新学期への旅


 がヴォルデモートに遭遇してから1ヶ月。あれから毎日は地下の実験施設に籠りきりで人形を創るための研究を続けた。
 そして、ホグワーツの新学期が始まる数日前に、2度の改良の末に完成した100cmに満たない人形は、かつてのヴォルデモートを完璧に再現していた。馴染みの仕立て屋に頼んだ特注の衣装を身に付けた人形は、やや長い黒炭の髪と深紅の瞳を持つ白皙の美少年を模し、宛ら中世の貴族のようだった。
 そして、の一言で“トム”と呼ばれるようになったその人形の、学生時代のヴォルデモートを知らない人間であっても見惚れずにはいられないだろうという出来栄えに、僕たちの想像以上に心を奪われたのはだった。ここ数夜は幻獣館の談話室に飾られた人形の額に接吻してから床につくのが彼の日課になっている。
 人形と戯れるの姿はいつになく美しいものだったが、研究に没頭し剣の稽古にあまり付き合ってくれなくなったこともあり、僕は出来上がった人形に若干の嫉妬を覚えていた。それでも、普段あまり笑みを見せることのないが、人形に語りかけるときに口元を緩め、愛らしい仕草を見せるものだから、彼が人形と一日の大半を過ごすことを許容してしまう。つくづく、に対してはどこまでも甘いな、と自分に苦笑するしかない。

 グリンゴッツ魔法銀行が何者かに侵入されたという事件があり、近くヴォルデモートが世に姿を現すのではないかと僕らは心配していたが、あれ以降ヴォルデモートが僕らに接触を試みることはなかった。
 人形も魂の受け皿として機能することのないまま、夏休みはめまぐるしく過ぎ去り、キングズ・クロス駅の9と4分の3番線からホグワーツ特急に乗る9月1日がやってきた。


 マグルで混雑したキングズ・クロス駅に足を踏み入れると、何食わぬ顔で9番線と10番線の間の柵に向かって進む。柵にぶつかるかもしれない、と過度に怖がらなければ、プラットホームの入り口は魔法使いのために開かれ、僕らの身体を呑みこんで、ホグワーツ特急の待つプラットホームへと進むことができる。怖がらないこと、これがコツだった。
 そうして9と4分の3番線に足を踏み入れると、紅色の蒸気機関車が乗客でごった返すプラットホームに停車していた。
 4人分の荷物を詰めたトランクを寮長用に指定されたコンパートメントに置くと、乗車する生徒たちに挨拶するためにもう一度プラットホームに降り立つ。赤毛の双子、フレッドとジョージ・ウィーズリーとふざけあったり、今にも泣き出しそうな女の子を慰めたりしているうちに汽笛が鳴り、銘々家族に別れを告げ、急いで汽車に乗り込んだ。
 汽車が滑り出して暫くは、初めてホグワーツ特急に乗る新入生たちもおとなしく窓の外を見ているので、僕たちもコンパートメントの中で今年の寮対抗杯について話を膨らませる。
 最初の緩いカーブを過ぎた辺りで車内販売が始まり、生徒たちが徐々に通路に姿を現し始める。両手を上げて大きく伸びをしたが一番にコンパートメントを飛び出し、生徒たちの座席を回り始めた。ここ数年、彼にはお気に入りの生徒がいるらしい。もその後に続き、コンパートメントから姿を消したので、僕はトムを抱いたままのに声をかけた。

 「ほら、見回りに行こうぜ」
 「……毎年言っていると思うが、僕らが見回りをしなくても監督生たちがしっかりやってくれるだろう?」
 「そういうつまらないことを言わないように。ホグワーツに到着する前に新入生を把握しておくことだって立派な寮長の仕事だぞ」

 びしっ、と指先をの鼻の辺りに突き付けると、は呆れたような溜息をついて僕の指を払いのけた。トムを抱いたままで重い腰を上げた彼は早く行くぞ、と言わんばかりにコンパートメントの入口を開ける。
 へへっ、と笑いながらの左腕に腕を絡めると、紅い瞳がますます呆れたような色彩を放って僕を見つめた。トムを抱いたままというところがやや気にくわないけれど、それでも僕に付き合ってくれるところがの優しいところだ。

