厳密な芸術の授業


 翌日、ヴォルデモートの宿った人形トムは僕の手元に戻ってきた。
 久方ぶりにヴォルデモートと一夜を過ごしたは大層ご機嫌だったが、僕が寝ぼけ眼のを連れて大広間に現れたのを目撃してしまったからか、ヴォルデモートの機嫌はすこぶる悪かった。彼はその日一日中僕のローブの中に隠れて行動し、が何度引きずり出しても僕から離れずにいた。

 スリザリンの新入生は初日の授業に遅刻してくることもなく、授業中に無駄なおしゃべりをすることもなく、合同授業の相手の寮生たちに格の違いを見せつけた。夕食後の談話室は授業の予習復習をする生徒で溢れ、就寝時間ぎりぎりまで僕も彼らの勉強に付き合った。
 人形の姿をしているとはいえ、闇の帝王と恐れられているヴォルデモートを生徒に近づけるのはよくないと、次の日からはヴォルデモートを僕の部屋に置いていったが、就寝時間にならないと部屋に戻らない僕にヴォルデモートは毎日不満をぶつけた。

 「帰ってくるのが遅いよ、

 木曜日の夜も、いつもと同じように部屋に入るなりヴォルデモートの不満げな声が聞こえてきた。腕と足を組んで机の上に座った彼は、不機嫌な顔をして僕を見つめている。
 談話室で使っていた教科書を本棚に片付け、ローブをスタンドにかけて部屋着に着替えた僕は、椅子に腰を下ろし机の上のヴォルデモートの輪郭線をなぞった。不満げな表情を浮かべたヴォルデモートは僕の手を小さな手で掴むと、遅いよ、ともう一度不満を口にした。

 「新学期が始まったばかりだからね。新入生はまだホグワーツに慣れていないし、他の学年の生徒もホグワーツ生活の感覚を取り戻さなければいけない時期だ。一生懸命談話室で勉強している彼らに付き合うのも寮長の務めだと思うが」
 「それにしたって遅すぎるよ」

 床につかない足をばたつかせながら納得いかないという顔をするヴォルデモートは非常に愛らしい。そう言えば、ホグワーツに入学したばかりの頃も、僕が少し他の生徒と関わっているだけで機嫌を悪くしていた気がする。
 機嫌を直してくれ、と指で軽く彼の脇腹をつつくと、あからさまに嫌な顔をして身体を仰け反らせ、机の上に立ち上がるとそのまま僕の膝の上に勢いよく降りてきた。バランスを崩した彼を両手で支える形になる。

 「お気に入りの生徒でも出来たのかい? 君はお気に入りにはとことん甘いからね」
 「……そういうわけじゃないよ。少し目を掛けている生徒はいるけどね。ルシウス・マルフォイの息子が今年入学したんだが、ルシウスに似て頭が良く、まだ幼さが残るけれどもナルシッサに似て美人なんだ。明日は魔法薬学の授業があるからって予習をしていたけれど、中々筋がいい」
 「ふうん……気に食わないな」

 左手で僕の服を、右手で僕の髪を掴んだヴォルデモートは射すように僕を見つめてそう言った。
 嫉妬深いのは相変わらず、か。他の生徒の話題になると目に見えて機嫌を悪くするところも、僕の興味を引こうとちょっかいを出してくるところも昔と変わらない。
 僕の髪を引っ張って顔を引きよせたヴォルデモートは、小さな手で僕の頬を挟み込み、力のこもった眼で僕を見つめた。

 「……は、僕だけを見ていればいいんだ」

 それは過去何度も耳にした台詞だった。堂々と口にするヴォルデモートの瞳はいつも眩しい光を放って僕を見つめている。自分で創ったとはいえ、あまりに美しすぎる。彼の前髪をかきあげ額に軽く接吻を落とすと、僕は彼を抱き上げた。

