあとのこと。
 ホグワーツが完成する前に、サラザールはを育てたいと思ったのね。
 きっと。
 そしてきっと、ゴドリックも同じようなことを考えているんじゃないかしら。
 ゴドリックの場合は、単にが気に入ったって言うのも大きいでしょうけど。
 あらやだ。
 もっと早くに気がついていればよかったわ。



 しばらくすると、はふっと肩の力を抜いた。
 途端に水晶は何も映さなくなる。
 の顔にも笑顔が戻る。

 「ありがとう、ロウェナ」
 「いいえ、お安い御用よ。でもは何でも出来るのね」
 「ううん。僕はまだ見習いだよ。何にも知らないんだ」
 「……その歳で、それだけ魔法が扱えていればすばらしいわ」

 は照れたように微笑んで、それから私をじっと見つめた。

 「ねえ、ロウェナ」

 私の顔に何かついているのかしら。
 は、私ににっこり微笑んで、いたずらっぽく口を開いた。

 「僕、ロウェナが考えていること、ちょっとわかった」
 「?」
 「……焦ってるでしょ?ホグワーツの構造を担当しているのは、ロウェナだ。でも、今はイメージが固まらなくて困ってる」

 にっこり微笑んで言われた。
 まさかにまで伝わってるなんて思わなかった。

 私は苦笑して頷いた。
 さらには口を開いた。

 「水晶玉を貸してくれたお礼に、お手伝いしてあげる」

 一瞬何をするのか分からなかったけど、は私を席に座らせた。
 お互いが水晶玉をはさんで向かい合わせになるように座る。

 「うまく出来るかわからないけど……ホグワーツのイメージを魔法で僕の頭の中に送れるかな?」
 「やってみるわ」

 すっと意識を集中して、杖を振る。
 私の頭の中にある、ぼんやりとして固まらないホグワーツのイメージをに託す。

 するとどうでしょう。
 目の前にある水晶玉が私のイメージをしっかり形作って映してくれたのよ。
 きっとこれがの力なのね。

 「……こんな感じかな」
 「すごいわ。もしかして、もう少し細かいところもこんな風に表せるかしら?」
 「うん。イメージがあれば大丈夫だと思うよ」

 集中してもう一度イメージを送ると、水晶玉はまた私のイメージをよりはっきりと映してくれた。
 すごいわ……
 ああ、やっぱりの力にサラザールよりも先に気づいておくべきだったわね。
 ちょっと悔しいわ。






 イメージが固まって、私の作業は、後は紙に書き写すだけになった。
 今までのスランプが嘘みたいだった。

 「……ありがとう、

 はにっこり微笑んだだけで、部屋を後にした。
 まって、と私は追いかけた。

 「?」
 「これ。私が使うよりが使ったほうがいいみたいね」

 水晶玉を渡すと、は驚いて私を見つめた。

 「でも……」
 「いいのよ。私は占い学に精通しているわけじゃないから、そんなに水晶玉を使うことなんてないし」

 ぎゅっとに水晶玉を握らせると、は本当に無邪気に微笑んだ。

 「ありがとう、ロウェナ」
 「私のほうこそ、今日はありがとう。明日から中断していた作業がはかどりそうだわ」

 は、水晶玉をもらって笑顔で去っていった。
 おそらくこれから、サラザールのところへ行くんだと思う。

 の力はすごいと思うわ。
 だから、私が先にの力に気がつきたいと思ったけれど……
 サラザールが気づいてよかったのかもしれない。
 きっと、私じゃあを扱いこなせないような気がするの。

 さあ、ホグワーツの構造作業再開よ。






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 ロウェナは綺麗でおしとやかなお姉さんだと思ってます。
 たぶん、みんなのまとめ役。