週末 1
ふぅ……と、がため息をつくのが聞こえた。
部屋に戻ったは、いつものとおり水晶玉とにらめっこ。
少し寒くなった部屋の中で、集中しているの目はいつになく真剣だ。
よっ、との隣の椅子に飛び乗ると、水晶玉に映っているものが俺にも見えるようになった。
は俺のその行動をとがめようとしないから、なるたけの邪魔にならないように水晶玉を覗きこんでいることにした。
水晶玉は、真っ暗な背景の中に砂時計をじっと映し出している。
それから、針が逆に回る時計。
そして、最後に凛と咲き誇る一輪の花。
「…………やっぱり…」
もう一度ため息をつくと、右手で髪をかきあげる仕草をする。
の集中力が途切れると、水晶玉は何も映さなくなる。
それから、の手が俺の体に伸びる。
「ちょっと寒くなってきたね、」
ぐるぐるとのどを鳴らすと、はくすくすと笑いながら俺の体を撫ぜてくれた。
すとん、と椅子の上から降りるとの足元に寝そべる。
たぶん、これが一番温かい。
そのとき、部屋の扉が開いて、が顔を出した。
の足元からニトがてけてけと部屋の中に入ってきて、俺の背中に飛び乗った。
寝心地のいい場所を見つけたいのか、時折俺の背中に少し爪をたてるものだからしょっちゅう悲鳴を上げたくなるのだが、ニトだから許しているし、声を上げることも無い。
ニトはただ手加減を知らないんだ。
「談話室、ずいぶんと盛り上がっているみたいだけど、何か楽しいお知らせでもあったのかな?」
「ああ。もっとも、僕らにとっては楽しいといえるのかどうかわからないがな」
いつものとおり冷静にがそういう。
と向かい合わせの席に腰掛けると、こぽこぽと良い音を立ててが注いだ紅茶がの前に置かれる。
「ありがとう」
「気にしないで。…で、どんなお知らせなの?」
授業が終わってからずっと部屋にこもって勉強や占いをしていたは、の話が気になるらしい。
は、が集中できるようにと談話室のほうにいたものだから、それなりの情報を仕入れてきている。
まったく、良い友達関係だ。
「…第一回目のホグズミード週末…だってさ」
「ホグズミード……」
「十月末、ハロウィーンのときさ」
「そっか。それでみんなわいわい騒いでいたんだね」
「まあな。僕たちの学年にとっては初めてのホグズミードだし、先輩がホグズミードには何があるとか、どんな場所がいいとか、いろいろと説明してくれていたからね」
はの入れた紅茶に口をつけながら、渋い顔をしてそういった。
どうやらは煩いのが好みではないらしい。
ふふふ、とが和やかな笑みを浮かべながら、紅茶に口付ける。
「ドラコたちなんかはひときわ大騒ぎしてるんじゃないかな」
「そのとおりだよ」
……で、とが切り返す。
「参加するかい?」
「……………………やめておくよ」
少し間をおいてだったが、が静かにそう答えた。
も頷いていた。
「少し興味はあるけれどね。卒業するまでに一度は行ってみてもいいと思う。でもね、今回は別に参加しなくてもいいと思うんだ。ハロウィーンのときでしょう?ホグズミードにいかなくたって、ハロウィーンのご馳走は楽しめるしね」
にこにこと笑うに、も笑みを返した。
そして、めまぐるしく時間は流れて、今日はハロウィーン。
大広間での食事を終えると、みんながホグズミードに行くために玄関ホールへ行く。
とはお見送りだ。
「本当に行かないのか?」
ドラコがそういうと、とは同時に首を縦に振った。
「楽しんできてね。パーティーで会おう」
ニコニコと手を振ると、お土産を買ってくるよ、と二人に言い残し、いつものとおり取り巻きたちと一緒になって、ハリーに精一杯の悪口を言ってからホグズミードに向けて歩いていった。
……みんながホグズミードに行ってしまうと、玄関ホールには、とと、それからハリーが残った。
は図書室に行くよ、と手を振って先に大理石の階段を上っていってしまった。
「…、行かないの?」
ハリーが見た目にもずどーんと落ちている雰囲気でに話しかけてくる。
「うん。興味はあったけど、今回は参加しなくてもいいかなぁって思ってね。ハリーは?」