 「君はいつも難しいことを言うね」
 「が構ってくれないのがいけないんだ。就寝時間ぎりぎりまで生徒を構っているなんて……」

 ヴォルデモートを抱いたまま寝台の上に移動し腰を下ろす。膝の上に座った彼は、僕の服をつかんで口端を下げたままだ。そろそろ機嫌を直してくれ、と髪を撫でながら言うと、それなら僕だけを見ていてくれ、と彼は同じ台詞を繰り返した。

 「10年……君に逢えなくて気が狂いそうだった。せっかく逢えたのに、僕以外の人間に君の意識が移るのは許せない」
 「ヴォル」
 「生徒の話はもういいよ。は僕だけを見て、僕のことだけを考えていればいいんだ」

 変わらないな、と小さく呟くと僕は彼を寝台の上に下ろした。掛布の中に入るよう指示を出すと、ヴォルデモートはしぶしぶそれに従った。上半身は起こしたままで、僕のことを強く見つめている彼に、僕は小さく笑みを見せる。
 そんなに必死にならなくても、君に出逢った時からずっと、僕の目には君しか映っていない。腕を組んでつんと鼻先を上に向けて拗ねている、闇の帝王とは思えない彼の態度が僕の心をくすぐる。

 「僕の部屋の僕の寝台で眠ることが出来るのは君だけだ。あまり拗ねないでくれ。こうして部屋にいるときは二人きりだろう?」

 掛布とシーツの間に足を入れると、ひんやりとした感覚が全身を包み込んだ。寝台に身体を横たえ枕に頭を預けると、腕を解いたヴォルデモートが上から僕を覗き込んだ。ひとつ柔らかい笑みを返すと、小さな手が僕の頬に触れ、紅い瞳が閉じられたと同時に額に甘い感触が広がった。
 額から輪郭線をなぞるように降りてきた接吻は、首筋を通り過ぎ胸のあたりまで続く。彼の髪を撫でる僕の手にも何度か柔らかい接吻を繰り返し、やっと満足がいったのか、ヴォルデモートも寝台に身体を預けた。ひたりと僕の身体に身を寄せ、温もりを確かめるかのように顔をすり寄せてくる。

 「……週末は、ずっと一緒にいられるかい?」
 「君が望むなら」
 「それなら、今日のところは許してあげてもいいかな」

 顔を上げ僕をじっと見つめたヴォルデモートに微笑すると、彼の髪を優しく撫でた。背中に手を回し、一定の間隔で軽く手を動かすと、ヴォルデモートは安心しきった笑みを見せて目を閉じた。
 ……彼は、愛情を知らない孤独な子どもだ。年を重ね、僕より背が高くなってもそれは変わらなかった。死ぬことを恐れ、他人を信用することができず、孤独に怯える小さな子ども。眠る前に僕がそこにいることを確かめるように全身に接吻するのも、ふと夜中に目が覚めた時、服や髪をきつく握りしめたり僕の身体を触ってそこにいることを確かめたりするのも、彼の中にある恐怖から来る行為に他ならない。
 せめて僕の腕の中で眠るときくらい、全てを忘れて身を委ねてほしい、と小さな身体を優しく撫でる。

 「と一緒に眠るのが一番安心する」
 「僕もだ」

 彼の寝息が聞こえてくるまで僕はゆっくりと手を動かし続けた。
 翌朝、まだ眠いと僕の胸に顔をこすりつけ、嫌だと首を横に振るヴォルデモートを寝台の上に残して着替えを済ませると、寝ぼけ眼の学生たちと共に朝食へ向かった。
 何百羽というフクロウが大広間になだれ込んでくるのを眺めながらいつもと同じように朝食を取る。教員席に座ったセブルスが眼で僕に合図を送ったので、一旦授業の準備をするために寮へ戻る学生たちと別れてセブルスの元へ向かった。
 セブルスと共に魔法薬学の授業場である地下牢へ赴くと、スリザリンとグリフィンドールの新入生にとっては初めてとなる魔法薬学の授業準備を手伝う。新入生の数を名簿で確認し、必要な材料と道具を机の上に置いた。
 準備が終わった頃、ドラコがビンセントとグレゴリーと共に地下牢にやってきた。彼らはセブルスから一番よく見える席に腰を下ろし、机の上に置かれた材料や、壁にずらりと並んだアルコール漬けの動物入りのガラス瓶を珍しそうに眺めている。
 スリザリンとグリフィンドールの生徒は中央の通路を挟んで綺麗に右と左に分かれて席に着いた。ハリー、ロンと共に教室にやってきたは、教員補助席に腰掛けた僕の隣にやってきて、グリフィンドールの生徒の名簿を広げた。見学する授業の出欠を確認することも僕らの仕事の一つだ。
 やがて授業の始まりを告げるチャイムが鳴ると、セブルスは威圧感を漂わせた風体で生徒たちの前に現れ、まず最初に出席を取った。そして、グリフィンドールのハリー・ポッターの名前まで来たところで、咳払いをして少し止まった。

