仲直り
落ちた。
夢のお告げでは確かに落ちた。
真っ暗な闇の中にハリーを意味する稲妻が張り裂けんばかりの悲鳴を上げながら落ちたのだ。
毎年、クィディッチのときには何か事件が起きる。
だから気になっていた。
雨の中クィディッチなんて大して面白くも無い競技を見るのは気が進まなかったけれど、ハリーにもしものことがあってはいけないと僕は万全の対策をして競技場に行ったんだ。
そしたら案の定ハリーは箒から振り落とされた。
嵐の中を必死にスニッチを追いかけたハリーが、いきなり失速した。
そのまままっさかさまに箒から落ちた。
原因は吸魂鬼。
ダンブルドアに入ってきてはいけないと強く言われていたにもかかわらず、クィディッチ観戦者の熱い思いを払いのけることが出来なかったのだろう。
医務室でうなされているハリーの姿を見ながら僕はあのときの状況を考えていた。
あの時、僕が何もしなくてもダンブルドアがハリーを助けることは明白だった。
それなのに僕の体は、自分でもどうしてそんなことをしたのかなんてわからないけれど、勝手に躍り出てしまった。
ハリーを助けるために吸魂鬼の前に立ちはだかる。
「帰れっ。ホグワーツの敷地内に踏み込むなという命令を忘れたのか?!」
「…うぅぅ…」
不満げな声が聞こえたのを覚えている。
吸魂鬼にとって、あんなに楽しそうな思念が転がっている場所で、自分たちの食料とでも言うべき思念を取り去ることが出来ないということは耐えがたき苦痛だ。
そんなことは解っている。
それでも彼らは敷地内に踏み込んではならない身。
このままだと、ハリーだけじゃなくほかの生徒まで巻き込んだ大惨事になりかねない…と思ったんだ。
そのとき何をしたのか…詳しくは覚えていないけれど、たぶん僕は魔法を使ったんだと思う。
杖を取り出すのを忘れてたらしいけれど、今の僕には杖があろうがあるまいが関係ないからね。
彼らの前に結界を張った…のかな。
ここに入れちゃいけないという思いで、敷地の外まで圧し戻したんだ。
吸魂鬼が去っていく途中、黒わんわんの姿が目に入ったような気がして……
あれほど見に来るなといったのに、シリウス・ブラックはハリーの試合の観戦をしにきたのか、と呆れてしまったんだ。
そして、それがハリーにとって恐怖の一部となったのかもしれない…って思ったら、黒わんわんをこっぴどく叱っておかなくちゃいけないなぁ…なんて事を考えてた。
そして、僕はかんかんに怒っているダンブルドアに付き添ってハリーを医務室まで運んだんだ。
僕がしたことがいいことだったのか悪いことだったのか、僕にはわからない。
「あ、気がついたみたいよ」
ハーマイオニーの声にボーっと考え事にふけっていたが顔を上げる。
医務室のベッドでうなされていたハリーが細く目を開けたのだ。
その姿を見るとはほっと安堵のため息をついた。
につられて周りのみんなもため息をつき始める。
「ハリー、気分はどうだ?」
最初に声をかけたのは泥だらけの顔のフレッドだった。
みんな試合のときの姿のまま誰も着替えようともせずにじっとハリーを見守っていたのだ。
「…どうなったの?」
ハリーがあまりに勢いよく起き上がったので、みんなが息を呑んだ。
「君、落ちたんだよ。ざっと……そう……20メートルくらいかな」
「みんな、貴方が死んだと思ったわ」
ハーマイオニーがひくっと声を上げた。
よく見たらハーマイオニーの目は充血しているではないか。
ふと、のほうを見上げたら、は相変わらずハリーをじっと見ながら物思いにふけっている様子だった。
防嵐対策をしていった俺達は、周りにいる奴らほど濡れてはいなかったけれど、は吸魂鬼の前に立ちはだかったから、髪の毛から水が滴り落ちていた。
「…ダンブルドアがね、魔法で担架を出して君を医務室まで運んだんだ」
一通りクィディッチの試合のときに起きたことをハリーに説明し終わったとき、マダム・ポンフリーがやってきた。
「さあさあ。ハリー・ポッターはぐっすり眠る必要があるんです。そろそろ面会はおしまいですよ」
はハリーににっこりと笑みを浮かべ手を振ると、静かに医務室を後にした。
ハーマイオニーは、ハリーのぼろぼろになってしまった箒を抱えて医務室を出て行った。
………と。
の後ろを歩いてきていたロンが、小走りにに近づいてきた。
濡れた顔のまま、何かを決意したような神妙な面持ちでに声をかける。
「…、ちょっといいかな?」
久しぶりのロンからの接触に、は驚きを隠せなかった。
前に進んでいた足がぴたりと止まる。
それでものことだから、にこにこと笑顔を見せると了承の返事を出す。
「どうしたの?」
「…………ごめんなさいっ!!」
「………?」
いきなり深く頭を下げたロンに、は目を白黒させた。
ロンは何を謝っているんだろう?
「ロン、どうしたの?」
「あの、あのっ……僕、のこと勘違いしてたんだ。はスリザリンだからって…ハリーを助けてくれてありがとう。ハリーもハーマイオニーも寮も違うのにのことばかりいつも話しているから…正直僕、ねたましかったのかもしれない」
だからごめんなさい、とロンは続けた。
とたん、は声を上げて笑った。
ロンがきょとんとした表情を見せる。
「気にしてないのに、そんなこと」
雨に濡れたせいか、いつもより綺麗に見えるの笑顔にロンの顔が紅く染まる。
「そんなこと、気にしなくていいよ、ロン。これで僕たち、また友達に戻れるかな?」
が差し出した手を恐る恐るロンが握る。
またが微笑んだ。
「早く寮に戻ってお風呂に入ってきたほうがいいよ、ロン。そしたら……図書室にいるから」
ロンの前を颯爽と歩きながらがそういうと、ロンは廊下を走って寮に戻っていった。
その後、の足元に擦り寄った俺にがつぶやいた。
「…黒わんわんを叱りに行かなくちゃ行けないんだけど……その前に、お風呂に入りたいね」
よく見たら俺の体にも泥が跳ねていた。
このままでは風邪をひいてしまう…と、俺は駆け足で寮に戻っていく。
は苦笑しながら俺の後を追いかけてきた。
どうやら、ロンとのわだかまりが解けたようで、俺はちょっと嬉しかった。
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ロンとの喧嘩はこれで終了。
かわいそうなのは、シリウスかも(笑)