いざこざ
「ねえ……なんだか、ロンが最近僕に対して不思議な視線をしていることがあるんだ…」
ヒッポグリフにマルフォイが怪我させられてからちょっとした日の夜、がそんなことをつぶやいていた。
確かに、あの時ロンは俺たちを無視するような形で顔を背けたし、最近のロンの行動はちょっと辛いものがある。
ハリーやハーマイオニーがとしゃべっていると、ロンは決まってにねたましいとでもいうような視線を浴びせるんだ。
そんなロンを見かねて、がロンにこっちに来ないかい?なんて誘ったって、ロンは無視してる。
俺たちとしてもやりにくい。
どうやらは、そのことで悩んでいるらしかった。
「僕、ロンに何か悪いことをしたんだろうか?」
俺の首筋を優しく撫でながら、は困った表情でそうつぶやいていた。
は何も悪いことなんかしてないと思う。
いつもと一緒にいる俺は、それを一番良く知っているさ。
ロンの態度は急に変わったんだ。
が何かしたわけじゃない。
だって、はロンとあんまりおしゃべりをしないんだから。
でも、の不安は募るばかりだったようだ。
ヒッポグリフの事件からしばらくマルフォイは授業に顔を出さなかった。
やの推測では既に傷は跡形もなく治っている筈だという。
それを、どうやらマルフォイが無理やりまだ怪我をしているかのように振舞っているとの事だった。
結局、マルフォイが授業に顔を出したのは、木曜日の魔法薬学の授業が半分ほど終わったときのことだった。
英雄気取りで入ってきたマルフォイは、気取って声をかけてきたパンジーに、痛みに耐えているというような表情で返事をしていたが、実際はにっこりと笑みを浮かべるほどもうなんともないようだった。
とは笑いを抑えながら、新しく作っている何かの薬の準備をしていた。
「先生」
スネイプにいわれるがままに、ハリーとロンの席のすぐ隣、との席と通路を挟んで隣の席に腰掛けたマルフォイは、気取った声で教授を呼んだ。
「先生、僕、雛菊の根を刻むのを手伝ってもらわないと、こんな腕なので…」
俺には、マルフォイがにんまりと笑ったように見えた。
スネイプ教授はこっちを見もせず、当然のようにロンに言った。
「ウィーズリー、マルフォイの根を切ってやりたまえ」
ロンが赤レンガ色になった。
通路を挟んですぐ隣の席では、とがやっぱり雛菊の根を刻みながらくすくす笑っていた。
「よく演技するよ、ドラコは」
「怪我したことを口実に実にやりたい放題だね」
「でもまあ、僕らには実害が無いから放っておこうか」
「ああ」
もしかしたら、この会話がロンに聞こえたのかもしれない。
赤レンガ色に顔を染めていたロンが、キッとのほうをにらんだ。
は少し寂しげな表情を浮かべてロンを見つめていたけれど、何も言わずに自分の作業に戻ってしまった。
「せんせーい」
ふいに、マルフォイが気取った声を出した。
「ウィーズリーが僕の根をめった切りにしました」
確かに、マルフォイの机の上には、大小不揃いに切られた根が置いてあった。
逆にロンの机の上には、きっちりと同じ大きさにそろえて刻んである根が置いてあった。
露骨な意地悪だな…
「ウィーズリー、君の根とマルフォイのとを取り替えたまえ」
「先生、そんな……!」
スネイプ教授は黒い長髪の下からにたりと嫌な笑い方をしながらそういった。
ロンは反抗したけれど、教授の凄みには敵わなかったようだ。
「いますぐだ」
スネイプは独特の危険極まりない声で言った。
ロンは見事に切りそろえた根をテーブルの向こう側のマルフォイへぐいっと押しやり、再びナイフを掴んだ。
「ああいう露骨な意地悪は感心しないね」
「確かに。もしドラコが腕を怪我していないにしろ、それを今彼は証明できない。それなのにああいうことをするとは……まったく大人気ない。子どもっぽいとしか言いようが無いよ」
とは、既に材料の支度を終え次の作業に取り掛かっていた。
鍋をゆっくりとかき回しながらそんな会話が続く。
「ねずみの脾臓は一つ。ヒルの汁はほんの少しだけ……ゆっくりかき混ぜる…と」
「それにしても、あんないたずらは無いなぁ」
「ドラコもからかって遊んでいるだけじゃあつまらないだろうに」
ばたんっ!
隣のテーブルから振動が伝わってきた。
あまりにいきなりだったものだから、俺の耳がぴくぴくしているじゃないか。
耳鳴りが治まってから隣のテーブルを見たら、ロンが手を強くテーブルに打ち付けているところだった。
そして、次の瞬間、マルフォイのほうに押しやった自分の根を自分のほうへ引き寄せると、ほんの少し前までどうにかしようと格闘していた、滅多切りにしてしまった根を引っつかみ、に向けてそれは強い力で投げたのだ。
これには辺りに居た生徒全員が驚いた。
俺も、も、それにハリーもドラコも。
まさかロンがそんな行動に出るなんて思ってもいなかったから。
ロンが投げた雛菊の根はの体に降りかかり、ぱらぱらと床に落ちた。
俺の体にもいくつか降りかかってきた。
「あーあ…」
そんなことをされてもは怒らなかった。
きっと俺やだったら怒っているだろうに、はそんなことをされてもまったく怒らなかった。
「僕がやったことが意地悪だと思うなら、君が腕の痛いマルフォイ君のために根を刻んでやったらいいだろう?!」
ロンの顔は真っ赤だった。
のほうはといえば、ロンには何も応えず、困った笑みを浮かべたまま床に落ちた雛菊の根を拾い始めた。
一つ一つ丁寧に。
俺の体についた雛菊の根もすべて取ってくれた。
「、僕の鍋、ゆっくりかき回していてもらってかまわないかな?」
「勿論」
「ありがとう」
それから、に鍋をかき回していた棒を預けると、ナイフを片手に滅多切りにされた根を綺麗に刻んでいった。
とんとん…と、リズムのいい音が響く。
周囲はの行動に驚きつつも、スネイプにすごまれたので各自の作業に戻る。
ロンはずっとたったままでの行動を見つめていた。
五分ほど経つと根が綺麗に切りそろえられた。
はそれを丁寧に持つとドラコのテーブルの上に置いた。
「はい、どうぞ」
「あ、ありがとう……」
思わずドラコが返事をすると、はにっこりと笑みを返してそれに応じた。
チラッとロンのほうを見たら、ロンの顔は火が噴出すくらいに真っ赤だった。
はロンに寂しげな表情を見せたが、ロンはの顔を見ることは無かった。
「大丈夫か?」
「うん、大丈夫だよ。鍋、ありがとうね」
結局授業はいつもの光景に戻る。
ロンが唸っていた。
隣でハリーとロンの囁き声が聞こえる。
「なんであんなことしたのさ。は関係ないだろう?僕のに何かあったらどうするんだい?」
「…………だってハリー……」
「だってじゃないよ」
にっこり笑みを浮かべるハリーに、ロンの表情が見る見る青ざめていくのがわかった。
俺たちのテーブルでは後片付けを終えて薬が出来上がるのを待つばかりのが、寂しげに俺の背中を撫でていた。
「嫌われてるんだね、僕……」
ちょっと悲しそうにそうつぶやきながら……
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ちょっとシリアス風味。
とロンが喧嘩(?)してますね(汗)