到着


 アズカバンにいるはずの吸魂鬼が、なぜかホグワーツ行特急内に現れた。
 そんな事件があったけれど、俺達は無事にホグワーツに到着した。

 ホグズミード駅に停車した汽車は、たくさんの生徒が下車するのでひと騒動だった。
 みんな、早く降りてホグワーツの敷居をまたぎたいのだ。
 ホグワーツなら安全だと思っているからかもしれないな。
 各言う俺だって、アズカバンだから吸魂鬼に出会っても仕方ないと思っていたけれど、ホグワーツでまであんな恐ろしいものに会いたいとは思っていなかった。
 おそらくホグワーツ内には吸魂鬼なんて存在しないだろうから、一刻も早くホグワーツに入り、寮で暖を取りたかった。

 「はい、並んで並んで。押さないで。さあ、乗った乗った」

 一年生でないは、ハグリッドが叫んでいるほうへはむかわず、ほかの生徒たちについて歩いていった。
 そのうちホームから離れると、でこぼこのぬかるんだ馬車道に出た。
 は、俺に体の毛に泥をつけて汚さないようさりげなく注意をした。
 ニトは、てけてけの足元をついてきていたけれど、ぬかるんだ馬車道に出たときにに抱かれ、俺の背中に乗せられた。
 おかげで俺は、ニトをおっこどさないように注意を払い、おまけに体の毛に泥がつかないよう慎重に歩かなくてはならなかった。

 その馬車道には、ざっと百台ほどの馬車が生徒たちを待ち受けていた。
 独りだけ案内人がいて、我先にと馬車に群がる生徒たちを並ばせるのに一苦労していた。

 「どうやら君たちで最後のようだね。さあ、乗った乗った」

 人数調整と、俺の体が少し大きいからか、は二人で馬車に乗ることになった。
 扉を閉めると、ひとりでに馬車が走り出し、がたごとと揺れながら隊列を組んで進んでいくのだった。

 「…かび臭い…」

 馬車の中はかすかに黴と藁のにおいがした。
 決して漏れ鍋が汚いといいたいわけではないけれど、その匂いは漏れ鍋のにおいに似ていた。

 「それにしても何で、アズカバンにいるはずの吸魂鬼がホグワーツ特急になんか現れたんだろう……」
 「ホグワーツ特急の中に、シリウス・ブラックが隠れているとでも思ったんじゃないのかなぁ」
 「…でもシリウス・ブラックは……」

 その言葉を聴いて、が人差し指を立てて唇の前においた。

 「それは、ほとんどの人間が知らないことだから安易に口にしないほうがいい」

 俺にはなんだかわからなかった。

 「……そうか…そうだな……」

 だけど、の言うことを理解したみたいで、何度か頷いてからそういった。

 「だけど、あれはいただけないなぁ。吸魂鬼って言うのは容赦ないからね。いきなりホグワーツ特急の中に現れて、生徒を脅すなんてどうかしているよ。もう少し考えてもいいと思うけど……やっぱり、アズカバンの吸魂鬼はそんなこと考えないんだろうね」
 「…吸魂鬼なんて…あまり好きになれないやつらだな」
 「……僕も好きじゃない」
 「でも、吸魂鬼は君を襲わないんだろう?」

 が少し寂しそうに微笑んだ。

 「それは、星見の仕事とアズカバンの利害が一致しているだけだよ。好きでお互いを敵視しないわけじゃない」

 見た目上麗しくないでしょ?っとがおどけて言うと、がまったくだ、と頷いた。

 馬車は相変わらずがたがたと揺れながらゆっくりと壮大な鋳鉄の門のほうへと向かっていた。
 窓の外の景色はだんだん見たような光景に変わっていく。

 「……あれ……」

 ふと、が怪訝そうな顔をして窓の外を指差した。
 ちょうど、門を通り抜けるときだった。

 「…ディメン……ター…?」

 門の両脇にある石柱に、頭巾をかぶった、聳え立つような吸魂鬼が二人、門の両脇を警護しているようにしていた。

 「…嫌な予感がするね」

 ホグワーツは安全だと思っていた俺達は、その光景に少し表情を堅くした。
 俺は、の足元に体を摺り寄せた。
 吸魂鬼ほど恐ろしいものは無い。
 俺はそんな風に思っていたから、吸魂鬼に近づくだけでも気分が悪くなって嫌いだった。

