夜空の下で
森のすぐ近くで星を見るのが、私は一番好き。
ホグワーツの空気は澄んでいるから、私が前に住んでいたところよりもたくさんの星が見えるの。
今日も、星を見に外に出かけるわ。
今日は、先客がいた。
黒髪に紅い瞳の少年。
一瞬、サラザールかと思ってしまうくらい、サラザールに良く似ているその少年は、常に紅い鬣を持つ獅子を連れて歩いてる。
3日前、急に私たちの元に現れた、ちょっと不思議な少年。
今日は、お兄さんは一緒じゃないのね。
「こんばんは。良い子はもう寝る時間だよ?」
おどけて声をかけると、は驚いて振り返って、それから微笑んでくれた。
サラザールの着ている服を、サイズを変えて身に着けているは、なんだかサラザールの幼い頃を見ているようで仕方ない。
まあ、サラザールは幼い頃も仏頂面だったんでしょうけれど。
「こんばんは、ヘルガ」
「何してるの?こんな時間まで」
「星を見にきたんだよ」
はにっこり微笑んだ。
本当に無邪気な、温かい微笑みだった。
心が温かくなる…ってこういうことなのかもしれないな……
「は天体に興味があるのかな?」
「うん……星がね、語りかけてくれるんだ。夜の空はね、明るい太陽がいなくなって、やっと自分たちの光を地上に届けることが出来て喜んでいる星たちのパーティーなんだよ。毎日毎日夜の空はがやがや言って、みんながしゃべりたいことをいっせいにしゃべってる。それに耳を傾ける人なんてほとんどいないけど……傾けてみると、いろんなことが聞けるよ」
……難しい。
の言ってるように、星を見上げてどんなに静かにしてても、聞こえるのは夏の虫の鳴き声だけ。
の言う星の囁きなんて私には聞こえない。
ってばミステリアスなんだから……
「私には聞こえないな。には聞こえるの?星の囁き」
「それぞれいろんなことを教えてくれるよ。例えば……」
空を見上げていたが不意に私のほうを見た。
暗がりの中だったけど、の肌は白いからがどこにいるのかすぐに分かる。
「……ヘルガが星を見に来るのは、何か悩んでるとき」
唐突にの口から出た言葉に私は言葉を失った。
「あれ?外れちゃった?」
ふるふると首を横に振る。
当たり。
そう、私は悩みがあると夜の星を見に来るの。
だって、星たちは何も言わないんだもの。
だまってじっと私を見てくれてる。
それは、太陽みたいに激しい光じゃなくて優しい光。
泣きたくなったときとか、寂しくなったとき、星はものすごく優しく私を照らしてくれるの。
眠れない夜は、いつも星を見に来るの。
ねえ、どうして分かっちゃったの?
ほかのみんなにも話してないのに。
「……なんで、わかったの?」
はにっこり微笑む。
「星がそう言ったの」
は……ミステリアスだ。
は、夜が良く似合う。
「やだなぁ…ほかの誰にも教えてないのに。にばれちゃうなんて思いもしなかったわ」
ふぅとため息をつくと、の笑みにつられて私も微笑んだ。
「ねえ、ほかには星はなんて言ってるの?」
「うーん……」
「なんでは星の声が聞こえるの?」
「うーん……」
「なんか、ってすごいよ」
ぎゅってを抱きしめた。
は心底驚いた表情で私を見つめていたわ。
私も、なんでそんなことをしたのかわからなかったけど、なんか、すごい人が近くにいるのを知って興奮しちゃったのよ。
私よりずっとずっと年下のが、私よりいろんなことを知ってるなんてすごいじゃない。
きっと、は魔法界を支えていくような子になるわ。
なんか、とっても嬉しかった。
「ヘ・ル・ガ。一体僕のに何してるのかな?」
わぁ、後ろからとってもとっても殺気だった声が聞こえるのは何でかしら。
きっと幻聴ね。うん、幻聴だわ。そういうことにしておきましょう。
「………返事しなくていいんですか?」
「幻聴よ、幻聴。も無視しちゃっていいからね」
「でも……」
ぐぃ
一瞬すごい力が私にかかった。
せっかくと密着していたのに、その力が過ぎ去ったあと私の隣にの温もりはなかった。
仕方なく振り向くと、そこにはゴドリックが立っていた。
引きつった笑いを浮かべているところを見ると、私とが密着していたことにお怒りのご様子。
「あれ、いつの間に来たの、ゴドリック」
「いつの間にじゃないよ、ヘルガ。ちょっとから目を離したら、すぐに変な虫がつくんだから」
「変な虫とは失礼ね。だってゴドリックみたいな腹黒い男の人より、私みたいな可愛い子と一緒のほうがいいのよ?」
「誰が可愛い子なのかな?」
「あら、聞こえなかったの?もういっぺん大きな声で言って差し上げましょうか?」
ちょっとゴドリックと言い争いをしてみる。
この程度の言い争いはいつものこと。
ただ、が来てからは、なんだかゴドリックはをいたく気に入ったみたいで、がゴドリック以外の人と行動していると結構嫉妬心をめらめらと燃やすのよね。
その嫉妬心をもろに受けているのが、サラザール。
サラザールも、ゴドリックの態度には気づいているはずなのに、いつもを後ろに連れて歩くんだから。
