書店
とにかくダーズリー一家の態度が頭にきていたことはいうまでもない。
僕は、ホグワーツとの約束を破り、魔法をたくさん使って、マグルの家を抜け出してきた。
叔父さんだとか叔母さんだとか、そんなものはもう気にしていなかったし、彼らだって僕がいなくなってせいせいしただろうね。
そして何故だか分からないけれど、僕はホグワーツを退学になるということもなく、漏れ鍋で残りの夏休みを過ごすことになった。
漏れ鍋についてすぐのことだったかな。
初めての夏休みの自由。
何をしようってものすごく浮かれていたところへ……が降ってきた。
夏休みで少し背が伸びたのか、より一層大人っぽくなったは、ともかく見たこともないような不思議な洋服を着ていた。
やや肩の露出が大きい服装だったけれど、に良く似合っていた。
黒光りしていて輝いているその服装は…ローブを着て歩いているよりもよっぽど魔法使いって言う感じがした。
それで、は僕の隣の部屋を借りて漏れ鍋にいてくれることになったんだ。
それを聴いたときの僕の心といったらなかったよ。
に抱きついてキスをしても良かったくらいに僕は有頂天だった。
なんてったって、ダーズリー一家から逃げ出せただけじゃなくて、大好きなと残りの休みを一緒に過ごせるんだって思ったら嬉しくなっちゃって………勿論、そんなことはしなかったけど。
僕たちは毎朝漏れ鍋で朝食を食べて、色んな人たちの会話に耳を傾けてるんだ。
「…やっぱり、シリウス・ブラックの会話が多いみたいだね」
「……アズカバンから抜け出した、すごい囚人なんでしょ?ヴォル…『例のあの人』の…」
自然と僕らの会話もシリウス・ブラックのことになったけど、はあまり関心がないみたいだった。
きっとは色んなことを知っているだろうに、僕にはまったく語ってくれないんだもの。
カタン、と朝食に使ったスプーンを起きながらが僕のほうを見た。
僕は、スープを飲む手を止めてを見た。
「…で、今日はどこにいく?」
は、スープに浸したパンをにあげているところだった。
僕は少し考えてから、フローリシュ・アンド・ブロッツ書店の名を上げた。
新しい教科書リストに載っている教科書を買わないといけないんだ。
漏れ鍋での生活も割りと慣れてきた。
漏れ鍋って、色んな客が来るから、の屋敷とにぎやかさは変わらないだけれども、の家ほど綺麗でもなくて…
最初の頃は、そのほこりっぽさに耐えられなかったんだけど、今は少し咳き込むくらいで大丈夫になってきた。
ほこりがまとわり付いてくるその感覚すら嫌だったけど、毎日丁寧にが俺の体を洗ってくれるから、それで我慢してる。
は常にサラザールからもらった服を身に着けているから、なんだかちょっと雰囲気が変わった。
ハリーもそんなことをにいってたっけな。
俺は今のも前のも大好きだけど。
今日は書店に向かうらしい。
食事を終えると、俺達は連れ立ってダイアゴン横丁に足を踏み入れた。
いつものごとくたくさんの魔法使いや魔女たちでごった返していて、なかなか通りにくい場所だった。
俺の姿がこの町に現れるのはもう3年目だから、やっと周囲の人間もなれてきたみたいだったけど、中にはまだ驚くやつらがいて、もハリーも苦笑しながら歩いていた。
「カッサンドラ・バブラッキーの『未来の霧を晴らす』をください」
「ああ、『占い学』を始めるんだね?お二人ともその本を所望ということでいいのかな?」
「はい」
書店に入ると、まず一番最初に目に入ったのは荒くれ者の本たちだった。
檻の中に入れられていたけれど、檻の中でもがしゃがしゃ暴れていて、書店がとっても煩かった。
これには店長も参っているようで、酷い悪態をついていた。
はその光景すら楽しんでみていたけれど。
「これですね。『未来の霧を晴らす』これは基礎的な占い学のガイドブックとしていい本です」
はしごをのぼって黒い背表紙の厚い本を取り出した店長。
店の奥には、占いに関する本だけを集めたコーナーがあった。
はそこにある本を興味深げに手にとって読んでいた。
ハリーも何冊か気になる本があるらしく、ちらちらと表紙を見つめていた。