 (フィリウスなんか、ハリーの名前を見て興奮してひっくり返ったんだぜ)
 (名前だけが独り歩きしているのは、ハリーの成長に良い影響を与えないと思うが)

 楽しそうにセブルスを眺めるに、僕は小さな溜息をついた。
 猫なで声でハリーの名前を呼んだスネイプの声に反応して、ドラコを始めとする数名が冷やかし笑いをした。ハリーは居心地悪そうにやや俯き加減で席に座っている。魔法界の誰もが自分のことを知っていると言う状況がハリーには窮屈で仕方のないことなのだろう。
 出席を取り終わると、セブルスは冷たくて暗い色を放つ黒い瞳で教室中を見渡した。

 「このクラスでは、魔法薬調剤の微妙な化学と、厳密な芸術を学ぶ。杖を振り回すようなバカげたことはやらん。そこで、これでも魔法かと思う諸君が多いかもしれない。ふつふつと沸く大釜、ゆらゆらと立ち上る湯気、人の血管の中を這い廻る液体の繊細な力、心を惑わせ、感覚を狂わせる魔力……諸君がこの見事さを真に理解するとは期待していない。わたしが教えるのは、名声を瓶詰めにし、栄光を醸造し、死にさえふたをする方法である……ただし、わたしがこれまでに教えてきたウスノロたちより諸君がまだましであればの話だが」

 しんと静まり返った教室の中に、セブルスの呟くような声がよく響いていた。
 ハリーとロンが眉根を釣り上げて互いに目配せしているのを見つけたが口端を上げる。ハーマイオニーは椅子の端に座り、身を乗り出すようにして、自分がウスノロではないと一刻も早く証明したくてうずうずしているようだった。

 (毎年のことだが、セブルスは生徒を脅しすぎだよな)
 (魔法薬学は一つ間違えると大惨事になりかねない教科だからな。あれくらいで丁度いい)
 (だけど、あれじゃ嫌われるばっかりじゃないか)

 左肘で僕を小突きながら囁くは、セブルスが毎年新入生に行う大演説に不満を覚えているようだ。
 出席簿を閉じ、机の上に羊皮紙を広げたとき、セブルスが大きな声で「ポッター!」とハリーの名を呼んだ。

 「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になるか?」

 ハーマイオニーが空中に手を高々と上げるのを無視して、セブルスがハリーを睨みつけるように見つめている。昨晩、談話室で予習していたドラコは答えに見当がついているようだったが、あくまで澄ました顔をして席についていた。こういうところが、グリフィンドールの生徒とスリザリンの生徒の違いなのかもしれない。
 はあからさまに、いきなりその質問はひどいだろ、とセブルスに呟いていた。

 「わかりません」

 ハリーが答えると、セブルスは口元でせせら笑った。有名なだけではどうしようもない、とハリーに冷たい言葉を向ける。
 名前が独り歩きしている現状、ハリーはどこに行っても有名人だ。人々は彼を褒めそやす。けれど、当のハリーはただの魔法使い見習いで、ホグワーツの新入生たちとなんら変わらない。生徒たちにそれを認識させると言う面では、セブルスが敢えてハリーを標的に質問をぶつけたのはいい判断かもしれない。やり方に問題がある、とに否定されそうではあるが。