大理石の階段をゆっくりと上りながら話をする。
「…サインしてもらえなかったから。それに、ほら……」
シリウス・ブラックの話を示唆する言葉が出ると、もああ、と頷く。
「あんまり気にしないほうがいいと思うけどなぁ。あ、ルーピン教授だ」
はのほほんとそういった。
それから、自分の部屋のほうへと向かうルーピン教授に向かって、ほほえましい笑顔で手を振った。
ルーピン教授も優しく手を振り替えしてくれた。
「おや、二人とも何をしているんだい?」
「ぶらぶらとお散歩です」
「…ロンやハーマイオニーは?」
「……ホグズミードです」
普段どおりを装いながらハリーがそういうと、はくすりと影で笑った。
どう考えても、ハリーは落ち込んでいる。
「私の部屋に来ないかい?ちょうど次のクラス用のグリンデローが届いたところなんだ」
教授も何気なくそう答えた。
行こうよ、とがハリーを促し、二人はルーピン教授の部屋へと足を向けた。
俺もちゃんとついていく。
ルーピン教授はにこにこ笑いながら、何か甘いものが食べたいねぇ…とつぶやいて歩いていく。
教授の部屋は、すっきりしていた。
部屋の隅に大きな水槽が置いてあって、鋭い角を生やした気味の悪い緑色の生き物が、ガラスに顔を押し付けて、百面相をしたり、細長い指を曲げ伸ばししたりしていた。
「水魔だよ」
教授は何か考えながらグリンデローを調べていた。
「こいつはあまり難しくは無いはずだ。何しろ河童の後だしね。コツは、指で絞められたらどう解くかだ。異常に長い指だろう?強力だが、とても脆いんだ」
水魔は緑色の歯をむき出し、それから隅の水草の茂みに潜り込んだ。
俺の姿を見ると、歯をむき出して威嚇してくる。
は笑顔で水魔の入っている水槽に顔を近づけて、相手の行動を観察していた。
「紅茶はどうかな?」
やかんを探しながら教授が言う。
「私もちょうど飲もうと思っていたところだが」
教授はティーバッグを三つ取り出すと、ふちのかけたマグカップになみなみとお湯を注いでたちに渡した。
ミルクは用意してなかったなぁ、ごめんよ……ええと、だったかな?
そんな風に俺の頭を撫でながら話しかけてくれたルーピン教授の笑顔は、優しげだ。
「…何か、心配事でもあるのかい、ハリー」
「……はい」
ハリーは唐突な質問に、少し戸惑った後に出し抜けに言った。
が思わず笑い出す。
ハリーが真剣なのはわかるが、ちょっと驚いたみたいだ。
「まね妖怪と戦った日……どうして、僕に戦わせてくださらなかったのですか?」
ハリーの唐突な質問に、俺とは顔を見合わせた。
はまね妖怪の授業のときに、自分から当たるのを避けていたみたいで、結局戦わなかった。
だから、俺はの嫌いなものを知らないんだけれど……
実はハリーも戦わせてもらえなかったんだってことに驚いた。
その誤解はすぐに解けた(ヴォルデモート卿の姿を生徒に見せたくない、というルーピン教授の計らいだった)けれど、ハリーがずっと思い悩んでいたってことに対して、ルーピン教授はすまなそうに話をしていた。
は二人の話を静かに聴いているだけで決して口を挟もうとはしない。
そんな話をしていたら、ハリーの話をさえぎるかのようにスネイプ教授がやってきて、なにやら怪しげな薬をルーピン教授に渡して帰っていった。
部屋にがいたのを驚いたみたいだったけど、それについて追求はしなかった。
「酷い味だ…さあ、ハリー。私は仕事を続けることにしよう。後で宴会で会おう」
にっこりと笑いながら教授がそういうと、ハリーは少々首をかしげながらも、紅茶のカップを置いて部屋を出て行った。
俺ももそろそろ退散時だなぁと思ってカップを置いたけど、ルーピン教授が引きとめた。
「君の話は、まだ聞いていなかったね」
にっこりと笑った教授に対して、もやんわりとした笑みを返してもう一度席に着いた。
縁の欠けたマグカップに二杯目のお湯が注がれた。
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異常に長くなったんで、ここいらで止める(汗)
とルーピン教授の話は、次の場面で。