「ね、…あの本…」
店長が二冊目の本を苦労して取り出している間に、ハリーがにつぶやいた。
「何の本…ああ……」
の目が、ハリーが指差した本に向く。
自然と俺の目も向く。
『死の前兆…最悪の事態が来ると知ったとき、あなたはどうするか』
表には目をぎらつかせた、クマほどもある大きな黒い犬の絵が描いてあった。
どうやらハリーはその犬の絵を気にしているらしい。
手に取ろうかどうしようか迷っているらしい。
すっ、とが本に手を伸ばした。
「お客さん、その本は読まないほうがいいですよ」
とたん、上のほうから店長の声が聞こえたけれど、は思いっきり笑顔で無視した。
「死の前兆…ね。なかなか面白いと思わない?人は必ず死ぬんだ。それが早いか遅いかなんて本人には分からない。
それでも、こんな本が書棚に並べられているのは、少しでも長く生きながらえたいという人の心の中の望みからかもしれないね」
「…ずいぶんと分かったような口を利くねぇ、お客さん。死の前兆があらゆるところに見え始めて、それだけで死ぬほど怖いんですよ、その本は。だから読まないほうがいい」
書店の店長はため息をつきながらそういったけれど、は大丈夫だよと笑って返した。
ハリーは今もぎらぎらと光る黒い犬の絵をじっと見つめていた。
「はいよ、これが本だ。あと何が必要なんだい?」
本を押し付けられ、はっと顔を上げたハリーは、ホグワーツから送られてきたリストを開いた。
「えーと…『中級変身術』と『三年生用の基本呪文集』をください」
やれやれ、と肩をたたきながら、本をとりに店の中を走る店員を見ながら、は占いに関する本をじーっと見つめていた。
「ハリー、この絵の犬が気になるんでしょ?」
にっこり微笑んでがきくと、ハリーが少し顔を紅くしてうつむいた。
なるほど、絵に描いてある犬は強烈だ。
体がクマほどあるといっても所詮は犬だと思うんだけどなぁ…
俺は犬が苦手だけど。
それから、は数冊占いに関する本を手にしてカウンターに行った。
「それ、買うの?」
「うん」
「今回のホグワーツの教科書には必要ないと思うんだけど」
「うん、必要ないだろうね。でも、気になるし。また一年もホグワーツにいるんだから、色んな本が読みたくなると思うんだ。占いの本なら僕の興味をそそるに足るからね」
「そっか…は占いが…あ、じゃあ、占い学も取ってるよね?僕、と一緒に授業が受けられるかなぁ?」
「受けられたら嬉しいね」
そんな会話をしながら、新しく購入した教科書を小脇に抱え、俺達は書店を後にした。
漏れ鍋に帰ると、ハリーは抱えた教科書を部屋の中につみ、それからため息をついて鏡をのぞいていた。
既に部屋の片づけを終えた俺達はハリーの部屋に入っていた。
「そんなに気にしなくても」
「…だって、僕…あれは死の前兆じゃないよね?」
「気にしすぎだよ、ハリー。たかだかクマのような黒い犬を見たからって」
「でも……あ、僕、黒い犬を見たってに話したっけ?」
「あ」
話してないね、とが苦笑する。
ハリーがの隣に座っての顔を覗き込む。
「なんで分かったのさ?」
「え…」
「もしかして、にも見えたの?」
「黒い犬のこと…?」
「うん。僕はあの絵に描いてあるのとそっくりの犬を見たんだ。あれは…」
「だから、気にし過ぎだって」
がぽんぽんとハリーの寝癖のつきまくった髪の毛をなでたけど、ハリーはそれでも心配そうに顔を覗き込んでいた。
「それよりさ、明日はどこに行く?どこかでアイスクリームでも食べながらウィンドウショッピングも楽しいかもね」
雰囲気をがらりと変えるの発言に、やや面食らったもののハリーも笑顔を見せた。
は俺に丁寧にブラッシングをしながら、ハリーとの夏休みを楽しんでいる様子だった。
今年の夏休みはいろいろあったけど、こんなのもまあ、いいんじゃないかって思い始めた。
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ハリーとお買い物。
の能力が開花してます。
リドルの件、どうしましょうか…