ゴドリックの感情を逆なでしちゃって。
はサラザールと常に一緒にいるから、ゴドリックはにちょっかいを出してはサラザールと一緒にいるのを邪魔するの。
なんだかゴドリックとサラザールの関係が悪化しそうで心配。
「こんばんは、ゴドリック」
私たちの言い争いを聞いて、はくすくす笑いながらゴドリックに挨拶した。
はどんなときでも誰かを邪険に扱ったりしない。
そこがきっと、すっきりさっぱり子ども好きのゴドリックの気に入ったところなんじゃないかって思う。
私ものこと大好きだしね。
「こんばんは、。サラザールの気味の悪い部屋で眠れないなら僕の部屋においで。歓迎するよ」
「あはは……ありがとう。でも、サラザールの部屋もなかなか居心地がいいんだよ」
「まあ、がそういうなら無理には進めないけど、サラザールの部屋に飽きたらいつでもおいで」
ほら、サラザールを意識した会話が飛び交う。
はさらりと受け流しちゃうけど、ゴドリックは内心むかむかしているんじゃないかな。
「私の名前を連呼している奴がいると思ったら、ゴドリックか」
また後ろから声がした。
いつものように、闇夜に溶け込むほど黒いローブを着込んだサラザールだった。
「待たせたな、」
ゴドリックになんてかまいもせず、を連れて森に入っていこうとしてる。
そういう態度だから、ゴドリックがむかむかしちゃうのよ。
それがサラザールなんですけどね。
「…サラザール、一体こんな夜遅くにをどこに連れて行くつもりかな?」
「関係ないだろう?」
「大いに関係あるね。こんな時間にみたいな可愛い子が出回るなんて保護者として僕は許さないんだけど?」
「いつから君はの保護者になったのだ?」
バチバチと二人の間で火花が飛んでるみたい。
で、その話題のは…といったら、ほのぼのしながら二人をのほほんと眺めているの。
「悪いんだけど、は僕のだから」
「……人を物のように言うな」
「こんな時間にを森の中に連れ出すなんて、神経がどうかしてるんじゃないのかなぁ?」
サラザールがやれやれとため息をつくの。
ゴドリックは本当にが好きみたい。
ゴドリックの気持ち、分からないでもないなあ。
一体とサラザールの間に何があったのか分からないけど、ったらいつでもサラザールと一緒にいるんだもの。
今だって、サラザールを待っていたんでしょう?
サラザールは、いいとこ取りしすぎよ。
「…貴様にかまってる暇はないんだ。行くぞ、」
ふいっとローブを翻してサラザールは森のほうへ向かって歩いていく。
でも、すぐに戻ってきてゴドリックをにらみつける。
「ゴドリック。何故貴様は我々の邪魔をするんだ」
「良い子のをこんな時間に連れ出すところを目撃してとめないやつがどこにいるんだ?それにこれから森に行って、君は何をしようって言うんだい?夜の森は危険なんだ。尚更を連れて行ってもらうわけには行かないよ」
はしっかりゴドリックに腕をつかまれててそれ以上前に進むことが出来ない。
あらあらあら……
なんだか険悪ムード。
「いい加減にしろ、ゴドリック。それに、これは君には関係ない」
ばちばちと火花が燃えるみたい。
なんか、いつも見ている喧嘩の風景なんだけど、なんか、こう……困っちゃうなぁ。
止めに入るような隙もないし……
って……思ってたら、いきなりが……
くらってして倒れた。
思わず私はの体を支えたよ。
目の前でばちばち火花を飛ばしていた二人も驚いてを覗き込む。
どうしちゃったのかな?
「、大丈夫か?」
「うーん……」
「ゴドリック。一体君は何をしたんだ」
「僕がに何をしたと思うんだい、サラザール。君こそに何かしたんだろう?」
ちょっと私はむかむかしてきてた。
「いい加減にしなさいっ!!」
大きな声で言ったら、みんなシーンって静まり返っちゃって、気まずくなっちゃった……
「ごめんなさい…ちょっと…眠くて……」
の紅獅子がに駆け寄ってる。
そうだよね。
そうやって心配するのが本当のトモダチだよね。
サラザールもゴドリックも相手に罪を擦り付けたりしてなんか大人気ないよ。
久しぶりに大声出しちゃったら、なんかすっきりしちゃったなぁ……
そのあと、はゴドリックに連れられてゴドリックの部屋に泊まったみたい。
サラザールはちょっと固い顔をしていたけど、仕方ないって思ったらしく森の中に入ってった。
は可愛いから、みんなに好かれてる。
なんか、をめぐっての喧嘩なんて大人気ないなぁ。
私も気をつけなくちゃ。
今度星を見に来るときは、と二人っきりがいいなぁ。
ゴドリックもサラザールも煩いんだもん。
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ヘルガはにっこにこした女の子です。
ゴドリックはにお熱なので、ヘルガだろうがサラザールだろうが容赦しません。
きっと、と同じ部屋で寝たこの日はにっこにこの笑顔でしょう(笑)