 「はセドリック・ディゴリーのところか?」
 「ああ。はロジャー・デイビースのところだ、きっと」
 「君は赤毛の双子のところに行かなくていいのか?」
 「そりゃ、フレッドとジョージと一緒に騒ぐのは楽しいさ。だけど、まずは各コンパートメントを回って、どんな新入生がいるのか確認したいじゃないか。それに、フレッドとジョージと騒ぐのはホグワーツに着いた後でも出来る」

 最初に訪れたコンパートメントは監督生たちの指定席で、グリフィンドール寮で今年新たに監督生に選ばれたパーシー・ウィーズリーが誇らしげにそこに座っていた。

 「お久しぶりです、。僕、今年、監督生に選ばれました!」
 「おめでとう、パーシー。期待してるぜ」

 監督生と言う言葉を強調しながら話してくるパーシーに、先輩監督生たちは苦笑を浮かべていたが、本人は全く気付いていない様子だったので、僕も笑いを押し殺して挨拶をした。

 「……ビルは元気にしているかい、パーシー」
 「ええ、相変わらず。グリンゴッツのエジプト支店にいますよ」

 他の生徒たちとは空気の違うスリザリンの監督生たちとあいさつを交わしていたが、僕の袖をひっぱりながらパーシーに社交辞令のような質問を投げかける。
 ビルはパーシーの兄で、彼もパーシーと同じくグリフィンドール寮の出身だったが、成績優秀、眉目秀麗、何事もそつなくこなす少年で、がそれとなく目を掛けていた生徒でもあった。サラザール・スリザリンの影響なのか、本来の恰好なのか、どうにもは頭も見た目も良い人間を好む傾向にあるようだ。コンパートメントを出るときに、に聞こえないように、面食い、と呟いたが、力の籠った紅い瞳の無言の睨みを受けてしまった。そんなに怒るなよ、とローブを掴みながら平謝りする。

 それから、がセドリック・ディゴリーとその友人らとおしゃべりしているコンパートメントを訪れ、とロジャー・デイビースらの謎解きゲームに参加した後に訪れたコンパートメントで、余った座席の上に山盛りに積まれたお菓子を見て僕は思わず声を漏らして笑った。
 そのコンパートメントには、ダイアゴン横丁で出逢ったハリー・ポッターと、燃えるような赤毛にそばかすだらけの顔をした背の高い少年が一緒にいて、真剣な顔つきで蛙チョコの包みを開けていた。
 彼らは僕たちが入室すると、多少顔を赤らめて顔を上げ、お菓子の山をどけて僕たちが座れるよう空間を創ってくれた。

 「やあ、ハリー。無事にホグワーツ特急に乗れたようで何よりだ。元気だったか?」
 「うん。どうやってプラットホームに行くかわからなくて大変だったけど、何とかたどり着いたよ」
 「それはよかった。そっちの君も新入生か? 僕はグリフィンドール寮長のだ。よろしくな」
 「あ、うん。僕、ロナルド・ウィーズリー。フレッドとジョージから聞いてると思うけど」
 「あの二人の弟か! これは今年は期待できるな! 、今年の寮杯はグリフィンドールがもらったぜ」

 はどうだか、と仕草でだけ応え、小さく溜息をついた。毎年ダイアゴン横丁の視察やホグワーツ特急の見回りで新入生と知り合う数が極端に少ないだが、こんな態度では相手だってお近づきになろうと思わないだろうな。

 「こっちがスリザリン寮長のだ」

 無愛想なの代わりに僕が彼の紹介をする。よろしく、と呟いたがけだるそうに右手を伸ばすと、ロンが戸惑いながらその手を握り返した。

 「それで、早速蛙チョコに夢中か、ハリー」
 「うん。僕、写真が動くなんて知らなかった。それに、チョコレートも!」

 整然とした畑を通り過ぎ、森や曲がりくねった川、鬱蒼とした暗緑色の丘が過ぎていく車窓を眺め、蛙チョコから百味ビーンズに興味を移したハリーたちを眺めながら僕はに目配せした。今年はこのコンパートメントにいよう。きっと楽しいぞ。
 どこでもいいよ、と興味なさげに頷いたは、腕に抱いたトムの服装を直したり髪を撫でつけたりと、人形に心を奪われたままだ。
 ハリーから受け取った百味ビーンズを口に放り込むと、イチゴの甘い香りが口の中に広がった。これは当たりだ。今日はいいことがあるに違いない。
 しばらくすると、お菓子を食べるのにも飽きてきたのか、ロンがポケットからペットのネズミを取り出し、一角獣の鬣がはみだした杖で呪文を掛けようとし始めた。トムの顔を愛でていたが興味深げな表情をして顔を上げた時、コンパートメントの扉が開いてべそをかいた丸顔の男の子と新調したばかりのローブに身を包んだ栗色の髪の女の子がやってきた。