 「それではポッター、もう一つ聞こう。ベゾアール石を見つけて来いと言われたら、何処を探すかね?」

 ハーマイオニーが思い切り高く、椅子に座ったままで上げられる限界まで手を伸ばしている。セブルスはそれを無視してハリーを冷たい目で見続けた。

 (ハーマイオニーはよく出来た子だ。変身術の授業で唯一マッチ棒を変身させたしな)
 (あの様子だと、教科書も全て暗記したというのは本当らしいな。頭のいい子は嫌いじゃない)

 は面白そうに教室中を眺めている。ハリーはもう一度、わかりません、と静かに答えた。

 「クラスに来る前に教科書を開いてみようとは思わなかったわけだな、ポッター。では、モンクスフードとウルフスベーンとの違いはなんだね?」

 ハーマイオニーはとうとう椅子から立ち上がり、地下牢の天井にとどかんばかりに手を伸ばしたが、セブルスは震える彼女の手をまだ無視して、冷たくハリーを見続けている。
 ハリーはあくまで落ち着いた口調で、わかりません、と続けた。

 「ハーマイオニーが分かっていると思いますから、彼女に質問してみたらどうでしょう」

 生徒が数人笑い声を上げたが、セブルスは不快そうな顔をして、座りなさい、とハーマイオニーに言い付けた。
 あーあ、とが残念がって溜息をついていたが、あれはそもそもハリーが自分たちとなんら変わらない普通の生徒の一人だと他の生徒に印象付けることが目的の質問であって、答えを知っているかどうかが重要なわけではない。もちろん、幾人かの特に勤勉なスリザリンの生徒やハーマイオニーは答えを知っていただろう。ハリーが答えられればそれはそれで、有名な名前に恥じないよう勉強しているようだな、と評されただろうが、魔法界に足を踏み入れたばかりの普通の少年であるハリーには難しい要求だ。

 「教えてやろう、ポッター。アスフォデルとニガヨモギを合わせると、眠り薬となる。あまりに強力なため、『生ける屍の水薬』と言われている。ベゾアール石は山羊の胃から取り出す石で、大抵の薬に対する解毒剤となる。モンクスフードとウルフスベーンは同じ植物で、別名をアコナイトともいうが、とりかぶとのことだ。どうだ? 諸君、何故今のを全部ノートに書き取らないのだ?」

 一斉に羽ペンと羊皮紙を取りだす音がした。その音にかぶせるように、セブルスが言葉を続ける。

 「ポッター、君の無礼な態度で、グリフィンドールは1点減点」

 ひどい、とが呻いて立ち上がろうとしたが、僕がの肘を小突いた。
 君だって理解していないわけじゃないんだろう? と眼で訴えると頬を膨らませたが不満げな表情を浮かべて僕を見た。

 その後、セブルスは生徒を二人ずつ組にして、おできを治す簡単な薬を調合させた。僕らもセブルスの助手として、生徒たちが干イラクサを計り、ヘビの牙を砕くのを見回った。
 魔法薬学というものは、最初にセブルスが生徒たちに話した通り、微妙で繊細な芸術だ。よい薬を作るためには、材料を正確に計り、細部にまで神経を研ぎ澄ませる必要がある。その点では僕ら二人とセブルスの判断基準は同じで、昨日の予習の成果を発揮したドラコを除いて、ほぼ全員に細かい注意を出すことになった。
 ドラコが角ナメクジを完璧にゆでたからみんな見るように、とセブルスがそう言った時、地下牢いっぱいに強烈な緑色の煙が上がり、しゅーしゅーという大きな音が広がった。
 いつでも魔法を使えるように、腰に差した剣に手を添えながら振り返ると、グリフィンドールの生徒の一人、ネビル・ロングボトムがシェーマス・フィネガンの大鍋を溶かしてねじれた小さな塊にしてしまい、こぼれた薬が石の床を伝って広がり、生徒たちの靴に焼け焦げ穴をあけていた。たちまちクラス中の生徒が椅子の上に避難したが、ネビルは大鍋が割れたときに薬を全身に浴びてしまい、腕や足のそこらじゅうに真っ赤なおできが容赦なく噴き出していた。痛みに呻くネビルの声が地下牢に響く。

