お咎め


 シリウス・ブラックに肖像画の『太った婦人』が切り刻まれてから数日。
 グリフィンドール寮の入り口には、別の肖像画が取り付けられることになって、その件は一段落ついた。
 結局シリウス・ブラックは見つからずじまいだった。

 …ほとぼりが冷めるまで待ってから、は禁じられた森に向かった。

 「…だーかーらぁ……すまなかったって言ってるじゃないか」
 「すまなかったって、謝られたって……」
 「……いや、あの、その…つい……だな」

 禁じられた森の中にある小屋で、椅子に座ってふてくされているのが
 その向かい側に座って情けない表情をしてうなだれているのが、黒わんわん…もといシリウス・ブラック。
 俺は、といえば、いつものとおりの足元に寝そべっている状態。

 「…大体、殺人犯だなんていわれている人物が、ハロウィーンの日に大広間に行かなかったこと自体怪しいんだ」
 「なっ…大広間にいってたら思いっきりダンブルドアに捕まえられてただろうがよ」
 「……それに、太った婦人まで切り刻んじゃって」
 「あ、あれは…その…つい……」
 「だから、つい…って言葉じゃあ許されないでしょう?」

 がにっこりと微笑むと、シリウス・ブラックの顔に冷や汗が浮かぶ。
 シリウス・ブラックもにかかればただの黒わんわんか…と、俺は一人苦笑する。

 「……本当は、グリフィンドール寮の中に用があったんでしょ」
 「…うっ……なんでそうは全部知ってんだよ」
 「これでも伊達にホグワーツで勉強しているわけじゃないから」

 うっ…と、シリウス・ブラックが返答に詰まったのはこれが何度目だろう。
 その数を数えながら俺はうとうとしている。
 それにしたって、この小屋は寒い。
 森の中を巡回しにきたハグリッドにばれないよう灯りは最低限のろうそくの光だけだし、勿論暖炉なんてものも無い。
 はるか昔にサラザールが使っていた、大釜をかけるための囲炉裏は長年放置されていたせいでもう使い物にならない。
 もともと動物は寒さに強いって言われるはずなんだけれどもやっぱり俺は温かいところが好きだ。
 仕方がないから、の足に密着して少しでも温かくなろうと無駄な努力を試みてみる。

 「…………そういや……お前、誰かに似てるなぁと思ってたんだけどよ」
 「…話を逸らさない」
 「……いや、まじめに。誰だったかなぁ…って毎回思ってたんだよな」
 「……本当に反省してる?貴方が犯人じゃないって知っている人物なんて数少ないんだ。いや……ほとんど皆無といってもいい。ホグワーツをこれだけ混乱させて、吸魂鬼をホグワーツの門番に置かせてしまうなんて……貴方は少し軽率な行動を慎んだほうがいい」
 「…………次は気をつけるよ」
 「是非そうしてほしいよ。ハリーが……」
 「えっ、ハリー??」
 「……貴方が出てくると、ハリーに迷惑が及ぶのが解らないですか?」

 またもがにっこり微笑む。
 シリウス・ブラックは耳を垂れてしゅんとした犬のような格好になった。
 はそれを見てなおいっそう笑顔になる。

 ああ、。  流石はスリザリン……

 「…で、僕が誰に似てるか思い出しました?」
 「え、あ……おう。思い出した」
 「……誰に似てるのか当ててあげましょうか」
 「?」
 「……でしょう?確か貴方がホグワーツの生徒だったときは占い学の教師をしていた……」

 驚いた表情でシリウス・ブラックがの顔を覗き込んだ。

 「ああ…あのせんせーは綺麗な人だったなぁ……」
 「……あいにく、母には想い人がいますけど」

 「………………はっ……母?!……」

 しれっとした表情では頷いた。
 うとうとまどろんでいた俺を机の下から呼び出して、自分のひざにのせて抱きかかえながらだ。
 俺としてはとよりくっつくことが出来て温かいので文句は言わない。
 むしろ、こうやってくっついているのは好きだ。

 「先生…の…息子……?!」
 「ええ」
 「…どおりで笑い方がそっくりだと想った……」

 がっくりと肩を落とすシリウス・ブラックに、は微笑を見せた。
 シリウス・ブラックは何度もの顔を見てはため息をつき、ため息をついてはうなだれた。
 その仕草はとても面白いもので、がその姿を見て笑ったのは言うまでもないことだ。

 「…好かれてたんですね、母は」
 「そりゃもう。暇があれば先生の部屋にお邪魔して、みんなでわいわいがやがややってたもんだ。……何度も何度も先生に惚れ薬を調合して飲ませようと想ったんだけど、そりゃぁ素敵過ぎる笑顔でかわされて……あるとき、先生のベッドにかえるを仕込んでみたんだよ。そうしたら先生は、俺たちがかえるを仕込んだその瞬間に笑顔で現れてなぁ……おかげで酷いバツを食らったもんだ」

 シリウス・ブラックは当時を懐かしむように話し始めた。
 そのときが、何かを透かすようにシリウス・ブラックを見つめていることに気がついたのは…たぶん俺だけだっただろう。

 「……でもその後、辛い過去を……」
 「……………」
 「?」
 「…いや、ハリーに会いてぇと想っただけだ」
 「……それならまず、汚名返上しなくてはいけませんね」
 「そうか…そうだったな……」
 「くれぐれも、無茶な行動は慎んでくださいね」

 はニコニコと微笑みながらシリウス・ブラックを見た。
 シリウス・ブラックはバツが悪そうに頷いた。

 「それじゃ、僕はそろそろ御暇しますよ。これ以上長くここに滞在していても怪しまれるだけですからね」
 「お、おう」

 ひょいっと椅子から立ち上がったは、小屋の扉に手をかけながら、もう一度シリウス・ブラックのほうを振り返った。
 後から歩いていた俺は、勢いよくの足にぶつかってしまった。

 「……ええと……そろそろクィディッチのシーズンだなぁと想ってね。ハリーがグリフィンドールのシーカーだから、それだけは教えておいたほうが言いかなぁなんて想ったんだけど……見に来ちゃ駄目だからね?」
 「………………………おう
 「なんかその間が気になるけれど……まあ、いいや。さあ、。かえって夕食にしよう」
 に連れられて、俺は小屋を後にした。
 小屋の中にはやっぱりやせ細ったシリウス・ブラックが一人でぶつぶついいながら残された。






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 短め。
 シリウスと対談。
 鳴瀬の中のシリウスって…こんな感じなんだ……