 「誰かヒキガエルを見なかった? ネビルのがいなくなったの」
 「ううん、見なかったよ」

 しかし彼女はロンの返事を聞いてもいないようだった。彼の持つ杖に気を取られている。ずずい、と僕の隣に座り、ロンのほうをじっと覗き込んだので、ロンはたじろいだ。
 面白いことになってきた、と口元を緩めて3人の様子を観察していると、咳払いをしたロンが “お陽さま、雛菊、溶ろけたバター。デブで間抜けなねずみを黄色に変えよ” とめちゃくちゃな呪文を唱えたので、僕は思わず吹き出してしまった。もちろん、ネズミの姿は変わらない。

 「そ、そんなに笑わなくてもいいじゃないか、
 「ごめん、ごめん。斬新な呪文だったからつい……」
 「その呪文、間違ってないの?」

 ねずみ色のままぐっすり眠ったネズミを見ながら女の子が言った。

 「ジョージに教えてもらったんだ。でも、昨日も失敗した」
 「まあ、あんまりうまくいかなかったわね。わたしも練習のつもりで簡単な呪文を試してみたことがあるけど、みんなうまくいったわ。わたしの家族に魔法族は誰もいないの。だから、手紙をもらった時、驚いたわ。でももちろん嬉しかったわ。だって、最高の魔法学校だって聞いているもの……教科書はもちろん、全部暗記したわ。それだけで足りるといいんだけど……わたし、ハーマイオニー・グレンジャー。あなた方は?」

 水の流れの如く一気にしゃべった彼女に、ハリーもロンも目を丸くして顔を見合わせていた。がハーマイオニーと名乗った少女に好意的な視線を送っていたが、きっと彼女の“教科書を全部暗記した”という件に興味を持ったのだろう。

 「だ。グリフィンドール寮長の。向かい側に座っているのが、スリザリン寮長の

 唖然とした表情の子供たちが彼女の言葉に全く反応しないので、まず最初に僕が自己紹介した。そして、どうせろくな挨拶をしないだろう、とのことまで紹介すると、はロンの時と同じように、よろしく、と右手を差し出して彼女と握手した。

 「ホグワーツに四つの寮があることは知っていたけど、寮長さんがいるなんて知らなかったわ。だってホグワーツのことを紹介しているどの本にも書いていなかったんですもの。素敵。各寮に寮長さんがいるなら、寮生活はわたしが想像しているよりきっと素晴らしいものだわ」
 「寮での生活を素晴らしいものにするのは君自身さ、ハーマイオニー」

 興奮気味に話すハーマイオニーをぽかんとした顔で見つめていた二人は、それで、あなた方は? というハーマイオニーの二度目の問いを受けて、やっと口を動かした。

 「僕、ロン・ウィーズリー」
 「ハリー・ポッター」
 「ほんとに? わたし、もちろんあなたのこと全部知ってるわ。参考書を2、3冊読んだの。あなたのこと、『近代魔法史』『黒魔術の栄枯盛衰』『二十世紀の魔法大事件』なんかに出てるわ」
 「僕が?」
 「まあ、知らなかったの。わたしがあなただったら、出来るだけ全部調べるけど。二人とも、どの寮に入るかわかってる? わたし、いろんな人に聞いて調べたけど、グリフィンドールに入りたいわ。絶対一番いいみたい。ダンブルドアもそこ出身だって聞いたわ。でもレイブンクローも悪くないかもね……ねえ、寮長さん、わたし、グリフィンドールに入れるかしら?」

 ちらりと僕の方を見て首を傾げたハーマイオニーに、僕は笑顔を返した。グリフィンドール、と言われたことでハーマイオニーからやや興味を失ったのか、の視線はトムに戻っている。

