飢えた吸魂鬼


 今日はクィディッチの試合の日だ。
 グリフィンドール対スリザリン……ではなく、グリフィンドール対ハッフルパフ。
 キャプテンが新しくなったハッフルパフは去年に比べてまったく新しいスタイルで試合に臨むという。
 今年こそグリフィンドールのシーカー、ハリー・ポッターが箒から振り落とされるのではないか、とスリザリンの生徒たちも、自分たちの試合ではないのにそわそわしていて落ち着かない。

 朝早く目覚めてしまった俺は、のそり、とベッドから起き上がってみる。
 あたりはまだ暗くて時間がわからない。
 …が、ゴロゴロという雷鳴や、城の壁を打つ風の音、遠くの禁じられた森の木々の軋み合う音が聞こえる。
 どうやら、外は嵐のように荒れ狂った天気らしい。

 「……すごい風だよね、

 俺が起こしてしまったのか、それとも俺よりも先に起きていたのか…
 が天上をボーっと見つめながらつぶやく。
 まだ、とニトは眠っているから、大きな音を立てるわけにも行かず、俺はもう一度ベッドに伏せなおすと、の顔をぺろぺろと舐めてみる。

 「…大丈夫、。僕は昔みたいに嵐なんかで泣きはしないから」

 は苦笑しながら、俺の背中を優しくなぜてくれた。

 「……でもね、。気になる夢を見たんだ」

 がそうつぶやくのが聞こえた。
 時々には夢のお告げがあるらしい。
 星たちからの色んな知らせが夢としてにやってくるそうだ。

 しばらくは深いため息をついたり、寝返りをうったりしていたけれど、やがて諦めたようにベッドから起き出すと、寝室の扉を開けて談話室へと向かった。
 ひょいっとベッドから軽やかに降りた俺は、いつものようにの後を追っていく。
 は心に何か気がかりなことを残したまま朝を迎えることになった。




























 朝からごうごうとした、雨と風の音で起こされた。
 なんか、今日の気分はあんまり良くない。
 あんまり良くないけれど、今日はクィディッチの試合の日だ。
 それを思い出したら、雨と風の音で目覚めが最悪だったこともどうでもいいことのように思えてきた。
 なんていったって、グリフィンドールとハッフルパフの試合の日。
 我らがヒーロー、ハリーの登場なんだっ!

 そわそわしながら朝食を終えると、雨の降りしきるクィディッチの試合会場へと、傘を斜めに差して進んでいった。
 結局僕の傘は、競技場に入る前に手からもぎ取られるように吹き飛ばされてしまったよ。
 あーあ、ついてないなぁ。
 ぐしょぐしょに濡れるのを覚悟で、それでもたくさんの観客が傘を差しながら応援をしていたから、僕の体は誰かの傘の中に隠れた。
 競技場の観客席の一番前に陣取ると、ハリーたち選手が入場してくるのを待つ。
 そのとき、ふとスリザリンの観客席を見てみると、いつもは見に来ないはずのがそこにいた。
 彼らは、体が濡れないように万全の状態でそこにいたんだ。
 みんなずぶぬれになりながらも試合を見たいって言うのに、あの二人はほんと、クィディッチが何たるかをわかってないっ!
 が着ていたのはレインコートで、をすっぽりと包み込んでいた。
 それでもまだ余りあるレインコートは、のペットのの体をも飲み込んで、それでも余裕みたいだ。
 も同じようなレインコートを着ていた。

 …って、そんなことより、試合開始のホイッスルが高らかに響いた。
 ハリーが急上昇したけれど……少し風に流されたみたいだ。
 ああ、ハリーがんばれっ!

