夏休み終了
新学期が始まる一週間前。
新しい教科書は全部そろえたし、一通り必要なものは全部買った。
ハリーと一緒に漏れ鍋に泊まっている間、は始終笑顔で俺の鬣を梳かしてくれたし、毎日おいしいミルクをくれた。
夏休みの大半をずっと過去の時代の人間と生きていたは、現実世界のめまぐるしさに驚いていたみたいだけど、それも一週間で元に戻ったみたいだ。
……で、今日は久しぶりにと会える日。
ハリーは、ダイアゴン横丁に出かけて、ハーマイオニーやロンを探すらしい。
は前々から約束していた場所に行くことにしていたから、今日はハリーとは別行動だ。
「いこうか、」
用意し終えたは、落ち着いた声で俺を呼んだ。
のっそりと立ち上がった俺は、の横にぴったりと付いて、を守るようにして漏れ鍋の部屋を出た。
もう一週間以上、俺がこうやってこの部屋から出てくるのを目撃しているはずなのに、漏れ鍋にやってくる客たちはみんな、俺の姿を見ると一瞬息をのむ。
いい加減なれてくれないだろうか、と不満を漏らしたかったけれど、が気にしていない様子なので何も言わなかった。
「それじゃ、夕食までには戻るから」
「はいよ、確かに鍵は預かった。帰ってきたらまた声をかけてくれ」
ルームキーを預けると、ダイアゴン横丁へと繰り出す。
魔法使いや魔女がたくさんいる、人間の世界とは一風変わった世界がそこに広がる。
俺は、この瞬間が好きだ。
違う世界に足を踏み入れる感覚に陥るのが、好きなのかもしれない。
は慣れた様子でダイアゴン横丁をまっすぐに進み、お目当ての店まで余所見をせずに歩いた。
ほしい本も、見たい道具も全部手に入れたからもう必要ないらしい。
ちょっとしゃれた喫茶店の扉を開け、中を見渡すと、は笑顔になってとある人物の元へと駆け寄った。
「お久しぶりです、母上」
まったく変わらないの姿がそこにあった。
上品に珈琲を飲んでいる。
「ずいぶん成長したのね、」
にっこり微笑んだに、も笑顔を返した。
「…夏休みに、とてもいいことがあったようね、」
「ええ…でも、あれが本当にいいことだったのかどうか、僕にはまだ分からないんです」
少しもじもじしたに、は微笑んでつぶやいた。
「どんなにすばらしい経験だったか、すぐに分かるわ。あなたは魔力を制御する力を手に入れたでしょう?」
「……」
「悲しい別れをしたの?」
こくりとが頷く。
「出会いに別れは付き物なの。貴方にもそのうち分かるわ」
寂しそうにはそういった。
それから、をよく見つめ、そしてにっこりと微笑んだ。
「、洋服を何着か買いましょうね」
「え?でも僕、洋服でしたらたくさん持っていますけれど…」
「ええ。でも、少し背が伸びたようですし…それに、今着ている服のほうが良く似合っているわ」
貴方も黒い服が似合うようになったのね、と誰かを思い出すような目では言った。
は苦笑しながら、ありがとうございます、と返事をした。
それから、とダイアゴン横丁で買い物をし、ノクターン横丁で買い物をし、楽しいひと時を過ごした。
久しぶりに嗅ぐの匂いはとってもいいものだった。
いろんな人が行きかう漏れ鍋では、鼻が曲がってしまうようなときが何度もあったから、やの匂いは落ち着く。
そんな風に思っていたら、また嗅いだことのある匂いがした。
ちょうどと分かれて漏れ鍋に帰ろうとしているところだった。
「…」
「じゃないか」
目の前には、教科書を抱えたの姿。
黒い服に身を包み、少し背が高くなっていたけど、やっぱりだった。
「…それじゃあ、。何か必要なものがあったのなら、連絡をくださいな」
はにっこり笑って、を軽く抱きしめてから、ダイアゴン横丁の人並みの中に消えていった。
