黒い笑み
ん………
気分が悪くて、頭が痛くて、僕は目を開けた。
自分が何をしていたのかとか、どこにいるのかとか…まったく分からなかった。
だけど、一番最初にの心配そうな瞳が飛び込んできたのと、白いベッドのシーツが見えたのとで、ここが医務室みたいな場所であることを理解した。
実は、自分がなにをしたのかなんてまったく覚えていなかった。
ただ、帰りたいって思いが強かったのだけ…覚えてる。
そっと左腕を上げて自分の額を触ってみる。
何が起きたのか分からなくて、僕は混乱しているみたいだった。
………腕輪が…ない。
がばっと起き上がると、途端に頭に激痛が走り、気分が悪くて前につんのめる形になった。
吐き気がする。
頭が痛い。
自分の手が淡く光っているのにも気がついた。
腕輪がなくて…僕は、自分の魔力を抑えきれてないんだ。
「大丈夫か?」
心配そうな声が耳に入る。
顔を上げると、赤茶の髪が目に入った。
「…ゴドリック……」
「気がついたみたいだな。良かった。一体何があったんだ?」
「ゴドリック。そんなにせかして質問しないの。はい、。ココアでも飲んで落ち着いて」
急かすゴドリックをロウェナが優しく制し、温かいココアを僕に渡した。
それを受け取ると、ホグワーツでと飲んだココアを思い出した。
…… 今、この場には決して現れない僕の友人。
ぽろぽろと涙がこぼれた。
やっぱり、僕は帰りたい。
「ちょっ…なっ……?!」
ゴドリックの声が聞こえたけど、なんか、どうでも良くなっちゃった。
帰りたいんだってまた思った。
そうしたら、体が熱くなって、急に自分の体が放っている光が強くなった。
以前にもこんなことがあったなぁ……
ゆっくり深呼吸すると、その光はやや収まったけど、完全に消えてくれることはなかった。
やっぱり、腕輪がないと魔力をコントロールすることが出来ないよ。
「…あれ、なんでの体光ってるの?」
「あ、ほんとだ」
「………………」
やっぱり、みんなに見えるんだ。
僕、魔法を制御できてないなんていえないよ。
すっと、僕の上に乗ってきたの背中をなでながらそう思った。
すぐ横にはリドルもいるから、たぶんリドルが僕の魔力をある程度吸い取っているんだろうと察しがついたけど……
それにしたって、僕の体からは魔力があふれすぎてるよ。
「……ねえ、もしかして、最近しっかり寝てないんじゃない?」
おずおずとヘルガがそう尋ねた。
「朝から夜からずっと図書室にいるの、私知ってるよ?」
「そういえばそうね。夜中までの部屋から作業をしているのを感じるわ」
「もしかして、体調悪かったりしない?」
ヘルガの冷たい手が僕の額に当たる。
それは、ひんやりとしていて気持ちが良かった。
「……、熱あるみたいだね」
「なっ……」
ゴドリックが上ずった声を上げるのに、僕はくすくす笑った。
視界はぼーっとしてたけど、ね。
「それじゃ、はここでしっかり寝たほうがいいわ」
「何か、おいしいもの作ってきてあげるよ。私ののためにね」
「…ヘルガ、僕も手伝うよ。僕ののためにね」
「あら、は私のよ?」
「僕の可愛いに、トカゲの尻尾を食べさせるわけには行かないからね」
「あーら、私がいつトカゲの尻尾なんて料理に出しました?トカゲの尻尾を出したのは、サラザールよ?」
ゴドリックとヘルガはいつものとおりなんだか討論してた。
するとロウェナが二人の首根っこをつかんで、部屋の外に放り出した。
煩いって言いながらね。
それから、ロウェナも何か準備することがある…とか言ってどこかに行ってしまった。
部屋には、さっきからずっと何もしゃべらないサラザールと僕と、リドルとが残ってた。
「魔力抑制装置になんぞ頼っているから、こういうことになるんだ」
しばらく何も言わなかったサラザールが、急に口を開いてそういった。
僕は、サラザールの言葉の意味が分からなくて、サラザールをじっと見つめた。
「己の魔力を、道具を頼らなくては制御できないようでは魔法使いとは呼べぬ」
「………………」
分かってる。
でももう少し体が成長しないとそれは無理だって……
「……でも、じゃあ……僕はどうすればいいの?」
「自分で魔力が操れるように訓練するんだな」
「…………」
ふっとサラザールの口元が緩んだ。
「とりあえず、寝ろ。疲れをしっかり取ったら私の部屋を訪れるがいい。誰も教えてやらぬとは言っていないのだから」
ああ、そうか………
にっこり微笑んでから、僕は目を閉じた。
のぬくもりを感じながら。
「何も難しいことはない」
サラザールはそういった。
「常に精神を落ち着けておけばいいんだからな」
そういえば、サラザールがいつも落ち着き払っているのはこのせいなのかなとか思いながらサラザールの話を聞いていた。
常に精神を落ち着けておけば、僕はあの腕輪がなくても魔法がコントロールできるようになるんだろうか。
とりあえず、深く深呼吸をしてみる。
僕の体の回りの光がすぅっと消えていく。
「あ……」
サラザールが目を細めて頷いている。
それは、彼が満足している証拠らしい。
これくらいなら、簡単だな…って思った矢先だった。
サラザールの杖が、僕の首にぶら下がっているリドルの日記帳を取ってしまった。
「なっ……」
声を上げたとたんに体から光があふれ出す。
隠し部屋をばらばらにしてしまったのは僕の力だってさっきサラザールが言ってた。
まさかサラザールの部屋までばらばらにしてしまうわけにはいかないじゃないか。
必死で感情を抑える。
しばらく、体は光っていたけど、だんだんその光は収まってきた。
ふぅ…とため息をつく。
僕の力が収まるのを確認すると、サラザールは日記帳を返してくれた。
「焦らぬことだな。何か起こったときにすぐにあわててしまうようでは魔力などコントロールできない」
サラザールがふっと笑う。
笑う。
その笑みが黒い。
「今日から魔力抑制装置のないまま生活してみろ。いつ何時どんなことが起こるかわからないからな」
…………
つまり……
いつ何時、僕に攻撃を仕掛けるかわからない…ってことなんだろうか……
「何が起きても冷静に対処できるようになるにはそれくらいしないとな」
サラザール……
盛大にため息をついた僕を、サラザールはこの上ない笑みで見つめていた。
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自分の魔力は自分でコントロールしましょう(笑)