 「ハリー、いけっ!ハッフルパフなんかやっつけちまえー」

 風の音と雨の音に負けないくらい大きな声で僕が叫んだ。
 こんなに雨が降っているのに、観客席はとっても暑かった。

 「……ずいぶん時間が経ったみたいだけど……」
 「…こんな雨の中だもの、仕方ないわ」
 「ハリー、大丈夫かな?」
 「大丈夫よ、なんていったって、100年ぶりの最年少シーカーなのよ?」

 隣でもっさもっさの髪の毛を風になびかせているハーマイオニーとそんな会話をした。
 いつもの試合より、相当時間を費やしている試合だった。
 仕方ないよな。
 この雨じゃぁ、スニッチなんか見えるはずが無い。

 「…タイム・アウトみたいね。あっ!私、いい考えがあるの」

 フーチ先生が笛を高らかに吹いた。
 ハリーたちが下に下りていくのが解る。
 すると、何を思ったのかハーマイオニーが観客席を抜け出してハリーたちのところにかけていった。
 少ししたら、観客席にまた戻ってきたけど……一体何をしたんだろう。

 「……何したの?」
 「ハリーの眼鏡に、防水の魔法をかけてきたのよ。これで大丈夫よ」

 ハーマイオニーはいつになくもっさもっさの髪の毛を必死に顔から払いのけながら笑っていた。
 本当に大丈夫かなぁ……

 「セドリック・ディゴリーがスニッチを見つけたみたいだわっ!」

 突然隣からカナリキ声。
 耳を劈くような声。
 もう……

 試合は急展開を向かえた。
 セドリック・ディゴリーがハリーの上空を何かを追いかけるように飛んでいる。
 ウッドが何か叫ぶと、ハリーも上昇してセドリックの後を追うようにスニッチを追いかける。


 …………と。

 「………………」

 さーっと体から血の気が引いていくのがわかった。
 風の唸りや雨の降りしきる音さえ耳に届かなかった。
 あれほどわいわい騒いでいた競技場が、いきなり音を失ったかのようにシーンとなった。
 僕は、競技場の真上から目が離せなくなっていた。

 「……ハリー……」

 競技場の真上にはいるはずの無いもの……ディメンター……
 ハリーの上……
 ぞわぞわとした空気が競技場の中に漂う。
 なんだか、楽しさが無くなっていくような感覚に包まれる。

 「…っ!ハリー!!」

 目の前に突如広がった光景に僕は己の目を疑うことしか出来なかったんだ。
 ハリーが……箒から落ちた。
 すごい上空にいるんだよ?
 スニッチを追いかけてものすごいスピードで箒を操っていたハリーが……
 どんなに箒が暴れても落ちなかったハリーが……箒から落ちた。
 それこそものすごいスピードで地面に落ちていく……




 一瞬目を瞑った。
 でも、すぐに目を開いてしまった。
 まだハリーは落ちている。
 え?
 僕の目にはまた信じられない光景が映る。

 「…だわ」

 ハーマイオニーの呟きが聞こえた。
 ハーマイオニーの言うとおり、レインコートを脱ぎ捨てたが、競技場の真ん中でディメンターに向かって何か叫んでいた。
 それからすぐ…杖も使わずに、何事かつぶやくと、緑色の光がディメンターたちを包み込んで、彼らは競技場から出て行った。

 「…ダンブルドアが、ハリーを助けたわっ!ロン、ロン、早くきてっ!ハリーを医務室に運ばなくちゃっ!」

 ハーマイオニーの声が響く。
 競技場には、のほかにもう一人。
 ものすごく恐い表情をしたダンブルドアが杖を持って立っていた。
 僕の目には、ハリーが地面にぶつかる少し前に、落ちるスピードがずいぶんとゆっくりになった光景が焼きついていた。
 おそらくあれはダンブルドアがやったことなんだろう。
 それにしても、が……


 ハリーを医務室に運びながら、僕は考えていた。
 …もしも、もしもがスリザリンの勝利を願っていたんだとしたら……
 これは、クィディッチに限らず、何でも……だ。
 もしも、そうだとしたら、はハリーを助けなかったんじゃないかって……
 ディメンターを追い払ったのはだ。
 直接的にハリーを助けたのはダンブルドアかもしれない。
 でも…
 あそこでディメンターを追い払わなかったら、ハリーはどうなってた?

 僕は、に対する考え方を変えなくちゃいけないかもしれない。
 はやっぱりスリザリンだから……って、いつもそんな風に思ってたんだ。

 うらやましかったんだ。

 ハリーもハーマイオニーもをとっても信頼しているから。
 僕は全然と話したことが無くて、という存在が…スリザリン寮なのにみんなに好かれているが…とってもうらやましくてねたましかったんだ。
 でも、謝らなくちゃ……






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 ロン思考で、ハリー墜落を……
 私の書くロンってネガティブ……(爆死)