 「馬鹿者!」

 セブルスが怒鳴り、魔法の杖をひと振りしてこぼれた薬を取り除いた。がすかさず大鍋を元に戻す呪文を掛け、毎年一人はいるんだよな、と慣れた口調で呟いた。

 「おおかた、大鍋を火から降ろさないうちに、山嵐の針を入れたんだな?」

 おできが鼻にまで広がったネビルがしくしく声を上げて泣き出すと、セブルスは彼を医務室に連れていくようにとシェーマスに苦々しく言った。それからだしぬけに、ネビルの隣で作業をしていたハリーとロンに鉾先を向けた。

 「君、ポッター、針を入れてはいけないと何故言わなかった? 彼が間違えば、自分のほうがよく見えると考えたな? グリフィンドールはもう1点減点」

 あまりに理不尽な理由にハリーもも敵意をむき出しで抗議しようとしていたが、僕がを、ロンがハリーを小突いた。

 (だって、今のは理不尽じゃないか!)
 (後で僕からセブルスに伝えておくよ。寮長である君がここで問題を起こしてどうするんだ)
 (……きつく言っておけよ。ネビルは少しどんくさいところがあるけど、それなりにいい素質を持ってるんだ。気持ちによって魔力が左右される不安定さがあるから、ああやって脅す授業はネビルには不向きなんだ)
 (わかった)

 一時騒然となった教室内だったが、いつまでも椅子の上に載っている生徒たちをセブルスが一喝すると、生徒たちは薬の調合を再開し始めた。

 その後1時間、魔法薬学の難しさを目の当たりにした生徒たちは、無駄なおしゃべりをすることなく、真剣な表情を浮かべて薬の調合を行った。その甲斐あってか、医務室にネビルを運んで行ったシェーマスを除いた全員が、なんとかおできを治す薬を完成させることが出来た。出来は様々だったが、ドラコとハーマイオニーはほぼ完璧に作用する薬を作り、特にドラコはセブルスを至極満足させた。
 授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると、完成した薬を提出した生徒から地下牢を出て行った。最後の生徒が教室を出たのを見送ると、教室内を魔法で丁寧に掃除する。どうも不満が収まらなかったらしいは、寮長がやるべき仕事を終えると、大広間で待ってる、と言ってさっさと地下牢を後にした。
 片付けが終わった部屋に僕とセブルスが残された。元通りになった教室を見渡し、今年もやってくれたな、とセブルスが苦々しげに呟く。

 「まあ、生徒たちにも得手不得手があるからな。それに、今年はハリー・ポッターがいるからって少し厳しく見回っていただろう? が理不尽だ、って呻いていた」
 「名前だけが有名でも意味がない。わたしはそれを皆に示しただけだ。生き残った男の子だのなんだのとちやほやされたまま成長すれば、あれの父親のようになる可能性が大いにある。それを懸念したのだ」

 嫌な思い出を語るセブルスの瞳は暗い色をしていた。自らの傷をえぐる行為に加えて現在の彼の立場。セブルスは学生の頃から、自分のことを多く語る生徒ではなく、見た目と性格に目をつけられてか、ハリーの父親とその友人たちには随分苦労させられていた。父親の幼少時代にそっくりなハリーを見て、さらに複雑な感情が心の中に浮かんだのだろう。
 僕はそっとセブルスに近づき、彼の背中を軽く叩いた。

 「……金曜日の午後はと過ごすのだろう? 早く行ってやらないとへそを曲げるぞ」

 身を翻し、私室の扉に手を掛けたセブルスの背中には複雑な色が漂っていた。
 そうだね、と返事をして地下牢の入り口に進む僕の胸の中にも、かつての苦い想い出が蘇ってきていた。
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 セブルスの一人称は「わたし」で行こうと思います。

15/05/2011