 とはいえ、馬車は何のためらいも無く門を通り抜け、だんだんと速度をあげながらホグワーツの巨大な城に向かっていった。
 そして、徐々に速度を落とした馬車は、一度ゆっくりとゆれて、止まった。
 既に前には黒いローブに身を包んだたくさんの生徒が降り立っていた。
 そういえば最後の馬車に乗ったんだっけか……
 そんな風に思いながら、を先導して俺が一番先に馬車を降りる。
 次に
 それから、ニトを抱いたの順だ。
 城へ続く階段はごった返していたけれど、も進んで前に行こうとはせず、人がばらけたころに進もうと思っているらしくゆっくりと列に並んでいた。

 「っ!」

 聞き覚えのある声が響く。
 が眉をひそめる。
 に耳打ちすると、はため息をついて何事かつぶやいたあとの申し入れを了承した。
 独り列に並び、俺達は少し列を外れて声のするほうへ進む。

 「久しぶりね、。夏休みはどうだったのかしら?私、に何度もお手紙しようと思ったのだけど」

 ハーマイオニーは、猫を抱いていた。
 ニトのように可愛いとはお世辞にも言いがたいけれど、頭のよさそうな猫だった。

 「それより聞いてくれよ。ハーマイオニーったら、僕のスキャバーズを襲うような獰猛な猫を買ったんだぜ?!」

 の顔を見ると不満を言いたくなるのか、ロンがあたりの明かりのせいでより一層紅く見える髪の毛をかきわけながら言った。
 は苦笑しながら、ロンのそばかすだらけの顔とハーマイオニーの抱いている猫を見比べていた。
 スキャバーズはロンのローブのポケットにいたけれど、何かにおびえているようだった。

 「………ずいぶんと賢い猫を買ったんだね、ハーマイオニー」

 はハーマイオニーの抱いている猫ののどを撫でながら笑顔でそういった。
 ハーマイオニーはふふんっと鼻で笑ってロンを見つめた。
 ロンの顔が髪の毛と同じくらい赤くなった。

 「…ロン、スキャバーズには気をつけたほうがいいみたいだけどね」
 「だろっ?!」

 苦笑しながら、そういう意味じゃないんだけどね、とつぶやいたの声はあたりの声に阻まれてロンの耳には届かなかったみたいだ。

 …と。
 話している間にも列は進んでいて、正面玄関の巨大な樫の扉を通り、広々とした玄関ホールに入った。
 右のほうに大広間への扉がついていた。
 俺達は列に続いて中に入った。
 すると、中を進んですぐに誰かが叫んだ。

 「ポッター!グレンジャー!二人とも私のところにおいでなさい!」

 声のするほうを見ると、グリフィンドールの寮監、マクゴガナル教授が生徒たちの頭ごなしに向こうのほうから呼んでいた。
 じゃあね、とが軽く手を振ると、ハリーは少しおびえたような表情をしながら声のしたほうに歩き出した。
 ロンはそのまま残るように言われ、少し戸惑っていた。

 「……あ、ごめん、ロン。僕もいかなくちゃ」
 「え、あ」

 突然もそんなことを言い出して列から外れたからたまったもんじゃない。
 俺もの後について列を外れようともがいたから、辺りにいた生徒たちに多大なるご迷惑をかけた。

 玄関ホールの外に出て、樫の扉の近くでが止まった。
 もう生徒は誰もいなかったから、そこはしーんと静まり返っていた。
 が何を感じたのか、俺には分からないけれど、なぜかはその場に止まっていた。
 の足元による。
 が俺の首筋を撫でる。
 一声、つーんと響き渡る鳥の鳴き声が聞こえ、続いてばさばさと羽音がした。
 巧みに空気を操りゆっくりと降下してくるからだ。
 白い大きな鷹だった。

 「……………」

 その鷹はの肩にとまると、まるで耳打ちをするかのようにの顔に体を近づけた。

 なんだか神秘的な光景だった。






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 鷹登場。
 は動物に好かれてるから。
 やっとホグワーツに着きましたっ!