 「最終的には、組分けの儀式で決まるから何とも言えないけど……めでたくグリフィンドールに決まったなら、全力で歓迎するよ」
 「ほんと? なんだかドキドキするわ……ああ、でももう行くわね。ネビルのヒキガエルを探さなきゃ。二人とも着替えたほうがいいわ。もうすぐ着くはずだから」

 ハーマイオニーはヒキガエル探しのネビルを連れてコンパートメントから出て行った。
 とたん、ハリーとロンは大袈裟に溜息をついて、それぞれ彼女のいない寮がいいな、などと呟き始めたものだから、これくらいの年齢の子どもは女の子のほうが大人びているのか、などと今までの生徒を思い出しながら考えてみる。

 「へぼ呪文め。ダメ呪文だってジョージは知っていたに違いない」
 「君の兄さんたちってどこの寮なの?」
 「グリフィンドール」

 ロンが落ち込んだように呟き、僕のほうをちらりと見た。ハリーもロンの視線につられて僕を見てきたので、とびっきりの笑顔を二人に返したが、ロンは大きく息を吐き出してしょぼくれた顔をしている。

 「は……知ってるだろ? ママもパパもみんなグリフィンドールだったんだ。もし僕がそうじゃなかったら、なんて言われるか。レイブンクローだったらそれほど悪くないかもしれないけどさ……」

 がいたせいか、ロンはその先に出てくるであろう言葉を濁して俯いた。が顔を上げてロンとハリーを見、静かに言葉を紡ぐ。

 「どの寮に入るかは問題じゃないよ。ホグワーツの入学許可証が届いた時点で、君たちには魔法使いの資質があるんだから。どの寮に選ばれるかよりも、そこでどんなことを成し遂げるか、のほうが重要だ」
 「そうそう、の言うとおり。どの寮に選ばれたって、ホグワーツを楽しめることには変わりないんだから。不安になるより、どこに選ばれるかドキドキしながら待っているといい」

 するとロンは目を丸く見開いてを見つめ、もごもごと口を大きく開かずに何かを呟こうとした。
 しかし、丁度その時、またコンパートメントの扉が開いたので、ロンの視線もハリーの視線も扉の方に向いた。
 今度は恰幅のいい二人の少年と細身で青白い顔をした一人の少年が入ってきた。新調したローブを身に纏った見たことのない生徒だったので、おそらく彼らも新入生だろう。の姿に気がついて恭しく一礼するあたり、スリザリンの家系の子どもたちか。トムの関節の動きを確かめていたも、少年たちと目が合うとそちらに目をやり、三人の礼をまんざらでもなさそうに見つめている。
 に一礼した少年たちはコンパートメント内を見回し、ふん、と鼻を鳴らしながらハリーに視線を送った。

 「このコンパートメントにハリー・ポッターがいるって、汽車の中じゃその話でもちきりなんだけど。君なのか?」
 「そうだよ」

 なんだか面白いことになってきたじゃないか、と子どもたちを見つめた僕は、この先彼らがどんな会話をするのか気になってわくわくした。ハーマイオニーといい、ハリーとロンといい、今年の新入生は面白そうな奴らばかりが揃っている。
 ハリーの視線が中央の細身の少年から、横に並んでいる二人に移る。

 「ああ、こいつはクラッブで、こっちがゴイルさ。そして、僕がマルフォイだ。ドラコ・マルフォイ」

 ロンが笑いを誤魔化すかのように軽く咳払いすると、ドラコはそれを目ざとく見とがめた。

 「僕の名前が変だとでも言うのかい? 君が誰だか聞く必要もないね。パパが言ってたよ。ウィーズリー家はみんな赤毛で、そばかすで、育てきれないほどたくさんの子どもがいるってね」

 なるほど、とでも言いたそうな表情でがドラコと後ろの二人をじっと眺めている。かつてが目を掛けていた生徒の息子と思われる少年ドラコは、青白い顔と顎の形が父親によく似ていた。誇り高い態度もそっくりだ。母親の特徴を受け継いだらしいプラチナブロンドの髪は、一分の隙もないように整えられている。

 「ポッター君。そのうち家柄のいい魔法族とそうでないのとが分かってくるよ。間違ったのとは付き合わないことだね。その辺は僕が教えてあげよう」
 「間違ったのかどうかを見分けるのは自分でもできると思うよ。どうもご親切様」

