ほんの少しの


 部屋を盛大に吹っ飛ばしてしまってから、一週間。
 は変わった。
 何も、姿かたちが変わったとか、性格が悪くなったとか、笑顔がなくなったとかそんなことではない。
 いつものとおりはニコニコした笑顔で俺と一緒にいるし、いつものとおりみんなのことを考えるしやさしい。
 ただ……
 どんなことがおきても動じなくなった。
 っていうのかな。
 は変わった。


 最初のうち、朝食の時間に大広間に下りていくときに、いきなり動く階段が急に動いて階段を踏み外して落ちてしまったときなんかは、の魔力が爆発してロウェナががんばって作った階段を全部吹っ飛ばしてしまったり、ヘルガと箒で空の散歩中に、後ろからそれこそ猛烈な破壊力を持った丸太の頭めがけて飛んできての魔力がまたまた爆発して、ヘルガと一緒に地面に勢いよく叩きつけられたり……

 まあ、最初のうちはいろいろあった。

 ゴドリックとニコニコ笑顔でお茶しているときに、の飲んでいたココアが急にヘビに変わって、驚いたが爆発してしまってゴドリックがココアまみれになった……ってのもあったな。
 このときは俺も被害を被ったけど……の成長のためだと我慢した。
 お風呂に入っていたら、いつの間にか大浴場から中庭に飛ばされてたなんてこともあって、は爆発しまくってたけど…

 それも、最初の三日くらいだった。
 最近はもう何事にも動じなくなってきて、いつでも笑顔でかわせるようになってきている。




 「……、右側によけたほうがいいよ」

 ほら、言ってる側からが俺に指示を出す。
 俺は黙って右側によける。
 も笑顔でかわす。

 ちょうどさっきまでがいた場所に、巨大なヘビがたくさん落ちてきたではないか。

 最初のうちははもうすごく驚いて、この辺がばらばらになるくらい力を爆発させてたけど、今はそうでもない。

 「…またヘビか……」

 なんていいながら、ふいってヘビを宙に浮かせて、おそらくサラザールのいるんであろう場所に向かって投げる。
 なんだかの黒さが増してきている気がする今日この頃だ。



 でも、この生活はなかなか緊張感があって俺は好きだ。
 いつどこから誰の攻撃が来るかわからない。
 でも、それを冷静に対処できるようになったら、きっとあとでその力はとっても役に立つと思うんだ。

 「あ、見つけた」

 図書室に入ったはすぐにお目当ての本を見つけたみたいだ。
 ついこの間図書室に設置されたばかりの机に本を数冊置くと、もってきた羊皮紙を広げながらは席につく。
 俺はの足元に寝そべる。

 は、長い足を組みながら、本を読んだり、羊皮紙に何かを記入していたりする。

 「……そうか……なるほど……」

 時々頷きながら何かを書き込む。
 あの日以来、は何か吹っ切れたようで、日々研究にいそしんでいるみたいだった。
 日記からリドルがふわっと現れ、の向かい側の席に腰掛ける。

 「何かわかった?」
 「…少し。時空間を移動するのには、莫大なエネルギーが必要。そのエネルギーが何なのかはわかった」
 「……?」
 「天体からエネルギーを分けてもらうんだ。星のもっている力は僕らが考えている以上に強いからね」
 「なるほどね」
 「だけど……媒体がないといけないんだ」

 その媒体がわからない、とがため息をついた。
 俺達は着々と帰るところに近づいているようで、一番最初の問題が片付いていない。
 ずっと同じ場所にいる。


 ……と。
 何か危ない気配を感じて振り向くと、めがけて大量の本が飛んでくるじゃないか。
 、危ないっ……
 と、思ったけど、は振り向きもしなかった。
 ただ、本はに当たる直前で、何か見えない壁にぶつかったかのようにべちんとそれはそれはもう痛そうな音をだして地面に落ちた。
 そして、やっぱりは振り向きもせず、杖も使わずその本たちをもとあった本棚へと戻してしまったのだった。
 これには俺も驚いた。

 「……
 「うん?」
 「今、杖を使わなかったよね?」
 「あ、そういえばそうだね」

 にっこり微笑んだに、リドルが盛大にため息をつく。

 「本来、僕たちは杖を使わないと魔法はほとんど使えないはずなんだけどなぁ?」
 「…そういえば、どうして使えるようになったんだろうね」

 まったく疑問に思わず、は勝手にその力を身につけていた。
 杖を使う必要も無く、自分の魔力を操れるようになっていたのである。
 サラザールに拍手、だな。

 「まあ、これもきっと能力の内なんだよ」

 そんな風にほのぼの微笑んだは、また本に目を通し始める。
 リドルもため息をついたけど、結局気にしないことにしたらしく、の書いている羊皮紙を覗き込んでいた。
 俺はあくびを一つして、目を閉じる。






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 ちょっと短め。
 は魔法を操れるようになりました(笑)