とは、連れ立って出来る限り静かな店に入った。
「手紙を何度出しても返事が来ないから、心配していたんだ」
「ああ、ごめん。ちょっと手紙が届かないような場所にいたんだ」
「……そうなのか。今年のパーティーは、ドラコの家族も来たから、がこなくて寂しかったよ」
「ごめんね。こっちに戻ってきたのがついこの間だったから、返事を出す暇もなくて」
紅茶を片手に二人は語っていた。
俺は、一緒についてきた、甘いお菓子をもらって、の足元に寝そべっていた。
「そういえば、今はどこに?先ほど、のご家族の方はお帰りになってしまったようだけれども」
「あ、うん。今ね、漏れ鍋に泊まっているんだ」
「……」
「そんな苦い顔をしないで?確かに、我が家やの家に比べたらどうかと思うけれど…贅沢は言っていられないからね」
急に、よしっと言ってがの手を取った。
は首をかしげてを見た。
「僕の家においで。あとほんの一週間だもの。君が漏れ鍋に泊まっているなんて僕は耐えられないよ」
「でも…のご家族にご迷惑が…」
「が迷惑なわけないよ。それに、両親も兄も姉もみんな忙しくて、もう家には帰ってこないんだ。また来年の夏休みまで彼らは仕事で世界中を飛びまわっているよ。僕も一人じゃ寂しいし……、泊まりにおいでよ」
しばらくしゃべっていた二人だが、結局が根負けして、の家に泊まりに行くことになった。
はを連れて漏れ鍋に戻り、荷物を全部片付けると煙突飛行粉を使っての家に向かった。
俺も、人の姿になって、なれない言葉を使いながら頑張っての家にたどり着いたよ…
その夜のことだった。
に案内された部屋で、荷造りを終え、に手紙を書き終えた。
久しぶりに寝る、ふかふかしたベッドの上でまどろんでいたときだった。
もわんっ
白い煙が上がって、の胸の日記帳からリドルが飛び出してきたんだ。
「…ここはどこだい?」
「あ、リドル…ここは、の家だよ。あと一週間でホグワーツに戻るんだ」
「…………」
「ホグワーツではおとなしくしていてね?」
「………ここは、なんだか懐かしいような新しいような感じがする」
話がかみ合ってないな…と思いつつも何も言わずに俺はのひざに首をもたげてまどろんでいる。
「の家だからね。ヴォルデモート卿の信者だし…あ、ほかの人には内緒だよ?」
「…なるほどね」
「……それよりリドル、僕は気になることがあるんだ」
「?」
「…シリウス・ブラックって…知ってるかい?」
「アズカバン行きになっているやつだろう?それくらいの情報なら僕も知っているよ」
「…そう…ってそうじゃなくて……もっと、何か深いことを知っているんじゃないの?」
「さあね」
リドルはこれといって興味がなさそうに、一つ小さくあくびをした。
もそれにつられてあくびをする。
俺もそれにつられてしまった。
「まあ、いいや。今年もホグワーツが大変そうな気がするんだ」
「どんな風に?」
「水晶玉で観察できないからなんともいえないよ。でも、なんだか胸騒ぎがするんだ」
「………………」
「何か知ってるんだったら教えてね。何か知ったら教えてね」
ふわぁっとあくびをしたは、ベッドに入って電気を消した。
真っ暗な部屋で、リドルの輪郭がぼやぁと浮かび上がっているのはいささか奇妙で面白かった。
の駆け布の間にもぐりこむと、俺はのぬくもりを感じながら眠りに付いた。
「 」
リドルがなにかつぶやいた気がしたけれど、聞き取ることは出来なかった。
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夏休みが終わるまであと一週間。
ととリドルで、鳴瀬の好きなキャラが勢ぞろい(笑)
アズカバンの囚人編、そろそろ本格スタートですね。