 ドラコはハリーに手を差し出して握手を求めたが、ハリーは応じず、冷たく彼を突き放した。ドラコは青白い頬をやや赤く染めた。薄いグレーの瞳には冷たい怒りが籠っているように見える。
 僕ももこの二つのグループに激しく興味をそそられていた。ホグワーツへ到着する前に生徒たちの中に不和が生じる、なんて実に面白い出来事だった。今年は本当に楽しい一年になりそうだ、と思わず口端が上がる。

 「ポッター君。僕ならもう少し気を付けるがね。もう少し礼儀を心得ないと、君の両親と同じ道をたどることになるぞ。君の両親も、何が自分の身のためになるかを知らなかったようだ。ウィーズリー家やハグリッドみたいな下等な連中と一緒にいると、君も同類になるだろうよ」

 その言葉を聞き終わらないうちにハリーもロンも立ち上がった。ロンの顔は髪の毛と同じくらい赤くなっている。

 「もういっぺん言ってみろ」

 今にも飛び掛かりそうな勢いでロンが叫んだ。ぴりぴりとした空気がロンとハリーから伺える。さて、どうなるか。
 僕は取っ組み合いの喧嘩になるまでは手を出さずにいようと思っていたが、トムを椅子の上に置いたが、すっと立ち上がって対立する二つのグループの間に割って入った。その動きが緊迫した空気を裂く。
 全員の視線がに注いだ。

 「……ドラコ、君は確かスリザリンへの入寮を希望していたと思ったが」
 「はい、寮長」
 「それなら、常に紳士たる振る舞いを心掛けなさい。血も名も高嶺に昇るものであって、貶めるものではない。僕は君が“スリザリンの誇る生徒”になることを希望するよ」

 全くらしい、と僕は口元に笑みを浮かべてを見つめた。
 自分の寮の体質を良く知っているは、寮に属する学生にどんな言葉が一番効果的なのかを心得ている。彼らの行為を否定せず、ただ静かに高みへの道を伝えるだけで、スリザリン寮生はに心酔する。そうして上手く学生を操るのがだ。それ故に、純血主義で露骨にマグル差別をする、と他の寮生たちからは評判の悪いスリザリン寮生だが、ホグワーツの中で一番紳士的な振舞いを身につけている。つくづく、綺麗なものを好むらしい、と笑いが口元から漏れ出てしまう。

 「失礼しました、寮長。よろしければ、僕たちに御教授願えないでしょうか」

 やはり、ドラコも付き添いの二人も例外ではないようだ。隙の無い立ち居振る舞いをするに心を奪われ、先ほどハリーたちに見せていた傲慢な態度はどこへやら、従順な生徒に早変わりした。

 「……君たちが望むなら」

 そう言ってドラコの申し出を了承したは、そう言うことだから、と僕に眼だけで合図をして、椅子の上に座らせていたトムを抱き上げるとドラコ達を連れてコンパートメントを去って行った。
 後に残ったハリーとロンは目の前で起きた出来事を信じられない、というような眼で見つめたまま、しばらく動かなかった。
 汽車がカーブに差し掛かり、がたん、と揺れたときに初めてはっと気がついた二人は、どちらともなく着席し口を開いた。

 「あの寮長さん、すごいね……」
 「は特別だからなぁ……どうやって生徒の気を引くのかをよく心得てるんだ」
 「ふうん。でもなんかもったいないな。あんなに素敵なのに、傲慢ちきな奴のいるスリザリンの寮長なんて」
 「僕、あの家族のことを聞いたことがある。『例のあの人』が消えた時、真っ先にこっち側に戻ってきた家族の一つなんだ。魔法をかけられてたって言ったんだって。パパは信じないって言ってた。マルフォイの父親なら、闇の陣営に味方するのに特別な口実はいらなかったろうって」

 辛気臭い顔をするロンの肩をぽんと叩くと、僕は満面の笑みを二人に向けた。車窓から見える景色が、もう少しでホグワーツへ到着することを示している。
 せっかくの入学式の日に、こんな辛気臭い顔をしていては楽しいことも楽しくなくなってしまう。

 「さ、嫌なことは忘れてローブに着替えるといい。もうすぐホグワーツに到着だ」

 僕はそう言って二人の可愛い新入生を促した。
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 はトムに、に御執心。