バジリスク


 「だ・か・らっ!味よりも見た目よりも、丹精こめて作るって事が大事なんだっ!」
 「時間ばかりかかるではないか。我々は何のために魔法を持っているのだ?」
 「生活のすべてを魔法に頼っていいのか?!」

 大広間から威勢のいい声が響く。
 いつものこと。
 それは日常の光景。

 今日の食事当番はゴドリックとサラザール。
 なぜかは分からないけれど、最近この二人の喧嘩が目立つ。
 ロウェナもヘルガもまったく相手にしていないように振舞っているけれど、みんな内心おろおろしているはず。
 ゴドリックもサラザールも魔力が強いから。

 昼食の準備はなかなか進まない。

 サラザールの主張は魔法でさっさと作ればいいってこと。
 ゴドリックの主張は、手作りがいいってこと。
 どちらにもメリットデメリットがあるんだろうけれど…どっちも頑固だから全然引こうとしない。

 「………ねえ、おなかすいた」

 そこで僕がひと言言う。
 喧嘩の内容や、どっちがよりいいかなんてどうでもいいんだ。
 僕は、本当におなかがすいてて。
 それを聞いたゴドリックがあわてて魔法を使いながら料理を作るのを見て、サラザールが勝ち誇ったように笑む。
 ゴドリックはサラザールをキッとにらみつける。
 もう、どっちでもいいのにね。



 ゴドリックが怒っているのには理由がある。
 サラザールは自分の計画を他人に話さないでいつも一人で推し進めちゃうから、みんなとの間に隔たりが出来てしまうんだ。

 そして僕には、ゴドリックが怒っている理由が分かる。
















 それは、数日前のことだった。
 いつものようにサラザールと森に出かけた僕は、サラザールがいつもよりももっと森の奥深くに入っていくことに気がついた。
 サラザールがいれば、森の住人たちだってうかつに手を出すことはないから、危険については心配しなかったけど、どうして普段と違った場所に行くのか僕には理解できなかった。

 しばらく進むと、目の前に小さな小屋が見えてきた。
 サラザールは何も言わずにその小屋の中に入っていく。

 「サラザールだっ!」

 中には、小さな子どもが一人いた。
 男とも女とも区別がつかないような中性的な見た目の子どもは、サラザールをみるなりはしゃいだ。
 サラザールは手早く食事を与えると、部屋の中の小さな椅子に腰掛けて、その子どもを観察していた。

 「?」

 食事を食べ終えた子どもは、僕の側によってきて、ぐるりと僕を嘗め回すように観察した。
 そして、てけてけと歩いてサラザールの元に戻る。

 「誰?」

 僕を指差し、その子は言った。
 サラザールは何も言わず僕を呼んで自己紹介するように言った。

 「初めまして。って言います」

 握手を求めたけど、相手はしげしげと僕を眺めるばかりで握手には応じなかった。
 まだ子どもだから仕方ないか。

 「我は、バジリスク。はサラザールに良く似ている……」

 その子が口にした名前に僕は唖然とした。


 バジリスク……?
 蛇の王と呼ばれるバジリスク。
 夏休みに入る直前に、ハリーが倒した……あの、巨大な蛇……?

 「何を驚いている?」

 サラザールはそういった。

 「…バジリスクって……蛇……?」
 「訳あってこのような姿をしているだけだ。まさか蛇の姿のままでこの森をうろつかれたら私すら殺しかねないだろう?」

 サラザールは冷静だった。
 確かにパーセルマウスのサラザールならばバジリスクを支配下に置くことは容易いかもしれない。
 そして、それはホグワーツのみんなには言っていないことなのだろう。
 こんな森に、わざわざ人の姿に変身させたバジリスクを住ませておくんだから。
 きっとサラザールは、バジリスクの存在を知られたくないんだろう……

 「ねえ、サラザール。この前変な人が来たよ。サラザールと似てて、サラザールとまったく違った。赤茶の髪をしてた」

 サラザールの瞳が熱を持ったようになる。
 赤茶の髪の…ゴドリック。
 ゴドリックがやってきたんだろう。

 「我をここから無理にでも連れ出そうとしたんだ。我は拒んだけど。あの人は誰?」
 「…お前には関係ない」
 「そう?」
 「ああ。次に来ても、お前はここから離れてはならない」
 「うん、わかった」

 サラザールは冷静にそういっていたが、心の中はざわめいているだろう。



 ホグワーツに帰ると、ゴドリックが待ち構えていて、そのことについて聞いた。
 サラザールは答えなかった。
 だからゴドリックはご立腹。
 子ども好きのゴドリックとしては、あんなところに一人で子どもを置いておくサラザールの気が知れない。
 でもサラザールは、詮索されたくない。

 二人の傷は広がるばかりだ。
















 「……できたっ!」

 ゴドリックがそういったときには既に全員が席についていた。
 やっと運ばれてきた食事に黙々と手をつけて食べ始める。

 「

 僕の隣に腰掛けたゴドリックはわざと、サラザールに聞こえるように言う。

 「僕が作ったのとサラザールが作ったの、どっちがおいしい?」

 サラザールが眉間にしわを寄せる。
 何かにつけて、ゴドリックはサラザールを敵対視している気がする。
 バジリスクの件にしてもそうだけど………

 ホグワーツを造るって言う気持ちは変わらないのに、このすれ違いは…悲しいよ。






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 バジリスク登場。
 そろそろも帰らないとなぁ。