手違いの帰宅


 あの時僕は黙っていた。
 ホグワーツ創設者、すべての人間が本当はのことを覚えているってことを。

 僕が見つけたのは、サラザールの記述だけじゃなかった。
 ゴドリック・グリフィンドール、ロウェナ・レイブンクロー、ヘルガ・ハッフルパフ……
 全員が、ホグワーツを建設するときのことを綴った書物にの名前を刻んでいた。

 僕はそれをに教えなかった。
 僕が興味あったのはサラザール・スリザリンだけだったし、それ以上のことを言ってもには意味がないと思ったから。



 ゴドリック・グリフィンドールの記述にはこうあった。

 『僕が出会った少年は魔力が強かった。黒髪に紅い瞳。
 一目見ただけではサラザールと間違えてしまうかのような少年だった。
 そしてその少年は、常に笑顔で僕を見つめていた。
 彼がどこから来たのか、どこへ行ったのか僕は知らない。知ろうとも思わない。
 ただ…ただ僕は、その少年ともう一度出会いたいと願っていた。
 ホグワーツが出来たとき、新入生のリストに彼の名前はなかった。
 おそらく僕らとはまったく違う時代の人だったのだろう。
 そうじゃなかったら、僕は彼を絶対にホグワーツに入学させていたから。
 もしも、この記述を見つけたら…僕のことを思い出してほしいんだ。
 大好きなへ向けて』

 ゴドリック・グリフィンドール



 ロウェナ・レイブンクローは短くこう記している。

 『…あまり長くは書きたくないの。名前だけを記しておきます。
 私はこの少年からとてもすばらしいことを教えてもらいました。
 ホグワーツ創設者たちは、もう貴方の名前を口にしません。
 それは…貴方が私たちに忘却術をかけたことを酌んでだと私は考えています。
 だから、私もここにしか記しません。貴方との想い出を大切にしまっておきます』

 ロウェナ・レイブンクロー



 ヘルガ・ハッフルパフはほんの一行だけこう綴っていた。

 『。私は貴方がだーいすきだよっ!』

 ヘルガ・ハッフルパフ



 サラザールの記述の中に、私以外のホグワーツ創設者すべてが忘れている記憶…と書かれていたけれど、そこには隠された文字があったんだ。
 本当は…私以外のホグワーツ創設者すべてが忘れているように振舞っている記憶…って書かれていた。

 僕はそれすら、に教えなかった。
 そのときの気持ちはよく言い表せないけど、なんだか伝えてはいけないような気がしたんだと思う。
 ずいぶんとに情が移ってしまったようだ。











 まぶしい光に堅く目をつぶった。
 その光が収まったときに、俺達は外に放り出されたような感覚に陥った。

 どしんっ

 そのままどこかの床に落ちた。
 ついさっきまでものすごくまぶしかったから、目をそっと開けるとちかちかしていて、しばらくはそこがどこだか分からなかった。
 目が慣れてきて、やっと辺りを見回せるようになったとき、そこがの家じゃないってことに気がついた。
 がニコニコしながら俺の鬣をなでていた。

 「ちょっと出るところ間違えちゃったね」

 苦笑しているようだが、その状況を楽しんでいるようでもあった。
 が見ている方向に顔を向けてみる。
 そこには、居るはずのない人物が居た。

 「………?!何でここに居るのさ?!」

 聞き覚えのある声。
 丸い眼鏡をかけた…くしゃっとした寝癖のついている少年……ハリー・ポッター。

 「やあ、ハリー。ちょっと手違いがあってね。自宅へ戻るはずだったんだけど……ここって…」
 「ここは漏れ鍋だけど…いきなり現れるからびっくりしたよ」

 驚いてずり落ちたメガネを元に戻しながらハリーはそういった。
 俺たちのほうが驚いたよ……

 そして次の瞬間には、もっとすごいことが起こったんだ。




 どさどさどさっ


 ぐぇ…




 の上に大量に降ってくる手紙。
 はそれに埋まった。
 勿論隣に居た俺も一緒に。

 大量のふくろうが、開け放していたハリーの部屋の窓から入ってきて、宛の手紙を大量に落として帰っていった。
 ハリー、きっと驚いてるだろうなぁ。
 そんな風に思ったけど、は何が起こっても動じない性格になっていたので全然平気みたいだった。

 「あ、母上から手紙が来てる……それから、ホグワーツからもだね」

 にっこり微笑んで手紙のチェックをするに、ハリーが驚いていた。

 「…あの、?」
 「うん?」
 「なんでここに居るのか聞いてもいい?」
 「あ、うん、ごめんね。ここハリーの部屋だもんね。迷惑かけちゃってごめんよ」
 「ううん、そんなことはないよ。に会えてとっても嬉しいよ。ただ、急に現れるからびっくりしちゃって」

 は手っ取り早く手紙をすべてまとめると、ハリーのほうに向き直った。

 「えっと…とりあえず、母上が、新学期が始まる一週間前にダイアゴン横丁で落ち合いましょうって言ってるから、僕も、漏れ鍋で部屋を探してくるよ。それからでいいかな?」
 「全然かまわないよ。うん。も漏れ鍋にいるの?」
 「うん、そのほうが楽だからね」
 「なんか嬉しいな」

 ハリーが笑んだ。
 いつもの笑みじゃなくてやんわりとした笑みだった。
 も笑んだ。
 はいつも同様優しい笑みだった。


 とりあえず俺達はハリーの部屋を出ると、漏れ鍋の主人に掛け合って、ハリーの部屋の隣の個室にとまらせてもらうことになった。
 ハリーがどうしてここに居るのか分からなかったけど、久しぶりの再会に、帰ってきたんだなぁって言う実感が湧いた。

 あれは夢だったんだろうか…っとも思ったんだけれども、の胸にはヘルガからもらったネックレスが輝いていたし、ゴドリックからもらった羽ペンも、ロウェナからもらった水晶玉も……そして、サラザールからもらった魔法石も全部あって、それらがすべて、俺たちが創設者たちと共に過ごしたことが夢じゃないってことを物語っていた。

 「夏休み、そろそろ終わっちゃうみたいだね」

 そういいながら、はにっこり微笑んでいた。






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 ハリーと再会。
 夏休みの残りは、ハリーとはっちゃけよう。